第六章④『救い』
クックゥーー!
「ぐあぁ!? 何だ! この忌々しい鳥め!」
王の寝室の小窓から侵入し、電光石火で王の顔面を襲ったのは、白雪の鳩シェレグ。
雪色の翼を激しく振り乱し、大粒の雪のように舞う羽で、王の注意と視界を妨げようとしている。
さらに、朱いクコの実のような足指の鋭い爪先、とひよこ豆のようなくちばしで、王の玉体を容赦なく突き刺す。
純粋無垢で可憐な野花を今まさに手折り、いたぶろうとしていた矢先、突如現れた鳩の妨害を喰らってしまう。
王は困惑と苛立ちを隠せない様子で、両腕を鉄槌のように激しく振り回し、忌々しい鳩を追い払おうとする。
一方シェレグは、己の白く美しい体を軽やかに反らし、王の手の隙間を華麗にすり抜けていきながら、王を執拗に攻撃する。
自分のもとへ駆けつけた予期せぬ救世主に、エアは驚きを隠せない。
王の注意が完全にシェレグへ集中している隙に、エアは王から素早く距離を取った。
さらに真紅の寝台の横にある棚上の花瓶を、エアはおもむろに鷲掴んだ。
両手に掴んだ重いそれを、エアはシェレグに気を取られている王の後頭部めがけて思い切り叩きつけた。
「ぐあぁ――!? っ……お……のれ……っ」
エアの痛烈な反撃に、さすがに頑健な王も隙を突かれ、ひとたまりもなかったようだ。
王様は後頭部を巡る激痛と眩暈に悶絶しながら、均衡を失った彫像のように床へ倒れ伏せた。
意識だけは残っているらしく、王は指先一つ動けない姿勢のまま恨み事を呟く。
白鳩による予期せぬ乱入に加え、王に歯向かったエアが王の後頭部を殴るという暴挙まで冒したのだ。
薄れゆく意識の中、王の心内は逆鱗の砂嵐で荒れ狂っているに違いない。
王が無力化している内に、エアは自分を救出してくれた勇敢な友のもとへ、安堵しきった様子で駆け寄った。
「シェレグ! 大丈夫だった? ありがとう、私のために……っ。ごめんね……あんなに綺麗だったあなたの羽、こんなにむけてしまって……っ」
王との乱闘によって、美しい雪色の羽はだいぶ抜け落ちてしまっていた。
王の反撃を受けたせいか、小さな傷口から伝う血滴が、純白の羽を赤く染めている。
それでも、王による制裁という名のおぞましい拷問に遭う間一髪の所で、シェレグは身を挺してエアを救ってくれた。
優しく勇敢な友に、エアは感謝と安堵のあまり涙を薄っすらと浮かべた。
チチチチッ……!
「シェレグ? もしかして……私を導いてくれるの?」
一方シェレグは、羽毛が抜け傷んでいるのも厭わずに翼をはためかせると、出入り口の扉のほうへ風となって飛んだ。
こっちへおいで、とエアを誘い導くように。
エアは、素早くかつ忍び足で王の寝室から去ると、シェレグに続いて駆けだした――。
己を飼い殺し、今となっては危険領域と化した城の脱走を目指して。
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