表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/43

第二十七話 『僕と一緒に、アオに怒られてくれないかな?』

 その日は、朝からアオの具合が悪かった。

 ――僕はアオの(そば)にいてあげるべきだったのだ。




「アオ、今日はお見送りしないで良いって……」


 学校へと出掛けるために玄関まで来たところで、後ろから付いてくるロシブル――アオへと声を掛ける。

 アオは息が荒く、少しフラフラしていた。


 別に何処かが悪いわけではない。

 昨日のワクチン接種の影響である。

 去年も数日間、接種後は具合悪そうにしていたのだ。

 残念なことに、今年もそれが出てしまったようだ。


「にゃあ……」


 僕が断っているにも関わらず、アオはお見送りを止めるつもりはないようだ。

 朝のお見送りと学校から帰ってきたときのお迎えは、アオの日課だった。

 体調が悪くてもそれを止めるつもりはないらしい。


「分かったよ。今日は早く帰ってくるから、アオは部屋でゆっくり休んでて」


 青い宝石のチョーカーを(きら)めかせるアオを、僕は優しく撫でた。

 目を細めるアオ。


「じゃあ、行ってきます」


 靴を履いた僕は、こちらを見つめたままのアオへと手を振ると、玄関の扉を閉めた。



 ◆ ◆ ◆



「た……ただいま!」


 いつもより少し大きな声とともに、玄関の扉を開ける。

 ただ、僕の声は少し(かす)れていた。

 授業を終えた僕は学校から猛ダッシュで帰宅したからである。


 事情を説明した莉子にも放課後はすぐに帰宅すると伝えてあった。

 莉子もアオのことを心配し、「今日はアオに付いていてあげて」と言ってくれた。


 扉を開けると、アオが優雅な動作で僕の元まで駆けてくる――。

 ……のが日課なのだが。


「……アオ?」


 今日はアオのお迎えがなかった。

 まだ体調が良くならず、お迎えに来られないくらいなのだろうか?


 僕は心配になり、すぐに靴を脱いで居間へと向かった。

 居間にはアオの姿はなかった。

 僕の部屋へと移動するが、そこにもアオの姿はない。


「アオ!?」


 それだけではない。

 アオの姿はキッチンにもトイレにも風呂場にも押し入れにも、澪の部屋にも両親の部屋にもどこにも存在しなかったのである。


「アオ!! アオ!!」


 大きな声でアオの名前を連呼するが、返事はない。

 しかし、そんなわけはない。

 アオは家猫であり、自ら外に出ることはない。

 外に出るのは病院へ行くときくらいである。

 しかも、全ての世話を行っている僕と必ず一緒に外に出るのだ。


「…………??」


 家中を探し回っていた僕の目に見慣れないものが映った。

 小さなメモ用紙のようなものが、テレビに張り付けられている。

 今朝にはこんなものはなかったはずだが……。

 メモを剥がして目を通すと――。


『猫は預かった。誰にも知らせず、ガキ三人でここまで来い』


 そこにはこう書いてあった。


「アオ……」


 メモを握りしめたままの僕は天を仰いだ……。



 ◆ ◆ ◆



「アオを助けるのに、二人に手伝ってほしいんだ」


 僕は莉子と澪の二人に頭を下げていた。

 二人には、メモを読んですぐに連絡を取った。

『ガキ三人』に名前の指定はなかったが、アオに関わる三人と言えばこのメンバーしかあり得なかった。


「お兄ちゃん、何を言ってるの!? 頼まれなくても助けに行くに決まってるじゃん!!」


 澪は拳を握り締め、怒りをあらわにしている。

 今すぐにでも家を飛び出しそうな勢いだ。

 しかし――。


「……莉子?」


 莉子の様子はおかしかった。

 僕は莉子なら、すぐに包丁を取り出し、犯人探しに向かってくれると思っていたのだ。

 しかし、莉子は一言も話さなかった。

 口をへの字に結んでいる。

 そして、思い立ったかのように話し始めた。


「陸、ひとつ言っておくわ。アオは…………陸に助けられることを望んでいないわよ?」

「莉子ちゃん? それはどういうこと?」


 莉子に対して疑問を呈する澪。


「アオは自身のために、陸を危険な目に合わせることを望んでいないということよ」

「……そんなこと……」

「アオの意志は、あたしが一番よく理解しているわ」


 アオと一緒に特訓をするくらいである。

 お互いに何を考え、何を優先すべきかは理解しているということだろう。


「危険を承知で助けに行ったとしても、きっとアオは怒り出すわよ」


 莉子の説明に口をつぐむ澪。


「……確かに、そうかもしれないな」

「お兄ちゃん!?」


 アオなら、自身を犠牲にしてでも僕の身を守ってくれる。

 今までそうだったし、今回もそう考えていそうな気がする。

 僕がアオを助けに行って危険な目に合うくらいなら、アオは自身のことを見捨てて欲しいと思っているかもしれない。


「でも――」


 僕は大きく息を吸い込んで言った。


「『何があっても、僕は君を見捨てはしない』」

「お兄ちゃん、それは??」

「……道端で震えていたアオと初めて会ったとき、小さなアオが僕に力いっぱいしがみ付いてきたとき、僕がアオに伝えた言葉だよ」


 初めて会ったときのアオは、本当に小さくてボロボロだった。

 そして、ブルーの瞳の奥に宿る()()

 それを僕は今でもなお忘れてはいない。


「今ではアオに守られてばっかりだけど……、僕はそのときの約束を、今もこれからもずっと守り続けるよ」

「陸……」

「だから、莉子。また迷惑かけちゃうんだけど……」


 少し気恥ずかしく思い、頭をポリポリとかく。


「僕と一緒に、アオに怒られてくれないかな?」


 そう言って、僕は莉子に右手を差し出した。


「そうなのね……。まあ、別に迷惑でもないし、それなら仕方ないわね」


 少し頬を緩ませた莉子が、僕の差し出した手を取った。


「わ、私ももちろん! 一緒に怒られるからね!」


 慌てた澪が自身の手も重ねてくる。


「ああ、この三人でなら大丈夫。アオを助け出そう!」

「ええ!」

「うん!」


 うん、大丈夫。

 この二人がいれば、きっと何とかなる。


「じゃあ、指定された時間と場所を考えて、まずは必要な準備をしていこうか」


 残されたメモには、折りたたまれた地図が付いており、そこに時間と場所が記してあった。

 そこに三人で行けば良いということなのだろう。

 そして、まだ時間的な余裕がある。


「陸、その必要はないわよ。すぐにアオを助けに行きましょう」

「……え??」


 すぐにと言っても……、指定された場所に早くに向かうということだろうか?

 ただ、犯人が余程の間抜けでない限り、早くに行ってもアオがいるとは思えないが……。


「アオの居場所なら分かるわ。わざわざ敵が指定したところに行く必要はないのよ」

「……居場所が分かる??」

「あー、もしかして……」


 莉子の言葉に澪は混乱していたが、僕には思い当たる節があった。

 他ならぬ莉子なら……。

「面白かった!」「興味を持った!」「続きが読みたい!」等ありましたら、下にある☆での評価をお願いいたします。

ブックマークや感想、誤字脱字報告等もお待ちしております。

作者のモチベーションに直結しますので、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【活動報告の報告】
(※下記のリンクで該当ページへ飛びます)


Vtuberさんがこの小説を紹介してくれています
作者の活動報告一覧

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