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第2話 家族

----------

「…やく…か…をわたしな…」

 母…さん…

「…もは…わた…だろ…」

 なんで…


「おら、暴れな! チッ ガキが!」

 …

「今日からここが、お前の家だ。

 順番が来るまでおとなしく待ってるんだな。」

 叫び声が聞こえる…

 …怖い…


「実験を開始する。」


「魔人の核から抽出された液体を…」

 何かが身体の中に…

 熱い…嫌だ…

 やめろ!!!…

----------


「ハッ?! ハァハァハァ…」


 目を覚まして、辺りを見渡すと見知らぬ部屋で寝かされたいた。ここがどこなのかを知るために、今まで何が起きていたのかを思い返してみた。

 確か、不気味な部屋でベッドに寝かされて…

 それから実験が始まって…赤い液体を入れられて…

 クッソ!

 ダメだ…そこから先が思い出せない…

 一体、ここはどこなんだ?…

 あの後、運び出されたて事?…いや、だったら何で檻じゃなくてベッドの上にいるんだ?

 しかも、あの寒い地下室じゃない…

 ん?!話し声?下からだ。

 ベッドから起き上がり、音を立てない様に部屋から出て、階段を少し降り、下を覗くと2人の男が何か言い合っていた。

 1人は茶色髪の人間で、もう1人は茶色の髪と髭が異様に長いドワーフだ。


「だから言っただろザック、あの商人は信用できないて!おかげで、死ぬところだったんだぞ!」

「まあ、悪かったよ。でも、あいつがゴロツキと一緒に襲ってきたからこそ、こうして身ぐるみ全部持って帰れたんじゃないか。」


 あれは、冒険者か?人間の方はザックて呼ばれていたな。

 奥の方からまた1人出てきた。長い緑色の髪をしたエルフの女だ。

 薬草の臭い?武器を持ってないて事は魔法使いか?

 帰って来た2人のボロボロに成った姿を見てエルフの女は慌てて問い詰めた。


「ちょっと?!何があったの?!」

「お?!ただいま、あの子はどうだ?目を覚ましたか?」

「ただいまじゃないわよ!また、問題を起こしたっていうの?!これで何度目?!」

「まあ、落ち着けって。別に今回は俺達が問題を起こした訳じゃないって。むしろ、ハメられた訳でな…」

「何を言ってるんだ。お前が『金払いが良さそうなおっさんから仕事を貰ってきたぞ。大丈夫だって何かあっても俺の敵じゃねぇ。』とか豪語しておきながら、予想以上に敵が多かった挙げ句、魔物まで乱入してきて死ぬところだったじゃないか!」


 2人の言い訳を聞いて、エルフの女は頭を抱えて呆れていた。

 冒険者て事は、“あいつら”の仲間かもしれない。今の内に逃げよう。

 部屋に戻り、シーツをベッドに結んだ後、窓を開けようと触った途端、窓が紫色に光った。

 

「…どうやら起きたみたいよ。」


 ヤバい!気付かれた!

 え?!何で?!開かない?!

 クソ!開け!!開けよ!!!


「無駄よ。逃げられない様に、窓に結界を張っておいたの。」


 部屋に入って来たエルフの女は探る様な視線で見つめながら話しかけた。


「…だから地下室じゃなくてここに?」

「あら?喋られるのね。なら、話は早いわ。

 幾つか質問するから正直に答えて。

 まず、あなたの名前は?」

「…」


 …どうしよう…部屋の入口は塞がれて、窓も開かない…それに、名前て言ったて…


「…答えないつもり?

 魔法で答えさせる事も出来るのよ?!」


 女は手をかざし、窓が光った時と同じ様な光を手に集めながら脅してきた。


「まあ、それくらいにしとけよ。まだ、混乱してるだろうし、そんな急ぐ様な事でも無いだろ?それに、俺もギュンターも腹ペコなんだ。

話の続きは飯の後でも良いだろ?」


 ザックが女の肩に手を置いて話すと、女は冷静さを取り戻した様に落ちついて答えた。


「…良いわ。」

「よし!決まりだ!

 なあ、坊主。お前も腹ペコだろ?」


 そんな事…今は!!…

 グーッ!

 …確かに、最後に食べたのは何日も前だし…


「なっ!!

 4人分くらいある。さあ、こいよ。」


 食卓には、肉の燻製、野菜の盛り合わせ、スープ、パンと幾つもの料理が並べられた。

 こんなに贅沢な食事は初めて見た。今にも、ヨダレが出てかぶり付きたい。

 でも、これ食べても大丈夫なのか?…

 こっちを見ていたザックが何かに気付いたのか、テーブルに並べられた料理を1口づつ食べ、笑いかけてきた。それを見て、勢い良くスープの皿を取り、抱え込む様に食べた。

 その瞬間、口いっぱいにスープの味が広がり、暖かく成っていくが身体中に広がって、気付けば目には大粒の涙が溜まっていた。

 詮が外れた様に手と口と涙が止まらず、今まで食べた事の無い旨い味と、沢山食べられる事への幸福感で胸と腹がいっぱに成った。

 


 食事が終わると、ザックとドワーフは後片付けを始め、僕とエルフは机を挟んで向かい合いに座り、再び質問を始めた。

 

