第6話 聖教国での会議
アスラン王国
“騎士の国”という二つ名を持つこの国は、大陸中で1位、2位を争う武道派国家である。
しかし、魔物の大量出現という異例の事態は、王立騎士団や郊外の村々に混乱を呼び、多大な被害を与えてしまった。
特に、国境付近の村は壊滅状態にあった…
「団長!
周辺の魔物は、粗方一掃しました!」
「ごくろう…」
アスラン王国
王立騎士団
第5騎士団 団長 ダン
それが、この男の名前だ。
王立騎士団随一の剣の腕を持ち、騎士団の統率能力にも優れている有能な騎士だ。
アスラン王国の騎士階級では、本来ではこういった男が、第1騎士団といった高位の騎士団に所属するのだが、今の治世では違っていた。
ダン団長は、魔物の襲撃により壊滅した村を眺めていた。
ダン団長の目に映っていたのは、四肢が欠損していたり、腸が飛び出ていたり、原型を留めず肉塊に成ったりと、無惨に食い殺された村人達の姿だった。
生存者はいない…
この村を襲ったのは、ワーグの群れだった。魔物の大量出現の影響で、その数は30を越えていた。
騎士団の手によって駆除されたが、村人達にはどうする事も出来なかった。
ダン団長は、救えなかった後悔と悲痛に苛まれていた。
しかし、それは長くは続かなかった。
ダン団長は、この近隣にもう1つ村がある事を思い出す。
直ぐに部下を呼び、その村を偵察に行かせた。
1時間後
偵察に行かせた部下が戻ってきた。
「報告します!
偵察先での被害状況は0です!」
「0だと?!
魔物が襲わなかったと言うのか?!」
「いえ、村長の話によると、“白髪の男”と“緑髪の女エルフ”が村を襲った魔物を殲滅したとの事です!」
ダン団長は、安心と同時に呆気にとられていた。
(驚いたな…近くに冒険者がいた事は幸いだが、たった2人で“あれ”と同じ数を殲滅するとは…
これは、相当の手練れに違いない。)
「ご苦労!」
「はっ!!」
犠牲と成った村人達を火葬し、王都へ戻る準備を進める騎士団の元に、数名の騎士達が向かっていた。
「あれは…聖教国の紋章?!
“聖騎士団”か?!」
聖騎士団
それは、“聖イリス教国”を守護する為に結成された、神に仕える騎士団。
騎士団という名の通り剣を扱い、簡易的な神聖魔法も使う事が出来る者達である。
聖騎士団は進行を止め、1番前にいた騎士が馬から降り名乗った。
「我は、聖イリス教国 聖騎士団所属 バスカルである。
責任者はいるだろうか?」
バスカルの前に、ダン団長が出向き名乗った。
「アスラン王国 王立騎士団 第5騎士団 団長 ダンだ。
貴殿の申し出を聞こう。」
「感謝する。
我が騎士団は、教皇様よりアスラン王国 国王 デズモンド陛下へ書状を届ける為参った。
道中の護衛を願いたい。」
たった今戻ろうとした為、断る理由はなかった。
「承知した。」
「感謝する!」
第5騎士団は、聖騎士団を連れ王都へ戻った。
王都へ着いた聖騎士団は、書状を届ける為王への謁見を願い出た。
「陛下。
聖教国より、使者が参っております。
教皇様の書状をお持ちだと。」
デズモンド王は、短い顎髭を手でなぞりながら答えた。
「ふむ…おかしいな。
“4ヵ国会議”には、まだ早いが。
まあ、良い。大方、魔物の異変の事だろう。
通してやれ。」
「はっ!!」
了承を得て、謁見の間へ入った聖騎士団は、デズモンド王の前まで行き、右膝を地に着け頭を下げた。
「デズモンド陛下。
拝謁の機会を頂き誠に感謝致します。」
「良い。要件を申せ。」
中央にいたバスカルが頭を上げ答えた。
「はっ!!
