32話 双対
最近投稿ペース落ち気味で申し訳ないm(_ _)m
無理なく続けるのが1番なので……
────呪いは、目を覚ました。
身動きを封じる虹の光が弱まったのだ。当然の摂理である。
『オナカスイタナァ…』
甘美な夢を食べたから余計に空腹が辛く感じた。だから、だから、だからだからだから…
その呪いは、強く、強く……願った。
────ホシイヨォ
ただ、それだけを。
* * *
話を終えた2人は再び、ショウシアの樹海へ向かった。
既に街中の人々は別の都市へ避難し人気は無い。さらには普段ならば魔物が大量にいるはずの道中さえも、静けさに包まれていた。
「エマ、大丈夫かの?」
「えぇ……なんとか。師匠のブローチは機能しているので以前同様、しばらくは動けるはずです」
エマは胸元のブローチに視線を向けながら答える。その輝きも、放つ魔力も健在である。
ただ問題があるとすれば、その呪いを纏った魔力の塊が道中にさえ見受けられるようになったことだろう。
「……道理で魔物も居ないわけです。全て…死んでいる」
「死にかけの魔力の塊が見えるんじゃが…」
「はい」
森に近づけば近づくほど、魔力濃度は濃く…魔物の死骸が増えていった。
先日訪れた時よりも遥かに呪いは強く、その影響を拡大させている。
「…先を急ぐ」
「えぇ…そうですね」
少し早足で、エマがアルセリアを先導するように歩き出す。
進んでいく中、二人の間に言葉は無かった。それは、ここまで来る道中で既に言葉は尽くしたからだ。
数秒、数分…数時間にも思えた二人きりの行軍。
やがて…先を歩いていたエマが止まったことでそれは終わりを迎えた。
「…ここが入口…の筈ですが」
「……どういうことじゃ?」
「…魔力の塊が壁を作っています」
アルセリアが困惑の色を浮かべて正面を見れば……確かにそこにそれはあった。
きっと辺りの魔力が濃すぎて気付くのが遅れていたのだ。このまま進んでいたら恐らく…
「…どうするんじゃ、エマ」
「ここまでなっているのは想定外でしたが…」
「最悪、我が魔術を…」
「ダメです」
エマは、アルセリアのその提案に首を振った。
「それだけは…今は、ダメです。今回の試練のため…アルセリアさんの魔力、体力は温存しておくべきです」
「じゃあ…」
「…私に任せてください」
エマは今一度…正面の魔力の塊を見据える。そして…杖を顕現し、魔力を込めた。
そして…柔らかい声音の詠唱を始める。
「『天蓋の彼方に在す純粋なる光の御子よ、全ての闇を焼き払い、聖なる輝きと共に降臨せよ———光精霊ルミエル・ソレイル』!!」
光の粒子が、杖から無数に放たれ…形を作る。それはやがて大きな波となり呪いの壁とぶつかり合った。
最初はびくともしなかったそれは……いつしか無数に増え続ける光に呑まれ、消滅した。
「……属性が闇であることは分かっていたので…なんとか…いけましたか…」
「エマっ…」
エマは地に膝を突く。額に汗が滲み、呼吸が荒い。明らかに…無事とは言い難い状態だ。
「…魔力を使い過ぎました……いえ、ここまでやらなければ踏破は不可能でした」
必要経費だと、そうとも言えるが…アルセリアは現状を酷くまずいと感じていた。
「アルセリアさん……いえ、ネクシア。今は前へ進みましょう」
「っ……分かった。でも、ゆっくりね」
アルセリアはエマの言葉で思考を打ち切り今すべきことの為に…エマの先を、歩き出した。
二人は封印領域ショウシアへと足を踏み入れた。その数秒後、消えたはずの入口の壁が周囲の魔力を吸収し、再び形を作っていく。
…これは狩りだ。自らの領域に入った者をみすみす逃すほど…優しくないのである。
* * *
進めば進むほど、歩けば歩くほど────
道は険しく、呪いを帯びた魔力は濃くなっていく。
前回は、自然と進むべき道が分かっていた。
だが今は違う。進んでいる方向が正しいのかすら、分からない。
……恐らくだが。
前回は『不死王の眼』の魔力に当てられ、導かれていたのだと、今になって気づく。
「封印“領域”とは、よく言ったものですね。ここは既に……敵陣の中です」
「エマ、大丈夫かの?」
「えぇ。寧ろ漂う魔力が多い分、回復は早いみたいです」
そう言いながらも、エマは僅かに眉を寄せた。
「ただ……呪いを受けないよう選別しているので、神経は使いますが」
顔色は先程より良い。
足取りも、安定している。
────それでも、アルセリアの胸に、嫌な予感だけが残っていた。
「とにかく進みましょう。次は……こっちで」
「……待て、エマ」
「……?」
エマが振り返る。その瞬間だった。
違和感が、確信へと変わった。
「前回と同じじゃ……舐めおって」
アルセリアは繋いでいた手を引き、エマの身体を抱き寄せる。
「エマ、よう聞け」
「は、はい……?」
突然の行動に戸惑うエマを前に、アルセリアは低く告げた。
「原理は知らんが……『不死王の眼』には、軽い洗脳作用があるようじゃ。心当たりはあるかの?」
