第十章③『はじめまして』
「――あなた、は」
「――やっと会えたね、エア。
この姿だと、君とは初めまして……ということになるのかな。
私のことが……分かるかい?」
青い草原のようにサラサラと真っ直ぐ零れる長い髪。
柔らかい草花に撫でられるような優しい感触が、エアの頬に伝わる。
透き通るような若草色の髪は、雲間から差し込む眩い陽光に溶けると、黄金麦のように光り輝いた。
澄み輝く髪の美しさは、見る者を敬虔な癒しへ導くようで。
「――まさか……”エレツ”……なの?」
「うん。そうだよ、エア――私の親愛なる友」
歓喜を謳うように風が舞う。
純白の百合のように美しい顔、漆黒に近い深緑の瞳。
清廉なる自然神そのものの美しさと知性、全てを深く包み込むような慈しみが宿っているようで。
しかし、親愛なる友を映す甘やかな眼差しは、愛し子を見つめる母もしくは父に似た慈愛に満ち溶けて。
「っ……エレツ――っ。ええ、ええ。確かに、あなたは……あったかくて、優しくて、頼もしい……私の親愛なる友……エレツ」
「――よかった。それを聞いて安心したよ。私だ、と君がすぐに分かってくれるなんて」
エアの濡れた瞳に灯る歓喜、核心に満ちた言葉に、エレツも心から安堵したように囁く。
「もちろんよ……っ。あなたがエレツだって、ちゃんと分かったわ。だって、あなたはいつも、こうして私を強く、優しく、抱きしめてくれた」
エアを後ろから抱擁してくれているのは、先ほどまで魂の底から呼び求めていた、最愛の友――緑の精霊である。
水辺に映り輝く若草のように澄んだ髪の上――頭頂部に生えた、樹状の両角――草の香る優しいぬくもりが、何よりの証拠。
エレツの瞳も、表情も、唇も、初めて瞳に映すにも関わらず、あらゆる部分はエアにとってひどく馴染み深く感じた。
エアの目の前にいるのは、彼女のよく見知った野人としてのエレツとは違う。
美しい女性とも男性ともつかない――。
"ヒト"として生まれ変わったエレツである。
昨晩、夢でまみえた女神さながらの神々さ、自然の優しさを醸し出す美しい女性の顔。
一方、清白な長衣と深緑の首巻きから見え隠れする肩と胸は、水平線のように広くなだらかで、細長い手足も引き締まっている。
長身なエレツの体格は、一本の樹木のように美しく逞しかった。
もはや神、人間、性別、生物といった区分もその意義すら超越した――清廉な美しさと慈愛、相反する暴性を併せ持つ自然を象っている。
まさに、先日エアが語った天使にも喩えられる佇まい、超然たる美に、エアは激しく心を奪われた。
エレツは、知性と心を獲得したことによって、唯一無二の魂を持つ、完全な存在として生まれ変わったのだ。
エアの純真な蒼海の瞳、エレツの深緑に澄んだ瞳が、互いの双眼に映る。
二人は感慨深そうな様子で、言葉を再び交わす。
「初めまして、私の親愛なる友、エア。
私の名前はエレツ――。
天命を果たすために神々が生みだした神命体……まあ少々不思議な力を宿す一本のしがない花樹と言える存在だ。
まさか友である君と、こうして言葉を交わせるなんて……心から嬉しいよ」
「初めまして、私の親愛なる友、エレツ。
私も……あなたに会えて、とても嬉しいわ――っ」
「エア――」
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