第9話 魔人
サーペンス王国
大陸全土において、貿易の中心地とされてる商業国家。
また、商人達による自由組合“商人ギルド”の本部が設置されている国でもある。
この国では、商人ギルドが王に次ぐ権力を持っている為、ギルド内で影響力を持つ商会同士が抗争を繰り広げる事が多々ある。
しかし、それを理由としてギルドを解体してしまえば、長い歴史の中で積み立ててきた国の体制が一気に崩壊してしまう為、王は商人ギルド内での出来事は全て黙認していた。
冒険者ギルドが設立されてから2年後、サーペンス王国内で、商人ギルドに加盟している2つの商会が抗争を繰り広げていた。
一方は“グリーンバッグ商会”。
スタンピード時に被害地の支援活動を行った事で、王からも一目置かれ、影響力が増している商会だ。
もう一方は“ゴドリン商会”。
商人ギルド内で絶大な影響力を持つ大きな商会だ。しかし、現在はグリーンバック商会が影響力を増している事で、影響力が低迷していた。
つまり、現在サーペンス王国内で繰り広げられている商会同士の抗争とは、グリーンバッグ商会の影響力を危惧したゴドリン商会が、圧力をかけているという物だった。
そして、ゴドリン商会に、目の上のたんこぶであるグリーンバッグ商会を破滅させる為の、一手を打っつ機会がやってきた。
それは、グリーンバッグ商会に入ったばかりの商人が、ゴドリン商会の息がかかった酒場で、これから行う仕事の内容を喋ったという、最大のミスを犯した事だった。
しかも、その仕事は王からギルドマスターを通じて受けた物だった。
ゴドリン商会は、グリーンバッグ商会がこの仕事を失敗する様に仕向け、信用と影響力を落とそうと画策した。
「会長。
御命令の通り、傭兵を5名程雇い、“例の物”を持たせました。」
ゴドリン商会の会長は、葉巻を一服吸って、ブランデーの入ったグラスを遊ばせながら言った。
「ご苦労。
それで、“連中”の動きを探れという命令はどうした?」
「はい。
グリーンバッグ商会は、冒険者ギルドからS級冒険者を護衛として、2名程雇いました。」
会長は、もう一服吸って更に聞いた。
「雇った冒険者とは誰だ?」
「“狼の牙”という冒険者パーティーに所属する、“ザック”と“アルベルト”という名の冒険者を雇っていました。」
会長は、眉を細めて言った。
「そうか…あの白狼を雇ったか…
グリーンバッグの奴らも、考えたものだな。
しかし、計画に支障は無かろうな?」
「はい!
こちらも、それ相応の面々を揃えております!」
「よろしい。」
会長は、グリーンバッグ商会が破滅する様を思い浮かべ、高笑いを始めた。
時は戻り、グリーンバッグ商会の商人が、アルベルトとザックに護衛を依頼する為、アスラン王国にある冒険者ギルドの本部に来ていた。
久し振りの休暇を満喫していた俺とザックは、レイアから指名の依頼がきたとの事で、冒険者ギルド本部に呼び出された。
レイアが俺達を呼び出したのには理由があった。
それは、現在レイアがギルドの最高責任者“ギルドマスター”となり、各国に支部を広げた冒険者ギルドを管理しているからであった。
レイアがギルドマスターに抜擢されたのは、国家間の力のバランスを取る為にギルドマスターは冒険者である必要があるという事と、レイアはスタンピードでの活躍を含め冒険者の間で絶大な信頼を集めていたからであった。
俺とザックが本部のギルドマスターの部屋に入ると、そこには2人の身なりの良い商人が応接用の椅子に座っていた。
「来たわね。
じゃあ、話を始めましょう。
まず、こちらはサーペンス王国からいらした、グリーンバッグ商会方々よ。」
商人達は椅子から立ち上がり、軽く頭を下げた。
「そして、こっちらの2人が、ご指名されたアルベルトとザックです。」
俺達は、商人達と向かい合う様に、応接用の椅子に座った。
商人の1人が、俺の方を向き話した。
「かの有名な白狼殿を、本当に呼んで頂けるとは感激です。
申し遅れました。
わたしは、グリーンバッグ商会に所属しております、グレイブと言う者です。
そしてこっちは、わたしの息子のロベルです。
以後、お見知りおきを。」
2人の自己紹介が終わると、レイアが仕事の話を始めた。
「では、依頼内容というのは、お2人が操る貿易用の馬車2台を護衛すると言う物で間違いありませんね?」
「ええ、その通りです。」
「馬車の積み荷については、どの様な物を運ぶのですか?」
「申し訳ない。積み荷については、わたしも聞かされておりません故、お答出来ません。
会長より、重要な物としか…」
『重要な物』なのに、護衛は2人だけ?…
妙に引っかかる…
俺は、レイアの方を見た。レイアもこの話を怪しく思ったのか、顔をしかめていた。
しかし、俺とレイアが商人の意図を探ろうとしているのに反し、ザックが話始めた。
「そういう事なら、任せてくれ!
