33話 不可逆
投稿遅れて申し訳ありません…!後初めてレビュー頂きました!ありがとうございます!
「…っ……はやっ────」
言い切るよりも早く、魔術によって空間が爆ぜた。
「『〜〜〜』」
偽フィーナの詠唱は無い。ただそれらしく口を動かした後、魔術が発動しエマとアルセリアへ襲い掛かる。
「広範囲爆裂魔術っ…」
冷静に、素早くエマは使われた魔術を判断し…対応策を考え実行に移す。
着弾し、起爆するよりもエマの防御魔術の方が…早かった。それは間違いではない。が…
「っ…フェイクに…同時発動…それも、短縮詠唱で…?」
幾らか防御魔術は空振り、更には遅れて内側へと魔術が放たれた。
「『〜〜』」
「…全然、全力じゃなかったわけですか」
エマは、理解した。あの日…フィーナは全力ではなかったのだと。
本気で向き合ってくれたのは間違いないだろうが。
考える間もなく…次へ次へと魔術が連続する。それら全てが高度な計算によって、精密にエマを狙って追従する。
「いい加減、受けてばかりではダメですね」
アルセリアが居るから…巻き込む危険や離れる危険性を加味して防御に徹していた。だがそれでは…一方的に消耗するだけなのだ。
「ネクシア!」
敢えてエマはアルセリアではなくネクシアと呼んだ。
それは彼女の背負う責務を今一度思い出させるため。
「っっ…エマ!なんじゃ!」
「正面、敵はフィーナ・レインヴェル!私が、引き受けます!」
ただそれだけ、簡潔に伝えた。当然アルセリアは困惑で一瞬固まった。
「私に全てを預けるのでしょう?先へ進みなさい!」
「っ…後は任せた!」
エマの言葉を聞いて、アルセリアは偽フィーナの居る逆方向へと駆け出す。当然それを見逃すはずはない。
そう、エマは確信していた。
「一瞬でも隙が出来るでしょう?」
早口で風の魔術を詠唱し…透明な刃が、フィーナへと飛来した。
普段であれば当然、防御は間に合った。だが…アルセリアを追っていた今ならば
「…?」
「…再生はしないみたいで、安心ですよ」
風の刃は偽フィーナの左腕を切断した。
もしこれが、本物のフィーナが相手ならば…すぐにでも再生が始まっているが偽フィーナは違うようだ。
「これで、私も本気を出せますよ…」
偽フィーナは自身の腕を見て…立ち止まり、そして…エマの方を向いた。アルセリアを追うことは止めたらしい。
「…」
「さぁ師匠。手合わせ、お願いしますね?」
返事は無い、無論言葉も通じていないだろう。
だからお互いそれ以上は何も言わず…魔術の応戦を始めた。
* * *
アルセリアは、先の見えない道を駆け出した。
「…っまた引っ掛けた…」
頼っているのは覚えている『不死王の眼』の呪いの魔力と…その声。
つい先程…襲撃に会う前、エマが言っていたことを思い出しいっそ従おうと考えたわけだ。
…それしかやりようが無かったとも言えるが。
そのせいもあってか木の幹につまづくわ、小枝に服を引っ掛けるわでかなり不便を強いられている。
「どれだけエマに助けられていたか…よお分かるの…」
そのエマは今フィーナと戦っているらしい。その口ぶりから…本人ではないことは分かるが、余裕が無いのは分かっていたためアルセリアは1人離脱を余儀なくされた。
「…ここまで呼んでおいて、前回のようになったらマジで許さん…」
…かと言って、既に平和的解決などありえないが。
「っ…だぁぁ〜…もう、見えないって不便過ぎる…」
自分が今どんな姿で、どれだけ傷付いているのか、それさえも正確に測れない。不便で、仕方がない。
────コッチダヨォ
「…進む方角は間違っとらんみたいじゃな」
不愉快な声だが確実に、近付いているのは間違いない。果たしてこれが罠かどうか…それが、問題である。
仮に罠だったらアルセリアは…
「1度我は『見た』んじゃ。無策とは思うなよ…」
前回を経て…最悪を乗り越えて、ようやく…考察をしたのだ。
本来ならば獲物として食われて終わっていたのかもしれない。が…今回は、2度目がある。
それがどれだけ有難いことか。
「…何も解決しとらんのに…笑えてくるのぉ…」
きっと1人ではそうはならなかっただろう。
絶望して逃げ回るか泣き喚くかしている頃合な気がする。
「エマ…待っとれよ…」
アルセリアは枝に引っかかっても、木の幹に躓いても止まらなかった。
ひたすらに、歩いて、歩いて、歩いて…
やがて、開けた場所に出た。
────ア、オカエリィ?
