12話 【悲報】弟子に騙されました
「うーん…今日もいい朝…王都は朝から活発だねぇ…」
飲み水を片手に…窓から露店街を見下ろす。昨日はどの辺歩いたんだろ?上からだと分かんないなぁ。
「魔女様!ご飯の用意が出来たであります!」
「ありがとね。今行く。」
今日はユーリが来るんだったか。来るのは昼頃だろうし、朝から魔導書でも読んじゃうかな。
借りた宿にはキッチンが備え付けされているため朝ごはんはルカとエマが準備してくれている。贅沢な休日って感じ…
そんなことを考えながら食卓に向かうと…さも当然のように、席の一つにユーリが居座っていた。
「ぅぇ!?なんで居んの!?」
「おはようございます。お師匠様。」
いや挨拶されても…疑問が勝つって。どうやって入りやがった…?鍵は掛けてたよね!?
「師匠、おはようございま………不審者!」
エマが明らかに分かっているような態度で回し蹴りを放った。が…ユーリは涼しい顔で防御魔術を展開しそれを受け止める。
「酷いじゃないか、エマ。兄弟子を不審者呼ばわりだなんて。」
「あら?宿とはいえ家主の許可なく入ってきた者を不審者と言わずなんと呼べばいいのでしょうか?」
朝からバチバチと視線が交わる。私の優雅な朝…グッバイ。
「魔女様!おはようであります!」
朝食であろうパンを乗せた大皿を両手で持ち、ルカが顔を覗かせる。あ、ユーリと目があった。
けど…なんでルカは平然としてんの!?
昨日ルカには宿の手続きやら荷解きやらをやってもらっていたのでユーリとは顔を合わせていない。完全にルカからしても不審者だと思う。私の防犯意識の教育が甘かったのか…?
「ルカ、いい?知らない人が家に入っていたらちゃんと…」
「魔女様!聞いてほしいであります!この人、魔女様の弟子らしいのです!おねーさんと同じであります!」
「うんそうだね。でも…」
「それにすっごい魔術が使えて魔女様にも認められているらしいのです!僕にも魔術を教えてくれるそうなのです!」
嬉しそうに、満面の笑みで言うルカ。…あながち全部間違いじゃないけど…それでも知らない人を家にあげるのはだめだって…
「…ルカ、ルカはあの人知ってる人?」
「知らないであります!」
「…じゃあ、勝手に家に上げちゃだめなの。いい?」
「駄目…でありますか…僕も、すっごい魔術が使えるようになりたいであります…」
しょぼくれるルカ。負けちゃダメだと気を引き締め再三の注意をする。
「それなら私が教えてあげるから。ね?今回は本当に私の弟子だったからよかったけど次からは気を付けて。」
「はい…ごめんなさい、魔女様。」
はぁ…全く…なんで朝から可愛い弟子を叱らないといけないんだ。これも全部…
「時間も考えずに来たアンタが悪いよね?」
「なんですか藪から棒に。私は言いましたよ?1日経ったら伺うと。」
「確かに…言った…」
「騙されないでください師匠。此奴は1日待って欲しいとしか言っておりません。ですのでこんな朝早くに伺いを立てるのは非常識かと。」
「同じようなものじゃないですか。ねぇ師匠。」
あっぶな同じじゃねぇだろ!
「…もういいや。さっさとご飯食べよ。話はそれからだよ。」
来てしまったものは仕方ないし…早く話ができるに越したことはない…よね。
「…はぁ、師匠が良いなら私は構いません。」
エマは諦めたように溜息をつき、食卓に着く。続いて私とルカも着き…食事を始めた。
「気を付けてください、師匠。ユーリが宣言と違うことをする時は大抵…何かをやらかします。」
隣にいるエマが小声でそう告げてくる。
…それ、先に言って欲しかったな。だったら断ってたのに。
* * *
「さて師匠。先日の件。話を付けて参りました。」
朝食を食べ終えた後、ユーリが口を開いた。
「ありがとね。どうなった?」
「はい、無事師匠が禁書庫に出入り出来るようにしました。この書類にサインを頂ければすぐにでも。」
「はいはい、どれどれ〜…?」
「あ、提出期日がお昼までなので早くお願いしますね。」
え?マジ!?急がなきゃじゃん!
