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17話 重すぎる愛とアツい眼差し

「ほんとにここで合ってる?」


「…お姉ちゃんの魔力が進む方向的に、恐らくは。」


静かな空き教室にて私とミレリアは廊下を見張っていた。ミレリア曰くこの廊下をユーリとレーニアが通るらしい。


「学院長、こちらですよ。」


「……」


「っ!」


静かな廊下に声が響く。私とミレリアは口を塞ぎ息を潜める。

前を歩いているのはユーリ……そしてその後ろを、虚ろな目をしたレーニアがふらふらと着いて歩く。


「…フィーナ先生、あれ…」


「うん…」


私達のいる空き教室を過ぎたことではっきりと見えた。レーニアのうなじから紫色の発光が見られた。あれが呪印が発動しているということ?


「……向かってる先、分かる?」


「恐らく、図書室の方かと。」


「…ふーん…」


全容とは言わないがなんとなく話が見えてきた。

後は本人に聞こうじゃないか。


「となると多分禁書庫かな。」


「禁書庫、ですか?」


「うん、多分ユーリはそこで呪術を覚えたんだろうね。」


私は教えてないし私の元で覚えれることは無いだろうから多分最近覚えたものだろう。そして今はその実験期間とでも言うべきか。……本命に向けての。


「自分で言うことじゃないけどね。」


でも多分ユーリの本命は…私、だよなぁ…

そんなことを考えながらも見つからないように尾行し、図書室の手前まで着いた。


「…ミレリア、ここからは…別行動にしない?」


「えっ……嫌です!もしお姉ちゃんに何かあったら…」


「大丈夫。私が絶対にレーニアだけは守るし…それに帰れって言ってるわけじゃないの。いい?今から言うことを実行して。」


ひそひそと、ミレリアに耳打ちする。これはあくまでも保険。もし仮に私ですら抑えられなかった場合の保険だ。


「…分かりました。どうかご無事で。」


言い残し、ミレリアは託された役目を果たすために動き出した。


「さて…私は本命として、浮気男を成敗しますかね。」


……ま、だからといって一途になっても付き合うのは無いかな。



 * * *



ユーリは予想通り、禁書庫に居た。その狭暗い空間で何かの本を熱心に読んでいる。そしてやがて、それを実践しようとなにやら呪印らしきものを描き詠唱を始めようとしていた。その、被検体をレーニアとして。


「…解析は……出来なさそうかな。やっぱり呪術と魔術じゃ似て非なるものなんだ。」


流石に発動まで待つ訳にもいかないためどう出るべきかを考えたが…特に何も思いつかなかったため正面突破を試みる。


「くく…これが成功すれば…師匠は…やっと、僕の…」


「はいそこまで。」


光の封鎖と風の精霊魔術を同時に発動する。ユーリが私の声に反応し振り向くが…もう、遅い。


ユーリが防御魔術を発動するも風の刃がそれを破壊し光の鎖がユーリを縛った。


「おぉう……師匠、やはり貴方でしたか!」


「…なんで嬉しそうなの?…それはいいや。今ここで何やってたか、さっさと白状して。」


「いくら師匠でも……嫌と言わなければならないかもしれませんね。」


縛られてなお笑顔が消えない。何か不気味だ。

何を考えているんだろうか、こいつは…


「無理やりにでも聞き出すよ。」


「精神干渉魔術ですか?構いませんよ。寧ろ師匠に心内を覗かれると考えるだけで…ゾクゾクしますから。」


寒気がした。なんか知らないうちにこいつバケモノになってない?


「とまぁ、冗談はさておき……隙あり!」


「甘い!」


封鎖が解かれ1歩近付かれるもすぐに次の鎖がユーリを縛りつける。


「無駄だって。そもそもこっちに呪印っていう証拠を残してる時点で解析が進めば捕まるんじゃないの?」


「…それでも構いませんよ。私は…貴方のためなら自分がどうなってもいい!」


笑顔が崩れ激情を露わにする。その表情からは全て本音で言っているということは伝わってくる。けど…

それで私以外に迷惑を掛けてるわけだ。看過できない。


「話にならない。」


私の持つ杖が光を放ちその光がユーリを覆う。精神干渉魔術を発動したのだ。


「言わないなら言わせるだけ。目的を―――」


「あぁ、ようやく、繋がりましたね。師匠…『読白心(エクスポル・ハート)』」


「っまず…」


今の魔術は…滅多に使われないもの。はっきり言って実用性が無さすぎる、自らの心を強制的に見せつけるだけの魔術。

それが今は有効に働いた。普段であればこの類の魔術自体弾けるように防御系統の魔術を仕込んでいるが…精神干渉を使う際に魔力同士で繋がりが出来たのがまずかった。




「師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠ししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょうししょう」




目の前が真っ暗になる。何をしていたかも、今がどんな状況かも理解が及ばない。全てを放棄したくなる。それほどの情報量が、単調でどうししようもない感情の波が、私を支配していく―――


「師匠…愛しています。『魅惑する眼(チャーム・アイ)』」


…愛してる?愛してるっていうのは好きってこと?ゆーりは私のことが好きなんだ。じゃあきっとわたしもゆーりのことが好き…嫌い?わからないけど、でも、こう言われたならちゃんと私も…


