第三話 唯、初めての二郎系ラーメンを堪能する
今回から新章「玄斎工業編」です。
新キャラやアクションシーン、ラブコメのシーンもここから充実させていく予定です。
さて、今回から登場人物紹介コーナーです。
この回は主人公の海を紹介します。
竹園海 詩仙学園高校2年4組 170センチ 56キロ 好きな食べ物:ラーメン全般、レーズン 趣味:バイク、バイクのメンテナンス
本作の主人公。
特に目立つこともなければ友人も居ない、周囲からは変人のように見られている男子高校生。
図書委員に所属しているが、本人は特別本が好きというわけでもなく、他に候補が居なかったため、仕方なくやっているという感じで、パートナーになることの多い唯からは「大雑把」だったり「頭がくるくるパーな人」と散々な言われようをされている。
バイクの免許を持っており、ピザ屋のアルバイトの際にはオートバイで配達に赴いている。
昼食時に「風が気持ちいいから」と屋上にいることが日課で、感性自体は変わっており、斜に構え素っ気ない言動も多いが、根は熱血漢で困った人を放っておけない親切心溢れる性格をしている。
とある配達時、偶然にも唯の秘密を知ってしまったことで、家が隣同士という縁もあり、唯に懐かれるようになった。
母子家庭で母はパートをし、私立高に海を行かせながらもパチンコに興じているため、海は半ば呆れている。
実は人には言えないような過去を持っているのだが……
さて、ホームルーム終了のチャイムが鳴り、海は帰路へと着くためにバッグを持って教室を出た。
何しろ今日は彼にとって大切な日_____給料日である。
彼が月一で楽しみにしている"ある場所"へと向かうのが、彼の中でその日の日課となっている。
足早に校門を出ようとしたところ、偶然かはたまた必然か、バッタリと唯に出会した。
「先輩、これからお帰りですか?」
「ん? おう。何か用か?」
「宜しければ一緒に帰りませんか? これといって予定も今日はありませんから。」
「別にいいけどよ……急にどうした? 確かにお前の秘密を共有する、って間柄だけどよ……」
「いえ、単純に私が先輩のことを知りたいんです。あんなことを口走ってしまったからには、まず行動をするべきですから。」
特段と悪い話でもないし、昼に屋上で唯が言っていた「海を自分のものにする」という旨の発言をどうやら実践するようで、狙いは見え透いていたものの、海自身は唯にならば口外をするわけではないだろうから安心感はあった。
それならばと共に帰路に着くことを了承し、「行きつけ」へと連れていく事にした。
「まぁ、お前になら知られても大丈夫だよな、俺だってお前の秘密をバラす気はねーし。いいぜ、俺でいいなら幾らでも付き合うよ。」
「感謝します。」
というわけで、2人は海の行きつけの店へと向かう事になるのであった。
十数分自転車を漕いで辿り着いたのは、やや小さめの店舗に『竜胆』と書かれた紺色の暖簾があった。
外に煙となって漏れ出てくるのは食欲をそそるニンニク混じりの香り、ここは所謂「二郎系ラーメン」と呼ばれるラーメン店だった。
そう、海の"行きつけ"とはこの店であり、給料日の月一で来るような程度は軽いが正真正銘の「ジロリアン」だった。
「……ここ、ですか? なんていうのか、匂いがスゴイですね……」
女子高生を、ましてや匂いには気を遣うであろう『くノ一』にはニンニクを多量に使用する二郎系ラーメンはかなり重くのしかかるはずだ。
海は内心でやらかしてしまったとは思ったものの、「海のことを知りたい」という唯の事も無碍には出来なかったのもまた実情、ならばと連れて行かないわけにもいかなかった。
「あーそっか……悪りぃ、マズかったか??」
「……いえ、以前から外食には興味がありましたから。私、行ったことがないので、外食に。」
「そもそも外食がゼロ!?!? ウソだろお前!!」
「事実ですよ? 大体両親共に公安の警察官なのに家族で外食に行けるわけもないでしょうに。」
唯の家庭事情にそれもそうか……と思いつつも、海はますます不安に駆られていた。
何しろ常連が足繁く通うのが二郎系というモノで、初二郎且つ外食自体が初という唯には、幾ら海がいるとはいえど荷があまりにも重すぎた。
「んー、そりゃしゃーねぇなぁ……分かった、俺が手取り足取り教えるから。それに倣ってやってくれ。」
「ありがとうございます。」
そういうわけで2人は店舗に入っていき、食券を購入したのであった。
そして数分後に提供されたのは、大量にラーメン丼に盛られたモヤシの山が2つ。
唯はニンニク抜きで注文していたとはいえ、コールの段階で海と同じ「野菜マシマシ」をオーダーしたのだ、普通ならば女子高生が食べ切れる量ではない。
(こんなに多いんだ……スゴイ、麺がまるで見えない!!)
