第19話 魔法剣士と商人
俺達がバジリスクと死闘を繰り広げている一方、バジリスクの目から放たれた閃光は、聖教国内の避難所にまで届いていた。
その結果、避難所の中では不穏な空気が漂い始めた。
その中でパウロ、オットー、アクセル、ハンクという4人の商人達は、防衛に当たっている方で何かが起きていると勘づいていた。
「今のは、一体…」
「きっと、誰かの魔法だろう。」
「いや、それにしては静か過ぎる。
あれだけの光を放つ魔法なら、何か衝撃音があっても良いハズだ。」
オットーとハンクは険しい顔をしながら、閃光の正体について言い合っていた。
その時、避難所を護っていた聖騎士が外へ呼び出された。
「やっぱり、何かあったんだ…」
アクセルが不安な口調で言うと、パウロが立ち上がった。
「少し、様子を見て来ます。」
パウロは、避難民達を掻き分け、扉の前まで行き、外を覗いた。
外では、避難所を護っていた聖騎士と、報告に来た聖騎士が戦況についてを話していた。
「何だと?!
それでは、後衛の弓士は全滅したと言うのか?!」
「ああ…残念だがそうだ…
皆、バジリスクに石化させられてしまった…」
「それでは…防衛網は突破されたという事か?」
厳しい戦況に聖騎士は険しい顔で聞いたが、報告に来た聖騎士は顔を横に振って答えた。
「今は、白狼殿が何とか持ちこたえている。
だが、それもいつまで持つか…」
(アルベルトさんが…1人で?!)
「打開策は何かあるのか?」
「何もない…
あの目さえ封じられればと思ったのだが…
狙った時点で、石化されてしまう…」
(どうしよう…とりあえず、皆に状況を伝えよう。)
パウロは扉から離れ、3人の元へ戻った。
「パウロさん、何か分かりました?」
「状況は、思っていた以上に悪いです…
バジリスクと言う魔物が現れ、アルベルト…白狼殿が何とか持ちこたえている状態です。」
アクセルの質問にパウロが答えると、商人達は沈黙した。
暫くすると、オットーが何かを思い出したし話し始めた。
「確か、バジリスクの厄介なところてのは、“目を見ると石化する”てところじゃなかったか?
だから、目を潰せれば…」
「もう、試みた様です。
目を狙った時点で、目を見てしまい、皆石化してしまいました。」
オットーの意見に、パウロは険しい顔で答えた。
その時、アクセルが何かを思い付き話した。
「なら…目を狙わずに潰せれば良いのではないですか?」
「何を言っている…そんな事出来るわけ無いだろ…」
アクセルの“目を狙わずに潰す”という意見は、現実的でないと却下されてしまった。
しかし、パウロはその非現実的な意見から、思い付きを得て、小さ声で話した。
「なら…目意外を狙って潰せれば…」
その言葉を聞いて、オットーはパウロへ詰め寄った。
「パウロ殿、それはどういう意味だ?」
「いえ、ちょっとした思い付きです。
ほら、盗人が逃げる時に、粉の入った袋を追手の顔に投げて、目を潰すて話を良く聞きませんか?」
パウロの意見に、一同は納得した顔を見せた。
「もし…もしですよ。
袋に入った粉の様に、バジリスクの目を潰せる物があれば、この状況を打開出来ると思うんですよ。」
「しかし、そんな物があるわけ…」
「それなら、良さそうな物があります。」
アクセルが言葉を遮り、説明を始めた。
「わたしは以前、フジノ国付近で、周囲に植物が生えていな温泉を見つけました。
そこでわたしは、休憩がてら煙草を吸おうとしたのですが、誤ってその温泉に煙草を落としてしまったのです。
すると、落とした煙草が温泉に触れた瞬間溶けてしまったのです。」
「煙草が溶けた?!」
「はい。
その時は、信じられませんでしたが、後に森に生えていた植物を同様に温泉に入れてみました。
すると、その植物も煙草と同様に溶けてしまいました。
それで、わたしはこの温泉が原因で周囲に植物が生えていないと考え、これは除草薬として売れるのではないかと考えたのです。」
商人達は、その“不思議な温泉”の話を黙って聞いていた。
そして、パウロが口を開いた。
「つまり、その除草薬なら、バジリスクの目を潰せるという事ですか?」
「可能性はあります。
魔物といっても、植物と同様に生物である事は変わらないハズです。」
「試してみる価値は、あるかも知れません。
その除草薬は、今どこに?」
「外にある、わたしの荷馬車に積んであります。」
パウロは、再び立ち上がった。
「その除草薬と荷馬車の特徴を教えてください。」
「荷馬車には、ベルヌ商会の刻印がされています。
除草薬は、分かりやすい様に容器に“赤い印”を着けておきました。」
「分かりました。
ありがとうございます。」
パウロは、再び扉の前まで行き、今聞いた情報と策を伝える為に外へ出た。
しかし、外に聖騎士はいなかった。
(まさか…もう、防衛網の方へ…)
パウロは、聖騎士に追い付く為、急いで荷馬車から除草薬を探した。
(ベルヌ商会…ベルヌ商会…
あった!
後は、除草薬だ。
赤い印の容器…これか!)
パウロは除草薬を持ち、聖騎士を探しに結界の近くまで行った。
(聖騎士は一体どこに…いた!)
