第4話 赫眼の力と魔法
ザックに剣を習ってから、俺に新しい日課が出来た。それは、朝のすべりだ。
冒険者として、毎日魔物と戦っていれば、腕が落ちる事はないが、そうも行かない。
昨日受けた依頼は、魔物の討伐だったが、一昨日受けた依頼は、薬草の採取だった。
冒険者という職業は、『依頼があれば、何でもやる』という、いわゆる“何でも屋”だ。
そして、依頼の全てが魔物と戦える物ではない。だから、いつでも万全の状態で戦える様に、毎朝身体を動かしている。
でも…贅沢かも知れないが、時折物足りなさを感じる事がある…
平和である事に越した事はないのに…
「アル!昨日の、“ワーグの群れの討伐依頼”の事で話があるんだけど、少しいい?」
俺が物思いにフケながら、朝のすべりをしている時、突然レイアが話かけてきた。
「ハアハア… 何?」
「あの時、ワーグが何処に隠れているか分かっているかの様に戦っていたけど、どうして位置が分かったの?」
なんだ、その事か。
俺は、すべりを再開して答えた。
「あの時…ワーグが隠れている茂みが…紫色に光ってたんだ…
それで、分かった。」
「そう…“それ”が終わったら、私の部屋にきて。
確認したい事があるの。」
「うん…分かった。」
レイアは、何か考え事をしながら、家中へ戻った。
朝のすべりを終えた俺は、レイアの用事を済ませる為、部屋へ向かった。
ノックを3回して部屋へ入ると、レイアが床に魔方陣が描いていた。
「来たわね。じゃあ、始めましょう。」
「レイア、この魔方陣は?」
「説明は後よ。まずは、これを見て。」
レイアが右手を上げると、紫色の光がそこに集まっていった。
そして…
『発火』
レイアが呪文を唱えると、右手に火が現れた。
「何か見えた?」
…『何か見えた?』て、いつもの魔法を使っているところしか見えないけど…
「いつもと同じだよ。紫色の光が集まって、魔法を使っているところしか見えない。」
「やっぱり、そうなのね。
アル、あなたが見えている、紫色の光は魔力よ。」
「魔力?…魔力てあれでしょ?魔法を使うときに必要なやつ…」
「そう。魔力は、魔法を使うときに必要な力よ。
そして、これは本来見る事が出来ないの。」
じゃあ、俺が今まで見てきた光は、魔力だったて事?!
…でも、『本来出来ない』て…
「アル、あなたが何を考えているか、だいたい分かるわ。
これは私の推測だけど、あなたの持っている、赫色の眼に原因があると思うの。」
「この眼に?
…もかして、魔人と何か関係が?…」
「おそらく…これも私の推測だけど、魔人には魔力を見る力があると思うの。
以前、魔人と戦った時に魔法を避けられた事があって、アルが見えている光が魔力なら、その時の事と合わせて説明がつくのよ。」
…そいう事か…
なら…俺を改造した魔法使い目的は“これ”だったのか…
あいつが言っていた『魔人の力』、それが何なのか漸く分かった…
「アル、これは利用出来ると思うわ。」
「利用?」
「ええ、魔力が見えるなら、それは視覚的に知覚しているて事なのよ。
知覚が出来るなら、魔法が使えるはず!
私は、魔力が見えないけど、感覚的に知覚は出来ているの。」
「つまり、知覚が出来れば、魔法が使えるて事?」
「それは違うわ。説明が少し足りなかったわね。
魔法が“使える”、“使えない”は、その人の魔力量に関係するの。
そもそも、魔力を知覚するには、一定に満たしていないと出来ない。
そして、アルからは少しだけ魔力を感じる。
知覚出来る程ではないけど、ちょっと妙なの。
まるで、栓の間から漏れ出ている様な感じ。
だから、今からこの魔法陣を使って、“それ”を解放させようと思うの。
解放出来れば、アルも自分の魔力を知覚出来ると思うわ。」
魔法が使えるていうのは、少し面白そうだ。でも…あの魔法使いが“改造したから”て言うのは、正直癪に障る…
…いや、使える物は何だって使ってやる!
「分かった!どうすれば良い?」
「魔方陣に入って。後は、私がやる。」
俺が魔方陣に入ると、レイアは魔道書を片手に詠唱を始めた。
『我、汝に秘められし力を解放する者なり。
我が言葉に導かれ、その力を解き放たれよ!』
『解放の導き!!』
レイアの詠唱によって、魔法が発動し、俺は魔方陣から放たれる光りに包まれた。
また、これかよ…
………
……
…
光りが消えると、レイアは疲れ果てた様で椅子に座っていた。
しかし、その顔にあったのは疲労ではなかった。
「驚いた…
まさか、こんなに高いなんて…」
「成功した?」
「ええ…でも、あなたの魔力…想像以上よ…
これ程の魔力量は、王に仕える“宮廷魔術師”以外に見た事ないわ。」
自分の魔力を確認しようと、身体中を見てみたが、魔力は見えなかった。
レイアが、魔法を使う時はいつも見えていたのに…
ん?!待てよ。『魔法を使う時』か…
俺は、眼を閉じ、身体中の感覚を研ぎ澄ませて探した。
何か、今までなかった物を…見つけた!
