31話 手は貸しません
タイトルとあらすじ少し変えました
呪いを食べる、と言っても一筋縄では行かないのだ。特に……私とモチのように、魔力による相互関係でもない限り。
「だから……私の魔力を使う」
念の為床とアルセリアのローブに書いた魔術式確認!オーケー問題ない……次!
「アルセリア、手を」
「えっ、う、うん」
アルセリアの手を握り……そして、吸収魔術が発動する。対象は魔力。無論……呪いを含んだ魔力だ。
若干……気分の悪さが来るものの、すぐにそれは薄れていく。モチが私の魔力として食べているのだ。
その調子でしばらく魔力を吸い取り……
「…ここまでかな。アルセリア、調子はどう?」
「……ちょっと……頭が重い…?でも肩が軽くなった気がする、不思議……」
呪いが軽減し、魔力欠乏の症状が出たのだろう。いい傾向だ。
「ここが集中しどころ…」
ローブを介し、魔術を発動。封印魔術と結界魔術。結界によりアルセリアの魔力がこれ以上増えないように制限。その結界を重ねて封印する。
「ん……んんん……ぐ、ここ!」
目に見えない、魔力に対する干渉。フワッとしたイメージであったが確かに存在する概念だ。長年の経験からそれを掴み、その魔術を成功させた。
「で……このままだと魔力不足で苦しいだろうから…保存しといた私の魔力を流して…」
続いてエマとルカに持ってきて貰った黒いランプ形の魔道具にアルセリアの手をかざす。
「っ…………あれ?」
「どう?一応魔力の特性を可能な限り寄せてみたけど」
「うん……あったかい…」
どうやら上手く行ったようだ。ただ……これ……
「よかっ……た……」
バタリと、私の身体は力なく倒れ込む。慌ててエマが駆け寄って来た。
「師匠?大丈夫ですか?」
「……うー……魔力と糖分が足りないぃ…」
『……気持ちわりぃ……もうしばらく飯はいらん』
私もモチも満身創痍。分かっていたことだったが……久々の感覚できついなぁ…
「…目は、見えない……でも、動ける。動ける…よ」
見上げれば……先程まで椅子に大人しく座っていたアルセリアは元気よく辺りを歩き回っている。
……満面の笑みで。
「元気になったみたいでよかった……エマ、しばらく寝るから後のことはよろしくねぇ…」
『俺も消化器し切るまで動けねぇからこいつと居る』
「え?えぇ??師匠?」
エマが困惑しながら私の肩を揺さぶるが…もうダメだ。瞼が重すぎる…
「おやすみ…」
私はその眠気に抗うことも無いまま、意識を手放し眠りについた。
* * *
……数時間が経っても、フィーナが目を覚ますことはなかった。規則正しい寝息が続いていることだけが、唯一の救いだった。
「……私が、やらなければ……ですよね」
エマは小さく息を吐き、気持ちを切り替える。
きっと師匠は、自分が居るから安心して、こうして眠っているのだ。
──そう思うことにした。
実際は、そんなことを考える余裕もなく倒れただけだと分かっていても……
そう、思案しつつ、隣に視線をやる。
「アルセリアさん」
返事はない。
「……アルセリアさん?」
もう一度呼ぶと、少し間を置いて声が返ってきた。
「……ん、エマ?ごめん。今、集中してて……」
アルセリアは椅子に腰掛けたまま、目を閉じていた。
眠っていたわけではないらしい。
「何をしていたのですか?」
「魔力の流れを追う練習……かな」
そう言って、どこか自嘲気味に笑う。
「今のままじゃ、身体は動いても……あいつには挑めないから」
その言葉に、エマは一瞬だけ言葉を失った。
──もう、次を見ている。
不安も恐怖もあるはずなのに、それでも。
「……アルセリアさん」
エマは小さく息を整え、決意を固める。
「そろそろ……一度、ちゃんと話しませんか」
アルセリアはすぐには答えなかった。
だが、否定もしない。
「……エマは、察しがいいね」
その一言で、十分だった。
部屋の中に、妙な静けさが落ちる。ルカとフロウは買い出しに出ている。フィーナとモチは眠ったまま。
気づけば、この空間に居るのは二人だけだった。
「……ちょっと、外の空気が吸いたいな」
「では……手を」
エマはそう言いかけて、一度言葉を切る。
「……あ、要らなかったですかね」
差し出しかけた手を、引っ込めようとした瞬間。
「……いや、ありがとう」
アルセリアが、そっとその手を取った。
エマは少し驚いたように瞬きをしてから、しっかりと握り返す。
そのまま二人は並んで部屋を出る。
廊下を歩く足取りは、昨日よりもずっと軽かった。
違うのは、エマが先導していないこと。
違うのは、アルセリアが迷っていないこと。
そして──昨夜、言葉を交わしたあのベランダに辿り着く。
* * *
夜風が、静かに二人を包む。
