第20話 王女からの招待状
聖教国防衛戦の最中、その様子を影から観察していた女がいた。
その女は、オルムンドを使役者に仕立て上げたヴィーリアだった。
ヴィーリアは、アルベルトとバジリスクの戦いの終わりを見届けた後、転移魔法を使って“主”の元へと帰った。
薄暗い執務室で、1人の男が配下の帰りを待っていた。
執務室に転移魔法陣が出現し、その魔法陣からヴィーリアが現れた。
「あら?待っていてくたの?
嬉しい。」
男は黙っていた。
「ねえ、少しは反応しても良いじゃない?
…分かったわ。
無駄話は嫌いなのよね。」
「分かっているなら、早く報告を始めてくれ。」
男がそういうと、ヴィーリアは落胆し、報告を始めた。
「まず、貴方が作った魔道具だけど、凄まじい効果だったわ。
魔物を使って軍を作るところまでは予想していたけど、まさかバジリスクまで出せるとは思わなかったわ。」
男は、笑みを浮かべて答えた。
「我が作った物なのだから当然だ。
それで?
“もう1つ”の方はどうだった?」
「そっちも、充分機能していたと思うわ。
背に“王女様”を守っていなきゃ、あれ程の戦いには成らないもの。」
男の笑みが消えた。
「あまり、有用な情報ではないな。
まあ、良い。
あれは、効いていれば良いという程度の物だ。
最も重要なのは、魔物を出現させ、使役出来たという点だ。」
ヴィーリアは、その言葉にむくれた顔で答えた。
「意地悪…」
「まあ、そう言うな。
お前の働きには感謝している。」
男の言葉で、ヴィーリアは機嫌を直した。
「それで、聖教国の方はどうなった?」
「聖教国は、無事のままよ。
今回の成果は、魔道具の機能が証明されただけ。」
「そうか…バジリスクを相手どっても滅びぬとは、この世界の軍事力もバカに出来ないな。」
「正確には、バジリスクを倒したのは“1人の男”よ。」
男は驚き、椅子から立ち上がった。
「それは、冗談か?!
バジリスクの石化能力を1人で破るなど…」
ヴィーリアは、男の言葉を遮って言った。
「白狼なら可能じゃなくて?」
男は『白狼』と聞くと、再び椅子に座った。
「白狼か…
確かに、奴ならやりかねん。
我々の計画を完遂する為にも、奴にはどこかで死んで貰わなければならぬな。」
ヴィーリアは微笑みながら、男の肩に手を置き、耳元で囁いた。
「時間は、たっぷり有るわ。
今は、慌てずに期を待ちましょ?」
男はヴィーリアの手を取り、笑みを浮かべながら軽く頷いた。
この2人の計略により、大陸は激動の時代へと向かっていた。
しかし、この時は誰もそれを知らなかった。
聖教国防衛戦の終結から3日後。
何だ?…
白い光?…
眩しい…
「…え…わた…す…」
誰だ?…
朦朧とした意識の中、誰かの話声が聞こえ、俺はゆっくりと目を開けた。
ここは、どこだ?…
ベッドに寝かされている…
もう、朝か…
そういえば、前にもこんな事…
ーッ?!
待て!!
バジリスクは?!
俺は慌てて身体を起こした。
すると、近くで看病していた修道女のイブが俺に話しかけた。
「あ、お目覚めになられましたね。」
「イブ、バジリスクは?!
