第5話 狂暴な姉と魔物の異変
スワンプシングの討伐を終えた俺は、報酬を貰い帰路に着いていた。
そこで、同じく依頼を終えて帰路に着いていたザックと会った。
「おお、アル!
そっちは、上手く片付いた様だな!」
「うん!
ザックの方は…結構ボロボロだけど、大丈夫?」
「ああ、これくらいどうて事ない!
でも、やっぱりトロールの討伐は1人じゃキツいぜ。」
ザックは、ボロボロの服から巾着袋を取り出し、報酬を見せてきた。
実はこの日、ザックは1人でトロールを討伐しに行っていたのだ。本来、トロールの様な巨人種はパーティーで戦うのが普通だが、今回俺とザックは賭けをしていた。
賭けの内容は、
『もしトロールを1人で討伐出来たら、俺のスワンプシングの報酬を渡す。
そして、もし出来なかったら、一緒に討伐して、報酬は俺が全部貰う。』
という物だった。
こんな、無茶な賭けをした理由は、昨日ザックと模擬戦をした時にあった。
俺が魔法を使って、ザックから1本取ると『そんなの、ズルだ!』と言ってきたから、俺は『実践的な技を使ったまでさ。』と言うと、ザックは悔しそうに俺の前を後にした。
そして、今朝2つの依頼を持ってきたザックが、『こいつで、勝負だ!』といいだした。
これが、発端だ。どうやらザックは、魔法を使わずに、また強力な魔物を1人で倒す事で、俺を見返したかったらしい。
俺は、本気でそんな無茶な事をしたザックに、内心少し呆れながらスワンプシングの報酬を出した。
「はい、これ。
スワンプシングの報酬。
賭けは、俺の負けだろ?」
ザックは、ニヤッとした顔で、俺の肩を組んで言った。
「最初から、そう素直に成ってれば良いんだよ!
さあ、帰ろう!」
ザックは戦いの疲労で上手く立てないせいか、俺の方へだいぶ寄りかかっていた。
俺は、そんなザックを支えて家へ帰った。
家の前に着くと、2人の女が何か言いあっていた。
片方はレイアで、もう片方は知らない顔だった。
でも、何処と無くレイアに似ていて、同じ緑色の髪をしていた。ただし、レイアとは違い、髪の長さは短めで、粗暴な顔つきをしていた。
「お、あれはケイラじゃないか。」
「知ってるの?」
「ああ…そう言えば、アルは会った事がなかったな。
彼女は、ケイラ。レイアの娘だ。」
レイアに、娘がいたのか?!
身長が俺よりも一回り小さい…年下かな?
にしても…
「全く!何で、そう問題ばかり起こすの?!
しかも今回は、もう取り返しが付かないじゃない!!」
「うるさい!!
私だって、辞めたくて辞めたくて訳じゃないわよ!!
悪いのは、全部あのクソ教官なのよ!!」
「だからて、半殺しにする事ないでしょ!!
これから、どうするの?!
もう、士官学校へは戻れないのよ?!」
「チッ!こんな事なら、殺しとくんだった。」
「この、バカ娘!!!」
…本当に、親子かよ…
俺は、ジト目でザックの方を見た。
「アル…言いたい事は分かる…
でも、乱暴なだけじゃないんだぜ?
優しいところもある。…たぶん。」
おい、今なんか混じっていただろ?
とりあえず、話かけてみるか…
俺は、ザックを抱えて2人の前に行った。
「えっと~、ケイラ…さんですよね?
はじめま…」
ケイラに挨拶をしようとすると、物凄い勢いの回し蹴りが俺の顎を穿いた。
俺は、地面にとばされ、意識が朦朧としていた。
やべぇ…目の前が回る…クソッ…声もでねぇ…
「…ぇ、これで…でしょ…
ザックを…し…けたわ…」
あぁ…ダメだ…暗く…なる…
………
……
…
「あ…ある…アル!」
…
「ハッ?!
…ここは?…」
「はぁ…良かった…
みんな、アルが起きたわ!」
目を覚ますと、目の前にレイアがいた。
どうやら、気を失った後付きっきりで看病してくれたらしい。
「ごめんなさい…
私のバカ娘が…」
そうだ!!
