婚約破棄の現場に巻き込まれたので、聖女様が全部持っていきました
前回の登場人物たちのお話です。
悪ノリした感も否めませんが、その辺はご容赦を。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
※本作では執筆の補助としてAIを活用しています。AIの利用に抵抗のある方は、あらかじめご了承ください。
「そんな人だとは思いませんでしたわ! 婚約は破棄させていただきます!!」
卒業パーティーの最中、怒気をはらんだ女性の声が会場を切り裂いた。
……私、エムロード・カーマイン。
在校生代表として送辞を読んでいた真っ最中なんだけど。
晴れ舞台だったのになぁ。
首席じゃないと任されないから頑張ったのになぁ。
「待ってくれ、誤解なんだ」
「説得力がなくってよ、ミエル様」
その声の主は、ヴァトー侯爵令嬢アジュール様。
断罪されているのは、サーンドル侯爵令息のミエル様。
この世界、女性から婚約破棄できるんだ。
男女平等ばんざい……なのかな?
「横にいるのは、どなた?」
「本当に心当たりがないんだ」
「ひどいですわ、ミエル様! 命かけてと誓ったではありませんか、あの日っ!!」
「あの日って、いつ!?」
ミエル様、今のツッコミは正しいです。
どこかで聞いたフォークソングの歌詞のような台詞を口にしながら、さらにしなだれかかるご令嬢。
アジュール様はひとつ息を吐き、信じられないものを見るような目で彼女を見つめてから告げた。
「知らないなら教えてさしあげましょう。私の義妹、ナティエ・ヴァトーですわ!」
……いや、そんな決めゼリフみたいに紹介しなくても。
「義妹……?」
ミエル様は驚いたように目を瞬かせる。
「君に義妹がいるとは知らなかった」
「三年前に、お父様が再婚なさったのです」
「三年前……」
ミエル様は何かを思い返すように目を細め、やがて小さく頷いた。
「三年前と言えば、私が任地へ赴いた年だね」
「……そうですわ」
「私はその日から今日まで任地を離れていない。今宵ようやく三年ぶりに王都へ戻ってこれた。……君を迎えに来たんだ」
静かな声だった。
言い訳を並べるでもなく、怒鳴るでもない。ただ事実だけを積み重ねる口調に、会場のざわめきが少しずつ静まっていく。
「それでも、義妹とあれほど親しげに寄り添っていたことに変わりはありません!」
アジュール様は一歩も引かない。
潤んだ瞳でミエル様を見つめる姿は怒っているというより、裏切られたことが悲しくて仕方がないようにも見えた。
「……アジュール」
ミエル様は困ったように苦笑する。
「君は私を、会ったことも、名前を聞いたこともない女性に心を移すような男だと思っているのかい」
「思いたくはありませんわ。でも、ナティエはあなたの腕に身を寄せております」
「寄り添われているだけだ。私の意思ではない」
「男性は皆、そのようにおっしゃいます」
「私は『皆』ではない」
ミエル様は真っ直ぐアジュール様を見つめた。
「ミエルだ」
その一言に、アジュール様の勢いが少しだけ鈍る。
「……ずるい言い方ですわ」
「この三年間、君だけを思ってきた。ようやく会えた最初の日に、浮気を疑われるとは思わなかった」
その声は責めるものではなく、どこか寂しそうだった。
「私だって……この三年間、あなたの帰りだけを待っておりました」
先ほどまでの剣幕が嘘のように、アジュール様の声は小さく震える。
「なら、少しは私を信じてくれてもいいだろう?」
「……本当に今日帰ってきたばかりなのですね?」
「ああ。王都へ入ったのは一時間前だ。」
「……嘘じゃありませんのね」
「ああ」
その一言で、アジュール様の肩からふっと力が抜けた。
「……信じますわ。でも、だからこそ、あなたの隣に私以外の女性がいることが許せません」
ミエル様は安堵したように笑う。
「つまり、嫉妬してくれたのか」
「なっ……そ、そのような言い方は卑怯ですわ!」
「嬉しいな」
「……喜ばないでください!」
「どうして?」
「どうしてもです!」
「怒っている顔も可愛い」
「ミエル様!」
さっきまで婚約破棄寸前だったとは思えないほど、二人だけ別世界だった。
……すいません。
砂を吐いていいですか。
それにしても、相変わらず設定がガバガバね。
ヴァトー侯爵が再婚したことも、義妹ができたことも、婚約者のミエル様には伝わっていない。
そのうえ、事実確認もしないまま断罪イベントを始めるんだから、この世界の人たちって『確認』という言葉を知らないのかしら。
……まあ、その設定を書いたの、私なんだけど。
さて、このまま見物していても埒が明かない。
バカップルは勝手に仲直りしたけれど、元凶はまだその場に突っ立ったままだ。
卒業パーティーは、もうとっくにそれどころじゃない。
けれど、このまま放っておくのも寝覚めが悪い。
私は一歩前へ出ると、さっきから完全に置物と化していたナティエ様へ視線を向けた。
「ナティエ様」
皆の視線が一斉に彼女へ集まる。
「まず、お聞きします。どうしてミエル様にあのように身を寄せていたのですか?」
私が静かに問いかけると、ナティエ様は悪びれる様子もなく胸を張る。
「素敵なお姉さまが出来たんですもの。独り占めにしたくなるのは当然じゃない」
……そうなのか?
