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ビビりのひーさんと幽霊娘のミカちゃん  作者: もものけだま


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第五話 ラッキーが起きたので幽霊達の奴隷になる3

 

  そう思った瞬間、ミカちゃんが僕の前にふわっと舞い降りて来た。



「おりゃーー!」



 ミカちゃんの叫び声と、ガキィン!との音と共に、ミカちゃんの回し蹴りで刀が弾き飛ばされ、甲高い金属音が夜の一軒家の庭に響く。


 じいさんの手から弾かれた刀は、庭の植え込みに突き刺さった。



「危ねぇ……ひーさん大丈夫?」と、ミカちゃんが振り返る。

 

 刀を蹴り飛ばされた手を見つめた後、爺さんが僕を睨んでくる。



「な、何だと! おかしな術を使いよって! さてはお前が婆さんを連れて行った悪霊だな!」


「悪霊って失礼だなぁ。あたしはただの幽霊だっつーの!」



 腰に手を当てながら怒っているミカちゃんに、そっと小声で告げる。



「きっとミカちゃんの事は、見えて無いと思うよ」


「そっか~。ひーさんがやったと思ってるんだね」



 なっとくという顔をしているミカちゃんとは違い、じいさんの方の怒りは頂点に達したのか、はたまたパニック状態になっているのか、顔を真っ赤にしている。

 


「この悪霊め! 婆さんを返せ! 婆さんを返さんか!」



 じいさんが叫びながら僕の横を通り過ぎ、刀を取りに行こうとしたその時だった。

 

 見えてはいないのだろうが、その前には幽霊になった妻のヨネさんが腰に手を当て、目は優しいままなのだけど、怒っている様子で立っている。



「あなたは、何をやっているんですか!」



 突然、僕の口から知らない声が出た。爺さんもその声に反応して、ぴたりと足を止める。


 身体が勝手に動き、爺さんの前で仁王立ちをする僕。


 ……これって体をヨネさんに乗っ取られたのか?


 頭では別の事を考えているのに、知らない情報が勝手に口から言葉として発せられる。



「刀なんか振り回して! 怪我をしたらどうするんですか!」


「ヨ、ヨネ……? お前……ヨネなのか?」



 じいさんの顔が驚きに染まり、僕を見ながら数歩玄関の方に下がっていく。そしてさらに僕の記憶には無い知らない情報を、僕自身が勝手に話し出す。確かに僕の口が動いて僕が話しているのだが、声は僕のものでは無い。ヨネさんの想いがヨネさんの声になって僕から発せられている。



「何十年も一緒に居て、そんな事も解らないんですか! 私に決まっているでしょ!」


「……お前……なんで……」


「子供や孫がいるのに、あなたは何をうじうじしているんです! 私が死んだからって引きこもってて良いんですか! あなたには、まだやるべき事があるでしょ!」



 ヨネさんの想いが僕の中から溢れ出す。


 止まらない。


 しかしその想いがこもった声は怒っている訳ではない。


 大事な事を、大事な人に伝えようとしている想いが僕にも伝わってくる。



「私と約束したじゃないですか!」


「……約束?」



 と、じいさんが困惑した顔で聞き返す。



「私との約束を忘れたんですか?」


「いや、そんな事は無いんじゃが……」


「あなたは一人じゃないんですよ! 子供も孫もいるんです! 私がいなくなっても、あなたには大切な人がたくさんいるんです!」


「そうだな……すまん……」



 じいさんがゆっくりと膝をつく。その目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。



「……すまんかった。ワシはお前に苦労ばかり掛けてしまった。ワシはお前を幸せにしてやれんかった。本当にすまんかった。それなのに、ワシよりも先に逝ってしまうなんて……。ワシはお前にどう償えば良いのか解らんのじゃ。ワシはお前に苦労ばかりさせて来た自分がどうしても許せんのじゃ。なのに……なのに、あんなにも安らかな顔で逝きおって……ワシはどうすればいいのだ……」


「……まったく……本当にあなたは一人だと何も出来ないんだから」



 と、僕の口から、ヨネさんの少し呆れたような、それでいて少し嬉しいような気持のこもった優しい声が漏れた。



「ウジウジしてないで、タンスの中の物をすぐに見なさい! そして私との約束を思い出しなさい!」


「……わかった」と、じいさんは涙を拭いながら頷く。



「それに、あなたは大きな間違いをしています。私があなたと一緒に過ごしてきた人生は、とっても幸せでしたよ。もう一度生まれ変わったとしても、私はきっと、もう一度あなたを選びます」


「……本当か? それは本当なのか?」


「そんな事も、わからないんですか?」



 ヨネさんの声が静かに夜の玄関に響くと、爺さんは少し考え込み、そして涙を流すその顔には笑顔が戻って行く。


「……そうだな……ワシもお前をまた選ぶ」



 小さくそう呟いた爺さんに、ヨネさんが間髪入れずに、大きな声で答える。



「当たり前です!」


「ははは……そうだな」



 爺さんのほっとした顔を見たところで、僕の意識が急激に薄れていく。……ヤバい。このままだと、意識までヨネさんに持って行かれてしまう……。

 


「ヤバいヨネさん! ひーさんが白目向いてる!」



 ミカちゃんが慌てた声が遠くで響いている。



「あら、それは大変。……あなた、私はもう行きますね。しっかりするんですよ」



 と、僕の口からヨネさんの最後の言葉が漏れると同時に、僕中からヨネさんの想いが抜けていくのがわかった。



「婆さん! 待ってくれ!」



 じいさんが手を伸ばしている。ヨネさんの意識が身体から抜けて行くと、僕はその場に倒れこんだ。


 動かない体でも、僕の視界の端はちゃんと仕事をこなしてくれていた。


 僕から抜けて行ったヨネさんの姿が淡く光り始める。



「ひーさん……ミカさん……本当にありがとうございました」



 ヨネさんは僕達に向かって丁寧に頭を下げ、そして爺さんに向かって優しく微笑むと、光の粒となって夜空に消えていった。



「婆さん……婆さん……」



 ヨネさんの姿は、僕とミカちゃんにしか見えていないはずだ。


 しかし、爺さんは何もない空間に向かって手を伸ばし続けていた。

 

 

 


 ……あれ、僕はなにをしてたんだっけ?


 体に意識と活力みたいなものが戻って行き、我に返った瞬間、状況を理解した。


 庭に刺さった日本刀が、視界に飛び込んでくる。



「ひぃぃぃぃぃぃ!」



 僕は絶叫すると全力で走り出した。



「ま、待ってくれ!」



 じいさんの声を無視してとにかく逃げる!


 命があるうちに逃げる!



「あはははは、ひーさんの顔! 面白過ぎる!」



 胡坐をかいたままの姿勢で、目線よりも少し高い所をフワフワと浮きながら、楽しそうにミカちゃんが僕の後ろを憑いて来る。



 僕は思った。あわよくば、このギャルの幽霊からも逃げてやる! そんなつもりで僕は全力で走って逃げた。

 


つづく

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