エマは立ち止まり、アルセリアの方を向いた。
「……」
アルセリアもまた、ゆっくりと向き直る。ここから先は、逃げることも、誤魔化すことも出来ない。
「……エマ、見えるかな。あっち…」
アルセリアが指差した先。それは『不死王の眼』が封印されている、樹海の方角だった。
「まだあいつは生きてる……今にも襲ってきそうなぐらい、魔力が膨れ上がっていってる」
「……えぇ、そのようですね」
今や森に近付く魔物すら居なくなった。正確には、足を踏み入れた瞬間に呪い殺されているのだが。
「最初、私が失敗した時に助けてくれたのはフィーナだったね。きっとその時に、フィーナが何かしらの対処をして……今はあそこで止まってるんだと思う」
「……師匠は一時的ですが、強力な封印を施したと」
「うん。だから、今はあそこで止まってる」
アルセリアは、ゆっくりと手を下ろす。
「でもね……」
一拍、間を置いてから。
「本来、あれを止めるのは……私の役目だった」
夜風に、灰色の髪が揺れる。
「私の未熟で幼稚なプライドが……捻じ曲がった責任感が、この結果を招いた」
魔王という『英雄像』を、履き違えていた。
一人で背負わなければならないと、思い込んでいた。
だから──失敗した。
「……それでも、私は……魔王だから」
何度も口にしてきた言葉。だが今回は、逃げの響きがなかった。
「あれを……『不死王の眼』を、止めなくちゃならないの」
ここで初めて、アルセリアはエマの方を見る。
「エマ」
はっきりと、名を呼ぶ。
エマは一瞬、息を呑んだように見えた。
「魔王ネクシアとしてじゃない。ただ一人の魔族、アルセリアとして言わせてほしい……私に、手を貸して」
そこに立っているのは、もう『魔王』ではない。
それを自覚した上での言葉だった。
「昨日みたいに、あんなにはっきり言われたのは初めてだった。全てを預けられる相手は……きっと、エマしか居ない」
「……本当に、私でよろしいのですか?」
迷いのない問い。
その言葉に、アルセリアは一瞬だけ息を詰まらせた。
「私は、言いたかったことを言っただけです。それに……貴方が全てを私に預けたとしても、私は同じように全てを預けることはありません」
淡々とした口調。そこに冗談めいた響きはない。
「未来永劫、無いと思ってください」
その言葉を受けて、アルセリアは一瞬だけ目を見開いた。
だがすぐに、その顔に小さな笑みが浮かぶ。
「……うん。エマは、そう言うよね」
どこか、最初から分かっていたかのように。
「でもそれは……断ってる、って訳じゃないよね?」
探るような問いに、エマはわずかに視線を逸らした。
「……そうとも言えるかもしれませんね」
「……今、目逸らした?」
「っ……」
エマは何も言わないが…仕草できっとばれている。
エマは居心地の悪さを隠すように……言葉を口にする。
「……貴方のため、だけではありません」
間を置いて、続く言葉。
「……私も、『期待に応えたい』のです」
その言葉に、アルセリアは一瞬きょとんとして──すぐに、楽しそうに笑った。
「……私が?」
「似ていると思っただけです。自身の幻想を履き違え、間違った道へと進みかけた貴方と、私が。」
その言葉からは色んな意味が汲み取れるが今は…それを聞き返すほどの猶予もない。
ただ、これだけは分かる。エマは最初から…
「じゃあ……」
「はい。なので、手は貸しません」
「えっ」
困惑と共に素っ頓狂な声が漏れる。今のはそういう流れだったのではと前のめりになって口を開こうとしたところ…
エマは被せるように言葉を吐く。
「私を、手伝ってください」
…間を置いて、言葉が続く。
「私も……期待に応えなければならないのです」
アルセリアには、その表情は見えない。
ただ、その手がまっすぐこちらに伸びていることだけは、はっきり分かった。
アルセリアは、ゆっくりと手を伸ばす。
────柔らかな感触が、指先を包んだ。
「あ……」
「これは、合意と見ても?」
「え……?」
「こういう関係は『協力関係』と言うんですよ」
少しだけ、からかうような声。
「どうでしょう?協力、してくださいますか?」
アルセリアは……その問いに迷わず答える。
「……うんっ!協力、したい!」
その日……その時、魔王に頼りになる協力者が生まれた。
2人は決して友情で繋がっているわけではない。
2人は同じ目標をその胸に抱いている。
2人の関係は互いの利益を求めるところから始まる。
ただ、それだけ……
────今は、まだ。
エマが誰の期待に応えたかったかは言わずもがな
メタいですがフィーナはちょっとズルすぎるので一旦眠ってもらうことにしました(作者権限乱用)




