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15話 身の程を弁えろとあれほど

ユーリに着いて行くと広い校庭に出てきた。的とかがあるし、多分訓練場的なやつだろう。


「集合!」


ユーリの号令により生徒が集まる。ほう、さっき喧嘩していたみたいだけどそれでもユーリの言葉は聞いてくれるんだね。


「さて…早速やりましょうか。どうします?フィーナ様。もういっそ全員いっぺんにボコボコにします?」


物騒過ぎない?

…正直、見てわかるけど負ける気はしないが…それはちょっと違うんじゃない?中にはそこまでのやる気が無い子もいる訳だし。


「舐めやがって!」


ずんずんと、私の前に1人の男子生徒が近付いてきた…のだがユーリが間に入った。


「小童ごときが我が親愛なる師匠に触れるんじゃない。」


「いや退けよ!」


「退きません。」


謎の押し問答が始まった。ほんとなんなのこいつ?私が絡むと頭悪くなるの辞めてくれないかな?


「ユーリぃ…もういいから。うん…流石にちょっとウザイかな。」


「…」


あ、固まっちゃった。まぁいいや。適当にその辺に放っておいて…と。


「さて名も知らぬ君、私に何か言いたいことがあるのかな?」


グイッと私の方から顔を近付ける。ほーう…確かにその若さじゃ中々にやれそうだけども…


「っ…お前!胡散臭いんだよ!古臭い格好して!それにその若さで魔女なんて有り得ねぇだろ!」


「言うじゃない。でもね…」


私が指を振り下ろすと…どこからか氷の矢が男子生徒の首元まで飛来し、すんでのところで停止した。


「言葉と実力が見合ってないんじゃぁ…ダサいよ?」


「なっ…卑怯」


「卑怯っていうの?」


被せて尋ねる。さて、どう答える?


「まだ始まりの合図も何もしてないだろ!?それに会話中だったじゃねーか!」


男子生徒の言葉に乗っかるように私を責める視線が背後からも向けられる。…程度が知れるな。


「へぇ…君は仮に魔物と戦う時に不意打ちされてもそんなことを言うの?」


私が言った言葉に男子生徒……更には他の生徒もハッとした顔をした。

この学院に通う生徒の将来は王国や他の地域での騎士や魔術師だ。どれも……第一線で戦うもの。そんなところで卑怯だのなんだのが通用すると思ってるなら認識が甘過ぎる。


「元々無かったけど…なんかやる気無くなっちゃったな。」


優秀と聞いていたのだが…こんなのばっかりなら本気でやることは決して無いだろう。

と…私が、踵を返した瞬間。魔術が、私に向けて放たれた。


「…根性はあるんじゃん?」


「舐められたままで終われるかよ…!」


無論放ったのは男子生徒。続けて後ろで待機していた私に何か言いたげだったもの達も放ってくる。


「そうこなくっちゃ。ここからはやる気がある子だけ掛かっておいで!」


そう言えば…更に私に向けられる魔術は多くなる。…でも、全部まだ若い。若さを感じる。


「うーん…単調だね。威力や連射で押すのも悪くはないけどこれだけの人数がいて連携を取らないのはどうしてかな?それに、強い魔術がいくら使えても当たらなければ意味が無いんだよ。」


防御魔術が計算された着弾点に発動し攻撃に扱われた魔術を弾いていく。そして次第にその防御魔術は私の進むべき道を作り上げた。

その道の先には…見覚えのある生徒、この状況で何もせず俯瞰していた…


「君は混ざらなくていいの?」


「今混ざっても仕方ないでしょう?」


その生徒、セレナとの距離が無くなった。それでも彼女はまだ動かない。

いや、動く気がない。


「…何を待っているの?」


「皆さんが飽きるのを。」


ふーん…なるほど。要は私一人でやるからさっさと他を蹴散らせと、そう言いたげだ。

その丁寧な口調からは考えられないが私は見ただけでも理解した。彼女は…強い。きっとこのクラスの中では1番だろうね。


「じゃあ期待に応えようか。」


防御魔術を解除し、鎖型の封印魔術を発動する。その凄まじい精度の魔術はいとも容易く生徒を捕縛していく。


「さて、こんなところかな?」


「…流石ですね。魔女と呼ばれるだけの実力はあると見ても良いのでしょうか?」


「ふふ、そりゃあね。どこからでも来なよ。先手はあげる。」


さーて…このクラストップはどれほどのものなのかな?



 * * *


「では。」


セレナが杖を持ち、詠唱を始めた。

…どうせだし、1回なら受けてみようか。ここまでさせたんだし、期待はしてもいいのだろう?


「『悠久の地殻に眠る不変の王冠を戴く者よ。大地の脈動を全身に宿し、岩の咆哮を上げよ。我が名の下に岩石の軍勢を率いて顕現せよ。上位地精霊ガイア・レギナ!』」


ほう、何の詠唱かと思えば上位精霊の…精霊魔術。ま、この歳にしては中々…


「『万の海を従え深淵の底に玉座に座す歌姫よ────』


は?…………嘘?

私は純粋に唖然としてしまった。連続で、しかも上位の精霊魔術を…この子は、普通ではない。


既に詠唱が終わっている地精霊によって強化された岩の弾丸を防御結界によって躱しつつ…思考する。

これはこのまま続けさせていいのか?

