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38話 兄妹喧嘩

なんか想定と違うんですよねぇ…?多分後2話ぐらい?

夜明けの森に、魔力の流動が巻き起こる。


「『天穹を裂き、自由の翼を広げる疾風の覇者よ。嵐の王冠を戴き、世界を駆け抜けよ!我が願いに呼応し、風の軍勢を伴い降臨せよ!上位風精霊エアリス・ゼピュロス!』」


若き青年の詠唱と共に、風が荒れ狂う。木々は当てられた風で騒めき、刃が葉を切り落としていく。

そうして道を切り開きながら…1人の只人が、地を踏み抜く。


「流石はセレスティア…魔力の扱いは1級品だな」


レオンハルトは風の精霊魔術に感知の魔術を重ねがける。これによって通常よりも探知の範囲が広まるのだ。魔力の消費も馬鹿にならないが。


「…そろそろか?」


決闘を初めて数分。恐らくは…レオンハルトの知っているセレスティアであれば…既に、策を講じている。


「『絶対零度(コキュートス)』」


「初手から!?」


咄嗟に飛行魔術を発動し、凍っていく地面から離脱を選ぶ。が…当然の如く、その先へと次なる魔術が張ってある。


灰燼の焔(プロメテウス)


「おいっ!だから火はダメだろ!」


大地から伸びてきた氷ごと、その炎は燃やし尽くし、レオンハルトへと襲いかかる。炎は進めば進むほど勢いを増していき…それは精霊王級の魔術へも匹敵する。


「クソッ…分が悪い!」


空中で身を捻り、なんとか直撃は避ける。あぁしかしせっかく用意してもらった服が焼けてしまった。

…今はそれどころでは無い。風の魔術で足場を作り、方向転換し一気に『そこ』へと突っ込む。


「一気に行くぞ!」


既に幾度と無い魔術の発動でセレスティアの位置は認知している。だから…レオンハルトはありったけの魔力を込めて不可視の刃をクロスに重ねて放った。


「っ…!」


「詰めが甘いんじゃないか?いきなり災害級の魔術を2つは…」


セレスティアはその魔力の弾に魔力をぶつけ抑える。しかしながらその競り合いこそレオンハルトの独壇場。さらに魔術を、魔力を重ねて加えていく。


「悪いな!妹相手に接待するほど優しくは───」


「誰が2つと言いましたか?1度…仕切り直しです」


2人の頭上に…魔術式が展開する。その魔術は…


「『天神の涙(カタクリズム)』」


大豪雨の魔術。2人は大量の雨に…水流に流され、再び大きく距離を離したのだった。



 * * *



その後も…泥試合だ。ひたすらレオンハルトが身を隠すセレスティアを探し当て、セレスティアが仕込んでいた魔術によってレオンハルトを迎撃する。

そして危険を感じたら互いに撤退…


(軽く10回はやったか?)


もう既に魔力は尽きかけている。セレスティアも間違いなく…消耗しているはずだ。

だから…


(そろそろ幕引きだろう)


次で終わる。その確信があった。

レオンハルトは1度足を止め…口を開いた。


「セレスティア!最後だろう?堂々と掛かってきたらいいんじゃないか?」


大地の脈動(ガイアパイモス)