「えっと、これで大丈夫?魔術印はいらない?」
書類を渡すとニコリとユーリは微笑んで…
「はい大丈夫です。これで……師匠。貴方は晴れて王立魔術学院の臨時教師です。」
「…ん?」
ごめん、よく聞こえなかった。ちょっと…もう1回…
「師匠、貴方は晴れて王立魔術学院の臨時教師です。」
「へ…?」
今一度書類が手渡され…その書類の、下の方に…文字が隠されている。あ…これ…
私は光の魔術を発動し、そこを照らすと…
『禁書庫の使用許可と引替えに魔女フィーナを1ヶ月間王立レインヴェル魔術学院の特別教師とする。』
そう、書かれてあった。
「騙したなちくしょぉぉぉ!!!」
頭を抱えて泣きわめくことしか出来ない。既に書類として言質は取られたも同然であり…
「師匠…急かされると周りが見えなくなる癖、治ってないんですねぇ…」
はっはっはっ!と、ユーリの高笑いが部屋中に響いたのだった。
その後洗い物をしていたエマが事情を聞いてユーリをフルボッコにしたのは言うまでもない。
* * *
…弟子に騙され書類に名前を書いたことで教師になっちゃったおバカな師匠はだーれ…
「私だよ畜生…」
これに関してはよく見なかった私が悪い。でも性格悪いって!急かされたら急いじゃうでしょ普通さ!
トボトボと、歩みを進める。今から魔術学院に向かうのだ。ユーリが言うには明日からなんかしらの授業をしてもらうとして今日は教師達に挨拶を、ということらしい。
「師匠、なんだか顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
「誰のせいでこうなってるか分かる?」
「僕のせいですね!」
愉しそうに笑いやがって…絶対覚えとけよぉ…
「さ、師匠。着きましたよ。ここが王立レインヴェル魔術学院です。」
その建物は黄金、とまでは行かずとも豪華な金色の装飾が為されており一目見て偉い人が建てたものだと分かるようになっていた。
というかデカイ。とにかくデカイ。その校庭にチラッと見えた生徒からは様々な種族がいることが分かるし…ほんとに凄いんだねぇ…
「広いね。」
「はい。初等部から高等部まで、全学年で1万人は優に超えているでしょうね。」
なんだろ、なんか…ユーリっぽくないな。真面目というか…私の前なのにいつもより落ち着いている。その方がいいのは言うまでもないが…なにか、おかしい。
「あ、ユーリ先生!こんにちは!」
「どうも、こんにちは。」
元気に挨拶をした初等部らしき少年に笑顔で手を振って挨拶を返した。おかしい…やっぱり、なんか変…
「職員室はあちらです。先に私が話を通しておくので隣の客室で待っていてください。」
「あ、うん。」
校舎内に入ったが廊下ですら、だだっ広い。思い切り走りたくなるような程に。
「…放課後にならいいかな?」
いつが放課後かも分からないわけだが。
今は一旦言われた通り客室へと入るかと、ドアを開ける……
そこで金髪の学生服を着た女の子と、古風なローブを来た金髪の女性が対面していた。2人の顔立ちは似ていて片方は魔族の血が流れてそう。姉妹だろうか。
「あれ?」
人が居るのは想定外。ユーリめ、先に言っておいてよね。
「うぅ……私は誰私は何私は……」
「しっかりして!お姉ちゃん!」
ローブの女性が頭を抱えてブツブツと何かを呟いている。それに対して女の子の方がひたすらに声を掛け続けている。
「もしもーし、大丈夫ですかー?」
「今大事なところなんです!黙っててください!」
ありゃ、女の子が何やらメモを取り出し…それを読み始めた。ん…?これって…魔術の詠唱?