身体の中心…詳しく言えば、ヘソの辺りから、何か暖かい物を感じる。
俺は、集中して、その暖かい物が胸を伝って、右手に集まる様に意識した。
すると、右手が熱くなり、紫色の光りである魔力が見えた。
更に、レイアが持っていた魔道書を奪い、最初のページにある呪文を詠唱した。
『我、この地の暗闇に一筋の光りを与えんとし、灯火を…』
ああ、めんどくせぇ!!
レイアは、最後のところだけ言っていただろ!
俺は、詠唱を途中で止め、火の付くところを明確にイメージして、最後のところを唱えた。
『発火!』
右手を見ると、そこには魔法によって生み出された炎があった。
「信じられない…」
レイアは、さっきの比にならない位眼を大きく開き、顎が外れた様に口を開いていた。
「アルベルト、良く聞きなさい。
あなたは、“魔法都市セレスティア”に行くべきよ。そこで、高度な魔法を学び、魔術師に成るべきよ。」
レイアは、両手を俺の肩に置いて、今まで見た事のない程の真剣な顔で言った。
「魔法都市セレスティア?
レイア、俺は…」
「いい、アル!!
あなた程の才能は、類を見ないの!
魔力を誰よりも鮮明に知覚出来る上に、初魔法を1人で…それも、詠唱なしで使えたのだから!」
「俺は、レイアの真似をしただけだよ…」
俺としては、何も特別な事はしてないと思った。
いつも見ている物を、真似てやっただけなんだから。
「それが、普通なら出来ないのよ!
私も含めた魔法使い達は、魔法学校で詠唱を習い、それを唱えながら魔力の流れを意識し、事象をイメージして魔法を使うの!
初めから、魔力の流れを完全に掌握しているなんて、聞いた事ないわ!
しかも、魔法の威力も…『発火』で、ここまでの炎を作り出すなんて…
アル、あなたなら将来、優秀な魔術師…いえ、魔導師も夢じゃないわ!」
レイアの一方的な主張に、俺の中の何かがキレた。
「俺は、魔法使いになる気はないんだよ!
それに、何?!
さっきから“魔術師”、“魔導師”て!」
『魔法は使いたいが、魔法使いには成りたくない!』
これが、俺の気持ちだ!
レイアは、分かっているのか?!
俺が、魔法使いに成るて事がどういう事なのかを!
俺をあんな目に合わせ…
「こんな身体にした、イカれた魔法使いに『感謝している』と言っている様なものなんだぞ?!」
「アル…ごめんなさい…
…あなたが、そんな風に思っているとは、思わなくて…」
その言葉で俺は冷静になり、思っていた事を口にした事に気付き、慌てて口を塞いだ。
「さっきの質問だけど…簡単に言えば…
“魔術師”は、私達の様な魔法使いよりも、上位の魔法使いの名称で、“魔導師”は、更に上位の魔法使いの名称よ。
魔法使いに成るには、まず魔法学校で習う科目を修了して、次に魔法使いを管理する組織“魔法協会”に登録する必要があるの。
魔術師は、魔法使いが無詠唱で魔法を使えるように成り、“魔術師試験”に合格した者が成れるの。そして、魔術師と言う名は、それだけで価値が有り、王の元で働く“宮廷魔術師”に成る事が出来るわ。
魔導師は、魔術師の様に無詠唱で魔法が使え、更に最上位の“天階級魔法”を使える者が成れるの。現在、魔導師は魔法協会で評議員の役職についている3人しかいないわ。
もし、アルがこのまま魔法使いの道を歩めば、評議員の一員になる事が出来る可能性があると、私は言いたいの。」
レイアの説明を聞いて分かった。確かに、このまま魔法使いに成って、魔術師や魔導師に成れたら、今以上の安定した生活が出来る。
それでも、俺は…
「俺は、魔法使いには成らない。
俺は、ザックやレイアやギュンターの様な、冒険者に成る。
まあ、もう成っているけどね。」
俺は、1つの決意を胸に、微笑みながら言った。
「ええ…そうね。」
それにつられ、レイアも軽く微笑みながら答えた。
魔法を覚えてから3日後、それを使う瞬間が訪れた。
今日は、森の沼地に現れたスワンプシングを討伐する依頼を受けた。
魔物が目撃された沼地に行くと、運の良い事にスワンプシングが沼から身体を出して移動していた。
よって、探す手間が省けた。
俺は、スワンプシングの後ろに忍び寄り、呪文を唱えた。
『炎の息吹!』
右手から、放たれる灼熱の炎に当てられ、スワンプシングは完全に固まった。
俺は、背中から剣を抜き、スワンプシングを叩き斬り、粉々にした。
「よし!
やっぱり、“地中階級魔法”が1番使いやすい!」
俺は、剣と魔法を両立する魔法剣士に成ると決めた為、最も隙が少なく剣に繋げられる魔法を習得した。
それは、最下位の“地下階級魔法”から、中位の“地上階級魔法”だ。
上位の“下空階級魔法”から“上空階級魔法”は、術式が複雑なせいか、発動まで時間がかかる為捨てた。
よって、最上位の“天階級魔法”は、覚える気にも成らなかった。
俺が、魔法使いに成っていたら習得したが、魔法剣士に成った今では必要ないのだ。
スワンプシングを倒した俺は、報酬を受け取りに、町へ戻った。




