第17話 聖教国防衛戦
今回の話は、戦闘描写が中心と成っている為、積めよった文体と成ってしまいました。
そういった物が苦手という方もいると思いますが、是非最後まで読んでいただければ幸いです。
聖教国へ来てから、2日目の朝を迎えようとしていた。
ダン団長の読み通りなら、使役者が再び動き出すのは今日だ。
その為、聖教国内の方では、昨日の内に聖騎士団が先導して、商人や民間人といった戦えない者達を避難所へ避難させた。
また、防衛に当たる騎士団の方では、今までとは違う新たな作戦を練っていた。
何故なら、今回の支援物資の調達によって、冒険者を味方に着ける事が出来き、騎士団は矢に加えて魔法使いという頼もしい後衛を手に入れたからだ。
更に、この魔法使い達は各々が、下空階級魔法から中空階級魔法を扱えた。
この階級の攻撃魔法は、攻撃出来る範囲が広い為、物量で攻めてくる相手への後衛としては最適の人材だった。
今までの作戦は、前衛に出る騎士達を考慮して、最初に指定した数の矢を放ち、魔物を掃討してから、前衛の騎士が攻撃に出るという物だった。
これが、この時の出来る限りの最善の作戦であったが、魔物の数が矢の数を遥かに上回り、掃討しても前衛の消耗を抑える事は出来なかった。
しかし、今回は魔法使いを後衛に入れた事で、前衛を動かす前に掃討出来る魔物の数を増やす事が出来る様に成った。
新たな作戦では、攻撃の順番自体は今までの作戦と変えず、後衛の攻撃範囲のみを変えていた。
変更点として、後衛の攻撃範囲は魔法での攻撃範囲を基準とするものとし、魔法攻撃が届かない場所を弓矢等で攻撃するという物に成っていた。
更に、商人達も今回の戦いで、少しでも役に立ちたいという思いから、本来商品であったハズのポーションを、全て防衛に当たる者達へ寄付した。
その為、前衛は隙を見て傷の回復を行え、魔法使いはマナポーションがある限り攻撃を行える様に成った。
防衛の準備は、充分に整い、後は襲撃を待つだけだった。
そして、今回の作戦で、ダン団長は必ず使役者を打ち倒すと心に決めていた。
いや、ダン団長だけじゃない。
この国を護る、全ての者がそう決めていた。
朝日が昇ると、聖教国に再び結界が張られた。
俺達冒険者とアスラン王国の騎士団は、聖教国を護る様に陣取り、使役者の襲撃を待ち構えた。
また、俺達の防衛網が突破された場合の2次防衛網として、聖騎士団は聖教国内で待機という形に成った。
…のハズだった。
結界が張られると、聖騎士団長のクレアが10名程の聖騎士を連れてやって来た。
「ダン団長!
微力ながら、我々も加勢します!」
ダン団長は、驚きを隠せていない様子だった。
「クレア団長?!
何故ここに?!
聖教国の護りはどうしたのですか?!」
「ご安心を、ダン団長!
聖騎士団の本陣は聖教国内に残してあります!
それに、私は許せないのです!
神聖なるこの国を襲う不届き者は勿論の事、これだけの猛者達が集まったというのに、安全圏から戦況を伺っているだけの自分が許せないのです!」
国の命運を懸けた戦いでは、クレアのこの判断は愚かとしか言えない…
だか、正直嫌いじゃない。
世の中には、聖職者を名乗りながら、弱者の足元を見て金銭を奪う者もいれば、騎士を名乗りながら、自分可愛さに弱者を見捨てて逃げる者もいる。
その中で、この聖騎士は自分の信じる物や護る物の為に、戦う決断をして動く事が出来る。
一見愚かだが、そういう人間は嫌いじゃない。
「クレア団長…しかしだな…」
「ダン団長。
まあ、良いんじゃないか?
