第14話 2人の見習い騎士
聖教国前の基地で行われている勝利の宴では、皆が酒を飲み、飯を食い、肩を組んで踊ったりと賑やかな雰囲気だった。
10年間の放浪生活で、ここまで賑やかな光景は見た事が無かった。
正直、こういうのも悪くない。
宴で賑わっている中、2人の騎士が俺に話しかけてきた。
その2人は、他の騎士に比べると、ずっと若かった。
「貴方、あの時の冒険者ですよね!
お久し振りです!
あの時、助けてもらったご恩は、今でも忘れていません!」
…誰だ?
思い出せない…
1人は、短い金色の髪に青い瞳が特徴的な好青年。
もう1人は、光沢のある茶色の髪と中性的な顔立ちが特徴的な青年。
…やっぱり思い出せない。
いや…どこかで見た気も…
「確か…」
「はい!
僕らは、貴方が救ってくれた、ユーサ村の者です!」
ユーサ村…確か、アスラン王国の国境付近の…
まさか?!
あの時の少年か?!
俺とケイラが、ワーグの群から護った村の!
「ワーグの時の…」
「はい!そうです!
やっぱり、覚えていてくれたんですね!」
いや、完全に忘れていた…
まあ、気付いてないなら良いか。
それにしても驚いた。
あの時は、背丈が俺の腰位しかない少年だったのに、今では立派な好青年に成長している。
ん?もう1人は、疑っていそうだ…
「おい、アイク。
この様子だと、多分忘れられていたんじゃないのか?」
やっぱり、疑っていたか。
鋭い奴だ。
「ランス、何を言っているんだ!
そんな事を言うなんて失礼だぞ!」
こっちは、純粋と言うか、愚直と言うか…
まあ、昔会った時もそんな感じだったしな。
そこら辺は、あまり変わってないな。
とりあえず、名前が分かって良かった。
金髪がアイクで、茶髪がランスか。
さて、そろそろ本題を話してもらうとするか。
こんな時だ、どう考えても挨拶だけて事はないだろう。
「それで?
宴の席を抜けてまで、わざわざ話しかけて来たのは、お礼を言う為じゃないだろ?」
アイクは、自分がなぜ来たのかを思いだし、慌てて本題を話した。
「そうでした!
ダン団長から、貴方を司令部までお連れするようにと命令を受けて来ました!」
なるほど、そういう要件か…
それに、ここを指揮していたのはダン団長だったのか。
まあ、ダン団長の腕を考えれば、ありえる話か。
そして、俺を司令部に招くのは、今後の戦いにも参加して欲しいと言う思惑があっての事だろう…
俺としてはこれ以上関わりたくない…
だから、ここで断るのも1つの手だ…
そう考えた俺は、申し出を断ろうとアイクの方を向いた。
しかし、返事を待っていたアイクの眼差しには、“俺が申し断る事は無い”という熱い信頼が浮き出ていた。
その眼差しに押し負け、俺は申し出を受けてしまった。
アイクとランスに連れられて、俺は司令部と成っているテントに入った。
テントの中にはダン団長と、もう1人金髪の女性が立っていた。
「団長!
白狼殿をお連れしました!」
「ご苦労!
下がって良い!」
「はっ!」
アイクとランスはテントから出ていった。
「久しいな、白狼よ。
よく来てくれた。」
「あの若い騎士の押しに負けただけだ。」
「フッ、そうか。
あの2人、特にアイクは、疑いてのをまだ知らないんだ。
何でも、村を救った貴殿に憧れて士官学校に入学したらしい。
今は卒業して、俺のところで見習い騎士をしている。
やっぱり、貴殿にも“若者の期待に応えたい”なんて思いがあるんだな。
もっとも、俺からしたら貴殿も充分若者だが。」
26歳にも成って、そんな事は言われたくないぜ…
「団長、挨拶はこれくらいで良いだろう。
そろそろ、本題に入ってくれ。」
金髪の女性が、会話に割り込んできた。
正直、助かった。
俺も同じ気持ちだからだ。
「ああ、すまん。
つい、夢中に成っていた。
だが、本題に入る前に、貴女の紹介をさせてくれ。」
「分かった。」
「白狼、こちらは聖イリス教国 聖騎士団 団長のクレアだ。
彼女は、前団長バスカルの娘で、今はその座を受け継ぎ、団長を勤めている。」
「紹介感謝する。
こたびは、よろしく頼むぞ白狼殿。」
「こちらこそ、よろしく。」
俺とクレアは握手をした。
「では、本題に移ろう。
まず、白狼よ、貴殿には我が騎士団と共に戦場で戦って欲しい。」
やっぱりか…
そういうと思った。
まあ、俺の気持ちは固まっている。
「悪いが、断る。
俺は、あんたの部下じゃないんだ。
断る権利はある筈だ。」
「そうか…」
ダン団長は食い下がったが、クレアは俺の答えに強い反感を持っていた。
「何故だ?!
