第四章⑥『王の誕生』
約四十年前――ザハブには、一人の比類なき王子が生まれた。
ザハブの王子は、生まれながらにして天上の美しさを醸し出し、聡明で愛らしい少年として育った。
武勇においても強靭かつ勇猛果敢で、輝かしい頭角を現した。
金剛石のごとく美しく逞しい肉体。
機転の利くガゼルにも勝る賢さと強靭さ。
月と太陽そのものに等しい白金の髪と金の瞳には、王威溢れる神々しさを湛えていた。
王子は、比類なき神々しさと美を湛える才気溢れる王子は、民にこよなく愛された。
未来の美しき善き王となる彼は、大いなる自然と神々に長らく翻弄されてきた灼熱の大地、とそこに生きる人間を、希望と幸福へ導いてくれるだろう。
ほとんどの民は、そう信じて疑わなかった。
王子自身も、未来の明君として立派に立つべく、日々鍛錬に勤しんだ。
しかし、威徳を備えて立派に成長したはずの王子自身の”裏切り”によって、民の希望は打ち砕かれた。
「血迷いし民衆どもよ、心して聞くがよい! 此度は神々並びその代理人たるこの王である私への叛逆罪として、この男は私自らが処刑した――!」
青年へ成長した王子は、自身の叔父でもあるイムベラトル王を殺害した。
神々の代理人と謳われる人間の最高権力者を手にかけるという罪深き行為は、神々への反逆罪に値する。
今にも我々人間に神罰が下り、この地は滅ぼされるのではないか、とザハブの民は畏れ慄いた。
しかし、都市全体へ瞬く間に蔓延した恐怖と混乱を治めたのは、意外にも王を謀殺した王子本人であった。
王子の凛然たる宣言がザハブへ轟き響いた。
「先代の王は、私の父にあたる先々代を殺害し、王位を簒奪した」
「つまり、先代は神々ならびにその代理人たる王に逆らった大罪の徒である」
「よって、先代の王の魂は冥府において、大いなるナール神の裁きを受ける」
王子の父親である先々代の王は、流行り病で急死したと伝わっていた。
しかし真実は、弟である先代の王によって謀殺されたのだ。
忌まわしく恐ろしい衝撃の真相は、民の前で白日の下に晒された。
私利私欲のために王位を簒奪し、民を騙し、神々を裏切ってきた罪深き悪徳の王である先代の正体に、民は皆固唾を吞んだ。
「私は、太陽神アッシャムスの祝福と加護、ザハブの都市神・最高神サマーァの天命を賜った」
「今こそ、この私は新たな王となり、ザハブを世界最大の都市国家へ導くと誓う。」
「脆弱なる民よ。貴様ら人間の王として君臨し、神にも等しきこの私に異論を唱える者はおらぬか?」
「もしそうであれば、よかろう。この私を倒せると吠え猛る勇者、神罰を恐れぬ愚か者にのみ、この私に刃向かう不敬を許そうではないか――!」
神の血を継ぐ王子、と彼の後見人となる祭祀長の証言は、一点の曇りもない真実。
主神サマーァも承認していると断言されると、ザハブ市民も押し黙る他なかった。
主神サマーァと太陽神アッシャムスの名を讃えながらの証言に対し、神罰は一切下らないのは、揺るぎなき証拠。
代わりに、王子に異論を唱えた者、悪名高き先代の王の腹心達は一人残らず、主神サマーァの神罰によって命を落とした。
さらに王子は、生き残った先代王の腹心達を重罪人として鎖で繋ぎ、神殿の空中広間に集めた。
暗澹たる雲空の下、罪人達は祭壇に立たされた。
王子は威厳に満ちた声で、彼らの罪状と主神サマーァの名を、高らかに謳いあげた。
瞬間、深闇の雲間から雷柱が落ち、祭壇にいた罪人は灰燼と化した。
以降も、王子の祈りと主神の神罰は、逆心を抱くザハブ市民や政敵となる先代の残党を、矢継ぎ早に殺し尽くした。
かくして王子は、神に等しき偉王としての権限と畏怖を、アルドゥアラーのあらゆる人間、他都市・他国へしらしめた。
先代王の怠慢によって衰退寸前の危機に陥っていたザハブ。
しかし、新たなる王は、ザハブを希少資源の行き交う富で潤う栄華の城塞都市国家へ、見事復興させた。
ザハブの偉大なる王こそ、崇高なる血を継ぎし半神半人――八代目イムベラトル。
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