それに、結界が張られた後じゃあ、今更戻れて言っても無理だぜ?」
クレアの為…も少しあるが、あくまでこの戦いを有利に持っていく為、ダン団長を説得しようとした。
すると、もう1人賛同する者が現れた。
「そうですよ、ダン団長!
白狼さんの言う通りです!
せっかく、クレア団長が覚悟を決めて、加勢に来てくれたのです!
ここは、一緒に戦ってもらいましょう!」
賛同したのは、見習い騎士のアイクだった。
アイクは、相変わらずの真っ直ぐな瞳でダン団長を説得しようとした。
ダン団長も、アイクの瞳には勝てないせいか、諦めた様子だった。
「分かった…
クレア団長、此度の戦、我々に加勢していただきたい!」
「心得た!」
こうして、クレア率いる聖騎士団が、聖教国の防衛へ参加した。
日が昇ってから2時間が過ぎた。
使役者が率いる魔物の軍団は未だに、“姿”を現していなかった。
そのせいか、防衛に当たる者達に緊迫感が溢れていた。
「クソ…まだ来ないのか…」
「一体どこから、現れるのだ…」
“姿”は現していないが、間違いなくこっちへ向かっている…
それも、相当な数が…
「ダン団長…今まで、1度に現れた魔物の数は何匹だ?」
「大体、50匹前後だが、何故だ?」
「そうか…なら、気合いを入れないとな…」
俺には見えた…
300匹近くの魔物が帯びている“魔力”が…
10年前のスタンピードを思わせる数の魔物が、こっちへ向かっていた。
前は城壁があったから何とか成ったが、今回は裸同然か…
俺は、懐から葉巻を取りだし、口に加えて、指を鳴らして火を着けた。
「白狼さん!
こんな時に、何やっているんですか?!」
アイクが問い詰めてきた。
「悪いな…最後の一服になるかも知れないから、今の内に吸っておきたいんだ。」
「え?最後の一服?
何を…」
その時、目の良い騎士が魔物の軍団に気付いた。
「来たぞー!!」
300匹近くの魔物の軍団は、この場にいる全員が確認出来る所までやってきた。
「何て、数だ…」
「勝てるのか…」
この数の襲来には、騎士までもがたじろいでいた。
それも、そうだ。
こっちの手勢は、前衛と後衛を合わせても、60人程しかいない。
数の差は200以上もある。
その時…
「怯むなー!!
踏み止まれー!!」
ダン団長の怒号に、たじろいでいた者達が一斉に黙った。
「確かに、我々は数で負けている!
しかし、我々には奴らに無い物がある!
それは、信念だ!!護るものだ!!
奴らは、所詮数だけの動物だ!!
我々には、信念がある!!
皆、今一度思い出せ!!
我々の信念は何だ!!
我々が護るものは何だ!!
何の為に、ここへ立った!!!」
ダン団長の言葉に、騎士や冒険者達の顔付きが変わった。
先程までの、怯えた顔が消え、戦いに燃える戦士の顔と成った。
「我々は、己の誇りに懸けて、背にいる者を護る為にここへ立った!!!
そうだろう!!!」
「「「「「「おー!!!!」」」」」」
「ならば、奴らはここで食い止める!!
決して、ここを通しては成らぬ!!
そうだろう!!!」
「「「「「「おー!!!!」」」」」」
ダン団長の言葉は、この場の全ての者を奮い立たせ、この場の士気を上げた。
これが、ダン団長か。
騎士の国において、最も強く、最も気高い騎士!
「後衛は、攻撃体勢に入れー!!」
後衛の弓士は弓矢を構え、魔法使い達は詠唱を始めた。
『我、大地を穢す悪を裁きし者!
我が、槍に貫かれ滅びよ!』
『我、炎の災いを呼びし者!
