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婚約破棄のとばっちりを受けました

「そうか、お父上は亡くなられたか……」


「はい、生前は色々お世話になりました」


「いやいや、こんなに立派に成長して……、お父上も喜んでいるだろう」


 僕、リナージュ・クライスは国王様からのお言葉に頭を下げた。


 父上が亡くなり正式に家督を継ぐ事になりその手続きを終え、国王様に報告をしている。


「そういえば今日は貴族学院の卒業式でしたね」


「うむ、この後私も会場に行き祝いの言葉を言うつもりだ」


「王太子様もご卒業されるんですよね」


「そうなんだがなぁ……」


 ちょっとだけ国王様の顔色が悪くなった。


「あいつはやんちゃが過ぎる、このまま王の座を譲るには危険すぎる」


「……何かやらかしたんですか?」


「最近、と言っても1年前ぐらいからだろうか、平民上がりの男爵令嬢と懇意になっていて婚約者との仲が良くないのだ」


「王太子様の婚約者ってルイーズ・レナニア公爵令嬢ですよね? レナニア公爵はルイーズ様の事を溺愛されている筈では」


「その通りだ、だからこそルイーズ嬢を大事にせよ、と強く言っているのだが……」


 そう言って国王様は溜息を吐いた。


 王太子であるレオン殿下のやんちゃぶりは有名な話だ。


 人の話を聞かない、思い通りにならないと暴れる、すぐ暴力を振るう……、これが幼い頃だったらまだマシ、いや誰かが強く出て叩き直せば良かったかもしれない。


 しかし、王太子に苦言を呈す人物が誰もいなかった、いやルイーズ嬢はやんわりと注意をしていたけど聞く耳は持たなかった。


 その結果、暴君王太子が誕生してしまった訳だ。


 国王様の気苦労が偲ばれる。


「こ、国王様っ! 大変ですっ!!」


 宰相が慌てて扉を開け入って来た。


「どうした? ……まさか、レオンが何かやらかしたのか?」


「そのまさかですっ! レオン王太子がルイーズ嬢に婚約破棄を一方的に告げられましたぁっ!!」


「はぁっ!?」


「しかも例の男爵令嬢を王太子妃にする、と宣言しました!」


「な、なんと馬鹿な事を……」


 国王様はフラフラとよろめきそうになったのを僕は慌てて支えた。


「国王様、しっかりしてください」


「そうだな……、すぐに会場に向かうぞ」


「僕もついて行っていいですか?」


「うむ、クライス伯の事も伝えないといけないしな」


 僕と国王様達はすぐに卒業記念パーティーが行われている王宮の大ホールへとやって来た。


 会場に入ると既にザワザワしていた。


「皆のもの! 静粛にっ! 陛下のご入場であるっ!」


 宰相様の声に会場内の空気は一変した。


「レオンよ、お前は何をやっておるのだ! このめでたい席に騒ぎを起こしおって!」


「父上! 私は真実の愛に目覚めたのです! 私はこの隣にいるマリーと一生を添い遂げるつもりです!」


「黙れっ! 何が真実の愛だっ! お前がやっている事は浮気行為だっ! 散々苦言を呈して来たがもう我慢ならんっ! お前はたった今を以て王太子位を剥奪するっ!」


「そ、そんな……」


「この不埒な者達をさっさと拘束して連れて行けっ!」


 喚いている元王太子と男爵令嬢は兵士に縄で縛られ連れて行かれた。


「ルイーズ嬢、すまなかった。 儂が子育てを間違えてしまった。あ奴は二度と近づけないし姿を見せる事はない」


「ありがとうございます……、ですが私はクライス辺境伯に嫁に行くように言われてしまいました……」


 はい?


 周囲からは『可哀想に……』とか『父親ぐらいの男の嫁にいかせるなんて……』とか『女好きで有名だろ……、何人もの妻がいるんだろ……』とかの声が聞こえる。


 待って待ってっ!? 何年前の話をしてるのっ!? それ僕の祖父の話だよっ!?


「なんと、レオンは勝手にそんな事を言ったのか!? ……どうする? クライス辺境伯よ」


 国王様は僕の方に振り向いた。


 ルイーズ様は僕の顔を見てキョトンとしていた。


「えーと……僕がその話に上がった当代クライス辺境伯のリナージュ・クライスですが」


 一瞬、沈黙。


 そして、会場内に響くような『エェェェッッッッ!?!?』という声が響き渡った。


 いや、失礼すぎない?


 その後、国王様から説明があった。


 確かにクライス辺境伯には『冷酷』『女狂い』等の悪評があった。


 でも、それは祖父の話で既に亡くなっている、言っておくけど病死だ。


 祖父のせいで悪評が付いた我が家をなんとか再建したのが僕の父親だ。


 父は祖父が手を出した女性達を手厚く保護しその後の人生が幸せになるように奔走した。


 結果として祖父が遺した負の遺産は全て無くなった、僕も父の手助けをしながら辺境の開拓をしていた。


 おかげで同年代の令嬢令息との交流は無く、今まで婚約の話も無かった。


 貴族学院も領地経営を優先したので特別な許可を得て入学しなかった。


 という様な話を国王様が話してくれた。


「だからクライス辺境伯の悪い噂は過去の事。だが未だに辺境伯の悪い噂を信じる輩がいるのも事実だ。 これを期に周知する様に」


「リナージュ様、申し訳ありません。 私も信じておりました」


「いえいえ、僕が領地に籠もっていたからいつまでも悪いイメージが拭えなかったんですから」


「いいえ、リナージュ様が御立派な方だと言う事がわかりました。 あの私、リナージュ様の事をもっと知りたい、と思っています」


 ルイーズ様が顔を赤くしながら言った。


「え、えっと……、そうですね。 僕で良かったら」


 その後、僕とルイーズ様は国王様のお墨付きでお付き合いを開始、そして1年後には結婚した。


 まさか関係の無い婚約破棄のとばっちりで素敵な奥さんを手に入れるとは思わなかった。


 因みにだけど元王太子と男爵令嬢はうちとは別の辺境にて開拓作業をしている。


 真実の愛で繋がっているんだから文句は無いよね?

 

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