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4話 教え上手な賢い弟子

本作の『』の文言は基本的に独自の設定だったり魔術の詠唱を意味します。


――――私とエマは、平原…ひいては結界の中にて睨み合っていた。

今はバール村へと向かう途中、一日目の野宿を終えた後の朝である。朝一で起こされたと思えば準備体操がてら魔術の訓練を久々に見てほしいということで模擬戦をすることになったのだ。


「…では、参ります」


「いつでもどうぞ」


さて…どれだけ強くなったのかな。


「『紅蓮の王座に座す不滅の暴君よ、焦土を灼き、業火を纏い、怒りと共に顕現せよ。火精霊イフリート・ヴァルカン!』」


エマの柔らかい声による詠唱。その詠唱と共に、無数の火の弾が展開される。

今のは精霊魔術。契約精霊の力を借り、六大元素の魔術の効果を高めるのに一般的には使われる。

これが仮に一般的なものであるなら…反対の水の魔術で抵抗するのが正しいが、これは最上位の『精霊王』の魔術である。その炎は流水すらをも蒸発させ、全てを破壊し尽くす。そのため、私は…


「『深淵よ、応えよ──ウンディーネ・ラグナ』!」


私も、精霊王の魔術で相殺する。他にも方法はあるが…これが最も地力の勝負になる。


「っ……相変わらず…精霊魔術を短縮詠唱(クイックスペル)出来るなんて…規格外過ぎます…!」


「分かってて地力勝負挑んだんでしょ。まさか無策とは言わないよね?」


「当然!です!」


いつの間にやら、エマは私の背後に回っていた。魔術師なのに随分とアクティブなものである。

魔術式の痕跡的に風の魔術を応用した移動…ってところかな。


「『光の封鎖シャイニング・チェイン』」


「…ふーん」


背後から私の全身に光で出来た鎖が縛り付く。おっ…これ凄いな…封印術式も混ぜてるじゃん。これじゃあ確かに、魔力は上手く使えないし、物理的な抵抗も縛れるね。


「どうですか師匠!動けないでしょう!」


「そうだね。うん。よく出来てる。」


精密な魔術式だ。多分エマ自身で考えたものだろう。少なくとも私の知る術式じゃない。でも、こういう緻密な魔術式っていうのは…


「じゃあ…」


「でも私相手には、悪手じゃないかな?」


膨大な魔力をぶつけることで壊れるのだ。一気に身体の奥底から力を開放し…その術式を破壊した。


「あ――――」


「70点」


すぐさま振り向き…私は魔術を放った。使ったのは当然…


「うぐぅ……」


「いいね、これ」


エマの使った封印の魔術。それによってエマの肉体を縛った。エマはもがくが…エマと私の魔力量の差では当然、抜け出すことは出来ない。


―――この模擬戦は、私の勝ちである。



 * * *



模擬戦を終えた私達はルカの作った朝ごはんを食べながら反省会を始めた。


「師匠を倒すなら封印魔術ぐらいしか無理だと思っていたんですけどね…」


「ま…それに関しては正解だけど相手が悪かったね。でも抜け出せないって確信したのはダメだねぇ。あそこで畳みかけるべきだったしもし抜け出して来たら次はこうするって決めておかなきゃ」


「はい。ご指導、ありがとうございます」


「でもでも、あの封印魔術はよく出来てるよ。あれなら竜とかにも通じるだろうね。それに私の背後を取った風の魔術、痕跡が上手く残りにくいようにしていたのも悪くないかな」


しょんぼりしているが、私だって師匠としての面子があるのだ。まんまと負けるわけにはいかなかったしなぁ…

ま、年季が違うのよ年季がね。


「でも…通用しませんでしたよね?それにあの封印魔術も当たる前に師匠なら防ぐか反射結界ぐらい仕込めるでしょう?」


「お……それに気付いちゃうかぁ…うん、優秀なエマちゃんには20点を追加しましょう」


さっき言った70点で90点だ。流石私の弟子。ご褒美に頭を撫でてしんぜよう。

ふむ…エマの髪、サラサラしてて触り心地がいいなぁ。それにいい香りがするし…


「あの、師匠…私、もう子供じゃないので…」


「あ、そっかそっか…」


うーむ…嫌そうならやめるか。ならばどう元気づけようか。


「あっ……えっと、採点が甘すぎると思います…それに戦闘中に気付けなかったので…」


…ぶっちゃけわざと相手の攻撃に当たりに来るような馬鹿は世界中探しても私しかいないから、当てさせられたって気付けないのは無理もない。そもそもの身体スペックが違うのだから。