「…ゆーり、あいして―――」


「今です!エマさん!」


スパっと、何かが切れる音と共に私の意識は闇に落ちた。





 * * *



「間に合いましたか。」


目の前で首が切断された師匠。その身体が倒れると同時に…声の主の姿が見える。


「エマっ…!お前ぇ…!」


憎しみを込めた目で、その妹弟子を睨みつける。あぁ…なんということだ。悲願を達成できそうだったと言うのに。これではまたやり直しでは無いか。


「兄弟子殿、状況を説明する気はありますか?」


「状況も何も…今お前は私と師匠の愛をぶち壊したのですよ!」


「話になりませんね。」


エマが杖を振るう。瞬時にフィーナが使ったものと同様な鎖が広がる。更にはそれの対処に戸惑っている中次々と精霊魔術が展開されていく。

先ほどもそうだったが…ユーリの実力の本質はそういった単純な戦闘にあるわけではない。ユーリは防御するも崩され、ものの数秒で拘束された。


「私は師匠のように甘くありませんから。」


「ぐ…私は…僕は…全部、師匠の、ために…」


杖先から…魔力が籠る。エマの視線は冷たかった。とても人を見る眼には見えないだろう。


「ミレリアさん、今のうちにレーニアさんと師匠の回収をお願いします。」


「は、はい!ってフィーナ先生死んで…」


「その首ごと、お願いします!」


エマの背後を一人の少女が駆け抜けていきフィーナとレーニアの元に…ユーリは今更ながら自分がこの状況に陥った原因を理解した。理解して…どうこう出来る領域には既ないのだが。


「…貴方が本当に師匠のためというのであれば…見せてもらいましょうか。」


「はっ…その手の魔術は…」


エマがやろうとしている魔術を理解したユーリはフィーナにやったのと同じようにカウンターを準備して…


「『魂夢投影ドリーム・リコレクション』」


「な…に…」


それを無に帰すかの如く、無慈悲な魔術がユーリを支配する。

ついこの間、フィーナに使ったものとは全くの別物、それは地獄と形容するに相応しい夢を見せるための魔術が。


「遅すぎますね、兄弟子殿。それで教師、やれてるんですか?」


最も優秀と言われた妹弟子は…微笑みながら、蔑みの目を向けて…共に、夢へと堕ちる。



 * * *



「ここは…どこだ…」


辺りを見渡す。だが、そこは何もない真っ暗闇だった。


「ようこそ兄弟子殿。」


ペチン。


エマの声だ。振り向こうと、首を動かそうとした…が。


「動いちゃダメですよ。」


「…?」


思うように身体が動かない。四つん這いのまま手足が固定されたみたいだ。それならばと魔術を発動しようとするもそれも何故か魔力すら上手く練ることが出来なかった。


ペチン。


「エマだろう…何のつもりだ?」


「何って、教えてもらおうと思いまして。兄弟子殿、呪術についてある程度調べが付いていますね?」


「っ!」


何故それを、と振り返ろうとした瞬間、ベシンと痛快な音が真っ暗な空間に木霊する。


「言いましたよね?動いちゃダメですって。二回目はペナルティがあります。」


「っだぁぁぁ…」


下半身の、お尻の辺りがひりひりする。きっと何かで叩かれたのだと理解するも身体は全く動いちゃくれない。一体何なんだ、これは…


「貴方が吐く気になるまで私はこの魔術を解きません。」


ペチン。


恐ろしいものが後ろにいる。その恐怖で頭が支配されていく。


「吐きますか?」


「い…や」


ベッシィィン!!!


「っ゛ぅぅぅ!!!!!!!」


痛い、痛い痛い痛い痛い痛い―――――――



「もうそろそろ腕が疲れてきちゃいました。どうします?吐きますか?」


「…ぁい…」


数時間後、音を上げたユーリはようやく自身の掴んだ情報を口にした。



 * * *



「ふぅ……やっと終わりましたか。」


目の前で気絶した兄弟子を魔術で浮かせる。ようやく自分の役目は終わりである。

全く、数時間も耐えないでほしい。無駄に根性だけは鍛えられているのだ。この兄弟子は。


「現実での時間経過が一瞬なのが救いですね。」


あいつと数時間も二人きりの空間に居たという記憶が残るだけでも嫌だが…そこは眼を瞑ろう。


禁書庫から出ると眠っているフィーナとレーニア、そして二人を介抱しているミレリアが居た。

一つ懸念だったのだが呪いが弱まっていることからフィーナがもしも生き返らなかったら…とも考えたが、呪いは効力を維持するためにフィーナの何かを犠牲にしているのだからその懸念の必要は無かった。


「あ、…エマさん。」


「ミレリアさん、そちらは大丈夫ですか?」


「はい…あの、フィーナ先生は…」


首が繋がっているフィーナを見て信じられないものを見るような眼をしている。それが普通の感覚だし私も最初はそうだった。


「今はその話は後です。ただ、決して口外してはなりませんよ。」


「……はい。」


真面目そうだし、わざわざ言いふらすような子では無いだろうが、念のため言っておかなければ。自分の師匠は常日頃から穏便に生きたいと言っているのだから今になって不死王を討った魔女ともてはやされても困るだろう。


「今日はもう帰りましょう。夜遅いので送っていきますよ。」


「ありがとうございます。でも、寮までなので…」


「ではその寮まで。」


エマが言うとミレリアも受け入れ頷いた。ミレリアはレーニアを背負い歩みだす。エマもそれに続くように、魔術でフィーナを回収して背中を追う。


「……全く、人騒がせな兄弟子ですよ。」


その心中を、吐露しながら。


ユーリ、実はここまでおかしくありません。それと彼が1番得意な魔術は隠匿の魔術です。だからフィーナに気付かれずに呪印を仕込めました。

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