戦いは?!」
イブは落ち着いた顔で、俺の肩に手を置いて答えた。
「ご安心ください。
バジリスクは、貴方が倒されました。
それに、戦いは終わりました。」
イブの言葉で身体の力が抜け、再びベッドへ倒れた。
「良かった…
皆の犠牲は、無駄に終わらなかったんだな…」
イブは優しい顔で、俺が倒れた後の事を話した。
イブの話によると、戦闘後バジリスクによって石化された騎士達は、皆元に戻っりダン団長と共にアスラン王国に戻ったとの事だった。
どうやら、バジリスクの石化能力は呪いによる物であり、神聖魔法で解除すれば石化は治るらしい。
そして、バジリスクの毒を受けた俺は、戦闘後に意識を失い、クレアとパウロの手によってこの聖堂に運び込まれ、3日間も意識が戻らなかったらしい。
「2人のお陰で、俺は助かったて事か…」
「それもありますが、1番は貴方の身体です。
バジリスクの毒を受けて、長い時間持ちこたえられる人間はまずいません。
貴方が、普通の人間であれば助かりませんでした。」
普通の人間か…
…ん?
ちょっと、待て。
何で、イブは俺に向かって『普通の人間』て言ったんだ?
「イブ、今俺の事を…」
「そうでした。
先程、貴方に渡して欲しいと、手紙を預かっておりました。」
イブは俺の言葉を遮り、手紙を渡した。
俺は無言で、手紙の封を開けて読んだ。
『拝啓 白狼殿。
貴殿の働きによって、我が命を救って頂いた事をここに感謝します。
また、その意も含み、1週間後に開かれる晩餐会に貴殿を招待します。
貴殿の参加を心よりお待ちしております。
レイブン王国 王女 エレナ ・ヴァローナ』
『レイブン王国 王女』か…
しかし、何故王女がこの国にいたんだ?
俺はイブの方を向き、この国にいたであろう王女の事を聞いた。
「イブ、レイブン王国の王女が本当に、この国にいたのか?」
イブは、俺への手紙の内容を悟り答えた。
「先の防衛戦が行われる3週間程前、この国には各国の要人方が参られておりました。
そして、使役者の襲撃を受けた際、レイブン王国の要人のみが帰国出来ず、その方を護る為にアスラン王国より騎士が派遣され、防衛網が敷かれたのです。」
なるほど。
これで、何で王女から感謝されているかの理由は分かった。
だが、それだと腑に落ちない点がある。
使役者の狙いだ。
奴は何で…
「どうなされました?」
「いや、その話だと、使役者の狙いが何だったのかが分からないんだ。」
イブは不思議そうな顔で聞いた。
「狙いは、各国の要人方だと、容易に想像がつくと思いますが?」
「それはそうなんだが、悪魔教団がわざわざ要人を狙うとは思えないんだ。」
それを聞いたイブは、驚いた顔で使役者の事を聞いた。
「使役者は悪魔教団だったのですか?!
しかし、悪魔教団は100年以上前に滅んだのでは?」
「生き残りがいたんだ。
使役者の狙いが、この国崩壊なら容易に分かる。
悪魔教団は女神を憎んでいるからな。
しかし、王国の要人となれば、話は変わってくる。
そもそも、何で要人がいる事を知っていたんだ?
いや、この2つは偶然重なっただけなのか?…」
んー…今の状況では、分からない。
…いや、そもそも分かる必要なんてあるのか?
「まあ、いいか。
もう、終わった事だ。
考えても仕方ない。
それに、何かあるとしても、冒険者の俺には関係が無い話だ。」
「それも、そうですね。
今は、別の事を考えるべきです。」
確かにそうだ。
だが、こういった招待は、また何かありそうな気がするんだよな…
俺が考え込んでいると、突然イブが訳の分からない質問をしてきた。
「白狼様。
もし私が、『この招待を受け、レイブン王国へ行く事が貴方の運命です。』と言えば、行こうという考えになりますか?」
は?
急に何を言っているんだ?
「…悪いが、俺は運命ていうものを信じていないんだ。
物事や生き方ていうのは、人の行動や選択で決まる事だと思っているからだ。
運命てのは、自分の生き方に意味を持ちたい者が作ったものだと俺は思う。」
イブの立場上、この答えは反感を買うと、少し思っていた。
しかし、イブは嫌な顔をしなかった。
そして、優しい顔のまま自分の考えを話した。
「そうですか…
確かに、貴方の考えは一理あると思います。
しかし、別の見方をすれば、運命を信じる事で生き方に意味があると、希望を持つ事が出来るのではありませんか?
