第7話 スタンピード
魔物の大量出現スタンピード。
その本波の防衛として、召集がかかった冒険者達がアスラン王国の王都へ集められた。
また、王都への召集の書状には『魔法職以外』という条件が書かれていた。
おそらく、魔法職の変わりに成り得る設備が王都にはある為、設備の無い郊外へ魔法職を配置する為であろう。
俺達、狼の牙にも王都への召集がかかったが、王立騎士団と合同での戦いとあった為、ケイラにはレイアと一緒に士官学校から離れた郊外の方に行ってもらった。
王都では、城壁内の住民が指定された避難区へ誘導されたり、城壁には“バリスタ”と呼ばれる固定式大型クロスボウの準備がされたりと、本波に対抗する為の準備が行われていた。
俺達は、防衛の作戦本部として使われている、城壁近くの兵舎へ案外された。
本部には、俺達を含めた冒険者が30人程と、王立騎士団の人間が4人いた。
「冒険者諸君。
召集に応じてもらい感謝する。
俺は、本作戦を仕切らせてもらう、第5騎士団 団長のダンだ。」
あの男が、ケイラが言っていたダン団長か。
確かに、他の騎士達とは風格が違うな。
「これから、作戦の詳細を説明する…」
作戦の内容は、まず狙撃班が城壁のからバリスタ、クロスボウ、弓を使って遠距離からの攻撃を仕掛け、バリスタの矢が尽きたところで地上班が門から一斉に仕掛け、魔物を殲滅するという物だった。
前回の予波で、魔物は一定して西方から現れ、種類も群れを作る小鬼種や獣種のみだった為、この様な作戦が立てられた。
また、相手が獣種の為、使用する矢は火矢との事だった。
西方か…やっぱり、あの時見た魔力の光と何か関係があるのか?…
「作戦決行は明朝。
各自、休息をとり万全の状態で明日の作戦に参加してもらいたい。
では、解散。」
解散後、それぞれが自分の戦う準備を行っていた。
俺、ザック、ギュンターもポーションの振り分けたり、剣を研いだりと準備を行った。
そんな中、ダン団長が俺に話しかけてきた。
「国境付近の村を救ったという冒険者は君か?」
国境付近の村…ああ、ゴブリン達を倒した後に見かけた村の事か。
でも、何で聞いてくるんだ?
それに、何で知っている?
…一応、刺激しない様に、覚えたての丁寧な言葉使いで話しておこう…
「ええ、そうです。
でも、何故それを知っているんです?」
ザックとギュンターが信じられない物を見る様な目でこっちを見ている。
2人の目線が痛い…
「君が救った村の村長が『白髪の男と緑髪の女エルフが魔物を殲滅してくれた。』て言っていたものでね。
ところで、“もう1人の女エルフ”はいないか?」
ダン団長の質問に、俺は眉をひそめて、挑発する様な口調で答えた。
「ええ、来ていません。
来させない様にしたんです。
団長ならお分かりでしょ?…
緑色の短髪で…18歳位で…弓が得意の…小柄なエルフの“女”ですから…」
ダン団長は、俺の言葉の意味を察した様に言った。
「すまない。」
「謝るのは、俺にじゃねぇ…でしょ?」
「…ああ、その通りだ。
この件が片付いたら、必ず“彼女”に謝罪する。」
ケイラの言葉の意味が分かったよ。
騎士団長という高い立場にいても、その立場に胡座をかかず、相手を見定める時は、その人の人となりを見ている。
実際、俺の眼を見て話していたのに、終始眉1つ動かしてなかった。
確かに、“素敵な人”だな。
ダン団長は、俺達を後にし、本部へと戻った。
その後は、ザックとギュンターに俺の話し方の事を色々と聞かれた。
俺は、『レイアに叩き込まれた。』とだけ言っておいた。
まあ、事実だし問題ないだろう。
こうして、王都に来てからの1日が過ぎた。
明日は、作戦を実行する日だ。
作戦内容は頭に叩き込んであるし、その内容にも文句を付ける所はない。
でも…不思議と嫌な予感がしていた…
上手く言い表せないが、“これだけじゃない”と言った様な感じだ…
翌日
作戦通り、俺達は地上班の騎士達と共に、西側の城壁内に隊列を組み、弓士職の冒険者や狙撃班の騎士達は、弓、クロスボウ、バリスタに矢を込めて待機した。
今か、今かと張り詰めた空気の中、再び大地が揺れだした。
来た!!
