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7話 お悩み相談はお師匠様にお任せを

今回は少し視点が違った風に書いています。これは意図して書いたものなのでご安心を!

「もう、風邪を引いてしまいますよ。」


寝ている師に向けて言うも意味は無い。きっと旅の疲れが出たのだろう。エマにもあの人が旅に出るなど想像も出来なかったわけだし…色々起きた。無理もない。

毛布を掛けながら…その寝顔を見つめる。綺麗で愛おしい、いつもの師匠だ。


「…二度目、です。あの魔術を見たのは…」


先日の湖の魔術は未だエマの脳裏に焼き付いていた。あの日あの時、自分を救ってくれた時にも見た、あの美しくて繊細な魔術が。


「貴方は私を天才と言いますが…私は、どうにもそうは思えません。貴方を見ていると…」


エマは、自分には才はあるのだと思う。事実他の冒険者達と実績を比べれば明らかだ。でも…師を超えるほどかと言われれば首を振りたくなる。


「……はぁ…」


いつもよりもため息が出る。自分も疲れたのだろうか。いや…少し暗い考えになってしまっているだけだろう。


「少し、外の空気を吸ってきましょうかね。」


こうもモヤモヤしては眠れないではないか。1度…気持ちを切り替えよう。



 * * *



「…57」


カウントと共に、エマの正確な風魔術の刃が光の魔術で作った的を射抜く。


「…60」


3つ1気に出てきた最後の的も貫き…エマは、1度落ち着く。


「時間は5分48秒…前よりも少し、早くなってますね…」


こういった地道な努力が大事なのだと、よく自分の師は言っていた。まぁ、無理もしないことも大事だと同じぐらい言われてたが。


「…流石に冷えてきましたね…。風邪をひく前に戻りましょう。」


深夜に外へ出る機会は少なくは無いが…師匠の前で風邪をひくなど少し、恥ずかしいものがある。

だからエマは踵を返して…


「なっ…」


「やほ。エマ。眠れないの?」


「師匠…」


いつから見ていたのやら。先程頭の中に浮かんでいた師匠の顔が目の前にあった。


「私もちょっと目が覚めてね。気分転換に散歩してたんだ。」


「そう、ですか…」


「…どうしたの?何か悩みがあるの?」


フィーナは単刀直入に、取り繕うことなく真っ直ぐした目でエマに尋ねた。自身の心中を言い当てられて少しエマはたじろぐ。


「私で良ければ聞くよ。なんせ師匠だからね。」


「…じゃあ、少し、いいですか?お飲み物を入れます。待っていてください。」


「はいはーい…ゆっくりでいいからね。」


…きっと、心の準備をしてもいいということだろう。あの師匠はいつもあっけらかんとしているのに自分が真面目な話をしたいと思った時、よく察しが効くのだ。


「…1歩、踏み出す必要があるかもしれませんね。」



 * * *



「…ふへ、暖かいね。」


「そうですね…」


温めたミルクを啜り、フィーナは言う。暗い雰囲気の弟子を自分なりに気遣ってだったのだがどうにも反応が薄く困る。


「えっと、それで?悩み、あるんだよね?」


「悩みと言えば悩みになるんでしょうか…」


「待ってるから、話してごらん。」


まるで母親のように…孤児だったエマには分からない感覚だが、そういう暖かいものをフィーナから感じた。


「師匠、私は知っての通り、未熟者です。到底…あなたを超えることなんて、出来ません。」


断言する。出来てしまう。それが他の人間であるならまだしも目の前にいるのは伝説に残る『色彩の魔女』だから。

これを言うだけでも、エマにとっては信念をくじくほどのものだったのだが…フィーナの反応は想像と違った。


「?うん、そうだね。」


まるで当たり前のように、そう言ってのけた。

エマは酷く動揺する。なぜなら…


「じゃあ、何故…私が…私…は… 」


「なんで急にそう思ったかは分からないけどさ。」


フィーナが、エマの言葉を遮り切り出す。


「当然だよ。実力に関しては生きてきた年数が違うから、多分今この世界にいる人は誰も私には勝てないよ。最終的に立っているのは私だ。」


「っ……じゃあ、なんで…貴方は…私に…才能があると…自分を超えていると、そう仰ったのですか?」