俺は、あのイカれ女に蹴り飛ばされて…意識を失っていたんだ!!
何が乱暴だよ!狂暴の間違えだろ!
それで?ことの首謀者は?
俺が辺りを見渡すと、ケイラがよって来きた。
「えっと…さっきは、ごめんなさい…」
……
…ん?
それだけかよ?!何でやったかの、理由もないのか?!
…はぁ…いったん落ち着こう。相手は、年下だ。14歳にも成って、子供にムキに成ったら大人気ない…
許してやろう。
「ああ、もういいよ。
子供に間違いは、よくあるからね。」
これが、不味かった…
ケイラは、眉を細め、獣みたいな顔で俺を睨んだ。
「なんだってぇ?!
誰が、子供だぁ?!」
ケイラは、殺意を剥き出しにして襲い掛かってきた。
「ちょっと、落ち着きなさい!!」
半狂乱に成ったケイラを、レイアが慌てて止めにはいった。
全く…何て目をしてやがる…俺を殺す気かよ…
レイアは必死にケイラを止めていたが、手に終えなく成ったのか、遂に魔法と言う強行策に出た。
「大人しくしなさい!」
『眠れ』
マジかよ?!
この女、どんだけ狂暴なんだ…
「アル、ごめんなさい。
この子、自分を子供扱いされるが大嫌いなのよ。」
この時のレイアの顔は、色んな意味で疲れきっていた。
事態が落ち着くと、ザックは眠るケイラの頭を、優しく撫でながら言った。
「まあ…確かに、アルに子供扱いされたらキレるかもな。
何て言ったて、こいつはアルより4つ年上だから。」
「はぁ?!」
あまりの衝撃的な発言に、思わず口が動いてしまった。
おいおい、何の冗談だよ?!
「だから、立場的にはアルの“姉”に…なるのかな?」
いや、姉てものがいた事は無いが…
出会い頭に人を失神させたり、口を滑らせただけで殺しに掛かる姉なんて、聞いた事ねぇよ!!
「でも、ケイラは士官学校に行っていたはずだよな?
何でここに?」
レイアはそれを聞いた途端、疲れきっていた顔に手を当てて言った。
「それは、“これ”が起きてから聞きましょ…
私も詳しく知りたいわ。」
これは、レイアも相当きてるな…
20分後
ケイラが目を覚ました。
「えっと…私…何をしてたんだっけ?…」
すげぇ…あんな事したのに、覚えてないのかよ…
レイアも『もう、いいわ…』て顔をしている。
「ケイラ、士官学校で何があったか話して?」
ケイラは、下唇を噛んで俯きながら答えた。
「全部あのクソ教官が、悪いのよ…
『習練場から、武器を持ち出した』て言いがかりを着けて、いやらしい目で、私の身体中を触ってきたのよ…」
…最低の教官だ!
普通の親なら、ここで怒り狂って、教官を締め上げに行くところだが…
次のケイラの言葉で、みんな何とも言えない顔に成ってしまった。
「だから、その教官のタマを蹴り潰して、悶えて倒れたところで、顔面を踏み潰して歯を全部折ってやってから、身体中の骨がへし折れるまでボコボコにしてやったのよ!」
認めたく無いが…弟としてはケイラを心配し『良くやった』と言うべきなんだろうが…
男としては、今の話しが無性に怖くて仕方ない。
訳を知ったレイアは、ケイラの方をじっと見て言った。
「ごめんなさい…良く知りもせず、あなたを責めて…
もう、そこに戻る必要は無いわ。
これからは、私達を手伝って。」
「うん…」
こうして、俺に狂暴で怒ると手がつけられない“姉”が出来た。
翌日、俺とケイラは親交を深める為に、レイアが持ってきた簡単な討伐依頼を受けた。
『ゴブリンの群れ討伐、及び住みかの破壊』
これが、今回受けた依頼だ。
小鬼種に分類されるゴブリンは、数が多い事が厄介と言うだけで、力は殆ど無い。
よって、魔法と剣術を両立して戦う俺と、弓を使って後衛から援護出来るケイラがいれば問題なくこなせるのだ。
仮に、前衛の俺を掻い潜って、後衛のケイラを襲っても、王立騎士団の団長を勤めた変態教官を半殺しに出来る実力があれば問題無い。
ゴブリンが住み着いている、洞穴に行く道中ケイラが話しかけてきた。
「ねえ、アル。
何で、いつも剣を背負っているの?