城壁外部から、無数の足音から成る地鳴りが鳴り響き、魔物の大群の襲来を告げた。
そして、城壁にいる騎士の1人が鐘を鳴らした事で、魔物の襲来が決定的なものと成った。
鐘の音と共に、地上班は剣や斧などを抜き、狙撃班は弓、クロスボウ、バリスタの照準を向かって来る魔物に合わせ号令を待った。
魔物達が小川を越えると、
「撃てっー!!!!」
号令がかかった。
狙撃班は、一斉に矢を放ち、城壁の外には燃える矢の雨が降った。
バリスタの矢は、他の矢より圧倒的に大きかった為、射つ度に地面から振動が響いた。
矢の雨に射たれた魔物は、身体中に矢が刺さり地面に倒れた。
獣種の場合は、矢の火が身体中に燃え広がり、そのまま丸焼きに成った。
バリスタに射貫かれた魔物は、その矢の大きさから原型を留めない肉塊へと変わり果てた。
外から、焼き焦げた臭いと、血肉の生臭い臭いが漂ってきた。
この臭いは、いつもの比ではなかった為、俺は無意識に鼻をつまんでいた。
しかし、地鳴りは鳴り止まなかった。
狙撃班は第2射撃の為、矢を込め直した。
その間、10匹程の魔物達が城壁へと辿り着いた。
全ての武器に矢が込められると、狙撃班は再び一斉射撃の構えに入り、照準を合わせた。
「撃てっー!!!!」
2度目の号令がかかり、再び一斉射撃が行われた。
更に多くの魔物達が矢の餌食と成り、第1射を加えた更に酷い悪臭が漂った。
しかし、地鳴りが鳴り止む事はなかった。
クソッ!!
もう、大分射ったハズなのに、まだ止まねぇのかよ?!
鼻が捥げそうだ…何匹いるんだよ…
数回に及ぶ一斉射撃で、魔物数は相当数殲滅された。
それでも、まだ襲来は終わっていなかった。
城壁で射撃の号令を出していた騎士が、赤い旗を振った。
バリスタの矢が尽きた合図だ。
ここからは、地上班の出番だ。
狙撃班が、城壁前まで来ていた魔物を矢で殲滅すると、城壁の門が開かれ、俺達地上班は魔物の群れへ突撃した。
突撃の際、辺りを見渡すと、そこは矢を墓標にした、魔物の墓場が広がっていた。
地上班と魔物が衝突した後は、血と鉄しか見えなく成った。
俺は、飛びかかってくるゴブリンをひたすら斬り捨てていった。
ある時は首を、ある時は頭を、ある時は腰を…
途中から、どこを斬っているかすら分からなく成った。
ただ、斬り捨てた後に、どう別れているかが一瞬見えるだけだった。
ゴブリンを斬り捨ていると、今度はワーグが7匹程の小規模の群れを作り、俺の前に立ち塞がった。
本能的に、危険分子を見抜いたのだろう…
こんな時にあれだが、そうだとしたら、光栄に思う。
『炎の矢!!』
俺は、炎の矢でワーグ達を攻撃した。
いつもなら、こう固まった所には広範囲の『炎の息吹』を使うが、今回は味方に当たる可能性がある為、効果範囲が限定される『炎の矢』を使ったのだ。
しかし、効果範囲が限定されれば、射ち漏らす可能性が生まれてしまう…
予想通り、7匹中3匹射ち漏らしてしまった…
まあ、素早いワーグ相手に、4発命中したのは上出来だろう。
俺は、気持ちを切り替えて、向かってくるワーグ3匹に斬りかかった。
1匹目は下から首を刈上げ、2匹目は上から首を叩き斬り、3匹目は他の2匹とは別の方向から来て、剣が間に合なかった為、強烈な蹴りで首の骨を折った。
戦いは、こっちに分があった。
騎士団も、冒険者も1人1人が手練れであった為、魔物の数は徐々に減っていった。
スタンピードの終わりが目前に成った時…
“それ”は現れた…
大きな地鳴りと共に、大地がまた揺れた。
しかし、襲来の前とは違い、横ではなく縦に、響くように揺れた。
この地鳴りは、巨大な足音だった。
足音の方で戦っていた騎士達は死に物狂いで、何かから逃げていた。
俺は、その正体を探る為、足音のする方へ目をやると、小川の先にある森から巨大な影がこっちに向かっていた。
森から出た“それ”は、5mのトロールより2倍の大きさがある、1つ目の巨人“サイクロプス”だった。
最悪だ…
これだけ巨体だと、弓やクロスボウの小さな矢では殺し切れない…
かといって、バリスタの矢は使いきってしまった…
「退却ー!!!」
この事態に、地上班に撤退の号令が下され、皆死に物狂いで城壁内へ逃げ込んだ。
しかし、サイクロプスの足音は刻一刻と城壁の方へと近づいていた。
そして、サイクロプスは城壁へとたどり着いてしまった。
サイクロプスは、城壁を破壊する為、攻撃を始めた。
城壁が突破されるのは、時間の問題だった…
クソッ!…
これじゃ、もたねぇよ…
何か良い手は無いのか…
俺は、地面に座り、剣の鍔で頭を叩きながら打開策を考えていた。
その時、昔読んだ御伽話の内容が脳裏を横切った。
「縄だ…
おい!縄はないか?!
