第12話 未来への投資
ハーフリンクの行商人パウロ。
羽が付いた茶色のバイコケット帽と、焦げ茶色の巻き毛が特徴的な男だ。
彼は、商人ギルドからの指令で聖教国へ支援物資を運んでいたらしい。
しかし、先の戦闘で荷馬車は逃亡してしまい、俺達は支援物資が積まれた荷馬車探さなくてはならなかった。
荷馬車が向かった方向へ暫く歩いていくと、2頭の馬が川の水を飲んでいた。
その後ろには、荷馬車が牽引されたままだった。
死に物狂いで逃げて、荷馬車を牽引してた事さえ忘れていたのだろう。
ともあれ、見付かって良かった。
これで、先へ進める。
「レイチェル、バターカップ!!
良かった!無事だったか!」
レイチェルにバターカップ?
つまり、あの2頭ともパウロの馬だって事か?
行商人てのは、そんなに裕福な家ではないはず…
なのに、馬を2頭も?…
「先生!これで、先に進めます!」
「まだ、俺が乗る馬が見付かってない。」
「いいえ、時間が惜しいです!
先生は、私の荷馬車に乗ってください!」
「…助かるよ。
だが、その前に荷物を確認させてくれないか?」
経験は物を言う。
俺は“あれ”以来、護衛する商人の荷物は必ず確かめると決めている。
「確認ですか?
しかし、護衛が荷物を見るのはどうかと…」
やっぱりな。まあ、商人なら当然か。
でも、見たところこいつはまだ若い。
少し押せば言うことを聞くはずだ。
「別に、俺1人で見せてくれとは言ってない。
それに、支援物資が無事か確かめる必要があるんじゃないか?
確かめるなら、2人の目で確かめた方が確実だ。
それとも、あれか?
俺に見られたら困る物でもあるのか?」
「いえ…別にそういうわけでは…
分かりました。一緒に確認しましょう。」
思った通りだ。まだ、若いな。
俺達は、荷馬車の後ろに回り、1つ1つの箱を開けて、荷物が無事かを確かめた。
更に俺は、本当に支援物資かも確かめた。
荷物の中身は、食料、医療品、武器と支援物資と言える物だけが入っていた。
特に、おかしなところはなさそうだが…
武器か…支援物資に武器があるて事は、今の聖教国は戦場に成っているという事か?
もし、本当にそうなら、巻き込まれるのは御免だ。
「どうでしょうか?」
「ん?ああ、大丈夫みたいだ。
出発しよう。」
俺達は、荷馬車に乗り次の村を目指して出発した。
川沿いに暫く荷馬車を走らせると、パウロが10秒置き眠りそうに成り、何度か川に突っ込みかけた。
無理もない。
アラグノに襲われて、命からがら助かったんだ。
消耗して当然か。
「俺が手綱を引くから、少し休め。」
「すいません。」
俺は、パウロから手綱を受け取り、川沿いを下っていった。
パウロが眠ってから10分程たった頃、俺は見知らぬ冒険者の死体が転がっているのを見付け荷馬車を止めた。
荷馬車が止まった反動で、パウロは目を覚ました。
「…ん?…どうしました?」
俺が転がっている死体を見ていると、パウロもそれに気付いて言った。
「あの人は?!」
「知り合いか?」
パウロは顔を強張らせて答えた。
「はい…わたしが護衛で雇った冒険者です…
しかし…」
「アラグノが現れて、我が身かわいさに、皆を置いて逃げたと。」
「はい…」
冒険者の死様は、無惨な物だった。
おそらく、逃げる事に夢中で、森から出てきたワーグに気付かなかったのだろう。
しかし、自分の仲間を囮にして逃亡する様な卑怯者には、ピッタリの最期かも知れない。
「先生…先を急ぎましょう…
まだ、彼を殺した魔物が近くにいるかも知れません…」
「大丈夫だ。
この喰い方だと大した数はいない。
それに、俺達を襲う程腹ペコなら、ここまで残さないさ。」
「そうですか…」
俺は、再び荷馬車を走らせた。
パウロの方は、回復したのか、ショックのせいか分からないが、再び眠る事はなかった。
「先生、そろそろ変わりましょうか?」
「いや、いい。
あと、先生てのは辞めてくれ。
アルベルトでいい。」
夕暮れ時、目的の村が見えてきた。
村に入ると、沢山の荷馬車が酒場の前に止まっていた。
「どうやら、私達が最後の様ですね。」
「最後?」
「ええ、聖教国への物資の運搬は、商人ギルドを上げての仕事と成っていますから。
わたしの所属している商会の者も、何名か参加しています。」
「そうか。」
どの商会か気になるが、俺の仕事はここまでだ。
これ以上知る必要は無い。
俺は荷馬車を酒場の前に停めた。
「アルベルトさん。ありがとうございます。
これは、報酬の30,000ペルーです。」
報酬を受け取った俺はパウロと別れ、宿を取る為酒場に入っいた。
酒場の中は、パーティーでもしているかの如く賑わっていた。
俺はカウンターへ行き、部屋を借りる為に、酒場のオヤジを呼んだ。
しかし…
とりあえず、1杯やりたい。
ウィスキー1杯:300ペルー
バーボン1杯:400ペルー
ブランデー1杯:700ペルー
ビール1杯:600ペルー
ショットはバーボンか、ウィスキーが値段的に妥当か…
いや、量が少ない…
今は、喉を潤したいから、ジョッキのビール…
腹も減っていきたな…
よし!最初にビールと肉を頼んで、寝る前にバーボンだ!
