第一章①『清貧なる乙女の悲運』
広大無辺の乾燥地帯・アルドゥアラー。
肥沃の土と水を運ぶフラート川とディジュラ川に挟まれた沖積平野。
その狭間に君臨するのは、最大の黄金都市国家――”ザハブ”。
ザハブには、野菜や果物などの収穫物や家畜、布や宝石などの、ありとあらゆる上質な資源と莫大な財は、市民の労役と交易を通じて泉のように豊富に湧く。
おかげで今日も振る舞われた朝食も、大変豪華で美味しかった。
黒糖色のライ麦パンは、カリッと香ばしくて、中はふんわりと柔らか。
添え合わせには、まろやかな牛乳味の薄塩バターや、朝陽を蕩けさせたような蜂蜜に漬けた甘い棗椰子、爽やかな苦味と酸味が滲むオリーブピクルスと爽やか風味の香草サラダ等。
特にアルドゥアラー全域支配を実現しつつある最高権力者――サハブの現王の聖城には、王の権限によって独自に厳選された新鮮な最高級食材の他、外国から収集した一流の高級品や貴重な財宝が集まってくる。
王の毎日の食卓を飾るのは、世界屈指の調理人による絶品料理なのだから、美味しくないはずはない。
しかし、貧しい故郷では一生味わえない美食、煌びやかな食器にいくら囲まれていても、私の心は決して晴れなかった。
「どうだ? 小娘。他国の王族ですら一生かかっても手に入らぬ一級品ばかりを揃えさせた。よもや、口に合わぬ、と言うのではなかろうな?」
何故なら、この傲岸不遜な暴虐の王――八代目イムベラトル王と二人きりで食事を取っているのだから。
「いえ、王様。むしろどの料理も珍しく、一度も食べたことのない大変美味なものばかりで、至極恐悦です」
内心萎縮している少女を揶揄しながら、王様は隣へ無遠慮に腰掛けてくる。黄金の中で気泡が燦々と踊る麦酒を呷りながら、王様は幾度目かの自慢話を始める。
「はははっ。当然であろう! あの貧しい村で育った田舎娘の貧乏舌にも合う料理を、この王が見繕ってやったのだからな。王である私の心遣いに感謝するがよいぞ!小娘」
「はい……王様の深き慈悲、誠に感謝致します」
王様の見せる一挙一動、一言一句は、私に薄塩を踏んで歩むような居心地の悪さを与えた。
これは決して私の望んだ生活ではない。
ここには決して私の希う幸福は手に入らない。
何故、私はこんなところにいるのだろう。
何故、こうなってしまったのだろう。
煌びやかな衣装と宝飾品、高級な宮廷料理、至高の快適さ、豪奢な建物や工芸品に虚しさを覚える中、城に連行される前の日常に想いを馳せた。
今となっては、胸が締め付けられるほどに懐かしき故郷に恋焦がれて。
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