なるべく、でかい縄と杭だ!!」
これは、賭けだ…
今は、ある事に賭けるしかない…
「ああ、それなら滑車で使う分と予備が何本かある。」
騎士が答えた。
「よし!!
それを、あるだけ集めてくれ!
あと…この城壁の高さはどれ位だ?…」
良い作戦だと思うけど…この部分だけは最悪だ…
「高さなら…大体12m位だ。」
「よし!」
高さは、充分だな…
「アル!一体何をする気だ?!」
「ザック…この状況を打開する案があるんだ!」
ザックがくいかかっているところに、ダン団長が割って入った。
「聞かせてくれ。」
俺は、ダン団長に打開策を話した。
元は、“船乗りが小人の島に行く”という、皆が知っている御伽話から来ている。
物語の中で、主人公の船乗りは眠っているところを小人に捕まってしまう。
策とは、それと同じ方法で“あいつ”を捕まっえてから、殺すという物だ。
「それをするには、“あいつ”が船乗りと同じ様に、寝ている…倒れている必要がある。」
「それなら、俺に考えがある。」
ダン団長の質問に答えると、ザックが腕を引っ張って言った。
「さっき、城壁の高さを聞いたのはそういう事か?
辞めろ!!危険すぎる!!」
「今は、これしか方法が無い!!!」
そう…今はこれしか方法が無いんだ…
俺が、ダン団長の方を向くと、ダン団長は頷き号令を出した。
「今直ぐ、縄を集めこい!!
杭は、剣で補う!!」
「はっ!!」
騎士達は大急ぎで準備に取り掛かり、俺はザックを振り払って城壁を上がった。
城壁の上へ着くと、狙撃班は完全に腰を抜かしていた。
俺は、城壁内を覗き込み、準備が出来たかを確認した。
ダン団長が、合図をした。
準備は整った。
今度は、サイクロプスがいる方を覗き込んだ。
サイクロプスは、城壁への攻撃に夢中で、こっちの方は見えてない様だった。
サイクロプスは約10m、ここからは約2mの誤差…
はぁ…こんな、作戦しか無いのが辛過ぎるぜ…
クソッ…足が竦む…
大丈夫…大丈夫…きっと上手くいく…
俺は、自分に言い聞かせ、サイクロプス目掛けて飛び降りた。
そして、サイクロプスの眼に剣を突き刺し、空かさず左手を眼に突っ込み呪文を唱えた。
『炎の息吹!!!』
サイクロプスの眼の中は灼熱の炎で満たされ、サイクロプスの悲鳴が響き渡った。
クッ…あ、熱い!!…
ああ…耳が割れそうだ!!…
激痛に耐え切れなかったサイクロプスは、遂に地面へと倒れた。
巨大な地鳴りと共に、城壁の門が開き、地上班はサイクロプスの胸、脚、首等を縄で固定し、動きを封じた。
そして、ザックはサイクロプスの身体に乗り、勢い良く飛び上がって、心臓目掛けて剣を突き刺した。
心臓を刺されたサイクロプスは、そのまま息絶えた。
サイクロプスの出現以降、魔物の襲来はなかった。
よって俺達は、サイクロプスを討伐した事で、スタンピードの本波を退く事に成功した。
言い伝え通りなら、スタンピードが終わっても、魔物の出現率は今までより上がり、更なる戦いが待っているだろう。
しかし、今はこの危機を乗り越えた事を、大いに祝った。