一瞬の沈黙。やがてエマは、小さく息を吸った。
「……私、道も分からず進んでいましたよね」
「そうじゃ」
アルセリアは頷く。
「前回、我も同じじゃった。宛もなく魔力に導かれて歩いた……恐らく、奴の仕業じゃろう」
「では……今の私も」
「自然すぎて、気付かぬほどにな」
魔術か、呪いか。あるいは、状況がそう思わせているだけなのか。
理由は分からない。
だが────可能性がある以上、警戒するべきだった。
「知っていれば違和感は拾えるはずじゃ。本来の道筋は分かるか?」
「……途中までは。記録していました」
「なら、そこまで行く。違和感を感じたら道を変える。それで良いか?」
「……はい」
エマは深呼吸し、アルセリアの手を握り直す。
二人は再び、歩き出した。
だがこの環境は、容赦なく消耗を強いる。アルセリア自身、それをはっきりと自覚していた。
────長く時間は掛けられない。
最初から分かっていたことだ。
相手は以前よりも、遥かに強く、執念深い存在に変貌している。
……それでも
「期待に、応えなくちゃね」
母であり、先代魔王であるセレスティア。
名前すら思い出せない、あの人。
そして────フィーナ。
だから、二人は進む。期待に応えたい、ただその一心で。
最悪の試練が待つ、その奥へ。
* * *
呪いは、違和感を持った。
────アレ?オカシイナ?
獲物が思った通りに動かなくなったのだ。それどころか真逆に、されど着実に自身の方へと向かってきている。
────ドウシテ?
疑問の声。
────ドウシテ……ッ?
苛立ちを含んだ声。
────ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ!!!
…八つ当たりをするような、声。
思い通りにならないことに苛立ちを覚える。
獲物ごときが、餌だと思ってもらえるだけマシに思うべきなのに…
────イラナイナァ…ソウイウノハ
感情が、知恵が、腹立たしい。自分に挑もうとするその気概も、何もかも…奪ってしまおうか。
────ダメダメ…コレハカリナンダカラ
別の声。それは共存しているもう片方のものだ。
怒りに狂いそうになった片方を、それは諫める。
────ダマレダマレダマレダマレ!!
────ウルサイヨ、キミサァ
────オマエモ…キライダ!
────オチツキナヨ、アイテハタダノニンゲンサ
片割れは言われても怒り続ける。そして、やがてそれは…『領域』へと伝達する。
────アイツラヲ、コロシテシマエ
所詮相手はただの人間…もう片方は眼を奪った。あれは甘美な味がしたと…片割れは思い出した。
────シカタナイナァ
片割れは、そう言いながら笑う。全く持って…自分たちがかられる側となど考えていないから。
人を、魔王でさえもを…呪いにとっては、全て獲物としか見えていないのだから。
* * *
2人が森に入ってから……既に1時間。刻一刻とタイムリミットは迫ってきていた。
地形から、環境から体力が奪われ足取りが重くなっていく中……なんとか、エマ達は記録していた地点まで辿り着いた。
「ここです。念の為木に印を付けていたので間違いありません」
「そうか…」
アルセリアは周囲を探るように首を動かすが、次の一歩を踏み出せずにいる。
二人は足を止めたまま、しばし言葉を失っていた。
「今も、気を抜けば体が勝手に進みそうになるし……困ったもんじゃ」
「……手、離さないでくださいね」
「当たり前じゃ」
エマの手を握る力が、僅かに強くなる。
「……もういっそ、従って行きますか?」
「なぬ……?」
「よくよく考えてみれば……罠だと分かってさえいれば、対処のしようはあると思うんです。それに…」
エマが、自身の考えを口にしようとしていた……
その瞬間。
────空気が、揺れた。
「っ」
「構えろ!」
2人はほぼ同時にその違和感に気付いた。気付いたのだが……
「『光の封鎖』」
エマと『それ』は同時に同じ魔術を使った。
光を帯びた鎖同士が絡み合い、お互いを封じるべく蛇のように蠢く。
「……悪い夢だと、思いたいですね…」
「エマっ!エマっ!何が起きておる!」
「……」
状況は最悪だろう。
視覚を失っているアルセリアは状況の把握に手間取り、若干のパニックを起こしている。
エマは目の前に突如として現れた脅威から目を離せず、そのアルセリアを守らなければならない。
────先が見えない。
目の前に立ちはだかるのは……見慣れた帽子とローブを身に纏った、魔女の姿をした魔力の塊。
模した魔女は伝説の存在であり、この世界における英雄。
「また、師匠と対面する日が来るとは……思っても居ませんでしたよ!」
そう、その魔力が模したのは他でもない……
────『色彩の魔女』フィーナ・レインヴェルである。
〜設定紹介〜
『不死王の眼』・・・不死王の眼は2つで1つ。人体における目なのですから、当たり前でしょう?
この設定思いついた時我ながら震えました。