王国中の妹に聞いて回ったとしても、九割九分は「違います」と答えそうだけど。
「それが、どうしてミエル様に身を寄せることにつながるのですか?」
ナティエ様はうっとりと頬を染める。
「お姉さまが結婚したら遠くへ行ってしまうでしょう? 私、そんなの我慢できませんわ」
そう呟くと、両手を胸の前で組み、夢見るように目を細めた。
「婚約さえなくなれば、お姉さまはまだ私のそばにいてくださるもの」
その場の空気が一瞬だけ凍りつく。
当のアジュール様ですら、怒るべきか呆れるべきか分からない、といった表情でナティエを見つめていた。
私は思わず眉をひそめた。
――ああ、そういうこと。
私の知る未来では、ナティエ様は数年後、修道院へ入ることになる。
そこで慎ましい生活を送り、その中でヴィオーラと出会う。
聖女宮へ入りたいと願い、誰よりも勉強し、やがて聖女宮を支える重鎮になる。
私は、その未来だけを知っている。
けれど、どうして彼女が修道院へ入ることになったのか、その理由までは知らなかった。
……なるほど。
原因は、これだったのね。
「お姉さまといつまでも一緒……。フフ……。フフフフフフ…………」
……うん。
この騒動の原因は恋愛じゃない。
姉愛が暴走していただけだった。
ヤンデレを拗らせちゃってるなぁ。
私はひとつため息をつく。
この騒動を収めるとしたら、思いつく方法はただ一つ。
ヴィオーラだ。
アジュール様への偏愛が、修道院での慎ましい生活くらいで簡単に直るとは思えない。
何があったかは知らないけど、ナティエ様はヴィオーラと会ってから変わった。
難関と言われる聖女宮を目指すくらいだ、よっぽどのことがあったんだろう。
ヴィオーラが勝利の鍵だ。
けど、ヴィオーラはここにはいない。
そもそも王都にすらいない。
辺境の村への急な慰問が決まり、それでも出発前にわざわざ私に会いに来てくれたヴィオーラは、
「エムロードさんの晴れ姿、見たかったのに……」
と、見るからに落ち込んでいた。
慰めるのは結構大変だった。
馬車から身を乗り出して、いつまでも手を振るヴィオーラを見送ったのは、昨日のこと。
予定では、王都に戻ってくることになっているのは、明日の夜だ。
この騒動をそこまで引っ張る訳にはいかない。
どうしたものか――
「あ、いた。エムロードさん」
……。
……え?
聞き慣れた、澄んだ声が耳に届く。
……何故に居る、聖女。
いや、助かるんだけど。
タイミングが良すぎる。
こんな展開、想定してなかったんだけど。
「……ご、ごきげんよう、ヴィオーラ様」
「もう。ヴィオーラでいいって約束したでしょう?」
「……人前だと少し恥ずかしいのだけれど」
「ヴィ・オー・ラ」
拗ねたように頬を膨らませる。
「……わかったわ、ヴィオーラ」
そう呼ぶと、ヴィオーラは満足そうに微笑んだ。
ああ、その笑顔は反則。
ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます!
……いや、違う。
落ち着け、私。
「でも、どうして……」
「エムロードさんの送辞、素晴らしかったわぁ。途中までだったけど……」
「いや、それは嬉しいけど……?」
「来ちゃダメだった?」
少し拗ねた口調で上目遣いになる聖女様。
ああ、なんて破壊力。
私のHPは、ゼロよ!
「それより聞いて、エムロードさん。ドラゴンって本当に早いのよ」
「ドラゴン?」
やっぱりいるんだドラゴン。
見てみたかったなぁ……。
じゃなくて。
「何故にドラゴン?」
「急いで帰りたいって言ったら、村長さんの奥さんが送ってくれたの」
「……村長さんの、奥さん?」
「うん。奥さん」
……ヴィオーラ、あなた何処に行ってたの?
