48話 再動
露店街を2人と1匹が歩く。
「エマさん!この串焼き美味しいです!」
「ありがとうございます、ルカさん」
手渡された串焼きを1口、口に放る。絶妙な塩気だ。これは確かに美味しい…
「じゃないっ!」
「エマさん!?」
『おい、うるせえぞ』
突然大声を出したせいで周りからの視線がエマに注がれている。
いけない、と1つ咳払いし気を取り直す。
「…あの、師匠をどう取り戻すかって話じゃありませんでしたっけ?なぜ呑気に出店を回っているんですか…」
『あ?お前が言ったんだろうが。考え過ぎて気晴らしがしたいってな』
「…?」
しばし考える………昨日は確か森の戦士に連れられて無事獣人族の国『ヨウコク』に辿り着いた。手続きを済ませて宿を取って…
翌日、どうやって師匠を取り戻すか話し合いをした。一日中話し合って結論が出なかったから明日は1度外に出るって…自分が言ったのだ。
「あ…確かに…」
『…落ち着けよ。お前らしくねえぞ』
「う…」
疲れているのかもしれない。自分らしくない。
エマは頬を叩き…深く深呼吸をする。
「すみません、私がしっかりしなければならないのに…」
「大丈夫ですか?」
「はい…もう、大丈夫です」
よくよく考えればあの人が急に居なくなるなんてよくある事じゃないか。
「そう思ったら…なんか直ぐに助ける必要も無い気がしてきましたね…」
『…あいつは死なねえからな。そのうちケロッと戻ってくる』
「それも、そうですね」
「あ、エマさん!あっちの果実水の屋台、美味しそうです!」
エマは少し焦りすぎているのだ。今この街は『聖獣祭』という祭りを行っている。せっかくの機会だ。楽しまなければ損というもの。
「行きましょうか」
今はただ、いつでも師匠を迎えられるようにしておけば大丈夫なはずだ。
* * *
聖獣祭は無事に開催された。現在は2日後の舞に向けてのリハーサルに付き合っている。
「『月影に宿りし聖なる獣よ。今ここに舞を捧ぐ』」
ミツハは一歩、前へ出る。
鈴の音が小さく響き、長い袖と金色の尻尾が円を描いた。
「『森を守り、命を巡らせ────』」
その動きはしなやかで、同時にどこか厳粛だった。
足取りはまるで見えない陣を刻むようで、舞台の空気が静まり返っていく。
(……やっぱり、依姫なんだな)
思わず息を呑む。
「『どうか再び、闇を眠らせ給え────』」
最後の言葉と共に、ミツハは深く頭を下げた。
その瞬間、微かに風が吹き抜け、祭壇の布が揺れた。
「大丈夫そうですね」
舞台担当の猫耳の獣人が言ったことで、ようやく力を抜いた。
「…ふぅ…」
流石にあれほどの舞は獣人とはいえ疲れる。ミツハは少々息を荒くしながら私の方へ寄ってきた。
「どうだった?主」
言葉に抑揚は無くとも期待に満ちた眼差しがどう答えて欲しいかを物語っている。
「カッコよかったよ、ミツハ」
「…!…!!……大したことありません…」
そういう割にはすごい笑顔だし…めちゃくちゃ尻尾揺れちゃってるんだよなぁ…
「予行練習はこれで終わり?」
「…はい、この調子なら本番も問題ないはず…」
「失礼します!依姫様!」
1人の舞台担当の男がミツハへと私に割って入る。
あー…こらこら、多分要件あるんだろうから睨むんじゃないよ…
「聖獣様の供物はどちらへ運べばよろしいでしょうかと、使いのものが言っているのですが…」
「例年と変わらず、聖獣様の祠へ。何回も聞かないでくださる?」
ひぇ…さっきの上機嫌なミツハどこ行ったの…?
「申し訳ありません!ですが、何分新人なようでして…祠の位置が分からないそうです」
「…ヴォルフ、連れて行って」
「姫様、それでは護衛は…」
「主がいるでしょ、早く」
ヴォルフは仕方なさそうに案内へと移る。全くもって不憫なもんだね…
まぁでも?こんな可愛い姫様に振り回されるならアリなんじゃない?知らないけど
「じゃ、主、行こう」
「ちょ、とまっ…」
グイグイグイと、腕にぎゅぅぅっと抱きついたまま先へと進み出す。確かに予行終わったら祭りを見て回ろうとは言ったけど早いって!