貴殿は、冒険者だろ?!
魔物と戦うのは、貴殿の宿命ではないのか?!」
何を言っているんだ?
クレアて言ったな、この女は何か勘違いしている。
冒険者は、金で雇われて魔物と戦っているだけだ。
「悪いが、宿命なんて、そんな大層な物は俺には無い。
俺…いや、俺達冒険者は、金で雇われているだけだ。」
「金だと…
貴様は、恥ずかしくないのか?!
我々が護っているのは、女神イリス様と言っても過言では無いのだぞ?!
貴様は、イリス様と金を天秤に掛ける気か?!」
クレアの言葉は、もはや反感と言えるものでは無かった。
それは、怒りと成っていた。
俺の言動は、“女神を冒涜しているのだ”と言いたい様だった。
しかし、俺にとって女神は、命を賭ける理由には成らない。
そもそも、いるかも分からないんだ。
「天秤に掛けるまでもない。
いるか、いないか、分からない女神の為に、命を賭けるなんてのは、愚かとしか言えないね。」
これがいけなかった。
この言葉は、クレアの逆鱗に触れていた。
クレアは、腰の剣を抜き、俺に刃を立て言った。
「貴様!それ以上の冒涜は許さないぞ!
イリス様のお力によって、どれだけ人が救われているのか知らないのか?!」
「…救われない奴をお前は、知っているのか?…」
「何だと?!」
何が救われるだ…
“あの惨状”を見ていない奴がホザクな…
俺は、怒りに身を任せ、怒鳴り着ける様に言った。
「“救われない奴を知っているか”って聞いているんだ!!
女神だか、イリスだか知らないが、俺は救われない連中を知っているぞ!!」
「それは…きっと信仰心が足りないからだ!」
何言ってやがる!!
「なら、教えてくれ!!
薄暗い地下に囚われた子供は、女神を信じて救われたか?!
いいや!!
救われなかった!!
救いを求めた子供は、イカれた魔術師に身体をいじられ、死んでいったよ!!」
「それは…」
「俺だって、女神を信じて救いを求めた!!
結果はどうだ?!
俺は身体を改造され、人間で無くなった!!
そんな俺を救ってくれた恩人は、残酷な最期を迎えた!!
“信じれば救われる”なんて言うなら、この眼を見てから言え!!」
俺は赫色の眼を指差し、怒りの言葉を吐き捨てた。
その話に、クレアの心は揺れ、剣を納めて一言も話さなく成った。
この静寂をダン団長が破った。
「分かった。
白狼よ、報酬なら払う。」
俺は、冷静な口調で答えた。
「断ると言っただろ。
ここで、帰らせてもらう。」
帰る場所は無いが、俺はそう言ってテントを出ようとした。
しかし、ダン団長に呼び止められた。
「待て、白狼。
今は、国を出ない方が良い。」
「何故だ?」
俺の質問に、ダン団長は顔を強張らせて答えた。
「我々が相手にしているのは、ただの魔物ではない。」
「どういう事だ?」
「我々が相手にしているのは、“使役者”と呼ばれる者だ。」
“使役者”?
初めて聞く言葉だ。
「その、使役者てのは何者だ?」
「詳しくは、分からない…
分かっているのは、魔物を使役しているて事だけだ。」
何の冗談だ?!
「ふざけているのか?!
魔物を使役?!
そんな事出来る訳ないだろ!!」
「ふざけてなどいない!!
戦ったのだから、分かるだろ?
ゴブリンがワーグに乗り、共に戦っていたのだぞ!!」
そう言えば、いたかも知れない…
あの戦乱の中だ、俺は無我夢中に成っていた。
まさか、そんな奇っ怪な奴を見逃すなんて…
ダン団長は、更に続けた。
「詳しい正体も掴めず、我々は3週間も攻撃を受け続けている。
もし、こんな状態で外に出れば、残った魔物で間違い無く襲われる。
だから、暫くの間はこの国に留まれ。
おそらく、奴は2日後に、再び攻撃を始める。
それまで、どうするか考えてみてくれ。」
それを聞いて、俺はこの国から去る事を諦め、テントから出た。