我が、天災に飲まれ滅びよ!』
魔物が魔法の射程に入り、呪文が唱えられた。
『大地の槍!』
『炎の竜巻!』
左半分では、地面から鋭利な土の槍が、何度も現れては消えを繰り返し、左半分に入って来くる魔物をくし刺しにしていった。
右半分では、炎で出来た巨大な竜巻が現れ、右半分に入って来る魔物を、ゴミを吸い込む様に飲み込んでいった。
また、右半分の地面は、竜巻が通り過ぎた後に炎が残り、そこに足を踏入れた魔物は全て焼死していった。
魔法による先制攻撃が行われるも、何匹かの魔物は散開する様にそれを避けた。
しかし、それをも見越していたダン団長は、待機させていた弓士に向かい号令をかけた。
「撃てー!!!」
散開した魔物は、矢の雨に貫かれ、次々と地面へ倒れていった。
魔法使い達は魔力を使い切ると、マナポーションを飲み、魔力を回復させて再度攻撃へ移った。
その間も、隙を作らない為、弓士達が何度も矢を放ち魔物を掃討していった。
………
……
…
後衛による攻撃は、全体に渡って計20回繰り返された。
それにより、300匹近くいた魔物を、70匹近くへと減らす事に成功した。
圧倒的な数の差によって遠退いていた勝利が、後衛の活躍によって覆された。
これにより、これから戦いへ赴く前衛の士気が更に上がった。
しかし、この攻撃によって勝利へは近いたが、同時に使役者を確実に倒さなくては成らなくなった。
何故なら、もう後へは引けないからだ。
300という数は、完全に想定外であり、消耗も当初の予定より遥かに上回っていた。
もし、この戦いで使役者を仕留め切れず、再び戦うと成れば、今度こそ確実に敗北してしまう。
俺達は、その事を背にして武器を構えた。
そして…
「突撃ー!!!」
「「「「うぉぉぉー!!!」」」」
ダン団長の号令と共に40人程の前衛が雄叫びを上げ、残った70匹近くの魔物へ攻撃を仕掛けた。
戦いは熾烈を極めた。
いくら数が減っても、敵は70匹近くいる。
接近戦は、素早く動けるという利点があるが、1度に倒せる数が限られてくる為、数で圧される事は少なくない。
今回も、その例に当てはまっている。
俺やダン団長は、7匹以上の魔物が同時に襲ってきても問題はなかった。
しかし、まだ若い騎士や冒険者はそうもいかなかった。
4、5匹に囲まれると命を落とす者が現れた。
更に、今回は只のゴブリンやワーグを相手にしている訳ではない。
ダン団長が言っていた通り、ワーグに乗ったゴブリンが相手だった。
ゴブリンの中には、石器武器を扱う奴もいる為、武器を扱いワーグに乗っていれば、騎兵を相手にしているのと同じだ。
クソッ!!
流石に、厳しいのか?!
俺は、周りで戦死する者達を悔やみながら、目の前にいるワーグに乗ったゴブリンを切り捨てていった。
しかし、戦死する者がいる中、戦いは劣勢ではなかった。
それは、俺やダン団長の他に、見習い騎士のアイクとランス、そして聖騎士団長のクレアの働きがあったからだ。
クレアは聖騎士団長の名に相応しく、襲い掛かるワーグを踏み台にゴブリンの首を落とすなど、凄まじくも可憐な剣捌きで敵を殲滅していった。
アイクとランスは、見習い騎士とは思えない動きを見せた。
アイクは、襲い掛かるワーグの首を切り落とし、振り落とされたゴブリンに止めを刺すという、正攻法で敵を殲滅していった。
それに対してランスは、敵の数を測った後、戦死した者の剣を拾い、2刀流と成って、隙を無くした動きで効率的に魔物を殲滅していった。
2人の戦い方は、もはや熟練の騎士と大差なかった。
………
……
…
戦っている内に、基地から随分離れた所まで来た。
もう、基地の姿が良く見えず、見える物といったら、魔物が出てくる森だった。
俺は、段々と魔物を追い詰めていき、もう少しで元凶に辿り着けると思った。
その時、誰かが背中にぶつかった。
ダン団長だ。
ダン団長は俺を見ると、体力にまだ余裕があるのか、俺に話し掛けてきた。
「どうだ…白狼?
