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僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。  作者: 小鳥鳥子
『二度目の花火大会』
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第三十五話 『莉子ちゃんは、お兄ちゃんの何を好きになったかって分かる?』

「浴衣はこれで問題ないよな?」

「……大丈夫だと思うよ」


 花火大会当日。

 僕は澪に手伝ってもらいながら、慌ただしく準備を行っていた。

 出掛ける前に完璧な準備をしなければいけない。

 当然である。

 今日は失敗は許されない大切な日なのだから。


 花火を見る場所は既に決めていた。

 花火が一番綺麗に見えると言われている公園の一画である。

 ただ、人が多すぎる可能性があり、その際は二つ目の候補へと向かうことになる。


「……お兄ちゃん」


 しかし、下駄を履くなんて小学生以来だろうか?

 万が一鼻緒が切れたとき、また足の指が痛くなったときのことも考えておかねば。

 あとは――。


「お兄ちゃん!!」


 突如、大きな声が頭に鳴り響く。


「な、なんだよ?」


 ふと目をやると、そこにはこちらを睨み付ける澪の姿があった。


「お兄ちゃん、あのね――」


 澪は一呼吸置いてから言った。


「色々考えるのも良いけど、一番優先すべきは莉子ちゃんだからね!」


 ずずいと前のめりで、物凄い剣幕で睨み付けてくる。


「そ、そんなの当然分かって――」

「分かってないから言っているの!!」


 ()()()()()とは言わせてもらえなかった。


「浴衣を買いに行ったときもそうだったけど、最近のお兄ちゃんは少し頭良くなったせいか、色々考えすぎて莉子ちゃんのためを考えていないことが多いのよ!」

「そんなことは…………」


「そんなことはない」と、僕は言い返すことができなかった。

 花火を見る場所も、下駄のための絆創膏も、その他色々な準備も莉子のためだったかと問われると……。

 僕は唇を噛んでいた。


「莉子ちゃんは、お兄ちゃんの何を好きになったかって分かる?」


 何を好きになったか?

 うーん、何だろうか……。


「お兄ちゃんの持っている優しさよ」

「優しさ?」

「そう、優しさ。……そもそも、一年前のお兄ちゃんの取り柄なんて、優しさくらいしかなかったじゃん」


 大分、身も蓋もないことを妹から言われている気がする。

 全く反論できないが……。


「莉子ちゃんはその優しさに気付いてくれた、本当に貴重で、本当に大事な人なの」


 うん、それは素直に認めよう。


「だから、お兄ちゃんは莉子ちゃんにひたすら全力で優しくないといけないの!!」


 ……また、いつものように、澪の願望を押し付けられているような気がする。

 ただ、間違っていない。

 今回の澪の言うことは絶対に間違っていない。


「……ああ、分かったよ、澪」


 僕は険しい顔つきをしたままの澪の頭を、ポンポンっと叩いた。


「今日からまた莉子を最優先で考えて、全力で優しくすることを約束するよ」

「お兄ちゃん、その約束破ったら、…………蹴り入れるからね?」


 笑顔が怖い澪。

 例の()()()()かな?

 それは、ちょっと勘弁してもらいたい。

 が――。


「分かった、頼むよ。そのときは、ダメなお兄ちゃんに蹴りを入れてくれ」


 僕は笑顔を返した。


「全く、世話の焼ける兄なんだから……」


 やれやれといった感じの澪である。

 本当によくできた妹だ。

 何故彼氏がいないのか不思議でたまらない。

 もしかして、ダメな兄の世話で忙しいのか?


「澪、今度また三人でどこかへ行こうな」


 僕はふと莉子が言っていた言葉を思い出し、澪へと声を掛けた。


「また動物園に行くでも良いんだけど……、そうだな、今度は水族館にでも行こうか?」

「え? 良いの!?」


 僕の提案に目を輝かせる澪。


「アオもな」


 今度はすぐ(そば)でこちらを見つめるグリーンの瞳に声を掛けた。

 彼女はバタバタしている僕を、朝からずっと見守ってくれていたのである。

 特に今日は邪魔しないようにという気遣いも感じられた。


「アオは水族館は無理だから、大きな公園なんかが良いかな?」

「にゃあ」


 アオは、首に着けたチョーカーを輝かせながら答えた。

 どうやら喜んでくれているらしい。

 どこかの誰かと一緒で主張をしないので、きちんと気持ちを汲んでやらないといけない。


「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ」


 澪の声に促され、荷物の最終チェックをして玄関へと向かった。


「じゃあ、行ってくるよ」


 大切な二人に温かく見送られながら、僕は玄関の扉を開けた。

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