俺は、パウロから受け取った報酬を弄びながら決めた。
「オヤジ、ビールとターキーレッグをくれ。」
「あいよ!」
ビールが運ばれてきたが、冷えてはいない。
俺が初めてビールを飲んだ時もそうだった。
樽に貯められたビールは必然と温くなり、飲み口も悪くなる。
しかし、今の俺は違う。
魔力を必要最小限まで制御してから。
『凍結』
物を凍らせない程度に“氷魔法”を使う事で、温いビールもキンキンに冷やせるのだ。
これは、数年前に魔法使いがやっていた所を見て、覚えた技だ。
次に、ターキーレッグが来た。
これは、しっかりと焼いてある為、魔法を使う必要は無かった。
魔法に感謝…いや、何でもない。
俺は、冷えたビールで喉を潤してから、熱々のターキーレッグにかぶり付いてた。
やっぱり、自分で適当に獲って、焼いて料理するのとは訳が違う。
血抜きと味付けがされている方が断然旨い。
ターキーレッグを食べ終えると、冷えたビールの残りを飲み干し、再びオヤジを呼んだ。
「オヤジ、バーボンを1杯くれ。
あと、部屋を1つ。」
「あいよ。」
ショットがカウンターに置かれ、バーボンが注がれた。
俺はそれを一気に飲み干した。
「お客さん、悪が今空いている部屋はロイヤルスイートだけだ。」
「は?!」
酔って幻聴が聞こえたと思った。
ロイヤルスイートの部屋の値段を見ると、更に目を疑った。
「100,000ペルー?!」
思わず声に出して読んでしまった。
宿の部屋は、ベッド1つと机1つだけの、1番安い所で“5,000ペルー”からだ。
風呂があったりと、高い所で“20,000ペルー”か“30,000ペルー”だ。
“100,000ペルー”なんて聞いた事無い!
しかも、酒場の部屋が?!
「何かの間違いじゃないか?!」
騙しているんじゃないかと思い、更に聞いた。
「いいや、何も間違っちゃいないぞ。
あんたも見たろ、表の荷馬車を。
あの持ち主達で、安い部屋は満室だ。
でも、良かったな。うちは、他の酒場と違ってロイヤルスイートの部屋がある。
誰も借りたがらないから今は空室だぜ?
金があればの話だかな。」
こいつ…デブ腹のハゲが…足下見やがって…
だか、今は金欠だ…臨時収入でも足りないぜ…
クソッ…今日も野宿か…
俺が宿が取れない事に不貞腐れていると、横から男が割って入ってきた。
「オヤジ、ロイヤルスイートを2部屋頼むよ。
あと、ブランデーも2杯。」
「あいよ。」
割って入ってきた男は、パウロだった。
「アルベルトさん。貴方に追加の仕事を以来したいのですが?」
「断る。この村のギルドで頼めば良いだろ?」
護衛は、終わった。
戦場に成っていそうな所に行くなんてのは御免だ。
「それがですね、わたしの所属している商会は冒険者ギルドから目の敵にされているんですよ。
前の護衛もギルドを通さず、金に困っている冒険者を雇っただけでして。」
「だったら、同じ様なのを探せば良いだろ。」
それを聞くと、パウロは笑みを浮かべて言った。
「ええ、もう見付けましたよ。
宿を取れない程金に困り、冒険者としての腕も一流。
何と言っても、あの伝説の“白狼”様に護衛して頂けるなら、これ以上無い位心強いです。」
パウロが“白狼”の名を出した途端、酒場は静まりかえった。
オヤジですら、目を丸くして俺を見つめていた。
「いつ気付いた?」
「貴方の名を聞いた時です。
わたしが若いからと油断しました?
いくら若いといっても、世を渡る行商人ならその名前は知っていて当然です。」
確かにそうだ…迂闊だった…
それにしても、この若造それを知っていて、あえて隠してこの時を狙っていたのか?
「勿論、ただではありませんよ?
ここのロイヤルスイートの部屋代と、更に追加で金貨5枚払いましょう。」
それだけの金をポンポンと…本当に何者なんだ?
しかし、ロイヤルスイートと500,000ペリーか…
「どうです?」
パウロは、ブランデーが注がれたショットを1つ手渡してきた。
ロイヤルスイートに500,000ペリー…
「クソッ!分かったよ!」
俺は、ショットを手にとった。
「では、改めて契約成立ですね。」
俺達はショットを交わし、一気に飲み干した。
「だが、その報酬、金に困っている冒険者への報酬にしては、羽振りが良すぎないか?」
「いえいえ、これはいわゆる“未来への投資”です。」
“未来への投資”ね…なるほど。
その夜、俺はロイヤルスイートに泊まり、数ヶ月振りに暖かい湯船につかった。
ここまで、読んで頂きありがとうございます。
今回は、パウロのかぶっている「バイコケット帽」について軽く解説します。
名前だけではイメージしにくいと思いますが、これは有名な童話のキャラクター「ロビンフット」や「ピーターパン」がかぶっている帽子です…
実は、名前がこれで正しいかちょっと自信がありません。
もし、名前が間違っていたら教えてください。
今回の解説は以上に成ります。
これかも応援のほどよろしくお願いします!