あんたらの護衛は、俺とこいつがきっちりとこなしてみせるぜ!」
俺は、ザックの“暴走”を慌てて、止めようとした。
「ザック?!
何言って…」
しかし、ザックは俺の言葉を遮り言った。
「いいか、アル。
彼らは、俺達の腕を見込んで頼んでいるんだぜ?
それを蔑ろにしたら、男が廃るてもんだ!」
ザックは俺を言いくるめる様に力説し、商人達も目を輝かせてザックに同調していた。
もはや、俺とレイアに立ち入る隙が無くなり、半ば強引な形で依頼が成立してしまった。
「では、3日後にここを出発し、アルベルトとザックの護衛の下サーペンス王国へ一度帰国、その後積み荷を載せ、ここアスラン王国へ戻る。
この様な流れでよろしいですね?」
「ええ、問題ありません。
先生方も、よろしくお願いします。」
「おう!任せておけ!」
仕事の段取りが終わると、商人は宿のへ戻り、俺とザックも仕事の準備に向かった。
勿論、俺とレイアはザックの用心の無さに、終始呆れていた。
これまでも、何とか成っていた為、今回も何とか成るだろうと“この時”は思っていた。
3日後
グリーンバッグ商会の馬車は、サーペンス王国を目指し出発した。
俺とザックも、ギルドから借りた馬に乗り護衛として出発した。
サーペンス王国までの街道では、魔物が出現する確率は比較的低い為、行きの旅は順調に進んだ。
サーペンス王国に着くと、王都への城門で入国審査が行われていた。
商業国家である為、入国する者の身元の確認や持ち込む物の確認は、それなりに厳しいものに成っていた。
俺達の番になると、グレイブが懐から紙切れを1枚出し、門番に渡した。
門番はそれを確認すると、直ぐに俺達を通した。
その事からも、今回俺達が護る物はかなり重要な物という事が考えられる。
サーペンス王国の王都は、商業国家と言うのに相応しい程発展した国だった。
周りを見渡せば、高級な服屋や武器屋といった店が建ち並んでいた。
更に、酒場までもが豪華な飾りを施した、お洒落な物に成っていた。
ん?あれは?