「私がいいからいいの。それにエマ、貴方は私にできないことを出来てる。それだけでも凄いことなんだよ。もっと自信を持って!」


「そうであります!おねーさんの魔術、とってもきれいでした!」


ここで配膳していたルカもようやく会話に入った。ルカの言葉か、私の言葉かどちらが効いたのかは分からないが、少しエマの険しい表情が柔らかくなった。


「……はい!」


よし…ようやく元気になったかな。美味しいごはんを食べてるときに暗い雰囲気じゃ気が滅入るからね。


『ふわ……もう朝か…なんかいい匂いするな…』


スープにパンを浸しているとようやくモチが起きてきた。全く、寝坊助なものだ。


「何かいる?モチ?」


『うーん…あんまり腹減ってねぇや』


「そっか。珍しい」


いっつもはバクバクと何でも食べるのだが…これは今日の天気は雨だね。


『なぁんか…この辺、魔力が多すぎる気がするんだよな』


「へぇ?」


少し、気になることが聞けた。モチはカーバンクルであるため魔力によって生きている。普段食事をしているのは食材に宿る僅かな魔力を蓄えるための行為…らしい。だから魔力濃度の高い場所ではあまり食事は必要ないというわけだが…


「…ただ魔物が出たりしただけじゃ調査とは言わないよねぇ…」


「はい。まぁ、私の口で説明するよりは実際に見てもらった方が分かりやすいと思うので。」


エマは何か知っているな?ま、とにもかくにも現地へ行かなければ話にならないのだ。さっさと朝ごはんを片付けて向かおうではないか。


「…めんどくさくは無いんだよね?」


「さぁ、それも見てのお楽しみです。」


やる気になっていたのを削ぐのやめてよ!



 * * *



移動には少しの徒歩と飛行魔術を扱う。これも修行の一貫だと、ルカにも飛行魔術を使わせ皆で同時に移動するようにしていた。


「ルカ、安定してないよ。もっと堂々と胸張って。」


「はっ、はい!」


私が指摘するもルカは中々安定しない。一応魔術が仮に解けても落ちないように仕込みはしてあるが…どうにも飛ぶのが怖いように見える。


「魔力は全身に等しく流すようなイメージで…そう、前を向くと怖くないですよ」


「わっ…ありがとうございます!おねーさん!」


見かねたエマがルカの身体を支えながらアドバイスをする。うんうん、弟子同士仲良く助け合ってて…いいね。というか教え方上手いな。すぐに安定したじゃん。


「おねーさんや魔女様はなんで杖に乗っているですか?」


暫く進んでいると私とエマを見てルカが言った。ふむ、ようやく気付いたか。少し余裕が出来たかな…?

私は先端に宝石の付いた私の背丈ほどある長い杖に横乗りに、エマは少し古風な柄の杖に跨っている。


「これはね…」


「杖は魔力を安定させ効率よく扱うためのものです。これがあるとより長い時間安定して魔術を扱うことが出来るんです。」


…私の説明がぁ


「…魔女様、僕は使っちゃダメなんですか?」


おっ、これは是非とも私が説明


「ふっふっふ…それはね…」


「ただの魔術なら構いませんが、飛行魔術はオススメ出来ません」


ちょっと!私に説明させてよ!?


「どうしてですか?」


キラキラした目でエマへと尋ねている。…もうルカがいいならいいや。

あーあ、師匠ちょっと今不機嫌だよー?


