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6話 色彩の魔術

「なっ、美味い!美味いぞ!?」


「ほんと!?あぁ、甘いわ!この味よ!」


私が食べたものと同じものを作ってもらいご馳走すると村の方々は皆美味しそうに平らげた。


「な、何をやったらこんなことになったんじゃ?」


「原因が分かりまして、少し材料を変えました。」


「材料…?」


「はい。」


私は自身の手から水の球体を生み出す。そう…原因というのが…


「これは私の魔力で生み出した水です。料理の工程に扱う水をこれに変えました。」


「ほう…?それで味が元に戻るのか?」


「はい…というより、湖の水がダメになっているんです。別に魔術じゃなくても、きっとあの湖以外ならばこの味になるでしょう。」


「なるほどの…」


あの湖は村の井戸へ繋がっている。きっと、水が悪いなんて誰も思わなかっただろう。微力な魔力汚染だったし…ね。


「その、湖はなんとかならんのか?流石に使えんとなると困るんじゃが…」


「…なんとか、なります。しましょう。」


エマが言っていたことがようやくちゃんと理解した。確かにあの広さの湖は…私じゃなきゃ、無理だろうね。


「ほんとか!?」


「はい。ですので…その、また…あのケーキを作ってお待ちしていて貰えますか?それが、報酬でお願いします。」


「そんなものでいいのか?」


「…とても、美味しかったので。もっと自信もってください。」


「そうかい…分かった。腕によりを掛けて用意しておこう。」


ほんとに美味しかった。作り方も教えてもらったわけだからこれからはルカに作ってもらうんだ。でもその前に本家の味をもう一度食べておきたい。


…そのためにも、しっかり依頼を果たそうではないか。



 * * *



「何度観ても壮観だね。」


翌日、私は湖へと舞い戻ってきた。昨日と違い今日はルカとモチもいる。せっかくだからルカにも見せてやろうと思ったのだ。


「昨日の魔術の痕跡も無くなってるし、やっぱり魔力汚染、だね。それによる魔力枯渇が魔物の発生原因ってとこかな。」


魔術は使えば暫くは魔力の残滓としてその場に痕跡が残るのだが…それすらも、汚染し足りないものとして補ったのだろう。


「概ね私も同意見です。流石は師匠です。」


「いやぁ…多分魔物に食べられてなかったら気付けなかったかな。エマは凄いよ。」


自分の魔力がごっそり減ってなかったら分からなかっただろう。そこから魔力を吸収する作用があるって気付けたわけだし。

エマの頭をポンポンと撫でると恥ずかしそうに頬を赤らめた。おっと、もうダメなんだったね…


「せっかくの機会だ、弟子達にいい所を見せようかな。」


さてさて、この規模の魔術はルカに見せたことは無いよね。


「離れましょう。」


「…?」


「これから師匠が魔術を扱います。しっかり、見ておくんですよ。」


エマがルカに言い聞かせ私から距離を離す。相変わらず気が利くねぇ…


「念の為村の方に防御結界を貼っておいて…よし。」


すぅっと、1度深呼吸をし…背丈ほどある杖を顕現させた。

普段は別に杖など無くても魔術は扱えるが、やはり杖は魔力効率が桁違いに変わる。特に…大規模な魔術を使う時ほど。


「『色彩の魔女』フィーナ・レインヴェルの名のもとに───────」


静かな空気の中、私は詠唱を始めた。



 * * *



フィーナが、ゆっくりと口を開いた。


「『色彩の魔女』フィーナ・レインヴェルの名のもとに────我は虹の盟約を再び此処に結ぶ者なり。」


フィーナが詠唱と共に杖を天に掲げた瞬間、湖が静まり、風が止んだ。そして…空へ薄い虹が浮かび上がる。


「六つの原色を統べる王たちよ、我が声に耳を傾けよ。我が血に呼応せよ。我が魔に集え。我が名に顕現せよ!」


湖面へ六色の光が波紋のように広がり、やがて六本の光柱がゆっくりと立ち上がっていく。


「大地の王『ガイア・テラ』よ!深淵の王『ウンディーネ・ラグナ』よ!劫火の王『イフリート・ヴァルカン』よ!天穹の王『シルフ・ゼピュロス』よ!天光の王『ルミエル・ソレイル』よ!永夜の王『ノクティス・エレボス』よ!」


