43話 獣の流儀
今日から獣人族編です!
「嬢ちゃん達、冒険者か?」
馬車で揺られる中御者をしていた男が荷台に居る少女へと問う。
「あ、うーん……まぁそんなところかな?」
「そうか……うちの娘も将来は冒険者になりたいと言っててねぇ……危ないから心配なんだが……」
そこからは長ったらしい苦労話だ。少女達は適当に共感しておき…
しばらく経った頃、止めるように御者へ告げた。
「ん?ここまでで良いのかい?」
「うん!ありがとね!」
御者へと硬貨を手渡し、一行は馬車を降りる。
止まった場所は……巨大な森林の近くでありここでいいのかと御者は疑問に思った。
が、少女達の様子的に間違いではないのだろうと納得しそのまま見送った。
「変わった子達だったなぁ?」
今は珍しい魔女帽の少女を思い出しながら……御者は呟く。
「ま、他2人はしっかりしてそうだったな」
あまり心配するのも違うだろうと、次の地へと馬車は歩みを始めた。
* * *
私は、1度荷物をおろしてグッと伸びをする。
「んんーっ……ずっと座ってると体が固くなるねぇ 」
「はいぃ……でもやっぱり、移動中に寝れるので、馬車で正解だったと思います。おかげで野宿しなくて済みましたし…」
「お馬さん可愛かったです!いい子達でした!」
今回の移動も馬車だった。目的地である獣人族の国へは馬車を使うのが最も手っ取り早い。それは目の前の森林を見ればわかることだ。
「エマ、注意事項は覚えてる?」
「はい、変わった植物には触らないこと、それと飛行魔術は襲われる可能性があるため使わないこと、ですよね?」
「うん、とりあえずその2つは絶対守ってね。ルカも分かった?」
「はいであります!」
再三の注意。エマはともかくルカが心配だなぁ…
「モチ、ルカのとこにいて」
『あ…?しゃーねぇなぁ』
モチをルカに手渡しし……ようやく森林の方へと目をやった。
「さて、行こうか」
「師匠、ほんとに大丈夫なんですよね?」
エマが心配そうな顔で聞く。確かに私は方向音痴だし記憶力が怪しいけどさ、ここまでは来れたのだからそこは信じて欲しい。
「大丈夫大丈夫。流石に覚えてるから!」
「……師匠、師匠のその言葉だけは私、信じれません」
「えぇ……?」
疑いの眼差しで見つめられてんだけど……そこまで?
まぁいい、結果で証明しようじゃないか。
私は、獣人族の国『ヨウコク』へと向けた1歩を踏み出した。
* * *
「……迷った」
「だから言ったじゃないですか!」
エマの声が薄暗い森林で響いた。
何も言えねぇ…
「……でもでもっ、絶対近づいてはいるはずだよ!」
「本当ですか?」
うっ…圧が凄い。でもなぁ……多分前来た時よりも色々舗装されてるから分からなくなってるだけだと思うんだよね。所々見覚えのある場所だし……
「……あっ!そうだ!」
この辺りには確か…
「師匠?何か…」
「魔女様?」
100年とちょっと前、あの時にも生えてたし今ももしかしたら…
魔力探知を発動。目的のブツを探して……探して……
「見つけたぁ!」
私は、1つの茸を掲げた。
エマとルカがキョトンとした様子でそれを見つめる。
「師匠、それは?」
「これね、すっごく美味しいの。どう?ちゃんと覚えてはいるんだよ!それに近付いてるって分かるでしょ?」
ふふん、これなら証明できるであろう。
まぁまぁ、まだ疑わしいのはわかるからここは1度焼いて食べてみれば…
「……?」
なんか今背中がすんごいゾワッとしたんだけど…?
