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40話 知りたいから

お待たせしました!

コンコン……と、木の扉が叩かれた。


その日は珍しいことにセレスティアよりもフィーナの方が早起きだった。フィーナは面倒くさそうに溜息を吐いた後、応対する。


「何……こんな朝っぱらから…」


扉を開けばフィーナよりも頭1つ背丈の低い少女が佇んでいた。


「あ、あの、魔女様のお家で間違いないでしょうか?」


フィーナはマジマジと少女を観察する。

白い髪、青い目……そして、長い耳。そして、精霊が近付こうとしない。つまりは…魔族である。


フィーナは面倒事であることは察したが…追い返すのも可哀想なため要件だけでも聞いてやろうと家の中に招いた。


「何の用かな?小さな魔族さん」


「……フロウと申します。あの、一応成人はしているので…その呼び方はちょっと…」


フィーナはその言葉に驚いた。確かに魔族は年齢イコール見た目になりにくいものであるが…あまりにも、フロウと名乗った少女が童顔…幼く見えたのだ。


「そうなんだ、ごめんごめん。で…何の用?」


「魔王様からセレスティア様へ言伝を預かっております。セレスティア様はどちらに?」


「…まだ寝てるよ。悪いけど、寝かせてあげてほしい。最近あんまり眠れてないみたいだから」


フィーナもだが…まだレオンハルトの死去を知ってから、立ち直れるほどの時間は経っていない。


フィーナは多少、ほんの少しだけ、人よりかは慣れているから今こうして対話が出来ている。だがセレスティアは…初めて、それも唯一と言っていい肉親を失ったのだ。すぐにすぐ立ち直れるわけがないのだ。