「『解除魔術!』」
あ、やっぱり。上級の解除魔術じゃん。にしてもなんで今使ったんだろ。
「うぅ、あれ……私は……」
「大丈夫!?お姉ちゃん!」
仕方ない。多分これが終わるまで私も落ち着けないし…少し、手を貸そうかな。
「ちょっと失礼。」
「えっ」
何か言われる前に私は女性に掛けられていた魔術の解析をして…それに対応した浄化魔術を発動させた。
「これでよし。」
「うん…?」
女性の顔色が多少良くなったように見える。
「貴方、突然現れて何なんですか!?お姉ちゃんに何を…」
今にも掴みかかってきそうな勢いで女の子がズカズカと私の方へ歩み寄ってくるが、それを女性が手を上げ静止した。
「落ち着いて、その人は私に掛かった魔術を解除したのよ…」
こっちは話が出来そうで一安心だ。お姉ちゃんと言われていたしなんか大人びた雰囲気を感じる。
女性は一呼吸した後、ソファに座り直し乱れた髪を整えた。
「…危ないところを助けて頂きありがとうございました。」
「あー…まぁ、簡単だったから、大丈夫。それより体調はどう?一応治癒魔術も掛けとこうか?」
「いえ、お構いなく…それよりも、こちらの部屋に何か用があったのでは?」
「ユーリにここで待つように言われてただけだから。そっちもまだ話すことがあるなら私は出ておくけど?」
別に待っておけばいいのだからここじゃなくたっていいだろう。…校舎まで入ると流石に迷子になりそうだからそれだけは気を付けなければだが。私だって大人しく待つぐらいなら…出来てるかな?
「ユーリが……では、貴方が本日付けで臨時教師になるフィーナさんですか?」
「そうだね。」
私のことを知っているということは彼女はこの学院の教師とかだろうか。
「これは…お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありませんでした。」
改まってまたも女性は申し訳なさそうにお辞儀をした。なんというかこの人…
「真面目だなぁ…」
「そこが姉のいいところですので。」
「ふぇっ」
急ににゅっと私の背後に先ほどの女の子が現れた。
びっくりして思わず腑抜けな声が漏れちゃったじゃないか。
「えーっと……ところで、君は?」
「ミレリアと申します。この学院の高等部一年Bクラスの首席です。」
「へぇー…」
そう言われても…この学院のクラスの仕組みも分からないためその程度の反応しか出来ない。
「それよりも、貴方が本当に明日から来る臨時教師なんですか?失礼ですがあまり教師って感じがしませんが…」
「臨時だしそこは……ね?」
と言ってみるが正直私もそう思う。私、弟子はいても大抵は元の才能だったりがあるから無事に育ってくれてるだけで実際のところ自分が教えるのはそこまで上手くないと思ってる。それに教師は人に寄り添うのも仕事で…益々出来る気がしない。
「なら最低限敬語は使った方が良いのでは?そちらの姉は…この学院の学院長なのですが。」
「敬語かぁ…あんまり得意じゃないんだよね……ん?学院長?」
くるりと振り向き……女性、もとい学院長と呼ばれたミレリアの姉と視線が合う。
「えっと…名乗るのが遅れました。私、ここ王立レインヴェル魔術学院の学院長を勤めております。レーニアと申します。」
レーニアが再三お辞儀をする。え?ほんとに学院長なの?こんなに若いのに?いや、魔族とのハーフなら見た目よりは年齢……今はどうでも良くて…
「レーニア、学院長さん?お願い、します?」
疑問形の敬語で、とりあえずの挨拶を済ますのだった。
~キャラ設定紹介~
ユーリ(男 25)フィーナのストーカー。多分弟子の中で一番やばい思想をしています。顔が良い分犯罪臭が凄い。
前回載せるの忘れてました!ごめんなさい!次回は学院のキャラ達の設定を載せます!