耳障りな声が、頭の中で呼応した。
* * *
エマは……本気で、全力で思考と行動を開始した。
風が渦を巻く。不可視の刃が周囲に展開され、同時に空気の壁がエマの前面を覆った。
視界に映るのは、森を抉るほどの魔力反応。偽フィーナの周囲で、大地が唸りを上げる。
「……来る」
次の瞬間、地面が砕けた。引き剥がされた岩盤が、圧縮され、豪速球のような速度で射出される。
「広域────質量型……!」
直撃すれば防御ごと吹き飛ぶ威力。だがエマは避けない。
風圧が正面からぶつかり、岩塊の軌道が僅かに逸れた。同時に、不可視の刃が放たれる。
偽フィーナは刃を止めるため、魔力障壁を展開した。
────今。
エマは岩塊に刻まれた術式を一瞬で読み取り、掌を返す。
「……もらいました」
主導権を失った岩塊が、空中で反転する。
唸りを上げながら加速し、偽フィーナへと叩き返された。
…直撃。
爆音と共に、土煙が舞い上がる。
「……本体性能は、師匠そのまま。でも…」
煙の中、風が走る。偽フィーナだ。風の魔術で既のところで脱出したのだ。そして、そのままエマの元へと風に運ばれ…
エマはそれを見逃さなかった。追撃で仕込んでいた魔術を放つ。
空気そのものが刃となり、偽フィーナの左半身を切り裂いた。
腕が落ちる。肉ではなく、魔力が弾けるように霧散した。
「…やはり、魔力でしょうね」
エマは静かに息を整える。
恐らくだが…有効な魔術が浮かんだ。
そして相手はフィーナでありフィーナではない。
決して殺せぬ相手ではないのだ。
だから…エマは疑惑の中、決定打になりうる一手を放つ。
魔力が集束し、偽フィーナの輪郭が歪む。
「『魔力吸収』』」
空気が、吸われた。
魔力で形を保っていた偽フィーナの身体が、不安定に揺らぐ。 表情が歪み、初めて明確な“感情”が浮かんだ。
「……っ!?」
その瞬間。
爆発的な魔力衝撃が、至近距離で解放される。
視界が白く弾け、エマの身体が宙を舞った。
* * *
────呪いは、怒りに燃えていた。
────ドウシテ。
────ドウシテ、ウマクイカナイ?
最も強いとされる姿に、不意打ち。得意とする領域。
条件は、揃っていたはずだ。
それでも…目の前の女は、倒れない。
────ナンダ
────ナンナンダ、オマエラハ
胸の奥が、焼ける。
初めて感じるこの熱の名を、呪いは知らなかった知る由もなかった。
だが────
身を委ねればいい。それだけは、分かった。
────魔力を解き放つ。
────呪いを溢れさせる。
────考えることを、やめた。
────アァ……
────ナントイウ、カンカクダ
怒り。破壊。蹂躙。
呪いは、この瞬間────暴力の快楽を、覚えてしまった。
* * *
アルセリアは、声のした方へと顔を向ける。
「ただいま…とでも言うと思ったか?」
────アハハァ、ソッカァ
相も変わらず耳障りな声だ。1度アルセリアを殺しかけといてよく言えたものだ。
「……今回は、大丈夫か」
前回の…3日前は、ここに足を踏み入れた瞬間に全てが始まり、終わったのだ。だが、今は…
「エマの予想が当たった…んじゃろうな」
ここへ来る前、事前情報を照らし合わせ考察はしていた。
当然だが無策で来てダメなのは分かっていたから。
「やはり、『目を合わせる』ことか?」
────アレェ?ア、ソッカ。キミカァ
最も有力だったのがそれだ。他にも一定以上魔力を吸い込むだとか、様々な予想を立てたがやはりこれが1番しっくり来る。
「間抜けじゃのぉ。うぬらが我の視覚を奪ったから…ぐ…?」
何か…身体に違和感を感じた。固いものを無理やり流し込まれたような、そんな感覚。
────マヌケジャナイヨォ。ドウセシヌカライワナイケドネ。
その感覚は腹の奥と…見えない、眼から広がっていく。
鈍い痛み、されどそれはすぐに止み固まっていく。
「……だから、そういう儀式なんじゃな」
アルセリアは、その支配の最中でも思考を止めなかった。…寧ろ、今のアルセリアに出来ることはその程度なだけだったかもしれないが。
────ナニカ、ヘンダネェ?
「いや何……恐怖していたものが存外大した事なくての」
ニッと、口角を上げてアルセリアは声の方へと告げる。
「今からお主”ら”を封印してやる。帰り支度を済ませるんじゃな」
────モウスコシ、アソボウヨォ?
誰が遊ぶかと、心の中で呟きながらアルセリアは手を天高く掲げた。
「────我は魔王ネクシア」
『魔王』による詠唱が、始まった。
エマと戦っているのが右目、アルセリアと相対したのが左目です。前回キレていたのも右目です。
多分おそらく後1,2話で試練編が終わるはず…
シリアスな雰囲気書くの難しいんですよねぇ…