「飛行魔術は自身へ魔術を付与する、付与魔術であることは分かりますね?」


「はいっ!教えてもらったです!」


あー…だめだガン無視だわ。師匠悲しいなぁ…

師匠なんだから頼ってくれればいいのになぁ。


「よろしい。…付与魔術は自身への付与は今のように簡単ですが物質への付与はそうも行きません」


「…?」


「この杖、長さはどれぐらいあるでしょうか?そして重さは?全体の構造は?それらが分からなければ付与魔術は起動しませんね?」


「…なるほど、です!でもじゃあ、僕はなんで飛べてるですか?」


当然の疑問だね。よしじゃあここは私が


「初めに魔力の流れを覚えるでしょう?そこから飛行魔術の魔術式で自動的に導き出せるようになっているのです」


うん、分かってた。いい説明だね、とっても分かりやすいよ。


「それがこの部分で」


「魔術式、すごいです!」


「ちなみにその魔術式を組んだのが師匠です。」


「魔女様はすごいです!かっこいいです!」


…なんと、なんともまぁ、とても満たされる感覚である。まさか最初からこれを狙ってたの…?すごい、うちの弟子凄い…


「そうでしょ。えへ。これはね、一応初心者用でね…」


魔術を教えるのは楽しいなぁ。私の知見も広がるし復習にもなる。いい事づくめだ。




「師匠…多分ルカ君まだその部分話しても理解できませんよ。」


エマは知っていた。自分の師匠が…教えることが下手だと言うことを。

だからこそどう師匠を立てるべきかを考え実行した。


「ま、師匠が楽しそうだし…いっか。」


結局、エマにとっての1番はフィーナなのである。それは今も昔も…変わっちゃいない。



 * * *



休憩を挟みながらほぼ一日中飛行魔術を使い、夕方にようやく私達は目的地へと辿り着いた。


「エマさんとそのお連れさんですね。いつもありがとうございます」


「いえいえ、これも依頼なので」


「今は何も無い村ですがどうぞごゆっくり」


「はい。ありがとうございます」


門衛と話していたエマが私達の方へ戻ってくる。会話が聞こえていたが…今は何も無いとはどういう事だろう?


「師匠、行きますよ」


エマに連れられ、今日泊まる宿まで歩いた。今日は宿に泊まって、明日から以来の内容に着手する予定だ。


「ふぅ……やっぱり普通の宿屋の方がいいね…」


あれはあれで良かったが…やっぱり質素な感じの方が落ち着くんだよなぁ。


「師匠、お夕食はどうしますか?」


「お腹空いてるし、せっかくならこの村の特産物とか食べたいな」


「あー……それだと……」


何やら歯切れの悪い返事が返ってきた。え…何かあるの?


「魔女様、おねーさん、この村は甘味が有名だと聞き及んでいます!」


「へぇ…」


流石はルカ。しっかりリサーチしてるね。

それにしても何をそんなに悩んでるんだろう。


「…実際に見た方が分かると言ったのは私ですし、分かりました。案内します」



 * * *



「こちらチョコケーキになります。あの……美味しくなかったら、残していただいて構わないので…」


申し訳なさそうに店員が言った後、去っていく。

…見た感じ、とても美味しそうだが…


「いただきまーす。」


チョコで覆われた見るからに甘そうなケーキを、口に運んだ。

何故かエマや店員の反応がちょっとおかしかったので身構えていたのだが…


「美味しい…?ん?あれぇ…?」


最初は、甘味を感じた。しかし途中からどんどん苦くなっていく。何これ!?


「ミルクミルク!」


「魔女様!大丈夫でありますか?」


さっとミルクを差し出しルカが心配そうにこちらを見た。まだルカは手をつけてない…ね。


「…ごめんちょっといい?」


少しだけルカのケーキを貰い…口に運ぶ。やっぱり、同じ味がした。


「………なるほどね。」


「えぇ、そういうことです」


…見た方が分かるってこういうことか。

これが何の調査なのか…ようやく、理解したよ。


「甘い物が食べられないなんて冗談じゃない!調査!するよ!」


声高らかに宣言し…本格的に、バール村の調査が始まった。



※余ったケーキは全部モチが食べました。


〜設定紹介〜

精霊王…最上位の精霊のこと。上位、中位、下位の精霊を統べる。六大元素それぞれに存在する。

不死王…それはかつて、人も、天も、魔も、獣も、全てを震撼させた絶対的力を持った王。色彩の魔女により封印された話は今やおとぎ話になっている。

不死王の呪い…不死王の持っていた呪い。不死に関する力を持つと考えられるが全ては判明していない。

短縮詠唱…いわゆる魔術の詠唱の省略です。基本的には精霊魔術は短縮することはできませんがフィーナは少し使い方が違うので出来ます。

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― 新着の感想 ―
フィーナとエマの模擬戦は凄かったし、師匠の面目躍如ですね。 (・∀・) でも、ルカを取られてしまわないか心配でもありますw (´ε`)
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