「……?んー…ちょっと待ってね。いつの話だ……んぅ…?あ、あーあぁ、思い出した。あの時ね。」


文字通り頭を捻り、フィーナは記憶から引っ張り出した。確かに…その類のことを言ったことはある。でもまさか、未だ覚えているとは…


「うーん…話すには難しいな…そうだ、エマ。ブローチ、肌身離さずずっと持ってるよね?」


「…?はい。」


エマが髪色にそっくりな薄オレンジ色の宝石が埋め込まれたブローチを取り出す。これは自分が弟子入りした際に貰った、大切な宝物だ。


「えっとねぇ…エマには才能があるんだよ。魔術師として…私よりも。」


「え…?」


「そのブローチ、色々術式を書いてあるんだけど…知ってた?」


エマはブローチの宝石部分をジッと見つめる。確かに…防御術式や探知術式等、エマにも分かる術式が山ほど盛り込まれていた。このことは知らなかった。何せ渡されたのが弟子入りした日で今日という日まで手入れは欠かさなかったがただのお守りだと思っていた。


「その中の一つ、少し変わったのがあるんだけど分かるかな?」


「………これは…」


エマが見たもの、それは…


「先日、見せていただいた封印魔術の…」


「うん。そうだよ。果たして…何を封印しているんだろうね?」


エマがフィーナの眼を見つめる。フィーナはニヤニヤとエマの様子を眺めている。なんせ…自身が手塩にかけて育てた弟子が自身の壁にぶつかったのだ。それが、嬉しくてたまらないらしい。


「試してみようか。今から、どう?」


「…危険、なのでは…?」


「そこはご心配なく。だって…私がいるから、ね。」


その言葉は…エマにとって、最も心強い言葉だった。



* * *



「これを外せばいいんですか…?」


「いや…それだと何かあったとき困るからね。こういうのは付与魔術の応用で…そっちを解除するんだよね。」


フィーナがエマのブローチに触れ…何かの術式を破棄した。その、瞬間…

エマの身体に、異変が起きた。


「…なんか…魔力が物凄い勢いで回復している気がするんですけど…」


「うん、そうだね。ちなみにそのままだと死ぬから。」


「っ…!?」


「教えたでしょ。魔力は力の源だけど摂取のし過ぎは毒になる。」


「…魔力中毒…ですよね?」


フィーナは頷く。そして…それ以上何も言わない。問題の解決はエマにやらせるために。


「微弱な魔力を常に纏うように…何かしらに使い続ける…」


「準備はいい?早速実践だよ!身体で覚えて!」


一定の距離をフィーナが取った後、2人を覆うように結界を貼った。何日か前の修行と、同じように。


「…これだけ回復が早いなら…」


「よーい…スタート!」


ブツブツと考え事を続けるエマ。フィーナは自分のタイミングで始まりを告げ…魔術を、発動した。



 * * *



「『光の封鎖』」


フィーナが初手から光速の鎖を放った。これはあの日からさらに改良を加え、より大きな魔力を持つ相手にも通用しやすくしたものだ。


「……自分の魔術の弱点は自分が1番知ってないといけないんだと、貴方が教えてくれましたから。」


鎖が巻き付くよりも早く、エマが風の魔術で刃を生み出し鎖を断ち切る。更に…


「『天を駆ける疾風の槍よ我が願いに応えよ』」


それは中級の精霊魔術の詠唱。風の刃の勢いが増し…鎖は完全に破壊され今度はエマが攻めに転じる。


「うおっ…マジかぁ…!なるほど、魔力があるから…契約が省けるんだ。私と違って呪いもないし…」


フィーナは心底関心していた。制御もそうだがすぐに何に扱えるかを考え、実行出来るその腕前に。

…だから、この子は天才なのだ。


「だからって…早く発動出来るだけなら私も出来るけど────」


「はい。なので…今回は少し、趣向を変えてみました。」


精霊魔術は基本的には基礎元素魔術の威力を高めるもの…だが、エマは違う。

エマの声は上空から聞こえた。風だ。風がエマを上空に留まらせている。更にはそこから…無数の風の刃が降り注いで…


「わぁ…まっずいね…」


人が飛ぶには飛行魔術を使う。しかしあれは戦闘中に発動するには魔力の消費量が多いし他の魔術が使いにくくなる。でも今のエマは…精霊魔術の風を操っているだけ。他の魔術の同時展開だって、なんだってできるだろう。