聖イリス教国 教皇様より、陛下へ緊急の召集をと、書状を預かって参りました。」
バスカルが掲げた書状を宰相が受け取り、デズモンド王へ渡した。
「やはり、魔物の事だったか…
この様な事態で国を空けたくはないが、教皇殿の召集とあらば仕方ない。」
デズモンド王は、宰相を呼び聖騎士団への待遇を指示した。
「ご苦労だった。
そなたらは、下がってよい。」
「はっ!!」
聖騎士団は、謁見の間を後にし、部屋へ案内された。
翌日、デズモンド王は“第1騎士団 団長 ヒューイ・ベーレル”という男を護衛とし、聖イリス教国へ通じる魔方陣で転送された。
聖イリス教国
大陸中央に位置する、唯一神 女神イリスを祀った国である。
この国は、聖騎士団が防衛し、祓魔や治癒といった神聖魔法を扱う者を聖職者として各国の教会へ派遣している。また、派遣先が教会ではない場合は、その者は祓魔師や治癒師と呼ばれている。
この国では、毎年“4ヵ国会議”というものが行われ、周辺4ヵ国の王達が一堂に集まり方針等を決めている。会議が行われる時は、聖騎士団が使いとして送られ、王は付きの護衛1人と共に、王のみが使う事を許される転送用の魔方陣によって集められる。
聖イリス教国の中心に建つ大聖堂。
大聖堂の地下中央に、“白の間”と呼ばれる場所がある。そこには、女神イリスが象られた像と聖教国の紋章が描かれた円卓、そして教皇と各国の王が座る椅子が並べれている。
また、ここでは女神イリスの目の下、一切の嘘が許されていない。
故に、“白の間”なのだ。
教皇と付きの修道女が白の間へ入ると、各国の王と付きの護衛が白の間へ現れた。
聖イリス教国 教皇 エドワード・マイル
修道女 イブ
アスラン王国 国王 デスモンド・レオーネ
第1騎士団 団長 ヒューイ・ベーレル
サーペンス王国 国王 ロナルド・サルパン
宮廷魔術師 ジョージ・ペルーシ
レイブン王国 女王 ヘレナ・ヴァローナ
宮廷魔術師 アメリア・ヴィレーネ
ブレロー王国 女王 ロザリア・ドルチェ
宮廷魔術師 スザンヌ
各国の王達が席に着き、“4ヵ国会議”が始まった。
「最初に、予定よりも早く召集した事を謝罪させて欲しい。
次に、今回の議題についてだが、書状にもあった通り、魔物の大量出現についてだ。」
教皇が初めの挨拶を終えると、デズモンド王とロナルド王が現状を話した。
「我が国では、騎士団が事態の収集に当たっている。
被害状況はなんとも言えないが、粗方の魔物の駆除は終わっている状態だ。」
「我が国では、“グリーバッグ商会”が各村へ支援物資を提供している。
国も商会を援助している為、いずれ貴国らにも支援物資が行き届くだろう。」
2人の話が終わると、次に話したのはヘレナ女王とロザリア女王だった。
「それは、ありがたいですわ。
しかし、私の見立ではこの魔物の大量出現はもう1度起こると思いますわ。」
「ヘレナ、それについては私も同意します。」
他の王達は、一同に立ち上り女王達を責め立てた。
「何故、その様な事を申す!」
「何か根拠があるのか?!」
これに、答えたのはロザリア女王だった。
しかし、目線は教皇の方へと向いてた。
「教皇様は、御存知でしょ?」
「…ああ…その通りだ。」
教皇は落ち着いた顔で話を続けた。
「スタンピード…
かつて、女神イリス様が“始まりの悪魔”を退けた、聖戦の余波によって生まれた現象。
今存在している魔物達は、スタンピードの影響による物だとされている。
そして、言い伝えによればスタンピードは、“予波”と“本波”に別れて起こるとされている。
おそらく、今回来た“波”は予波であろう。」
「「「「……」」」」
一同は静まり返ってしまった。
予波によって、民や兵を多く失ったからだ。
仮に、次に来る本波に耐えられたとしても、国力は著しく低下するだろう。
そして、それは大きな問題だった。
何故なら、この4ヵ国は20年前まで、隣接する帝国と戦争を行っていたからだ。
現在は、停戦協定により睨み合いで済んでいるが、国力が低下すれば協定を破り侵攻を受けてしまう可能性がある。
それは、帝国としても同じだろうが、結局のところリスクである事に変わりはない。
この静寂を、1人の少女が破り捨てた。
その少女の名前はイブ。
教皇付きの修道女だ。
「私に、1つ提案があります。」
本来であれば、王達の話の場において、付きの者が発言する事は許されない。
しかし、今と成っては藁にもすがる思いだった。
「なんだ?」
教皇が答えた。
「冒険者を使うのです。
冒険者は、民間の依頼にて日夜魔物と戦っています。
故に、国の兵より魔物に詳しく、魔物退治の専門家とも言えましょう。
更に、冒険者は国の兵ではない為、仮に戦死したとしても、国力の低下には繋がりません。」
この会議の中で最も建設的な意見だった。
女神に仕える者として、人を消耗品の様に使おうという意見は相応しいものではなかったが、この非常事態においては仕方なかった。
「それは、良い手だ。
我は、その案に賛同するぞ。」
デズモンド王が答えた。
彼はダン団長の報告によって、たった2人の冒険者が、村を襲った魔物を殲滅した事を知っていた。
「他に、何か案のある者はいるか?」
教皇の質問に王達は沈黙した。
それは、同意した事を示していた。
「では、これで可決とする。
言い伝えの通りなら、本波は予波の5日後に発生する。
よって、3日で防衛策を整え、対処に当たってもらいたい。」
王達は頷き、今後の方針が決まった。
こうして、スタンピード発生による4ヵ国会議は終わった。
王達は再び魔方陣を使い、それぞれの国へ帰った。
帰国と同時に、スタンピードへの防衛策として各地の冒険者が王都へ召集された。
冒険者達は、国からの直属の依頼を受け、国の兵と共に防衛の任へと就いた。
アルベルトのいる狼の牙は、その高い実力を見込まれて王都付近の部隊へと選別された。
3日後
再び大地が揺れ、大量の魔物が襲来してきた。
しかし、予波の時とは違い、襲来してきた魔物の中には巨人種などの、強力な魔物が含まれていた。