2人の聖騎士が、連絡用に作られた結界の隙間から外へ出ていた。
パウロも、聖騎士を追いかけて結界の外へ出た。
結界の外へ出ると、パウロは地獄の様な有り様に驚愕した。
しかし、止まっている暇は無かった。
(アルベルトさんが、いつまで持つか分からない…
急ごう!)
パウロは、聖騎士の後を付けて行った。
戦いの場に着くと…
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ー!」
パウロ前にあったのは、バジリスクに左腕を咥え上げられ、悲痛な叫び声を上げていた俺の姿だった…
………
……
…
パウロが、戦場へ来る10分程前。
バジリスクとの戦いは、激しいながらも硬直状態に陥っていた。
それは、相手も俺も止めの一手を撃てずにいたからだ。
クソッ…
何とか、目を潰す方法は無いのか…
目さえ潰せれば…
俺は、攻撃の期を伺いながらも、目を潰す方法を探した。
それか…せめて、顎の下まで行ければ…
そのまま、頭を貫け…
その時、バジリスクは両手の爪を交互に使って、小刻みに攻撃を仕掛ける戦法から、腕を大きく振りかぶった力任せの戦法へ変えてきた。
「うあっ!
クソッ!
こいつ…急に、動きを変えてきやがった!」
俺はその攻撃を瞬時に受け止めたが、同時に強い衝撃が腕を巡った。
チッ…思いっきり来ると、腕に響く…
このままだと、消耗戦だ…
…ん?何だ?
こいつ…さっきより動きが鈍いぞ。
俺は、バジリスクの攻撃の速度が遅く成っている事に気付いた。
おそらく、硬直状態の攻防戦から、最初に強い攻撃に出たバジリスクは、守りに入っていた俺以上に消耗した為だろう。
この動きならいけそうだ!
俺は、バジリスクの攻撃を受け流し、剣を振り上げ、腕を1本切り落とした。
よし!まずは、1本!
次は…
その時、バジリスクは急に、俺の目の前へ頭を付き出した。
今だ!こまま、頭を…
いや、待て!
これは…
バジリスクと目が合いそうに成った俺は、慌てて目を瞑って視界を遮った。
しかし、それこそがバジリスクの狙いだった…
バジリスクは、その隙を逃さず、左腕に喰らい付き、空高くまで持ち上げた。
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ー!」
う…腕がちぎれそうだ…
バジリスクは、首を左右に振り回し、咥えた腕を引きちぎろうとした。
クソッ!
なら、せめて…魔法でも喰ってみろ!
俺は、喰われた左腕に魔力を集中させて、魔法を放とうとした。
『炎の…』
バジリスクは、それを感じ取ったのか、結界へ向けて投げ飛ばした。
「うぁぁぁー!」
「グァ!!…
…ひゅ…ひゅ…」
クソッ…しくじった…
左腕は、関節に大きな穴が開き、白いシャツが赤色に染められていた。
マズい…目が霞む…
バジリスクの毒か…
バジリスクが、ゆっくりと向かってきた。
まさか…このまま喰う気か…
クソッ…どうすれば良い…
バジリスクは、目の前まで来た。
もう…ここまでか…
その時、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「おい!蛇野郎!!
その人から離れろ!!」
この声は?!
俺は、声の方へとっさに向いた。
パウロ?!
何で、ここに?!
バジリスクは、パウロの方を向いた。
クソッ…やめろ!
「ひぃ!!
これ…これでも、喰らってろ!!」
パウロは、手に持っていた容器をバジリスクに向けて投げた。
容器がバジリスクの頭部に当たり、割れて中の液体が顔を覆った。
バジリスクの顔は、煙は放ちながら焼けただれていた。
ピュギャァァァー!!
バジリスクは、悲痛な唸り声を上げた。
「凄い…思った以上の威力だ…
アルベルトさん、今です!!
バジリスクの目は、潰れました!!」
何?!
確かに、焼けただれて…目が潰れている!!
俺は、再び剣を強く握り締め、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「うぉぉぉ!!」
左腕は使えないが、右腕だけで充分だ!
バジリスクは、左右に揺れながら、踠き苦しんでいた。
俺は、バジリスクの崩れかかった体勢を崩す為、右に揺れた瞬間、右足を斬った。
バジリスクは、保つ重心を失い、右へ倒れ込んだ。
俺は、その瞬間を逃さず、バジリスクの頭部が落下してくる所に陣取り、剣を掲げた。
バジリスクは、それに気付く事も、避ける事も出来ず、倒れると同時に、顎から頭にかけてを剣に貫かれ、絶命した。
「はぁ…はぁ…」
終わった…
限界を迎えた俺は、その場に倒れた。
「やったー!!
アル…?!
アルベルトさん?!
アルベルトさん!!」
パウロは、倒れた俺の元へ駆け寄った。
「まだ…息をしている!
でも…浅い…
誰か…誰か!!」
パウロの呼び声で、負傷して寝込んでいたクレアが起こされた。
「白狼殿?!」
「はぁ…あ、貴女は聖騎士ですよね?!
は、早くアルベルトさんを!」
「分かっている…」
『聖なる癒し!』
クレアが神聖魔法の呪文を唱えると、俺の身体は美しい光に包まれ、左腕にあった噛み傷が癒えていった。
しかし、目を覚ます事はなかった…
「どうして?!」
「毒がかなり進行している…
こうなっては、私の力では…」
「助ける方法は、無いんですか?!」
「…急いで、彼を聖堂へ連れていこう!
あの方なら…」
俺は、クレアにだき抱えられ、パウロと共に聖教国へ入って行った。