「早く行かないと全部売り切れちゃう」
「それは分かったから!止まって!」
…最終的に私が地面を引き摺られてることに気付いてようやく止まってくれた。
* * *
「おいひいねぇほれ」
「…ふふ」
串焼きはいいね。鳥かな…?柔らかいし塩気が抜群に丁度いい。
「残念、ハズレかぁ…」
「ははっ、嬢ちゃん、また親御さんにでも強請ってから来るんだな!」
次はおみくじ。色んな景品があったが目星のものは魔導書だ。たぶん価値が知られてないからこんな所にあるんだろうなぁ…
まぁ、当たらなかったから関係ないわけだけど…
「…(スッ)(無言で硬貨の山を差し出す)」
「えー…あの、依姫様…?」
「全部頂戴。当たりが入ってるか確認させてもらう」
「…いやぁ…」
「何か文句でも?」
圧が凄かった。ちなみに当たりは入ってた。
魔道書ゲット♪
…………
……………………
しばらく経った頃、急にミツハが方向転換し路地へと入った。
私も放っておく訳にはいかず着いて入る。
「えっと……なんで狭い路地に…?」
「……主」
恍惚とした表情で呼ばれる。…何か、様子が…
「ミツハ?大丈夫?」
歩き疲れたのだろうか。体調が優れないのだろうか。
様々な考えが過ぎるものの…どれも違うように見えた。
「主主主……」
「えっ…わっ…」
路地の狭い壁に押し付けられ、鼻先が触れてしまいそうな程に距離が縮まる。
正直、驚き過ぎて動けなかった。
「主が、悪いんだよ……そんなに、主の匂いを私の近くで振りまいて……」
「…よく分かんないんだけど…」
もしかして臭いかな…昨日一応湯浴みはしたんだけど…
「落ち着いて、ミツハ」
デコピンを1つ。されど凄まじい反射神経で躱された。体調が悪い訳じゃないか…となると…
「もしかして…そういうことぉ…?」
あんまり考えたくないけど似た症状に覚えがあるんだよねぇ…
「主ぃ……」
さてどう対処するかと逡巡していた…その時。
「ぁ…ハクレン…ぅ…?」
青ざめた顔でそう言い残してミツハは息苦しそうに胸を抑えて倒れ込んだ。
「ミツハ!?」
「ぅ…っ…ぁる…じ… 」
「…これは…?」
「ハク…レンが…あぶ…ない……」
「っ!」
なるほどそういうことか。急に倒れたりあんな風になったりで不思議だと思ったが…そっちで問題が起きているようだ。
「ごめんミツハ!ちょっと…急ぐよ!」
ミツハを魔術で浮かせ、私は杖を取り出す。そして杖に跨って…全力で飛行魔術を発動した。
最高速度で人混みを抜けて祠へと向かうのだった。
* * *
聖獣は苦しんでいた。
『ぁぅ…?』
出されたものがどう言ったものかの判別も未だつかない歳だ。そのまま供物と言われて出されたものを口に放り…そのせいで、今に至る。
ぐるぐると、当たりが回っているような不思議な感覚。燃えているんじゃないかと錯覚するほどの熱。
『ぅぅ…』
ひたすらに、自身の面倒を見てくれる女子を呼び続けた。
「…悪いね、聖獣ちゃん」
そんな聖獣を見下ろす、1人。
あぁ……そう、この女こそ…聖獣の供物にそれを紛れさせた張本人。
それはこれから起こす事の邪魔をさせない為に。
「仕上げを、始めよう」
女…暗殺者は、淡々とそう告げ…聖獣に向けて魔術を放った。
* * *
「ぁっ…ぅ!!!」
「ミツハ…!?」
ミツハがより一層激しく嗚咽を漏らす。
「ぁるじ……まずい……何か…」
「無理に喋らないで────」
いい、と言いかけた。だが……もうこの時点で事は始まっていたのだと、次の瞬間理解する。
「……冗談……」
その時だった。コツン、と乾いた音が足元から響いた。
「……え?」
まるで誰かが石を叩いたような、軽い音。
だが次の瞬間──
バキリ、と地面が盛り上がった。
「な……っ」
石畳が割れ、白いものが突き出す。
それは────骨だった。
一本の指のような骨が、地面を押し破って空を掴む。
「――骨……?」
────ガシャン。
今度は少し離れた場所で、露店の柱が内側からへし折れた。
屋根が崩れ、悲鳴が上がる。
「な、なんだあれぇ!!」
────ガシャン。
────ガシャン。
音は一つでは終わらなかった。
あちこちの地面、家屋、壁の内側から、次々と骨が突き出してくる。まるで街そのものが、内側から掘り返されているかのように。
「逃げろォォ!!」
人々が我先にと走り出す。
露店が倒れ、荷が散らばり、誰かが転び、誰かが踏み越えられる。骨は、増えていた。
一本、また一本。
互いに絡みつき、組み合い、支え合いながら、巨大で歪な形を作っていく。
それは像でも建造物でもない。
白い骸の塊が、ゆっくりと“立ち上がろう”としていた。
まるで────元あった形に戻るように。
「……『不死王の骨』……」
喉が、ひくりと鳴った。
どうして?……どうして、今なの?
嫌な予感は、いつも最悪の形で当たる。
路地の時のミツハの状態はハクレンが攻撃されたことによるものです。発情期がまだ来るわけないですから、ええ。
ようやく異変の始まりです。次回お楽しみに