返答は…恐らくは最後の、全てを掛けた一撃によって行われた。


轟速で岩の礫が天空から放たれ、更には立っていられなくなるほどの揺れが発生し体勢が────


「俺も…出し惜しみは無しだ!」


崩れない。寧ろ礫に向かって飛びながら、それらの迎撃を選ぶ。


加重式六元素複合魔術アッド・オルタナティブ


散々使い込んだ『加重』の魔術。レオンハルトは自身の全てを賭け…挑む。


「かくれんぼは苦手だったな…お前は。いつも我慢ができなくなって出てきてしまう」


先の魔術が全てなわけがない。だって…セレスティアの強みは…


連なるように展開されゆく『連結』の魔術。

魔族としての特性を活かした魔力の流れを1つの線として見るセレスティアだからこそ出来ることだった。


「『神怒の風雷(ゼラノウス)』」


「さっきぶりだな…!」


右手に尋常でない雷を纏ったセレスティアが…空中で礫を相手取っていたレオンハルトへと肉薄した。


「終わりです…兄様!」


「そう上手くいくと思うなよ…!」


決闘は、最後の攻防を迎えて────



 * * *



兄は最後と宣言した。セレスティア自身もそのつもりで…魔術に、魔力をより加えていく。


「終わりです…兄様」


触れただけでその身を焦がすほどの熱を持つ雷。

聞こえは単純だが扱いにはとてつもない計算がなされている。


魔術の腕だけなら、セレスティアの方が有利なのだ。

セレスティアは魔族だ。兄も魔族の血を引いているとはいえ、本質は人族と変わりない。


だからセレスティアの方が魔力の扱いも、魔力量も…兄よりも勝っている。


レオンハルトだって、それを分かった上で決闘に臨んでいるはずなのだ。


「そう上手くいくと思うなよ…!」


兄は身を捻り、セレスティアの手を躱す。されど纏った雷が…レオンハルトの身体を、燃やした。


「あがががががっ!!?」


「ちょっ!?え!?」


なんとか躱すのだろうと、そう確信していたセレスティアは想定外の出来事に困惑した。急いで魔術を止めなければと…込めた魔力を戻した、刹那。


「────隙あり」


「…ぇ?」


首筋に…掌が当てられた。困惑。困惑困惑困惑……後、理解する。


「化かし合いは苦手だよなぁ。お前も師匠も。だから言ったろ?詰めが甘いなって」


「…降参します」


初めから、この兄は正々堂々戦うつもりなど毛頭なかったのだ。



 * * *



魔女は椅子にふんぞり返り、足と腕を組んで…正座する2人を見下ろした。


「ねぇ、なんで私が怒ってるか、分かるかなぁ?」


「…」


「…」


返答はない。仮に何を言ってもここからの説教からは逃れられないと分かっているから。


「セレス、私ね…とっても、とっっても心配して…探してたんだよ?まさかこんな形で初めて家出されると思ってもなかった」


「っ…ごめんなさい」


まずは今回の騒動の張本にであるセレスティアに自身の想いを告げ…そして、レオンハルトの方へ向き直る。


「うん……で、レオン!探すのを任せたのは私だけどさ…なんで本気でやり合ってるの!?」


「妹の頼みに答えた故、仔細はそちらへ」


「…これはどっち?」


巧みな言葉に幾度となく騙されてきたフィーナはこういう時セレスティアを頼る。


「兄様も本気出してたじゃないですか!」


「それはそれ、これはこれだ」


「えっと、結局どっち…?」


しかし今のセレスティアはいつものように冷静ではなく、兄の口車に乗せられてしまっている。

だからかセレスティアプイッと顔を背け、もう何も言わないことにした。


「…」


「ふむ、そっぽを向いてしまった妹の代わりに言うのであれば…」


「あ、レオンはすぐに私の事騙すから聞きません〜!残念でした〜」


耳を塞ぎ、レオンハルトの声を受け付けないようにするフィーナ。そっぽ向いて口を効かないセレスティア。中々に珍妙な絵面である。


「…それズルいですよね」


「き〜こ〜え〜な〜い〜!」


「セレスティアがお師匠様ごめんなさい今日から1週間家事担当するので許してください!だそうです!」


「なっ!兄様!」


「え?ほんとに?」


セレスティアがようやく口を開く。フィーナの耳も都合のいいことは聞こえていたらしい。

家事だけと言えば聞こえはいいが学校の図書室レベルの蔵書量を持ちしょっちゅう散らかす人のいる家での家事…そういえば大変さは分かるだろう。


「師匠!これは兄様が勝手に…」


「じゃ、お願いね!」


セレスティアの言葉を遮り、肩に手をポンと置いて告げる。もうフィーナの中で確定してしまったためセレスティアがこれ以上何を言っても無駄である。

無駄であるが…恨みを込めて、レオンハルトのことをセレスティアは睨んだ。


「よかったな、単純な師匠で」


「…師匠!兄様が師匠のこと単純って!」


「…ふーん…レオン?そんなこと思ってたんだ」


「クソッ!裏切ったな!?」


「最初から仲間じゃない!落ちるなら道連れ!」


フィーナが立ち上がり…レオンハルトとの距離を詰め、やがて壁際まで追いやった。


「いけないんだよ、師匠のことそんな風に言っちゃってぇ」


「…師匠」


グリグリと、おでこに人差し指を押し付けながらの注意。フィーナは精一杯、威厳ある師匠の顔をする。


「その顔で言われても威厳も何も無いですが…はい、そうですね…今後は気を付けますよ」


「…分かればよろしい」


セレスティアは困惑した。いつもであればもっと厳しく指導すると思うのだが…

その疑問の答えはすぐに出た。


「全く…ただでさえ1日使いの人を待たせてるんだからね、レオンは準備出来てるの?」


そうだ。色々あったから忘れていたが…レオンハルトは人族の街へと向かうのだ。


「滞りなく…と、言いたいところですが」


チラリと、視線がセレスティアへ。


「少し、セレスティアのわがままを聞いても?」


「あー…うん、そっか。そうだね。きっと最後になるだろうし、お互い後悔しないようにね」


「ありがとうございます」


セレスティアはこの時改めて実感する。もう…別れの時間は始まっていたのだと。








師匠やってるフィーナちゃん書くの楽し過ぎてぇ…


レオンハルトもセレスティアもどちらも魔術の才能は半端じゃないです。ただ種族柄セレスティアの方が有利であるって書いただけで。

セレスティアの使っていた魔術は精霊を介さない純粋な元素魔術の最上級のものであり全属性を再現出来る人間はあまり居ません。つまりやばいってことです。

ちなみに魔術の名前は語感と字面のカッコ良さだけで考えたので深い意味はありません

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