「…お悔やみ申し上げます」


「丁寧にどうも」


「…出直した方がよろしいですか?」


フィーナの態度から気遣ったのだろう。なんていい幼女だ……と考えかけて目の前にいるのがちゃんと成人した魔族であることを思い出す。

フィーナは気遣われる方が何か嫌だったためその場で待ってもらうことにした。


「好きにしたらいいよ。どうせ、今のセレスには何言ってもあんまり意味ないと思うけど」


「かしこまりました」


「……」


沈黙。慣れているとはいえかなり気まずい空気になっているのは言うまでもない。


「…ところで、その言伝っていうのは私は聞いてもいいやつ?」


状況の打破……基、シンプルに気になるため尋ねた。この数十年間音沙汰の無かったあの男が一体なんの要件か…


「特に禁止はされてませんが…」


「じゃあ、先に聞いてもいいかな?」


「はい…」


どうやらフロウもこの空気に耐えられなかったようでフィーナの言葉に乗った。


そしてフィーナは……セレスティアに先んじて、その事実を知ることとなる。


「魔王様の仰ったことをそのまま、述べますね」


「うん」


フロウは1呼吸吐いてから……さきほどまであって幼さが隠れて見える、真剣な表情で、淡々と……言った。


「では…『魔王の命に危険あり、次期魔王にセレスティア様を見据えるべく至急帰還を』とのことです」


「え……?」


それは……いつか来ると分かっていた未来。

ただ、思っているよりも早くて……傷を抱えたフィーナには、耐え難い苦痛を伴うものだった。



 * * *



その馬車は、街道都市ネグロードへと入っていく。

中には3人。門衛は少し驚いたがフロウの言葉で顔を青ざめ馬車はすんなりと先へと進んだ。


「セレス、本当によかったの?」


「…何回目ですか、師匠」


「でも…」


フィーナは心配そうな表情でセレスティアを見つめ、落ち着かない様子で手をこねる。


「まだ決めたわけじゃありません。ただの一時的な里帰りになる可能性だってあるんです」


「……そう、だね」


歯切れの悪い返事だったが、フィーナは渋々了承する。

ここまで来た理由、それはセレスティアへと例の話が為されからである。


「『────判断しかねます』」


それがセレスティアの出した結論だった。だから、会いに行くと言い出した。


正直フィーナはあの男に合わせたくなかった。それも、今のセレスティアに。

気分は娘の連れてきた男に会う父親……色々と違うが似たようなものだ。


「この都市を抜ければすぐです。1時間ほどでしょうか」


「分かりました……」


それを聞いたセレスティアはブツブツと何かを呟き出した。気になったフィーナは身を乗り出し、問う。


「セレス、何考えてるの?」


「どう挨拶するかを…父様とはいえほぼ初対面ですから」


「別にいらないと思うよ……あんな情けないの、父親だと思わない方がいい。それに、私がいるじゃん」


フィーナは席を移り、セレスティアの腕にしがみつく。


「師匠、立ち歩くのは危ないかと」


「いいんだよ。今はこうしてたいの」


「…どこにも行きませんよ」


セレスティアは…目は合わせず、フィーナの頭を撫でる。

しばらく経つとフロウが到着を告げ、フィーナは名残惜しくもセレスティアから離れた。



 * * *



魔王城内をしばらく歩き、セレスティアとフィーナは背丈の3倍はあるほど大きい扉の前まで案内された。そこが魔王の寝室だとフロウは言った。


「…どうやって入るのが正しいんでしょうか」


「お好きに」


「えぇ…」


「こんなの適当でいいんだよ適当で!」


バァン!と、大きく音を立てて扉が開かれる。


「来たよ、アルク!」


「…ぬ?」


物音とフィーナの声によって…奥の寝台から、大男がのそりのそりと起き上がった。


「ま、魔女、殿…?」


その大男…アルク、基アルクトゥルスは信じられないという目をしていた。それはフィーナの容姿が未だに変わりないことや、そもそもとして来ると思っていなかったからだ。


同時にフィーナも目を見張った。記憶にあるアルクトゥルスよりも随分と体格が小さく、痩せて見えた。当たり前だが、かなり老けているのもそれに拍車をかけている。


「随分とまぁ…みすぼらしくなった?」


「…かく言う魔女殿はお変わりないようで」


「ま、私だからね」


アルクトゥルスはゆっくりと執務机に着く。その振る舞いは丁寧であり威厳を感じさせるもので…数十年間、あの時のような情けない姿で居続けた訳じゃないと証明するようだ。


「…一応魔王様なので、あまり無礼なされないよう」


「一応とはなんだ、フロウ」


「…失礼します」


フロウは主に毒を吐いたと思えばそそくさと逃げていった。この空間にはアルクトゥルス、セレスティア、フィーナの3人だけとなる。


「なんか面白い子だね」


「あぁ、かなりしっかりしていて…よく叱られる」


「情けな…」


「魔女殿にそう言われるのも懐かしいものですなぁ」


傍から見れば軽口を叩き合う旧知の仲に見えるが…実態を知ればどうなる事やら。


「…私ばっかり話してちゃ悪いね。アルク、この城に魔導書の類はある?」


「2階に書庫があります。妻が管理していたので仔細は分かりませんが暇を潰すことはできるかと」


「ん、ありがと。じゃあセレス、私書庫にいるから……そいつ、あんたら捨てた父親だってこと、忘れないでね」


「あの…えっと、はい」


フィーナはセレスに言うだけ言った後、アルクトゥルスを睨んでから退室する…


「私がセレスのお母さんなんだもん!!」


──わけなく、捨てゼリフだけ吐いて今度こそ退室した。


3人だったところが更に減り、2人に。


セレスティアは…ゆっくりと、用意された椅子に腰掛け…対面する。


()()()()()。お父様」


「…あぁ、セレスティアにとっては、そうだな」


寂しげに…しかしどこか納得したように呟く。

セレスティアはどこか懐かしいと感じたことを胸に、本題へと進むため言葉を選ぶ。


「先に言っておきますが、私はまだ決めた訳ではありません」


「…だろうな」


「ですが…私も、私のやりたいようにやろうと思ったのです。ここからの話は師匠には内緒にしていただけますか?」


セレスティアの顔色は以前よりかは幾分かマシに見える。旅路にてフィーナから聞いた父の話など、考えることがあったからか辛い気持ちが多少は抑えられている。

だからこそ、言葉を連ねて…


「────お父様?」


そう、呼んだ。


「…その呼び方は…魔女殿が暴れそうだな」


アルクトゥルスはそう言いながらも…少し、笑っていた。



 * * *



改まって2人は向かい合う。


「では、話しても?」


「あぁ、構わないよ」


数秒の沈黙、後にセレスティアは口を開く。


「お父様…私は、レオンハルトのことが分からなかったのです」


「…レオンハルトか。あいつは元気にしているか?」


「…既に黄泉の国へと向かわれましたが、生前は…天命を全うしたと思われます。」


アルクトゥルスはレオンハルトの死を知らなかった。幾ら似てないとはいえ魔族の血があるのだ。老衰には少し早く感じた。


「…そうか。通りで今の魔女殿は気が立っているわけか。」


「分かるのですか?」


「いいや、ただ前あった時とは随分と明るく振舞おうとしているように見えたからな。きっとセレスティアを思ってのことだろう。相変わらず…優しい人だ」


その目はまるで全てを見透かすようなもので、アルクトゥルスの歩んできた道がどれ程のものだったのかを示しているようだ。


「話が逸れました。」


1度仕切り直す。このままだと話したいことも話せず終わってしまいそうだから。

セレスティアは、今一度覚悟を決め直し、切り出した。


「…お父様、私は…きっと、王たる器では無いのでしょう」


「…私に似たんだ。私も、自分は王にはなれないと思っていた」


「それに私は…兄のように、力を得ようだとか、そういったことを考えたこともありませんでした。現状に、満足していました」


「つまり、今は違うと?」


セレスティアの言葉はどれも過去形だ。だからこその、問い。セレスティアはひとつ頷き…結論を、述べる。


「私は知りたいのです。兄が、何を思い、何を考えた末に…行動してきたのかを。だから…私は…」


1拍。


「────貴方を蹴落とし、王になります」


兄の真意を、セレスティアが目を背け続けていたことを、知るために。セレスティアはこれしかやり方を知らない。…まだ、知らないから。


────その剣を突き付けた。それに対し…


「これは…魔女殿の教育の賜物か?」


苦笑いで、現魔王(アルクトゥルス)は問いを重ねたのだった。



次でやっと締めれそう…

40話目!大分節目に近付いてると実感してます!ずっと見続けてくれている人には感謝しかありません!

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