「うーん…防御は出来そうだけど…これじゃ身動き取れないよね。」


「はい。その通りです。」


エマは次なる魔術を構えその杖先をフィーナに向ける。フィーナはしばし考えた後、風の刃を受けるために防御魔術を展開した。防御魔術は正確に刃の被弾地点のみに展開され刃を止めた。が、しかし当然エマは先を読んでおり…


「考えたんです。師匠から一本確実に取る方法。でも…これは以前であればきっと、発動すら出来ませんでした。」


フィーナが魔術発動の隙で硬直した瞬間、エマはその背後まで降下していた。


「…見たことはあるけど…それ、使うの難しいよね。」


「はい。何より魔力が足りませんでしたから。」


そして魔術式は完成し、フィーナに向けられたエマの魔術が発動する。


「『魂夢投影ドリーム・リコレクション』」


この魔術は物理的な防御が意味を為さない。これは…他者の精神に干渉する魔術だ。



 * * *



「…ん?」


瞬きの間に…私の見ていた景色は様変わりしていた。ここは森の中で…うーん…何をしていたんだっけ…?


『どうしたよ、ご主人様。急にぼっ立ちして。』


「モチ…?んー…私、何しに来たんだっけ。」


『はぁ?忘れちまったのか?レヒテトの森の封印の強度を確かめに来たんだろ。大丈夫か?』


「…えっと、そうだったね。ありがとう。」


なんだか頭がぼんやりしている。直前までの記憶が…なんか怪しい。まさかボケでも始まったのだろうか。…まさか1000歳目前にしてボケが始まるなんて…いや、前々から記憶力は怪しかったかも。

それにしてもなんだか不自然だ。


「んー…まぁ、いっか。」


レヒテトの森にはとある、大事なものが封印されている。それは私にしか施せない封印であり私が定期的に管理することになっている。今日も…そのために来たんだっけ。忘れてたけど確かにそうだった気がするね。


「確かここの目印の対魔物専用防御結界を右に曲がったら…」


あった。封印自体を封印している魔術式だ。念のため、二重で封印を施しているのである。

それを解除した後、私は再び防御結界の前に立つ。


「多分モチは大丈夫だと思うけど、一応私の帽子に入っててね。」


『…ちなみに効果はどんなもんなんだ?』


「魔力吸収されて最終的には干からびるよ。」


『…聞くんじゃなかった…』


モチがのそのそと帽子の中に入ったのを見てから私は防御結界の入口を作り、正式な手順で通過した。

おっと、ちゃんと閉めておかなきゃ…


「何回来てもいい景色だなぁ…」


結界を抜けしばらく進んだ先には綺麗な花畑があった。様々な色の、様々な花で染められた花畑だ。

そしてその中央に、その大事なものがあった。


「久しぶりだねぇ…レックス。」


それは墓石に似たものだが決して死者が地に埋められているわけではない。これは封印魔術を施した魔石である。その石によって、それが封印されている。


「うーん…右腕だけでもこんなに圧感じるなんてどうなってんのさ…まぁ、流石不死王って言ったところなのかな?」


そう、それこそがかつて『色彩の魔女』によって封印された『不死王』を五体に分けた一つ、『右腕』が封印されし地である。



────『不死王』ペルペトゥス・レックス、ここに眠る


エマの悩みは長年師匠を越えられる未来が自身に見いだせないことでした。それがフィーナの魔術を見た事でよりハッキリ感じてしまったわけですね。

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