そして語られるは神話の『精霊王』達の名。かつての大厄災である『不死王』を穿つために『色彩の魔女』に力を共にした英霊。

それらはフィーナの詠唱に呼応するように光を強く、照らしていく。


────そして…最後の節が語られる。


「六つの色を重ね、穢れを呑み込み、虹の円環を以て此の闇を永遠に封じよ!『封印虹陣アーク・イリス』!」


六色の光が交差し、上空にて描かれた魔術式。

詠唱によって発動したそれは湖を六色に彩り、染める。そして…封じるのだ。全ての根幹を。その色に染め上げて。



これは…これこそが、現代魔術において唯一無二の御業。かつて『不死王』を封じる際に『色彩の魔女』が扱ったとされる六大元素精霊魔術と封印魔術の合わせ技、『封印虹陣』である。



 * * *



「ふぅー……久々だったからやり過ぎたぜぇ…」


ぐったりと地べたに座り込む。この魔術は魔力の消費も多いは多いがどちらかと言えば体力とか生命力の、人としての根本のその辺がごっそり削られる感じがあるのだ。だからいくら魔力の多い私でもかなり疲れを感じる。


「お師匠様…大丈夫ですか!?」


「エマ…ちゃんと見てた?」


「はい…!」


私の元に駆け寄ってきたエマは感極まった顔で返事をした。よかった、そっちに被害は無かったみたいだし、これで一件落着かな。


「あ、あの、魔女様…」


「お、ルカ。ちゃんと見てた?どう?」


なんかいつもとちょっと違うような雰囲気でルカが話しかけて来た。


「えーっと…」


「何?私の凄さに見とれちゃった?」


「は、はい!魔女様、とっても凄かったであります!もう凄く凄くて、その、あの、とっても、カッコよかったです!」


ルカから語彙力が消えちゃったみたい。ありゃりゃ…エマもなんか全力で首を縦に振ってるし、うちの弟子達壊れちゃった?


「あー…ちょっと疲れちゃったし、私ここで休んでるから村長達に話通しておいて。」


「分かりました!」


凄いを連呼するルカを興奮冷めやらぬといった様子のエマが引き連れて行った。

それを見送ったあと、少し身体を休めるために私はそのまま寝転がった。芝生の上だったため案外硬くはない。このまま寝ることも…


『…流石だな。ご主人様。』


「…モチ、起きてたんだ。」


『あんだけ派手にやりゃあな。』


「そっか。」


出来れば…この子の前ではあまりやりたくなかったんだけどね。見られたなら仕方ない。


「どう?モチ。ここらの空気は。綺麗になったでしょ。」


『ん?…あぁ。そうだな。随分腹が減ると思ったらそういうことか。』


モチが小さな鼻をすんすんしている。おいやっぱ声にそぐわず可愛いなぁお前!

