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36話 強さを求める理由

今回から一区切り、本当はもっと早い段階で差し込むべきだったものをやりまふ……


カラカラ……カラカラ……



馬車は帰路を辿り、揺れの中で寝息だけが規則正しく重なっていた。

その静けさの中、目を閉じていない者が二人だけいる。


「……お助け頂き、ありがとうございました」


低く抑えた声に、セレスティアは視線だけを向けた。


「いいえ。寧ろこちらが、巻き込んだ側ですから」


それ以上、言葉は続かなかった。互いに気心が知れている訳でもない。

気まずさからか、エマの視線は無意識のうちに眠る少女へと向いていた。


(────ちょうど、聞きたいことがあったんですよね…)


エマは小さく息を吸い、口を開く。


「……あの、少々お聞きしても?」


「構いませんよ」


「では……何故、アルセリアはここまで強さに拘るように……もっと言うなら、どうして一人きりで強くあろうとしたのでしょうか?」


「……」


すぐに答えは返ってこない。馬車の揺れだけが、答えの代わりに続いた。

そうして数分が経った頃、ようやくセレスティアは口を開く。


「私の……昔の話を交えますが、それでもよろしいですか?」


長考によって出された答えがそれだった。エマに断る理由は無いため、ゆっくりと首肯した。


「では…」


────こうして語られるのは、人族と魔族の諍いの歴史から産まれた少女の物語だ。



 * * *


 * * *


 * * *



時は遡り、凡そ300年程前。人族と魔族の間で戦争が勃発しました。

原因は領土問題、そして魔族に対する権利である。


この頃から人族の村に魔族が住んでいることは多々あったものの、いずれも強く迫害を受けていた。

理由は……分からない。強さを秘めし者として恐れたのか、自分たちと違う容姿に気味の悪さを覚えでもしたのだろう。

人というのは、いつだってそうだったから。


そんな現状を憂いた3代目魔王、魔王『イテラ』ことアルクトゥルス・フォン・ノクティスは魔族を守るべく、帝国と王国へと戦争を仕掛けたのです。


当時はまだ魔族の特性や技能が知られていなかった分、人族は次々に撤退しやがては帝国と王国の間を分断するまでに至りました。


ですが人族も負けてばかりではいません。人族というのは知恵を絞り生き抜いてきた種族。初めは驚くものの次から次へと対策を立て、果敢にも挑み続けました。


このような戦争が50年もの月日、繰り返されたのです。


生まれた子供が戦場に立ち、その次の世代へと引き継がれるほどに。



 * * *



転機が訪れたのは戦争が始まってから50年が経った時のこと。


この日も、互いに攻勢を仕掛けようと策を練っていました。ですが……


戦場に、1人の魔女が現れたのです。


魔女は言いました。


「やるのは勝手にしたらいいけどここでやらないでくれる?せっかく植えた花がダメになるじゃん」


緊張感のない言葉に、魔族も人族も怒りを覚えます。

一体どれ程の想いで、決心で、ここに立っているのかと。馬鹿にされたような気分でした。

その怒りのまま、魔女へと挑み……


無惨なまでに、敗北したのです。


「喧嘩両成敗。もうこの際だしやめにしたら?というかやめて。毎日うるさい。」


魔女は悠々自適に両間の王へと問う。

2人の王は目を見合わせ……やがて、魔族の王が口を開いたのです。


「我々は、剣を納めます。もう、魔族の思いは充分伝わったでしょうから」


こうして戦争は終わりを迎えたのです。

両国には和平条約が結ばれ、その印として3代目魔王へと王国王女が嫁ぐことになったのです。



 * * *



王国王女が魔王へ嫁いでから3年後、夫婦の間に子が産まれました。


────双子の、男女です。


男の子は魔族の血を全く感じさせない、金髪青眼。

対し女の子は魔族の血を色濃く表した角と、褐色の肌。


なぜそのようなことになったのか今でも原因は分かっていません。ですが間違いなく2人の子であり、王族の血を引く子供でありました。


「アルク、見てちょうだい。可愛らしいでしょう?」


妻が、そう言っていた。だが……アルクトゥルスは、子供を見て何も言えなかった。

不安で、押しつぶされそうだったのだ。


この時から、魔族の本能的な部分が、不安を訴え出した。


─────この子は強くなるのだろうかと


魔族は……魔王は、強くなければならない。

だが目の前の子供は……魔族であり、人族だ。


自分では育て切れない、そう確信を持ったアルクトゥルスは……自身のプライドをも捨てて、魔女を頼ることにしたのだ。



 * * *



その大きな背中にまだ赤子である双子を背負った男は緊張した面持ちでその扉を見据える。


何の変哲もない、木材でできた小さな家。そこに……件の魔女がいる。


あの戦争以降、魔女に会うことは無かった。自分は魔族であるため当然と言えばそうだが……


何はともあれ、ある種の恩人なのだ。しっかりせねばと咳払いをした後、扉越しに声を掛ける。


「ごめん頼もう!魔女殿はいらっしゃるか!」


…………反応は無い。留守なのだろうか。


「しばらく待つか……すまないな、レオンハルト、セレスティア」


コロコロ変わる表情を不思議そうに見つめるレオンハルト。少し伸びてきた髪を引っ張って遊ぶセレスティア。それぞれ双子でも個性がある。


泣かれないだけマシ、そう妻に何度も言われてるためそれを止めようとはせず禿げないことだけ祈っておく。


「あーうー」


「きゃぁきゃぁ」


……本当に自身の髪が心配になってきた頃合い、家の中から物音が聞こえた。


ドタバタドタドタ……ガッシャン!