「さっきは、ごめんなさい。少し冷静さを失っていたわ。まず、自己紹介させて。

 私はレイア。魔術師よ。あっちで片付けをしているが、ザックとギュンター。人間がザックで、ドワーフがギュンター。2人は戦士をやっているわ。

 私達は、“狼の牙”て言う冒険者パーティーとして活動しているの。

 それで、あなたの名前は?」


 少し戸惑ったが、ここにいるのが“あいつら”の仲間じゃないと思い質問に答えた。


「僕に、名前は無い。みんなからは、“お前”や“坊主”て呼ばれていた。」

「そうなのね…じゃあ、次の質問よ。

 あなたに何が起きたか覚えている?」


 質問をしたいと言われた時から、この事を聞かれるとは思っていた。でも…


「ほとんど、覚えていない…」


 こうとしか言えない。


「なら、覚えている所だけで良いから教えて。」


 僕は覚えている限りの事を話した。長い間、地下で大勢の子供と一緒に閉じ込められていた事、不気味な部屋に連れていかれ、“魔人の核”と言われていた物を使った実験をされた事を。


「…ありがとう。これで、あなたのに何が起きていたのかおおよその検討がついたわ。

 そして、あなたから魔人の反応が出た理由とその目の理由も。」

「目?僕の目?」


 僕が困惑した様子で聞き直した為、レイアは続けた。


「ごめんなさい。変な事を聞くけど、あなたの髪の色と目の色て分かる?」

「僕の髪は金色で目は緑色だけど…」


 何で、そんな事を?…?!

 髪と目の色を話した途端、レイアの顔つきが変わったのを見て、慌てて水桶を覗き自分の顔を見た。

 ーッ?!

 水桶に写っていたのは、色が消えた様な白色の髪と、蛇の様な細い瞳孔に赫色の目をした自分の姿だった。

 これが本当に自分の顔なのかを確かめる様に、震える手で何度も顔を触り、髪を引っ張た。その様子に、レイアは顔を強ばらせながら自分の考えを話した。


「あくまで私の考えだけど、さっきの話の通りならあなたは人間に魔人の力を与える実験のただ1人の成功体と言う事になるわ。そして、あなたの目は魔人特有の赫色に目に成った、でも完全に魔人に成った訳ではないから変化したのは瞳だけだった。」

「…じゃあ、髪の色は?…」

「実験による副作用だと思うわ。極度のストレスを与える実験で、髪の色素が抜けて白く成ったんだと思う。」


 魔人が何なのかは分からないけど、レイアの話を聞いて少しだけ自分の身体に何が起きているのかが分かった。

 そのせいか、さっきより少しだけ落ちついた。

 少しづつ落ちつきを取り戻しながら、テーブルへ戻り話を続けた。


「これが、最後の質問よ。

 あなたのこれからだけど、どこかに家族とか身寄りはあるの?」


 …僕にもう家族はいない…あの事を話すべきか分からない…

 でも、僕にはもう行くところも帰るところも無い…それに、良く分からないけどこの人達に頼ってみたい…

 孤児同然である事を打ち明けて、またどこかに売られる可能性もあるが、あての無い現状と生まれて初めて感じた幸福感から、ここにいたいと思い、覚悟を決め自分の身の上を打ち明けた。


「家族はもういない…

 僕の母さんは娼館の娼婦で、父さんは客の誰かだって言っていた。母さんは…その、青い粉を良く吸うように成って…母さんは薬だって言っていたけど、吸っているところを店の人に見られた日に、僕と母さんは店を追い出されたんだ…

 その後は、僕も働きに出て生活は出来ていたんだけど、母さんは『薬が買えない!!』ていつも怒鳴っていた。

 ある日、僕達を閉じ込めていた男が…家の前に現れて…それで…」


 僕が上手く話せなく成っていくと、レイアは僕の頭を抱き抱え優しく言った。


「もう、いいわ。もう、大丈夫よ。」


 その言葉に暖かさを感じて、堪えていた物が全部溶けた様に涙が流れ出し、僕はレイアに抱きつきながらその胸の中で延々と泣いていた。


「さあ、今日はもう寝なさい。」


 僕は軽く頷いて、さっきの寝室に戻り眠った。



 翌日目を覚ますと、ベッド脇の机に畳まれた服と手紙が置いてあった。

 手紙には、こう書かれていた。

『アルベルトへ

 着ている服がボロボロだったから、新しい服を用意した。それを着て降りてきてくれ。

 ザックより』

 アルベルト?良く分からないけど、確かに今着ているのはもうボロボロだから、新しい服はありがたい。

 服を着替えて下へ降りると、ザックが待っていた。


「お?来たな。うんうん、中々似合っているじゃないか!」


 あれ?レイアとギュンターがいない。


「あ、あの…」

「ん?ああ、レイアとギュンターか?あの2人なら今は出かけている。

 それよりアルに提案があるだが、俺達と一緒にここで暮らさないか?俺達のパーティーの一員として。勿論、お前さえ良ければだけど。」


 良かった。でも…


「まあ、なんだ、俺達も人数がいれば仕事で何かと都合が良いし、勿論急に戦え何て言わないぞ。俺や皆でお前を鍛えてやるし、それに…」

「そうじゃないよ。ただ、その…“アル”て?…

 それに、手紙にも“アルベルト”て書いてあったし…」

「なんだ、その事か。これから、一緒に暮らすんだ。名前があった方が良いだろ?

 だから、今日からお前の名前は“アルベルト”だ。それと、“アル”てのは愛称だ。」


 アルベルト…アル…僕の名前…


「嫌だったか?」

「ううん。」


 僕は嬉しくて、微笑みながら首を横に振って答えた。

 初めて貰った名前、初めて貰った優しさ。

 それが、ただただ嬉しかった。

 これから、何が起こるか分からない。でも、この人達なら信じられる。この人達となら一緒に暮らせる。

 ザックは、僕に笑いかけながら言った。


「じゃあ、これから宜しくな!アル!」

「うん!!」


 ここから、僕の新しい人生が始まった。

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