第一話 現代に生きるくノ一(前編)
この度、新作を投稿する事になりました。
とはいえ、短編の連載という自身初の試みですが。
詩仙学園の2年生、竹園海。
クラスでは1人でいる時が多く、本人もそれを気にしていない事からも「変人」として浮いている存在だった。
そんな彼は図書委員として、この日は後輩の川上唯と共に入荷した新
本の棚卸し作業に追われているのである。
「よし………こんなモンか。」
海は呟くように一息吐いた。
その時ゴトン、というプラスチックの容器が置かれる音が彼の耳に響いた。
海がその方角を向くと、唯が海を見上げるように、且つ素っ気ない顔と声で海にこう指示する。
「先輩、独り言を呟いてるくらいなら本棚に本を入れてください。」
「あ、ああ………スマン。」
いつも通りのこういったトーンで話すのが唯で、いつもの事と慣れている海でなければ一瞬で空気が凍りかねない。
とはいえ、海もまだ全てが終わっていたわけではなかったので、「K」とマジックで記入されている容器を持って、「K」と表示されているプラスチック版が貼られた本棚へと向かって背表紙に貼られたシールを確認しながら丁寧に入れていった。
2人が作業をしている間に2人のもう一つの間柄を話しておくと、“家が隣同士”である。
とはいえ親同士で仲が良いわけでもなければ、川上家が町内会に参加しないので交流も学園以外では皆無に等しかった。
そんなわけであり、“互いが互いのことをよく知っているわけではない”というのが実情であり事実なのだ。
ちなみに2人がお互いをどう思っているのか、というと海は唯の事を「クールでしっかり者で生真面目な子」と、唯は海を「大雑把で緩い人」という認識だ、それくらいの関係性と評価なのだ。
海が一通り収納を終えて戻ってくると、唯は入れ終わった本の配列を確認していた。
相変わらず几帳面だ、と海が思っていると、唯は棚に目をやったまま、素っ気ない声でこう聞いた。
「………終わりました?」
「ああ、バッチリだ。」
唯はそうですか、とポツリと呟いてまた、確認作業に戻った。
少しだけ無言の時間が流れるが、割るように海がこう唯に言った。
「川上、俺も手伝うよ。1人でやるの、大変だろうから。」
「………確認は殆ど終わっていますんで、先帰ってていいですよ。」
「別にいいじゃねえかよ………相変わらずだよな、お前。」
「ホントに要らないです。馴れ合いとか共同作業、嫌いなので………」
善意をあしらわれた海は「いつものこと」と割り切りつつ、海自身も馴れ合いは苦手な部類だったので少しばかりは同情していた。
碌な友人もいないのだろう、と思いつつ海は帰る支度を整えた。
内心海は自分の中でブーメランになったな、と思考のセルフツッコミを入れてこの後はアルバイトの方に向かうのだ。
「それじゃ、お疲れ。気をつけて帰れよー」
「………お疲れ様です。」
2人は淡白な言葉だけ交わし、海は図書室を出て帰路へと着いたのであった。
その夜のこと。
ピザ屋で配達のアルバイトをしている海は、店舗から比較的遠い場所への配達を終え、店に戻ろうとした。
その時、彼の運命を変える出来事が起こった。
暗闇の中で街灯だけが灯っている中でよく分かったわけではなかったが、紺色の装束のような服装を纏った人型の何かが屋根の上をまるでウサギやリスが外敵から逃げて生存しようとするかのように、飛び移っていく姿を捉えた。
何かいる、そう感じた海はその影を店へ戻る寄り道がてらでその後を追ったのであった。
そしてその人影は、というと。
誰もいない事を確認した後にフー、と一息吐いて頭に巻いた頭巾を外す。
顕になった涼しげに整った顔立ちに闇に紛れられる漆黒の髪。
髪は後ろに結われており、どこか凛々しくも扇情的に映るものだ。
(これでデータは盗れた、あとは本部に送って、と………)
スマホを操作し、何処かにリンク付きメールを送った直後だった。
海が乗ったスクーターが歩道にいるその人影の姿をライトアップしたのだ。
「!? だ、誰!?」
警戒しているように顔を咄嗟に腕で覆い、身構える人影、だが海はこの声に聞き覚えがあった。
人違いだといい、その心づもりでライド越しに話しかけた。
「お前………川上か?」
「………!? な、なんで私の名前を…………!?!?!?」
そう、この人影の正体は「川上唯」だ。
何故自分を知っているのか、と言わんばかりに、普段は冷静沈着な唯が明らかに狼狽えていた。
海にとっては、この古風な姿をしている人間が唯だと知り、自らもヘルメットを取って顔を見せた。
「俺だよ、俺。竹園!!」
「せ、先輩………!?!?!? ど、どうしてここに…………!?」
この後海は唯の「本当の姿」を知り、巻き込まれていく事になるのだが………それはまた、別の話である。
次回、秘密を共有した2人の関係に変化が訪れます。