・・・ガチャリ、と扉が開かれる。


「うるさい!今何時だと思ってんの……」


明らかに寝起きだと分かる寝巻き姿の少女が、扉から顔を覗かせ……アルクトゥルスの顔を見た瞬間に扉を閉めた。


「魔女殿……あっ?」


早すぎて何が起きたのか分からなかった。こういう時、もう一度呼びかけても良いのだろうかと思案する。


『客人だろ?さっさと出てやれよ』


「いーやーだー!絶対面倒事だもん!!」


扉の奥から少女と男が言い争う声が鳴り響く。

どうやら魔女は一人暮らしではないようだ。


「面倒事……ではあるか」


魔女からすればいい迷惑だろうが、こちらも引く訳には行かないのだ。

今一度話し合いの機会を得るべく、扉をノックする。


「急な訪問、申し訳ない!私は3代目魔王アルクトゥルス・フォン・ノクティスである!ここに魔女が住むと聞いたのだが…」


「……」


聞こえてはいる。先程は寝ていたから出てこなかった訳だが今は……完全な居留守である。


「話だけでも聞いて貰えないだろうか!決して損はさせないと、誓う!」


「……ぇぇぇ……」


すごく、物凄く面倒くさそうな溜息が、ドア越しでも聞き取れた。

これは……ダメかもしれない。


「仕方ない……せっかく菓子折りを買ったのだが…レオンハルト、セレスティア、後で共に食べようではないか。母上には内緒だぞ?」


「あーぃー」


「あぅあぅ」


1度出直そうと、踵を返して……


目の前に、少女が立っていた。


「ま、まぁ?聞くだけ聞いてあげるよ」


まさかとは、思っていたが……先程の寝癖の少女こそが、この森に住む魔女だったのだ。


「む……?そうか」


なぜ急に心変わりしたのだろうか。疑問に思いつつ家へと入っていく少女へと着いて行く。


その途中


キュゥゥゥ……


と、頼りない音が少女のお腹から鳴ったのだった。



 * * *



「いやぁ……君、手土産選ぶセンスあるね」


モシャモシャと、アルクトゥルスの持ってきた菓子を食べながら言う。随分と気に入ったらしく、次から次へと手に取る。


「そ、そうか……なら良かった」


「ん…………甘いもの補充完了。で、話って?お茶1杯分なら聞いてあげるよ」


そう言うと……茶器が、ふよふよと宙を舞ってテーブルへと降り立つ。


さらにはお茶さえも、勝手に淹れられる。


「味は保証しないよ。嫌なら飲まないで」


「ありがたく頂こう」


アルクトゥルスが1口啜る。確かに可もなく不可もない味だったがわざわざ伝えることでもないだろう。


「……で、わざわざ魔王様が私みたいなのに何の用?」


どう話を切り出すか迷っていたところ、ズバリと魔女が切り開いた。


「あ、あぁ……そうだったな。用件だったな」


色々考え過ぎて口調も態度もおかしくなっている。魔女の目はジトリと奇妙なものを見る目になっていた。


「魔女殿…」


「ごめん、話の前に……そんなに緊張されるとこっちまで息苦しくなるから、まずは自己紹介、いいかな?」


なんという気遣いだ、とアルクトゥルスは感銘を受けていたがただ単に当の本人がこういった空気が苦手だったということは言うまでもない。


「私はフィーナ。フィーナ・レインヴェル。魔女をやってて……今700年目ぐらい?」


「700…」


魔女であるから、当然見た目そのままの歳で無いことは想定していた。ただ、自分より圧倒的に幼く見えるフィーナに対してだとやはり、違和感が残る。


「……何、そんなマジマジと見て……」


「い、いや……何でもない」


「そう……で、君は?名前なんだっけ?」


さっき家の前で名乗ったはずなのだが……既に忘れられているらしい。


「3代目魔王『イテラ』、アルクトゥルス・フォン・ノクティスである」


「……覚えにくいからアルクでいい?」


……まさかのまさか、妻と同じことを言うではないか。正直覚えにくさは自覚しているのでアルクトゥルスは頷いた。


「で、アルクは私に何の用なの?掻い摘んで、分かりやすく端的に教えてくれると助かるかな」


面倒臭い説明は要らないから要件だけ言え、遠回しにそう言われたためアルクトゥルスは少し考えた後、口を開く。


「私の子供の面倒を見て貰えないだろうか」


「はぁ?」


意味が分からない、そういった様子だった。

それも当然だ。わざわざ魔王ともある立場の者が遠路はるばるここを尋ねたというのに要件はベビーシッターである。


「……掻い摘んでみたつもりなのだが…」


「分かりやすくが抜けてる。子どもって……その今にも落ちそうになってるやつ?」


「なっ」


アルクトゥルスが振り向けば髪にぶら下がり今にも落ちそうになっているセレスティアが…


安全に下ろそうと動く。しかしただそれだけの動作でさえ赤子には凄まじい力が働く。


「しまった!」


小さな手が離れ、落ちそうになるセレスティア…


しかし床に着く直前で、セレスティアの身体は宙に留まった。


「2人いるから大変なのは分かるけど、目を離しちゃダメでしょ…」


当然それをやったのは誰か、言わずとも理解した。


「……魔女殿、すまぬ」


「別に、これぐらいはいいけど…」


ため息を吐きながら、アルクトゥルスの手元へとセレスティアをやる。


「…はぁ…もう、端折ったりしなくていいからなんで私の元を訪れたのか、もう1回最初から説明して」


そして、呆れたようにアルクトゥルスへと告げたのだった。







こんな感じのが後2話程続くはずです!

次でまとめれたらいいんですけどね!

ユーリ君みたいに1話で終わるほど浅くないのが難しい……

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