ザックの真似?」
「え?これが、普通じゃないの?」
「普通じゃないわよ。
士官学校では、みんな剣を腰に着けているし、『腰に着ける様に』て学ぶのよ?」
知らなかった…俺の中で、剣の師はザックだし、ザックの持ち方が正しいと思っていた。
でも、腰て…扱いずらそう…
「ザックの真似て言うのはあるけど、背負っている方が動き安いんだよね。
俺からすれば、腰に着けている方が走ったりする時、邪魔に成りそうだと思う。」
「ふーん、そういうもんなんだ。」
ケイラとの何気ない会話で、少し疑問に思う事があった。
「でも、意外だな。
昨日の話を聞く限りだと、士官学校の事は話したく無いと思ったのに。」
「別に、士官学校の全部が嫌だった訳じゃないわ。
教官の中にも良い人はいたし…特に、ダン団長は素敵だったわ。
厳しい人だったけど、生徒1人1人に親身に成って指導してくれる人でもあったわ。」
意外な答えだ…でも、ケイラが『素敵な人』て…
フッ!
「何によ?」
あ、やべぇ…
「いや、何でもないよ。
あ、着いたみいだ。」
俺達は、茂みに隠れて様子を伺った。
どうやら、洞穴はさほど深くなく、中の様子はここからでも見えた。
「それで、作成は?」
見たところ、持っているのは棍棒だけか。
「俺が1匹おびき出すから、ケイラそこの木の上にからそいつを射ってくれ。」
俺は、洞穴の入口の横に立っている木を指差した。
「その後は?」
「ゴブリン達が異変に気付いて出てきたところろを、俺が出ていき倒す。
ケイラは、その間援護を頼む。」
「分かったわ。」
ケイラは、指定された木に登り、弓を構えた。
俺は、ゴブリンをおびき出す為、入口付近に小石を投げた。
音を聞き付けたゴブリンが1匹、偵察で出てきた。
ケイラは、そのゴブリンの頭を矢で射貫いた。
良い腕だ!!
ここまでは、作戦通り!
偵察に出たゴブリンが倒れた事で、洞穴の中にいた他のゴブリン達が出てきた。
俺は、背中の剣を抜き、勢い良く茂みから飛び出して、ゴブリン達に斬りかかった。
ゴブリンは約15匹!
そして、こいつらは背の高い相手には、飛び掛かって襲う習性がある!
俺は、その習性を利用し、飛び掛かってくるゴブリンを1匹、また1匹と斬り捨ていった。
ゴブリンの様な小さい相手に、剣先を下げて戦うと自身の防御が疎かに成る為、この戦い方が最も安全なのだ。
ケイラは、飛び掛かる前のゴブリンを射貫く事で、俺を援護した。
………
……
…
「こいつで、最後!!」
最後の1匹を仕留めた俺は、木の方を見てケイラの様子を確認した。
「そっちは、大丈夫か?!」
「ええ、問題ないわ!
今降りる…」
その時、西の空に一筋の魔力の光が現れ、それが大きな波紋と成って、俺達の上を通り過ぎていった。
それと同時に、地面が揺れだし、ケイラは足を踏み外して木から落ちかけた。
「ハアハアハア…
危ないところだったわ…何なのよ…」
「ケイラ!無事か?!」
「ええ、何とか!」
?!
何だ?!この感じ?!
揺れが収まったと思ったら、背筋が冷える様な感覚が俺を襲った。
反射的に後ろを振り向くと、
そこには倒したハズのゴブリン達がいた。
更に、倒した時は15匹だったのに、
そこには30匹以上の数がいた。
「これは…一体…」
「アル!!しっかりして!!
やつら襲って来たわ!!」
どうなっているだよ!!
『炎の息吹!!』
この日、大陸中で魔物が大量出現するという、人類史に類を見ない大災害が発生した。
スタンピード…




