第一章②『聖女の家』
遡ること二週間ほど前――。
偉陽の灼熱に満たされしアルドゥアラーの内、渇いた孤独な荒野に点在する小さな星のように寂れた農村。
貧しくも平和な農村にて、清貧に身を置いていた乙女の名はエア――青天のごとく澄んだ音色を授かりし少女。
子どもができなかった老夫婦に拾われたエアは、数えられる程に限られた年月ではあったが、実に伸び伸びと育ててもらった。
エアの義両親は恵みの大自然に等しき神、そして共に助け合って生きる仲間への感謝と祈りを忘れない、信心深く心優しい恩人であった。
おかげでエアは、天真爛漫で心優しい少女に育ち、明日で十四歳の誕生日を迎える。
義両親亡き後も、家族のように親愛してくれる村の仲間と家畜に囲まれながら、エアは心豊かな日々を生きていた。
「今日もいい天気ねぇ、メル。収穫が終わったら、暑そうなもこ毛を刈ってあげるわ」
メェェ~~
真っ青な天に君臨する太陽から絶えず降る灼熱。肌を焼き焦がすぬくもりの眩さ、爽やかな草と甘い棗椰子の香りを運ぶ生暖かい風を、瞳と皮膚に感じる。
白雲のように柔らかな羊毛を撫でられたメルは、間延びした声で鳴いた。
流れるような漆黒の髪を後ろで束ね、砂と土でくすみきった長衣の裾を帯で短く結んだ身軽な格好。
で、エアは今日も炎天下の畑仕事に勤しむ。
炎天下で熱された広大な土畑の上を、エアは兎のように颯爽と飛び越えていく。
渇いた熱獄に喘ぐ過酷な環境で生き残った色鮮やかな野菜は、エアの籠へ盛んに埋まっていく。
さらにエアは、可憐で巧みな栗鼠のような器用さで樹木に登った。
エアの白い手が摘み取るのは、青葉の横で揺れる紅玉色に濡れ輝く林檎。
畑と枝隙を颯爽と駆けるエアの姿は、お転婆でありながらも愛らしく活き活きと輝いている。
可憐なたくましさすら湛えた働き姿、夜明けのように優しく眩い笑顔は、村人達の心を温かく照らす。
「さあ、メル。こっちへおいで。約束通り、私が綺麗に刈ってあげる。じゃ、じっとしててね」
収穫を終えたエアは、青い木陰を揺らす林檎の樹の下でメルと共に憩う。
摘み立ての紅林檎に、エアは小さい貝殻のような歯で齧りつき、カシュッっと瑞々しい音を奏でた。
エアは、妹を可愛がる姉のように優しく語りかけながら、メルの羊毛を刈る。
瑞々しい林檎の甘酸っぱさ、とメルのふんわりした手触りを味わいながら、青い木陰で涼む。
それだけで、何だか幸せな気持ちになれる。
大地に容赦なく降り注ぐ陽熱の辛さも、過酷な畑仕事の疲れすら、吹き飛んでいきそうだ。
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