第十二章⑥『闘いの幕開け』
今こそ己の真なる強さを誇示し、大いなる王としての威容をザハブ市民――ひいては、他都市・他国にいるより多くの人間の目に焼き付ける好機だ。
シャムスは愉快でたまらなかった。
あたかも、受難のザハブ市民のために、神々が差し向けた正義の味方のごとく現れたエレツ。
ザハブ市民にとって救世主となり得る存在希望を、自分が皆の前で徹底的に叩きのめす。
さすれば、王である自分に逆らい、不満を寄せる者は二度と現れないはずだ。
シャムスは心内で高らかに嗤う。
一方祭壇の広場の隅にて、日陰で必死に咲き誇る著莪のように佇む少女が一人。
エアは、決して瞳の離せぬ双方の闘いを見守ろうとしている。
「エレツ――。私、信じているね」
「約束するよ、エア」
不安や心配が一寸もないはずは、ない。
それでもエアは、頭上で輝く太陽神に向かって、エレツの無事と勝利を祈った。
エレツと離れる直前に交わした約束と微笑みだけを、ひたすら信じて。
永久の灼熱光でこの世界を照らし尽くさんと君臨する日輪の下。凄まじい殺気を太陽のごとく燃やすシャムス王――美しき月に咲く花のごとく冷静沈着に微笑むエレツ――。
互いに異質な二人は真っ直ぐ対峙する。瞬きを繰り返す暇にも満たない、緊迫に満ちた沈黙の後。
シャムスの黄金の太陽の斧が、エレツを的確に狙って放り投げられた瞬間――シャムスとエレツの激戦の幕は上がった。
エレツが佇んでいた場所に、眩い斧が深々と突き刺さり、黄金に煌めく砂塵混じりの小さな瓦礫が舞う。
砂塵が完全に晴れる間髪すら入れずに、シャムスは俊足で地を蹴った。
エレツのいるはずの位置へ急接近すると、今度は右手に構えた銀月の剣を振り下ろした。
巨石のように大きく重い斧を片腕で軽々と扱う剛力、風を切る素早さで追撃するシャムス。
歴代最強と謳われるに値する力を発揮するシャムスに、エアは驚嘆を隠せない一方、斬りつけられたエレツの安否を案じる悲鳴をあげた。
「エレツ――!」
「ふはははははははっ。この私を倒すなどという戯言で啖呵を切った貴様は、いかなるものかと構えてみたが。この程度では、私の児戯にもならぬわ! 命知らずの、身の程知らずにもほどがある!」
「――それはどうかな?」
不協和を知らぬ木製楽器のように澄んだ声が、シャムスとエアの鼓膜を優しく、けれど冷やかに撫でた。
まるで苦痛とやせ我慢すら一切感じさせない沈着な気配に、得意げになっていたシャムスも表情を引き締めた。
「やはり、君はとても強いね。君の腕は、とても強くて固い。そのうえ、風よりも速い」
「エレツ――!」
砂塵が完全に晴れる頃、シャムスとエアの瞳に映ったのは――地面に刺さったままの黄金の斧、とその隣で美しい花のごとく静かに佇む無傷のエレツであった。
エレツの右腕の肘から指先は、蛇のような蔓を巻いた豆の樹に変容しており、王の斬撃を瞬時に防御したのだ。
さらに、エレツの後ろから振り下ろされた銀月の剣も、エレツの背中から生え伸びた厚く頑丈な樹枝に巻き付けられて、封じられていた。
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