少なくても、私は思います。」
希望か…
確かに、そういう見方も出来るかも知れない。
「宛の無い旅なら、運命に導かれてみるのも、良いのではありませんか?」
「…考えてみるよ。
そうだ、パウロとクレアに礼を言いたいんだが…
3日も経っているが、パウロはもう出発しのたか?」
「いいえ、パウロ様は貴方の事を心配し、まだこの国にいらっしゃいます。」
「…そうか。」
パウロは先を急いでいた様だし、悪い事をしたかも知れないな…
「クレア様は、いつも通り聖堂街を見回り巡回しています。」
「分かった。
色々と世話に成ったな。」
そう言って、俺は身支度をして部屋を出ようとした。
「お気になさらないでください。
旅の道中の無事をお祈りしております。
…“白き狼の騎士様”。」
ん?何だ?
最後の言い回し…
まあ、良いか。
俺はイブのいた部屋を後にして、聖堂の外へ出た。
パウロの荷馬車が停まっていた場所を目指して、聖堂街を歩いていると、巡回中のクレア率いる聖騎士団に会った。
「ちょうど、良かった。
礼を言おうと…」
俺が礼を言おうとすると、クレアはそれを遮り、聖騎士一同が頭を下げた。
「白狼殿!
この度は、この国を救って頂いき誠に感謝する!
貴方の働きが無ければ、この国は滅んでいた…
この恩は、決して忘れない!」
クレアと聖騎士団の熱烈な感謝に、俺は礼を言えずにいた。
俺はこういう経験はあまり無かったから、背中が無図痒く、言葉に詰まっていた。
そして、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「まあ、なんだ、お安いご用てやつだ。」
それを別れの言葉にして、俺は聖騎士団を後にした。
パウロの荷馬車が停まっていた場所に着くと、思っていた通りそこにはパウロがいた。
「アルベルトさん!
もう、身体は大丈夫なんですね?」
「ああ、おかげさまでな…
…その、悪かったな。
俺のせいで、出発が遅れて。」
パウロは、俺の謝罪に笑顔で答えた。
「気にしないでください。
貴方が、無事に回復した事が何よりも大事です。」
嬉しい事を言ってくれるな。
「ありがとうよ。
じゃあ…ここで、お別れだな…」
「ええ、そうですね…
わたしも、次の国を目指します。」
…
「なあ、その国てのはどこか教えてくれないか?」
「えっと…次は、レイブン王国です。」
フッ…
運命てやつに導かれてみるのも、良いかもな。
「パウロ、実は俺もレイブン王国に用事があるんだ。
お前さえ良ければ、次の国まで護衛を引き受けるぜ?」
パウロは、目を輝かせて答えた。
「本当ですか?!
是非、お願いします!」
俺は、再びパウロの荷馬車に乗った。
俺が荷馬車に乗ると同時に、パウロは手帳を取り出し何かを書いていた。
「帳簿に間違えがあったのか?」
「え?ああ、違いますよ。
この手帳には、今での旅の出来事を書いているんです。
今回の旅は書くつもりがありませんでしたが、思っていた以上の事が立て続けに起きたので書いているんです。
良い土産話にもなりますし。」
「そうか。
あと、その…なんだ、出来ればもうちょっと砕けた口調で話さないか?」
パウロは少し考え答えた。
「そうですか…
急に変えると、ちょっと変な感じなので…
まあ、やってみます。」
そう言うと、パウロはパイプを取り出し、煙草を詰めて火を着けた。
パウロに連れて、俺も葉巻を取り出し、火を着けた。
俺達は荷馬車を走らせて、次の国レイブン王国を目指した。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
今回の話で、「狙われた聖教国編」は終了となります。
次回からは、新章「王女暗殺編」となります。
これかも、応援のほどよろしくお願いします!