頭の中が盛大に混乱しかけた、その時だった。
「……え、嘘、こんな理想のお姉様が、この世に……!」
その呟きが、混乱しかけていた私の思考を現実へ引き戻した。
ナティエ様が食い入るようにヴィオーラを見つめている。
その瞳は、憧れの宝石でも見つけた子どものように、きらきらと輝いていた。
しばらくヴィオーラを見つめていたナティエ様は、やがてアジュール様へ視線を移した。
そして、二人を何度か見比べ――
「うん!」
次の瞬間、何かが腑に落ちたように大きく頷いた。
心の中で、「エウレカ!」とでも叫んでいたかもしれない。
「アジュールお姉さま! お幸せにっ!!」
そう叫ぶや否や、勢いよくヴィオーラへ駆け寄っていった。
「私、ナティエ・ヴァトーと申します! ぜひ、お名前をお教えくださいませ!」
突然詰め寄られたというのに、ヴィオーラは少しも動じない。
「わたくし、ヴィオーラ・ヴァレンティアと申します」
穏やかな微笑みとともに名乗る姿は、まるで一枚の絵画のようだった。
「ヴィオーラ様……。お名前も素晴らしい……。まるで女神のよう」
感嘆の声を漏らすナティエ様に、ヴィオーラは慌てて首を横に振った。
「女神だなんて恐れ多い。私はただの聖女ですよ」
「……!? 聖女様っ!!?」
ナティエ様の瞳は、もうヴィオーラだけを追っていた。
「あちらの殿方は?」
ヴィオーラが困ったようにミエル様へ視線を向ける。
「あんなのどーーーーーでもいいですわ! 私、もっとヴィオーラ様とお話ししたいですわ!!」
なんだ。
ナティエ様は、アジュール様だから執着していたわけじゃない。
自分が憧れ、寄り添いたくなる"理想のお姉様"を求めていただけだったのか。
そして、その理想は今、この瞬間、ヴィオーラへと更新された。
要するに、推し変である。
しかも一瞬で。
さっきまでアジュール様しか見えていなかった瞳は、もうヴィオーラしか映していない。
聖女宮を目指す理由も、高尚な使命感なんかじゃない。
ただ、ヴィオーラのそばにいたかった。
……憧れって、案外そんなものなのかもしれない。
ナティエ様は夢見るような眼差しで、ヴィオーラを見つめていた。
私は呆然と立ち尽くすアジュール様の隣へそっと歩み寄った。
「なんだか、解決したみたいですよ」
「……釈然としませんわ」
「結果オーライ、ということで」
アジュール様は肩を落とし、小さくため息をついた。
ミエル様はそんな彼女を見つめ、困ったように笑う。
当のナティエ様は――
「ヴィオーラ様……素敵ですわ……」
と、夢見る乙女のように呟いていた。
……うん。
結果オーライ、ということにしておこう。
後日、アジュール様とミエル様は無事に結婚し、任地である南の国境へと向かったそうだ。
常夏の地だと聞くし、しばらくは夫婦水入らずで新婚生活を満喫してほしい。
……で。
ナティエ様は、現在、ヴァトー家の屋敷とアカデミーを往復して猛勉強中だそうだ。
お姉様……ヴィオーラに生涯を捧げるつもりらしい。
予定よりだいぶ早いけど、私の設定どおりではある。
まあ、あの勢いだと、問題なく聖女宮には入れるだろう。
ただ、優秀な若者を周りは放っておかない訳で……。
「優秀な人材がまた一人育ちそうだな」
宰相であるカーマイン公爵――お父様が満足そうに呟く。
人材不足だもんね。
聖女宮で務まるほど優秀なら、どこの部署でも引く手あまただろう。
本人の知らないところで、すでに争奪戦は始まっているようだ。
ナティエ様としては、聖女宮一択だろうけど。
将来どうなるかは、まだ本人にも分からない。
でも、頑張っておいて損はないと思う。
私の設定よりも、良い結果が待っているかもしれない。
だって、未来はもう、私にも読めないんだから。
……とはいえ。
次はどんなガバ設定に巻き込まれるのか、それだけが少し心配だ。
できれば次こそは、私の送辞を最後まで読ませてほしい。
前回同様、執筆にはAIの力を借りましたが、これまで以上に自分のカラーを出せた気がします。
この子たちと作品を作れるのが、ホント楽しくてしょうがない。
こんな感じで次回作も、準備中です。
応援の程、よろしくお願いします。




