第四章⑧『王の気まぐれ』
互いの視線が交ざり合うと同時に、王は象牙並みに滑らかで逞しい肌を艶めかせる腕を、エアへ伸ばしてきた。
白磁のような王の指先が、エアの薔薇色の頬にそっと触れた。
王の手から伝わる大理石のような冷たさに、エアは体を一瞬震わせたが、不思議と嫌な感じはしなかった。
横暴な王らしかぬ手付きには、野に咲く可憐な花びらに触れるような優しさすら感じられた。
気まぐれで冷酷な暴虐王に対する畏怖と緊張は、当然完全には払拭されていない。
しかし今のエアの心には、怖いはずなのに怖くない――矛盾した胸騒ぎと安堵が渦巻いている。
麗月のような瞳に射抜かれながらも、エアは王の反応を待ち構える。
最中、柘榴色の赤い唇が柔らかく綻んだ瞬間を、エアは見逃さなかった。
「小娘よ。青く固まっていた蕾が柔らかに咲いたようなお前の表情――中々に悪くない。無垢に綻んだ蕾のようなその表情、王であるこの私の前だけに留めておけ」
「? は、はい……。かしこまり、ました」
雲のように捉えどころのない言葉に、エアは狐につままれたような表情で大人しく返事をするしかなかった。
普段は常に辛辣で傍若無人であるはずの王が、本当に今宵はどういう風の吹き回しなのか。
しかし、幼いエアでもただ分かることは一つ。
孤高の月が柔らかに輝いたような、今宵の王様は随分と機嫌が良く、珍しく寛容であること。
それこそ、王にとっては取るに足らない存在である小娘、関心と優しい一瞥すら与えてくれるほどに。
腑に落ちない様子のエアは、思わず眼差しだけで、王の真意を無言で求めてしまう。
しかし、先程まで浮かべていたはずの柔らかさは、月が雲に隠れるように忽然と消え失せた。
代わりに、普段の冷酷無比な暴虐王としての表情に戻っていた。
王に決して睨み殺されることのないように、エアは慌てて視線を逸らした。
奇妙なほど緩やかな夕食の一時が過ぎた後、エアは王から逃げるようにそそくさ、と自室へ戻った。
珍しく王が見せた微妙な言動――幾ばくかの優しさと思しき気配について、エアはさっそくシェレグとメシュメシュに打ち明けた。
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