ズシっと腕にのし掛かる重量に視界に入る圧巻の光景に唯は驚愕の表情を隠せない。
そして海は慣れているかのように一瞥も暮れずに割り箸をパキッと割った。
互いに「いただきます」と言い、まずはモヤシの山を箸で次々と口に運び、牛脂の味でコーティングされつつも芯を残しつつもしっかりと茹で上がった食感を味わっていく。
「美味しいですね……」と、唯は言葉少なに味の感想を漏らした。
「美味かったか?」
「味はちょっと濃いですけど、なんというか男性向けの味というか……リピーターが多いのも分かるな〜……と思いまして。」
「そっか、気に入ってくれたんならよかったよ。」
約数分モヤシを食べ続けた後、海は麺を引き摺りあげ、再びスープの中に入れていくと、モヤシがスープの中に沈んでいく。
いわゆる「天地返し」とジロリアン界隈では言われるそうで、ここまで来たら中盤から終盤に差しかかる。
麺にもスープにもニンニクがかなり効いているので、量は多いはずなのに歯応えのある食感も相まってスルスルと食が進むものだ。
唯も負けじと麺に辿り着くとともにズルル、ズルル、と味わうように麺を啜っていった。
と、ここで唯がふと思い出したかのように「そういえば」と話題を切り出した。
「先輩、バイトは今日あるんですか?」
「な、なんだよ、急に。あるけどそれがどうかしたか?」
「……職業柄で気になったのですが、匂いは大丈夫なんですか? ニンニクが思いの外お店の中も含めて効いてますし。」
「失礼な、ちゃんとシャワーくらい行く前に浴びてるわ。まぁ……帰っても、俺1人の時が多いしな、ちゃんとやっとかねーとよ、そこはな。」
「じゃあ、私もそうしておきます。ところで、先輩の家族関係はどうなんですか?」
「……俺がガキの頃に親が離婚しちまってな、母親と2人暮らしだ。つっても、お袋はパートに行くがてらでパチンコを打ったりしてっからな、息子の俺としては呆れるばっかりだよ。」
唯は「そっかー……」とこぼしながら、何処か似ているなと感じ取っていた。
「……先輩も、複雑なんですね、家族のことに関して言ってしまったら。あまり馴れ合ったりする人でないのも、納得ですよ。」
「お前の親父とよ、あんなパチンカスババアと一緒にすんじゃねーよ。パチ屋に行く暇あんならもう一個くらいパートを持て、って言いたくなるっての、息子の立場からしたらな。」
唯の言い草に少し呆れながらも、海はラーメンを食べ進めていった。
唯も食らいつき、初二郎を見事に完食してみせたのであった。
帰り道に着き、2人の自宅のあるマンションの玄関前に来た。
「先輩、今日はありがとうございました。お陰様で楽しむことができました。」
「お、おう。いいんだよ俺なんかで良かったらよ。そうだな……俺も、川上のことをもう少し、知りたくなってきたよ。だから……」
「だから、なんですか?」
エレベーターのドアがスーーーッと開き、2人は搭乗し、3階へ向かうボタンを押した。
「だから、その、さ。今度は川上の予定に付き合わせてくれ。空いてる時でいいからな?」
この言葉を聞き、唯は少し驚いた顔をしながら照れ隠しをしたように海から顔を逸らした。
「い、いいですけど……私なんかの予定に付き合っても面白くなんてないですよ?」
「面白くねーからなんだよ? 余計に気になるからだろうがよ、変なヤツだな?」
「先輩に変な人呼ばわりはされたくありません!!」
海が少し揶揄いながら言った一言に、唯はついムキになって大声で叫んでしまった。
「ま、まぁ……な、何でもいいじゃねーか。それじゃあ、な。また明日。」
「ええ。また明日。」
こうして2人は自宅のドアをガチャリと開け、中へと入っていったのであった。
(さて……と。さっさとシャワー浴びて、バイトに行くとするか……)
海は帰宅一番に洗面所へと入って制服を脱ぎ、浴室へと入ったのであった。
一方、唯は。
シャワーを浴び終えて洗面所を出ると、唯が所属する「くノ一部隊」総司令で父の哲三がリビングに座っていた。
「あれ、父さん帰ってたの?」
「ああ、今日は捜査の纏めでな。お前に共有しなけりゃならないのが来ちまったからな。」
「きょ、共有? 任務の話??」
唯が訝しんだ表情になる。
折角シャワーを浴びてサッパリしたのに湿気を浴びたようなモヤっとした感覚だった。
「任務と言えばそれまでだが……先に今回の現場を話しておく。」
「うん、お願い。」
一気にリビング内がピリピリとした空気に早替わりする。
哲三は纏め上げた資料をドカッとテーブルの上に置いた。
「『玄斎工業』……聞いたことはあるか?」
この「玄斎工業」が、唯の任務に新たな波紋を引き起こすことになるのだが、海はそうとは何も知らずにまた巻き込まれる羽目になるのであった。
次回から任務本格化です。
登場人物紹介は唯を紹介しますので、宜しくお願いします。
なお、新キャラも続々と登場させる予定です、この回から。