目線の先にあったのは、“2つの仮面が並んている絵”が描かれた看板のある店だった。
俺は、あまりの好奇心に、その店の事をロベルに聞いた。
「ロベルさん。
あれは、何ていう店だ?」
俺の指差す方を見て、ロベルは答えた。
「あれは、“劇場”です。」
「劇場?」
「アルベルトさんが、知らないのも無理ないです。
劇場は、サーペンス王国独自の娯楽施設なんですよ。
アルベルトさんて、御伽話の本とか読みます?」
「ええ、まあ。」
「劇場では、その物語の登場人物を人が演じて再現しているんですよ。」
凄い…
サーペンス王国は、貿易の中心地でありながら、文化の中心地でもあった。
ここに、長く滞在出来ないのが残念だ。
俺達は、グリーンバッグ商会の建物に着くと、運ぶ積み荷を馬車へ載せた。
積み荷を載せた後は、直ぐに王都を出発し、来た道を戻っていった。
王都を出てから暫く走ると、俺達は何者かにつけられていた。
「アル、気付いているか?」
どうやら、ザックも気付いていたらしい。
「ああ…多分、2人…」
「いけそうか?」
「止めておいた方が良いと思う…
このタイミングで、狙ってくるて事はただの賊じゃない。
それに、あの距離だ…もしかしたら、この道の何処かに、他の仲間が隠れているかも知れない。」
俺の読みは正しかった。
50m程先の方で、魔力の光が一瞬見えた。
この辺りに、魔物があまり出ない事を考慮すると、奴らの仲間の魔法使いか、魔道具を持っている奴が隠れている事になる。
「ザック、50m先にいる。」
「そうか…街道を移動しているところを奇襲するて訳か。
何か良い方法はあるか?」
「確か、この近くに洞穴があったはず。
そこが、見付かってなければ、逃げ込んで正面から戦える。」
賭けだが、後ろと同時に奇襲されるより良いハズだ。
「…よし、それで行こう。
俺が商人達を連れていくから、先導してくれ。」
俺は軽く頷いて、洞穴のある方まで馬を走らせた。
ザックも、商人達の馬車を連れて俺を追いかけていた。
どうやら、成功みたいだ!
後をつけていた奴と隠れていた奴が、慌てて俺達を追ってきた。
このまま逃げ込めれば…
「グアッ!!」
後ろの方で叫ぶ声が聞こえ、振り向くとザックがクロスボウで、肩を射たれていた。
「ザック?!」
「大丈夫だ!!
急所は、外れている!!
止まらず、逃げ込め!!!」
俺達は、更に馬を走らせ、何とか洞穴に入る事が出来た。
洞穴に入ると、入口にあった岩の影に隠れて、奴らを探した。
しかし、いくら探しても、奴らの姿が見あたらなかった。
「ア…ル…」
「どうした?」
ザックを方を向くと、何か様子が変だった。
ザックは、身体中を震わせて地面に倒れた。
なんだ?!毒か?!
「か…肩が…あ、熱い!!
こいつを抜いてくれ!」
ザックの肩に刺さっている矢を抜くと、その矢の先端に魔力の光があった。
これは…マナタイト?!
でも、この光方…加工した物とは思えない!
「ア…アル…」
ザックの肌が次第に紫色に変色していき、眼は充血し、瞳孔が蛇の様に細く成っていった。
「ザック…まさか?!」
ザックは自分の手を見て、その状態を悟り、最後の力を振り絞って言った。
「に…逃げ…ろ…」
ザックの全身が紫色に成り、眼は赫色だけに成り、人間ではない何かに成った。
「あ、ああ!!
アルベルトさん!!
そいつは、魔人です!!」
こ…これが、魔人…
呆けていると、ザックの顔から知性が消え、俺に襲いかかってきた。
「ザック…止めてくれ!!」
俺は、とっさに剣を抜き、ザックの口に剣を加えせて動きを止めようとした。
「ザック…」
しかし魔人と化したザックは、異常な力を身に付け、咥えていた剣を噛みちぎり、そのまま俺を投げ飛ばした。
俺は、投げ飛ばされた衝撃で意識が朦朧とした。
次にザックは、商人達の方を向き、獣の様に涎を垂らして、唸りながら襲いかかろうとしていた。
「ザック…何やってんだよ…
その人達は、俺達が護る人達だろ?…
目を覚ませよ…」
商人達は腰を抜かして歩けなく成っていた。
ザックは商人達に1歩づつ近づいていき、目の前まで来ると…一瞬止まった。
その時、微かに声が聞こえた。
「こぉ…ひて…くで…」
一瞬、ザックの理性が戻って来たと思った。
しかし…ザックはまた狂った様に唸りだし、商人達を喰い殺そうと襲った。
「ザック!!!」
俺はザックが持っていた剣を握り、商人達に襲いかかる“魔人”の胸を貫いた。
中から、何かが割れる音がした。
そして、動きを止めた魔人は、段々と塵になり身体が朽ち果てていった。
「ザック…ザック…
うぁぁぁ!!」
この日、俺は父親を失った…
いや…奪われた…




