第18話 最後の切り札
俺とダン団長が、使役者と接触する15分前。
彼らに続いて、冒険者と騎士が2人ずつ森へ入っていった。
森の中は、不気味な程静で、魔物が1匹もいなかった。
その為、4人はこの異様な状況に不安を隠せていなかった。
「本当に、この方角で間違いないんだな?」
「ああ、あの白い髪は間違いなく白狼だった。
それにしても…何で1匹も現れないんだ?」
「使役者て奴の手持ちが、尽きたて事じゃないか?」
「なら、急ごう。
ダン団長に、遅れを取るわけにはいかない。」
4人は速度を上げ、更に森の中へ入っていった。
その時、騎士の1人が異変に気付いた。
「待て、今何か聞こえた気がした…」
「魔物か?」
「恐らく…」
4人は背中を合わせて、どの方向から来ても対応出来る様に身構えた。
「近づいてくる…
何か…“蛇の舌なめずり”みたいな音だ…」
それを聞いて、冒険者の1人が青ざめた。
「へ、蛇だと?!」
「心当たりがあるのか?」
「あ、当たり前だ!!
クソッ!!
使役者の野郎…何て奴を連れていやがったんだ!!
蛇の魔物と言えば…」
その時、騎士の1人がその魔物を見付けた。
その魔物は、前のめりに二足歩行で動き、羽の様な腕が生えた、巨大な蛇の姿をしていた。
この異様な蛇の魔物を目の前にした騎士は、そのあまりの恐ろしさから、身体が動かなく成っていた。
この時、騎士は先程まで死闘を繰り広げていた、ゴブリンやワーグが可愛いく思えていた。
騎士は、恐怖を必死に抑えて、魔物の存在を他の皆に伝えようとした。
「い…いた…
ああ…そこに…
あの…恐ろしい目が…」
「バカ!!
そいつの目を見るな!!
そいつは…」
冒険者の忠告は、もう遅かった…
蛇の魔物の目から、黄色の閃光が放たれた。
光が消えると…
目を合わせていた騎士は石化していた。
「おい…一体どうなっている?!」
もう1人の騎士が、激しく動揺した。
「目を見たんだ…“バジリスク”の目を…」
「バジリスクだと?!
ならば…」
騎士は動揺する心を、何とか自制し、反撃の方法を考えた。
「ならば、目を見なければ、良いだけの事!
こいつは、ここで仕留めるぞ!」
「待て、そいつにはまだ…」
騎士は焦っていた。
本来なら、冒険者の忠告を最後まで聞き、反撃の方法を考えるべきだった。
しかし、目の前で仲間が石にされた事と、バジリスクが森を出た後の光景が脳裏を横切り、騎士は冷静な判断力を失っていた。
騎士は、バジリスクの腹部を注視しながら距離を詰めていった。
足の速さが功を成し、その作戦は成功した。
騎士は、バジリスクの視野の外へ入り、攻撃を仕掛けようとした。
その時、バジリスクの鋭い爪が騎士の腕を引っ掻いた。
騎士はかすり傷だと、腕の傷を無視し、バジリスクに再度攻撃を仕掛けようとした。
しかし、剣を振りかぶった瞬間、騎士は全身を痙攣させながら、地面に倒れた。
騎士は、バジリスクの攻撃を受けた際、毒を食らっていた。
バジリスクの爪や牙は、鎖帷子を容易く突き破る程鋭く、即効性の毒を持っていた。
この毒は、常人なら10秒もしない内に、死に至らしめる程強力な物だった。
冒険者は、毒の事を伝えようとしたが、もう手遅れだった。
「ここは、一旦逃げるぞ!