「まぁいいや。ちょうどお腹が空いてくる頃合いだし、2人もどう?」
ルカとエマは一瞬迷ったが、頷いた。さっきから腹の虫がちょくちょく鳴いていたからね。この茸が無くてもどの道そろそろ昼食にするつもりではあった。
魔術で水を生成し茸を洗ってから日をくべて串焼きにする。
適当に調味料も振って……いい感じに焦げ目がついたらまたひっくり返して……
「いい香り…」
「美味しそうです!」
よしよし、いい具合かな?一応念の為私が1口───
その時、背筋に走る寒気がより一層激しくなって…
「ぁぇ?」
「お主ら────」
首に衝撃、知らぬ声、私の意識は闇へと落ちた。
*
意識が戻る。首が、痛い。何が起きて…
「お主らは、その茸を食べてはいないだろうな?」
男の声だ。それも頭上から。
…抱えられてる…?ぁ、やっと視界が安定してきた。
「…何者ですか?」
警戒するように、冷たいエマの声が耳へと入った。
「答える義理はない。食べてないのか、と聞いているのだ」
「毒か何かですか?…私とその子は食べていません」
「…ならいい。こいつは連れてくからな」
男が踵を返す。同時に、私の身体も宙で方向転換。
一瞬気持ち悪くなったが…ようやく状況を飲み込めた。
「っ、動くな────」
「エマストップ!」
エマが言うよりも先に、私が静止する。
私が声を上げたことに男が驚く。より一層腹に回されている手に力が籠った。
「本気でやったつもりなのだが?今の人の少女は頑丈なのだな」
「あはは…いやぁ、私じゃなきゃ死んでたよ。むしろ加減を覚えたらどう?」
…多分首への衝撃だったから気絶させたつもりだったのだろうけど、この速さで目が覚めたということは…そういうことだ。
「無駄口はいい。お前は聖獣様の供物を採取した。だから…連行させてもらう」
「…あー…そういやそんなのいたっけな…」
「そんなの、だと…?」
男の声に怒りが含まれる。あちゃー…煽りすぎたか。
やっぱり獣人族は短気だね。
「師匠!」
「エマ、動いちゃダメ!…分かった、着いて行けばいいんでしょ」
「ですがっ」
「…こいつ…エマよりも速いし強いから。詠唱するよりも早く喉を潰されるよ」
これは誇張でも何でもない。事実詠唱を扱う限りこの距離では人は獣人には勝てない。
そもそも獣人族というのがそうなのだ。人型でありながら獣の特徴を持つ。嗅覚だったりの五感はもちろん、人とは違い魔術を本能で扱っているからとにかく速い。
「よく分かっているようで何よりだ」
「大人しく付いてくんだから2人には手出すなよ…?寧ろ『ヨウコク』まで案内つけてやって」
「…俺達がそこまでする義理は…」
…やれやれ、仕方ない。もう一度分からせる必要があるわけだ。
「……あ゛?」
「っ……っ……分かった。2人には手出しせず案内をつける。それでいいんだな?」
可能な限りのドスを効かせた低い声と共に、魔力を最大まで解放する。その圧といえば辺りの木々を揺らすほどだ。
「うん。分かってくれたようで何より」
腕から下ろされ、代わりに手首に拘束が掛けられる。
さてまぁ……どこに連れてかれることやら。
「行くぞ」
「はいはい。そんな急がなくても……」
厄介なのに見つかったなぁ……まさか森の戦士に見つかるなんて。
そもそも今はあれが好物なんて知らないし。
「エマ!ルカとモチをお願いね!」
まぁいい、最悪は避けることが出来たんだし…
エマは最後まで私を心配そうに見つめていたが……私は見ないようにして男へと着いて行った。
* * *
10分ほど歩いた頃合いだろうか。男が立ち止まった。
「…止まれ」
「ん、何────」
唐突に、腹に衝撃。それも鋭く重たい…
「っぁ!?…ゲホッ…ぅっ」
受け身も取れぬまま、ゴロゴロと転がっていきその辺の大木に背中を打ち付ける。
「…痛いなぁ…何のつもり…?」
「俺達はあの二人には手を出さない、と言ったわけだ。つまり…そういうことだろう?」
…ちゃんと挑発の意味を理解していたみたいで何より…
「見た目より賢いね」
「黙れ」
今度は膝蹴り。初動が見えたからなんとか防御結界を張る。
「残念でした…っ!?」
またも腹…今度は横腹を思い切り殴られた。
「あぁ…クソ…そうか…お前ら、獣だもんな…」
「卑怯とは言わせんぞ。これが俺達のやり方だ」
ぞろぞろと隠れていたであろう男と同じ装束を着た獣人が現れる。
やり過ぎた、脅威だと思わせすぎたか。
「…それで?どうするつもり?幼気な女の子を大の男が寄ってたかってってのはさぁ…」
「よく回る口だ。そこから潰してやろう」
口に靴がねじ込まれる。臭い…吐きそうだ。
さてどうしようかな…ここで手を出したら罪が増えて最悪エマ達まで……
「へんひひょうになんへいわれふはな?(戦士長になんて言われるかな?)」
「やれ」
喉を潰された。喋れない。喋れない…あぁ、苦しい。
腕の骨を折られた。鈍い痛みが全身を駆け回る。骨折の痛みは慣れないなぁ…
足を踏み潰された。歩けない、つまりは逃げるという選択肢が無くなった。元より逃げるつもりもないが。
「……っ…ぁ」
「まだ息をしているか」
…男が見下ろす。人を人じゃないように扱うなんて…
先に罪を犯したの私だけどさぁ…
「…これぐらいでいいだろう」
ボロボロになった私の身体を、数人がかりで抱えての移動が始まる。
どうやら痛めつけるのが目的だったようだ。
そうしてまたしばらくの移動の後…
「こちらでございます。戦士長」
「わーった…こんな忙しい時期に一体どんなやつが…………あ?師匠?」
「…?」
私の見知った顔がそこにあった。めっちゃ真っ青になってらぁ…あは…
痛みに耐えられなくなり私は眠ることを選んだ。
今回フィーナの心情を意識して書いてみたのですがいかがでしょう?
〜設定紹介〜
獣人族・・・人に獣の特徴がある。魔術は使えないが体内の魔力を使うことで身体強化魔術を本能で扱っている。端的に言えば感覚派が多い。