モチモチしたい衝動に駆られそうになったが1度落ち着く。昨日の件があるからね。ケーキ食べ終わった頃が丁度いいだろう。


『久々に見たが…やっぱ俺はお前も天才だと思うぜ?』


「いや、これぐらい私と同じぐらい努力すれば行けるから!皆すぐそう言うんだよねぇ…」


だから努力しない人は嫌いだし努力家な弟子達は大好きだ。


「ま…何にせよ、これで一件落着。ケーキ食べ放題だよ。モチ。」


『あん?また不味いのじゃねえだろうな。』


「大丈夫だよ。今度のは…甘さたっぷりだから。」


さーて…そろそろ2人が帰ってくる頃かな。



 * * *



「本当に助かった!嬢ちゃんは村の恩人じゃ。」


「いやぁ、それほどでも。お土産もいっぱい貰いましたし…」


「あんなもんでいいならいくらでもやるわい!」


ガッハッハと村長が笑いながら私の肩をバシバシと叩く。そんなに嬉しかったんだね…うん、分かったからそろそろやめて欲しい。


「3日間お世話になりました。どうかお元気で。」


「またいつでも歓迎するぞ!」


「待っとるからなぁ〜!」


大勢の村人達に見送られながら私達は翌日、村を経った。本当になんというか…明るい人達だった。ケーキも美味しかったし、なんだかんだいい場所だった。



行きが魔術だったことから分かる通り、帰りも魔術である。


「師匠、本当に行き先は私の住んでる村で良かったのですか?」


「うん、そこにもギルドはあるんだよね?」


「はい。ありますが…」


「それにエマがどんな暮らしをしてるのか気になるしね。泊まってもいいよね?」


「え、えぇ。…散らかってるかも…」


ボソッと聞こえたが…まぁ、私はあまり気にしないしなんならルカを貸そう。しっかり手伝ってくれよな。


「じゃあ出発進行〜!ルカ、復習の時間だよ!」


「はい!であります!」


ま…教えたの私じゃないんだけどね。


「ルカ上手!」


「飛べてるであります!」


「ふふ…」


エマを先頭に、次の目的地へと向かった。



 * * *



「はへぇ…ここが?」


「はい。何も無い部屋ですけど…」


「ううん、小綺麗で…なんか、エマらしいかな!エマの匂いするし…」


「嗅がないでください!」


なんでぇ…?いい匂いなのに。

さて…エマの家は木造の1階建て。借り家らしい。この村も高齢化が進んでいてあまり若手が居ないようでエマの存在は重宝されてるらしい。


「どこで寝たらいいかな?」


「えぇと…空き部屋もないのでここか、私の私室になりますかね…」


「じゃ、どうせなら一緒に寝よっか。」


「は、はひゅ」


なんか魂が抜けるような音が聞こえたがきっと気のせいだろう。いつもはルカと寝ているが今日は久々にエマとも一緒だ。ワクワクした気持ちで私は簡易寝具をエマの部屋へと持ち運ぶ。


「ほんとに何も無い…」


「あんまり帰れないんです…」


「そっか。大変だねぇ。」


私も金稼ぎと世間を知るべく冒険者はやったことがあるが…確かに大抵は宿に泊まったりでどこか1つの拠点に留まることは少ない。

それ故に金はあっても家を持つものは少ないのだが…


「エマはちゃんと家を持ってるんだね。」


「えと、まぁ……はい。お手紙とか、その辺が困るので。」


「その件はごめんね。」


…一瞬顔が怖くなったけど謝ったからかすぐに機嫌は治ったみたい。ふぅ……あっぶねー…


「…もう怒ってませんよ。さ、そろそろご飯にしますか?」


「私、ケーキ食べ過ぎたからもういいかな。」


「僕も大丈夫です!」


「そうですか…では、お風呂を準備しておきますね。いつでもどうぞ。」


「何から何までありがとね。エマ。」


「お師匠様のためですので。」


そう言うとエマは部屋を出ていった。宣言通り準備するのだろう。


「ルカ、もう眠い?」


「まだ…大丈夫、ですぅ」


…うん。眠そうだね。ルカはしっかりしているがまだ子供なのだ。それに魔術も使い慣れていないだろう。あれだけの移動続きはそりゃあ疲れる。

私も疲れたし。


「ルカ、先に寝てていいよ。ほら。お布団。」


「うぅ…まだ…」


とは言いつつも順調に布団に潜り込み、瞼が閉じていく。


「はい、いーこ。いーこ。」


「…」


ポンポンとお腹をさすっていたらいつの間にかルカは眠っていた。というか、私も…


「ねむ…」



…いっか。おやすみぃ…





「お師匠様…」


その部屋に…その、師が寝ている部屋にまたも忍び寄る影がひとつ。





~裏設定小話~

フィーナの魔術は唯一無二のものです。彼女は不死身になる以前、17の頃にそれを完成させています。ですがそれは彼女の精霊に好かれているという才あってのものでしたが彼女は他の魔術は平均以下程度しか才はありません。全部、努力で使えるようにしたんですね。

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