第一章⑤『小さな初恋』
先程の水飛沫で濡れたエアの衣服。
乳白色の瑞々しい肌は透け、可憐な体の線が浮き彫りになっている。
熟れる直前の果実のように初々しくも危うい色艶に濡れた、エアの矮躯。
漆黒の髪は水中で妖艶に波打ち、湖のように澄んだ蒼眼、零れた真珠を彷彿させる水滴を纏っているエアは、まさに人魚のように清らかで、美しい。
「ご、ごめんなさい」
「いや、俺もその、悪い……」
人魚のように無垢な美しさ、熟れ始めの色艶を無自覚に纏うエアに、ガザルは魅せられていた。
居心地の悪い熱に当てられたエアもガザルは、くすぐったそうな面映ゆい表情で、互いに視線を逸らす。
ああ、どうしましょう、どうしましょう。
三つ年上のガザルは、エアにとって面倒見の良い兄のような存在として、物心ついた頃から密かに慕ってきた。
剛毅で男らしい兄のようなガザルの存在は、陽だまりに包まれているような安心感をもたらしてくれた。
しかし十七歳に差し掛かろうとしている目の前の青年は、本当に自分の知る幼馴染なのだろうか。
今更ながらエアは己の目を疑った。横眼でガザルを再び見据えた途端、胸に燻っていたくすぐったい熱情が、心臓から髄に渡って波のように燃え広がった。
小麦色に焼けた筋肉質な体躯。
優雅な鹿のようにすらりと伸びた手足。雄々しい獅子のように逞しく精悍な顔立ち。
エアは幾度となく夢想したことがある。
もしも自分に兄か父親が存在したら、ガザルに対して抱くのと同じ安堵が湧くのだろうか。
それとも、また異なる感情が生まれるのだろうか。
そんな密かな憧れを。太陽のように熱く膨張していき、林檎よりも甘く鮮明なものへと変貌していく感情。
この瞬間、初めて私は自覚したのかもしれない。
甘く特別な感情とその名前を。
ガザルに対して最も強く芽生えたこの感情こそが、そうである、と。
しかし、エアは未だ知る由はなかった。
今のエアが鮮明に感じ取っているこの感情を、そう呼ぶのだとすれば――どれほど生易しく幸福なことなのかを。
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