第四話 不正収入
この回は新キャラが登場します。
今回の登場人物紹介は唯です。
川上唯 詩仙学院1年4組 図書委員 警視庁非公認公安特殊部隊「くノ一」所属 B型 151センチ42キロ 3サイズB83W51H80 好きな食べ物 だし巻き玉子(最近はラーメン) 趣味 料理、プログラミング
本作のヒロインで主人公のひとり。
クールで整った顔立ちの少女で、海とは家が隣人の関係で同じ図書委員なのだが、家庭の仕事の関係上で学校以外での接点は殆ど無い。
両親が共に公安所属の警察官で、自身も物語開始時から1年前にくノ一に所属している。(キッカケはとある事件で母を亡くしたことである)
家に帰る事が遅い事の多い両親の下で育ったためか、幼い頃から家事全般を熟せるくらいには器用。
また、独学でプログラミングを学んでおり、ハッキングの腕前はかなりのものでそれが任務でも生かされている。
性格は生真面目で冷静且つ毒舌家だが、気を許した相手には普段抑えている理性を外したかのように甘え、小悪魔的になる。
とある任務を終えた後、偶然配達先から戻っている途中の海に遭遇し、元々彼に好意自体は抱いていたものの、それ以来登下校や昼食も共にするなど急接近をしている。
外食経験がほぼ皆無だった事もあり、世間体はやや疎い部分がある。
運動神経がかなり良く、くノ一としての技量はかなりのもので、強力且つ多彩な甲賀流を使いこなす。
「玄斎工業……? 最近業績を伸ばしてる部品製造の会社だよね?」
唯は訝しむ顔をしながら哲三に事の顛末を聞く。
哲三はこう返した。
「確かにお前の言う通り、ここ1年でシェア数も上がっていて最新の機械にもそこから取り寄せている、それも事実だ。だが良からぬことも世の中あるモンだ。いわゆる"不正収入"ってヤツだ。」
「つまり……確定申告をしていない分の収入があると捉えていいってこと? それを調べてこい、と?」
「その通りだ。詳細は明日、くノ一のメンバーに追って伝えるが……お前が潜入することになる。本来は公安の管轄じゃあねえが、どうしても逮捕となる証拠が上から欲しい、ってモンでな、それくらい巧妙に隠していて今の今まで問題になってないということだ、それを掴んで報告せよとの事だ。」
「んー……とりあえず分かった。タダでは転ばなさそうだけど。」
「どう転ぶかは正直俺も読めたモノじゃねえからな、急速に伸びた理由が不正収入、という情報なら只事じゃねえ分、大変な任務になるかもしれん、それだけは覚悟しておいてくれ。」
「分かってる。あらゆる事態を想定しておくよ。」
唯はそう言って冷蔵庫を開け、食材を取り出して夕食を作り始めたのであった。
その頃海のアルバイト先では。
「竹園くん、配達終わった?」
穏やかな声色の女性の声で、キッチンに戻った海は声を掛けられる。
「はい、たった今。」
海は左目の下にある泣き黒子が特徴の女性にそう返した。
彼女の名は幸愛未、海の一つ上で、詩仙学院の生徒会長を務める人物でもあり、ここでもバイトリーダーを務めるほど人望が厚い女性だ。
海も彼女に対しては信頼を置いているので、言ってしまえば頼れる先輩なのだ。
「お疲れ様〜、今日はそんなに忙しいわけじゃないから、ちょっとゆっくり目でも良かったのに。」
「幸さん、そういうわけにもいかないっすよ、配達時間が遅れたらクレームが本社に行くからダルいじゃないですか、それこそ。」
「冗談よ、冗談。これでも君にはキッチンの担当は助けられてるのよ? 君のシフトが入ってる時には率先して配達をやってくれてるわけだしね? そうじゃなきゃ、車の免許を持ってる人で持ち回りになったりするし。」
「別に好きでやってるわけじゃないっす、そういうのをやる、って言った手前ですし。」
「なんだかんだで真面目よね、竹園くんって。それに助けられてるのは事実よ? いつもありがとうね?? ああ、それはそうと……この前さ、唯ちゃん……連れてきてたでしょ? 事務所にさ。」
「!? い、いや、あれは……っすね、幸さん……」
唐突に愛未から唯の話題を出され、海は完全に想定外な事態に直面して狼狽したような声を出した。
「ううん? いいのよ、私もくノ一だし。寧ろ助けてくれてありがとう、って言いたいのよ、私としては。」
「あ、そっちすか!?!? って、いいんすか!? こんな所でバイトしてて!!」
次々と、サラッと繰り出される愛未の暴露に対し、海はツッコミが追いつかない。
しかし公安にも属しているのであれば、尚更このピザ屋に勤務しているのか、全くもって理解が出来るはずも彼にはなく。
その理由は愛未はこれまたサラッと海に話した。
「んー、そうねぇ。私としては好きにやらせてもらってるけどね〜? あとはそうね、電話対応もするわけでしょ?配達の。それで住所とか聞いたらするから都合が良いのよ、情報を得る為には。だからここで働いてるの。」
「……そう考えたら理に叶ってますね……というか、"どうせ川上から事情を聞いてるんだろ"、っていう口ぶりっすね、幸さん……」
「そそ、それも見越して君にならいいかな、と思って話したのよ? 唯ちゃんは私にとってはカワイイ後輩だから……内心で君と仲良くしてるのが嬉しいのよ。あの子、結構人見知りというか………素っ気ないなぁと思う時はあるし。」
身内に対してもあんな感じなのか……と海は内心思ったが、現状では唯は可愛がられているのだろう、とも感じた。
「とりあえず、アイツに嫌われないように立ち回れ、ってことすかね? ……あぁ、そうっすね……『俺はお前の事は嫌いじゃない』と伝えてもらえないすか? ……俺の口から伝えるのは小っ恥ずかしいので。」
「ん、お安い御用よ、キッチリ伝えておくわ。」
愛未が海の頼みを了承した後、閉店間近のピザ屋の事務所に電話が鳴り響いた。
愛未が当然のように電話対応に出る。
「はいもしもし……明日の配達のご注文ですね? 少々お待ちください。」
愛未は注文用紙を取り出し、依頼主からの注文を聞き、それをチェック欄に記入していくのであった。
翌日の午後5時。
警視庁から少し離れたビル6階の一室にある「『くノ一』本部」に指揮を執る哲三と、仕事が入っている愛未を除いた唯を含む10人のくノ一が集結していた。
いよいよ、くノ一が玄斎工業の不正の証拠を押さえるために動き出そうとしていたのである。
次回から本格的に潜入任務にあたる事になります。
ここでくノ一の面々を全員紹介しながら任務の面も進めていこうと思います。
登場人物紹介は唯の父・哲三です。
唯がどのように潜入調査をしていくのか、そして事情を知らない海はどうしていくのか、というところも書きますのでお楽しみにしていてください。