普通の人であるならそもそも得意な属性以外の魔術を使うことでさえたゆまぬ努力が必要である。にも関わらず2つ…いや、もしかしなくても…


あの子は、『色彩の魔女』に憧れていると、そう言ったのだ。であるならば…


「可能性はゼロじゃない…か。」


だったら尚更続けさせる訳にはいかない。大体手の内は分かったし、フルの詠唱であるなら…


────私の方が早い。


「『天穹よ、裂けよ!シルフ・ゼピュロス!』」


それは精霊王の魔術。この世界中を探しても使えるものは両手に収まるとされる精霊魔術の最高峰。

本来であれば省略出来ない詠唱をフィーナは省略し、発動した。

瞬く間に水の魔術も地の魔術も風の刃が切り裂き私の進むべき道を作る。


「ッ!」


「よく反応した。偉いよ。」


そのうなじに、杖の先端を突き付ける。反応は出来ていたが風の刃を防ぐために魔術を使っていたためこの接近までは防ぐことが出来ていなかった。私が仮に魔術を継続して発動していればきっと当たっていた。


「…参りました。」


「うん。セレナはきっと強くなるよ。」


ポン、と頭に手を置き告げると少し照れ臭そうな表情になった。


「今のマジかよ…セレナが負けるなんて…」


「俺達には本気を出してすら居なかったってことか?」


「ありえねえ!あんな短い詠唱で…精霊王級が使えるわけ…」


鎖が解除されたことで黙っていた生徒たちの口からざわめきが起こる。

どう収めようか、考えていたところパチンという手を叩く音がその場に響いた。


「お黙りなさいグズ共。我が師、フィーナ様の素晴らしさを身をもって体感出来たでしょう?これに懲りたら二度と私にも、フィーナ様にも逆らうんじゃないですよ。」


ハッハッハと高笑いをしながらそう言ってのけたのはいつの間にか回復していたユーリである。

なんかこいつしれっと自分にも逆らうなって言ってなかった?


「弱者と死人には口なし、ですよ。さ、師匠。授業の締めを。」


え?それ私がやるの?聞いてないんだけど?


「…何言えばいいの?」


仕方なくこっそり耳打ちするとなんか恍惚とした表情浮かべやがった。怖…


「適当に感想でも。」


「えぇ…じゃあ、そうだね…」


模擬戦のことを思い返すがあまり印象に残ることは無かったかな。

強いて言うなら…


「弱過ぎるね、実戦経験が少な過ぎる。もうちょっと連携を学んだ方がいいのは当たり前として…魔術についてだけど、セレナ以外は0点かな。ただ使えてるだけで単調過ぎる。それに魔力制御もガバガバだし詠唱も遅いし間違えてた子いるよね?それとここまで聞けば分かると思うけど相手をよく見ること。怖いからって見ることをやめたらもう論外。」


「…」


あれ?皆黙っちゃった。


「あの、フィーナ先生。」


沈黙の中、声を発したのはセレナだ。


「何か気になることがある?」


もう全部言ったと思うけどなぁ…何か言い忘れてたっけ?


「私以外は0点とおっしゃいましたが…私は何点なのでしょうか?」


「あー……それか。えっと…待ってね。」


確かにそんな感じのこと言ったっけな。実際彼女以外は有象無象にしか思えなかったわけだしそれは間違いじゃないけど…


「期待も込めて50点、かな。」


「期待も込めて…?」


「これからの伸びしろってこと。もしかしなくても六属性使えるんでしょ?」


こっそり聞くとコクコクと頷いた。ほらやっぱり。後は詠唱省略できれば完璧なんだけどねぇ…

まぁ、それはエマも出来ないし、才能も関与するから仕方ないかな。


「師匠…やはり貴方はお変わりない…!感無量です!」


「…何が?」


突然大きな声でなんなんだこいつは…なんか今日変じゃない?


「さぁさグズ共。これからどうするか今一度よく考えるんですね。一時間自習としますから教室で話し合ってなさい。」


あまりにも教師の権限を乱用している。流石に叱った方がいいのだろうか。でもなぁ…あんまり干渉してもなぁ…一か月後には私いなくなるし…あ、そうだ。


「…サボりなら学院長に言っとくよ。」


「冗談ですよ。師匠。」


変わり身の早さも一流とでも言うのか?



 * * *



「ふへぇ…つっかれたぁ…」


放課後、私は図書室にて机に突っ伏していた。いや…もう今すぐにでも寝れそう。

別に体力的や魔力的に疲れたんじゃない。もう授業がつまらな過ぎて…眠いのだ。でも生徒の前で寝るわけにもいかず、こうして今図書室で寝そうになっている。


「エマとルカは禁書庫の方にいるみたいだし…少し寝てようかな。」


なんてことを考えていた時…トントン、と肩を叩かれた。

エマかな…


「エマ、今日はもう帰る…の?」


「エマとは誰でしょうか?」


「うわびっくりしたぁ!?」


予想と違い背後に居たのはミレリアだ。急に気配殺して後ろに立たれたもんだからエマだと思い込んでいた。


「…フィーナ先生、お時間がよろしければ少しお話出来ませんか?」


「へ?話?」


…この子と何か話すことがあっただろうか。ミレリアはBクラスなわけだし私と関わったのは昨日の挨拶に行ったときだけだ。


「いいけど…」


特に断る理由も無いしこれでも一応教師なわけだ。生徒の悩みは聞かなければだろう。


「場所を移しても?」


「帰り道案内してくれるなら。」


「…覚えてないんですか?」


「道覚えるの苦手なんだ。」


そう言うと呆れたように溜息付かれた。しょうがないじゃん。今は呪いの弱体化のせいで記憶能力自体下がってるし!…まぁ、いつも通りでも忘れちゃうんだけど。


「はぁ、では参りましょう。着いて来てください。」


振り返り先を歩いていくミレリア。はてさて、一体何の話か…一応エマに伝わるように伝言の魔術だけ残して私もミレリアに続いて歩き出した。




今回の話にフィーナが幾度となく弟子に家出されている理由が詰まっています。端的に言うとスパルタ過ぎて耐えられなくなって家出されてます。なおユーリは愛の鞭だと思っていたそう。

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