あの見習いの2人は…凄いだろ?」
こんな時に、自慢話かよ?!
でも、確かに凄いぜ。
「ああ、見習いとは思えないよ…
ーッ?!」
誰だ?!
森の木影から、誰かこっちを見ているのに気が付いた。
いや、誰かじゃない!!
「はぁ、ダン団長。
見つけたぜ。」
「何?!使役者か?!」
「おそらくな…
森の木影から、こっちを見ていた。」
「よし、今度こそ仕留めてやる!」
俺とダン団長は、使役者がいた方角へ、迫りくる魔物を倒しながら進んだ。
俺達は、使役者を追って森の中へ入って行き、不気味な洞窟を見つけた。
洞窟には、祭壇が設けられ、そこに祀られていたのは、始まりの悪魔“ルシファー”だった。
「なるほど…
使役者の正体は、悪魔教団だったて訳か。」
「悪魔教団だと?!
だが、白狼よ。
悪魔教団は、100年も前に壊滅したハズだぞ?!」
「俺も、そう思っていたよ…
だが、こんな物を作るのは、奴ら以外考えられない。」
俺が、御神体のルシファーの像を取ろうとした時、使役者がナイフを持って、祭壇の影から姿を現した。
「偉大なる御方に触るな!!
不届き者が!!」
しかし、俺はもう片方の手で、ナイフを持つ使役者の腕を掴み、そのままへし折った。
「白狼、大丈夫か?!」
「ああ、問題ない。」
どうやら、不意打ちを狙った様だった。
だが、俺は最初から使役者が隠れている事に気付いていた。
使役者の首にぶら下げている、ブローチがずっと魔力を発していた為、俺には隠れている所が丸見えだったからだ。
「ギャアアア!!
は、話せ!!
穢らわしい、阿呆どもが!!」
こいつ!!
あれだけの事をしておいて!!
俺は、もう1本の腕も掴み、へし折った。
「ギャアアア!!」
「白狼!!
気持ちは分かるが、その辺にしておけ!」
その時、森の外から微かに声が聞こえた。
「ば…化物!
逃げろー!!」
俺は、使役者の胸を掴み問いただした。
「おい!!
他に何を放った?!
放ったのは、ゴブリンとワーグだけじゃないだろ!!
吐け!!!」
使役者は唾を飛ばし、嘲笑うように答えた。
「惨めなものだな…
貴様らも…あの邪悪な国も…
我が、最後の切り札の前では…
決して助からぬ!!
苦しんで…死ぬがよい!」
言い終わると、使役者は狂った様に笑いだした。
そして…
「ああ…ルシファー様…」
使役者は舌を噛み切り、自ら命を立った。
使役者は、裁かれるべき罪から、死という形で逃げ延びたのだ。
卑怯者め…
俺は、使役者のブローチを手に取った。
これは、何だ?
魔力の光を発している…
これは、魔道具の一種か?
それなら、これで魔物を使役していたのかも知れない…
俺は、ブローチを使役者から引き剥がした。
すると、使役者の黒いマントの中に、1枚の紙切れが入っている事に気付いた。
紙切れを広げると、女の絵が描かれていた。
絵の下には、文字が書かれていた。
『愛しい人、メイベル』
これは…どういう事だ?…
こいつは、一体…
「白狼!!
急いで、戻るぞ!!
奴が言っていた、“最後の切り札”てのは、まだ止まっていない!!」
「ああ、すまない!
行こう!!」
俺とダン団長は、使役者が残した“最後の切り札”を倒す為、洞窟を出て、森の外へ急いだ。




