水たまり
引越しをした。
いろんな物を断捨離して、私は引越しをした。
新居での朝は、少しひんやりとした。
昨晩寝る時に雨音がしていたから、それで気温が下がったんだと思う。
断捨離をしたといっても、荷物はそこそこある。
引越し会社のキャラクターが描かれたダンボールが、部屋のあちこちに置いてある。
とりあえず設置したカーテンは丈が足りなくて、床からだいぶ浮いている。
そこから差し込む日差しは明るくて、雨は上がったんだなと思った。
引越しをしたけれど、まだ仕事は決まっていない。
生活防衛費は数ヶ月分は残ってるから、今日は新しい地を探検しようと思ってる。
前日に買っておいたパンを齧り、温かいコーヒーで流し込む。
そしたらダンボールから衣類を適当に見繕って、着替えたら冒険だ。
玄関を開けて、外に出る。
思った通り、空は晴れていた。
雨上がりの、少しむわっとしたにおい。
そして、ひんやりとした空気を、深呼吸をして肺に取り込み、一気に吐き出す。
体の中に溜まっていた嫌なものを、綺麗な空気で外に出すような感覚。
ただそれだけで、体が、心が少し軽くなる感じがする。
知らない道を歩く。
全てが新鮮だった。
道路には水たまり。
私はその水たまりを覗き込む。
靴でちょんと水たまりに触れると、波打って、昔の疲れた顔の私が映った気がした。
そして、家庭環境の不和、疎外された前の職場、暴力を振るってきた元彼、散らかった部屋。
それらが水面が揺れる度に、フラッシュバックのように映し出される。
嫌な思い出。
嫌な記憶。
でも、それらは断捨離した。
新しい地で新しい生活が始まった。
──バシャッ。
水たまりを靴で踏みつける。
弾けた飛沫が靴を、足を汚す。
でもそれでいい。
嫌なものを踏みつけて、水面が落ち着いてくると、今の私の顔が映る。
心機一転。
これから私は、新しい日々を歩んでいく。
長靴があれば無敵。