基地には、まだ矢が残っているかも知れない。
それで、バジリスクの目を潰してから攻撃を仕掛けるぞ!」
「ああ、そうしよう…」
残った冒険者は、バジリスクの目を潰す為、森の外へ向かって全速力で走った。
………
……
…
15分後
俺達は使役者が放った“最後の切り札”を追って、森の外へ出た。
そして、俺達はその正体を見た。
なるほど…
バジリスクか…
確かに、切り札だ…
戦場には、もうゴブリンやワーグの姿は無かった。
あったのは、バジリスクに追われる味方陣営の姿だけだった。
「白狼…あれは、なんて魔物だ?」
「バジリスク。
目を合わせた者を石化させ、牙と爪に猛毒を仕込んでいる魔物だ。」
「…勝てそうか?」
…
「分からない…
俺も、実物を見るのは初めてなんだ…」
それにしても、あの逃げ方…
まるで、バジリスクを誘導している様だ。
一体、何を考えて…?!
そういう事か?!
俺は味方陣営の意図を察し、ダン団長へ伝えた。
「ダン団長、奴の後を追おう。」
「何か、考えがあるのか?」
「俺じゃない。
逃げている連中にあるみたいだ。
バジリスクを基地まで誘導して、矢で目を潰す気だろう。」
「なるほど。
ならば、急ごう。」
俺達は、全速力でバジリスクの後を追った。
………
……
…
バジリスクへの攻撃の計画は、逃げている際人を伝って、基地の方まで届いた。
「はあ…はあ…
急いで、矢を放つ準備をしてくれ!
もうじき、ここへバジリスクが来る!」
「バジリスクだと?!」
「そうだ!
石化を止める為に、残っている矢で奴の目を潰すんだ!」
騎士達は、残っている矢をかき集めた。
しかし、先の攻撃で残った矢は、20本も無かった。
「これに、賭けるしかない!」
一方で、バジリスクから逃げている味方陣営は、バジリスクを上手く基地まで誘導し、遂に射程圏内へ入れた。
騎士達は、バジリスクの姿が見える様に成ると、その恐ろしい姿に顔を強ばらせた。
「構えー!!」
しかし、騎士達は勇気を振り絞り、弓を構えて、バジリスクの目へ狙いを定めた。
これなら、いける!
俺とダン団長は、矢が当たらない程度の距離を保ち、目が潰されるのを待った。
しかし、この時は気付かなかったが、バジリスクの目を潰すという作戦には、大きな穴があった。
それは、目を撃ち抜く為には、目を狙わなくてはならないという事だった。
それは、当然の事だったが、バジリスクの目を潰す事に固執するあまり、皆その事に気付いていなかった。
その結果、最悪の事態を引き起こしてしまった…
「うっ…」
発射の号令がかかる直前、バジリスクの目が黄色く光りだし、辺りが黄色い閃光に包まれた。
光が消えると、弓を構えていた騎士達が皆石化していた。
「そんな…嘘だろ…」
ダン団長は、その場に崩れてしまった。
この光景は、ダン団長ですら絶望的に感じる物だったからだ。
矢で目を潰すという作戦が失敗に終わった事と、自分が指揮を執っていた騎士達が皆死んでしまった事に、ダン団長は強く打ちひしがれていた。
ダン団長…
ダメだ…ここで、止まってはダメだ!
ここで止まれば、皆の犠牲が無駄に成る!
この戦いを、作戦の失敗で終わらせてはダメだ!
俺は、石化してしまった味方の犠牲を無駄にしない為にも、剣を強く握り締めてバジリスクへ向かった。
『炎の矢!』
俺は、炎の矢を放ち目を潰そうとした。
しかし、目を直視すれば石化してしまう可能性がある為、まともに狙うことが出来なかった。
クソッ!
やっぱり、見ずに狙っても当たらない!
…だからと言って、ここで止まる訳にはいかない!
「うぉぉぉー!!」
見ない物を狙う事は不可能だと悟った俺は、魔法でバジリスクの目を潰す事を一旦諦め、剣での攻撃に移った。
そして、目を見ずに、猛毒を持つ爪に気お付けながら立ち回って攻撃の期を伺った。
しかし、そんな状態で、激しい動きを繰り返すバジリスクの巨体に攻撃を当てるのは、容易いものでは無かった。
何とか、目を潰す方法は無いのか…
目さえ潰せれば…
俺は、攻撃の期を伺いながらも、再び目を潰す方法を探した。




