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僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。  作者: 小鳥鳥子
『僕と彼女と互いの想い』
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第三話  『あたしが陸の誘いを断ると思っているの?』

「雨宮、悪いんだが、放課後グラウンドの草刈りを手伝ってもらえないか?」


莉子との昼食中、そう声を掛けてきたのは担任の先生だった。


「ちょっと人数が集まらなくてな……」


先生はかなり申し訳なさそうな顔をしていた。

今日の草刈りは一応内申点に色を付けるというボランティアだったはずだが、あまり希望者がいなかったらしい。


「別に構わないですよ」


放課後に予定は入っていない。

先生に頼られるならば、応えておくべきだろう。



「ということで、今日の放課後は草刈りしてくるね」


先生を見送り、少し難しい顔をしている莉子へと告げた。

放課後何もない莉子は先に帰宅してもらうのが良いだろうと考えていた。


「陸、あのさ……」


しかし、莉子は少し思案してから言った。


「あたしも、草刈りに参加して良いかな?」


莉子はニッコリ笑顔を僕に向けていた。



◆ ◆ ◆



(悪いことしちゃったなぁ……)


刈られた草を集めながら、僕は反省しきりだった。

通常莉子はこういう学校のイベントには消極的である。

今回、この草刈りに参加したのは、僕が参加することになったのが理由だろう。


(……無理をさせているかも)


特にここ最近デートをしていないというのも、理由の一つかもしれない。

しかし、仕方ないのだ。

僕は未だに莉子を上手くデートに誘うことが出来ないのだから……。


「はぁ……」


大きなため息をついたときだった。


「何? ため息なんてついちゃって」


話し掛けてきたのは、右手に鎌を持った莉子だった。


「草刈りは楽しくない?」

「いや……、だって、草刈りだしね」

「あたしは……楽しいけどね?」


そう言って微笑を浮かべる莉子。


「陸が一緒なら、草刈りでも何でも全て楽しいわ」


えっと……。


「……じゃあ、あっちの草も刈ってくるわね」


まごまごしている僕へとそう言った莉子は、少し赤い顔をしたまま離れていった。

そんな莉子を見ながら、僕はやっと気付いていた。

莉子は無理をしているわけではなかった。

草刈りへの参加を決めたとき、僕と一緒にいられることをただただ喜んでいたのだ。


草むらへと着いた莉子が鎌を振るった。

鎌を振るうたびに、草が根元から綺麗に刈り取られていった。

さすがは莉子だった。

鎌を使わせることに若干の不安があったが、やはり莉子ほど上手く刃物を扱える者はそういない。


そして、僕は莉子の刈った草をテキパキと集めていった。

これが僕の今日のやるべき作業である。




作業は莉子の活躍もあり、順調に進んでいた。

そろそろ作業の終わりが見えてきたときだった。


「陸、これ、どうよ?」


名前を呼ばれて振り返ると、そこにいたのはクラスメートの『春樹』だった。

自慢げな表情を浮かべ、手には紐らしきものと鎌を持っている。

また、紐と鎌の二つは結び付けられていた。


「何やってるんだよ?」


春樹は根は一応悪い奴ではないと、僕は思っているのだが……。

日々くだらないことを発明し、男子を怒らせ、女子を泣かせ、先生に怒られる天才だった。


「いくぞ!!」


春樹は気合の声を上げると、鎌から手を離し、紐を大きくしならせて引っ張った。

それに伴い、紐につながる鎌が宙を舞う。


「いや、それ、危な……!?」

「必殺ー!! 鎖鎌(くさりがま)ーー!!!」


ハイテンションの春樹は、紐を頭上で勢いよく回し始めた。

当然、鎌も春樹の周りを高速で回り始める。


「馬鹿! 危ないから、今すぐ止め……」

「あっ……」


春樹の間の抜けた声が聞こえたときには遅かった。

高速で回転する鎌が紐からすっぽ抜けてしまったのである。

そして、鎌は回転しながら僕の方へと向かってきていた。


「!?」


飛んで来る鎌がスローモーションで見えているとき、小さな人影が僕の前へと飛び出した。

――両手に鎌を持った莉子だった。


両刀がとてもよく似合う莉子は、飛んで来る鎌を右手の鎌で薙ぎ払った。

ガキン!っという音とともに弾き飛ばされる鎌。


「陸、大丈夫??」


優しく声を掛けてくる莉子。


「……ありがとう、助かったよ。……莉子?」


莉子はこちらを向いていなかった。

春樹へと睨みを利かせ、持っている鎌を向けていたのである。


「ところで、陸。コイツは、陸の敵じゃないかしら?」


向けているのは鎌だけではなかった。

物凄い殺気も向けている。

その殺気に当てられている春樹は青い顔となっていた。


「あっ……、いや、そういうわけではなくてね!?」


莉子は、僕の敵を認識すると即座に特攻する。

現在春樹へ鎌と殺気を向けてはいるが、まだ特攻はしていない。

今ならまだ止められ――。


「でも、敵になりそうね?」

「……え!?」

「陸の敵になりそうな芽は、今のうちに刈り取っておくのが良さそうよね?」


そう言って微笑を浮かべる莉子。

怯えた春樹へとにじり寄って行く。


そんな莉子からのプレッシャーに耐え切れなくなったのだろう。

あたふたしつつも春樹が動いた。

ポケットから自らの財布を取り出し、莉子へと両手で差し出したのである。


(馬鹿! それはダメだ!!)


僕が思ったときには遅かった。


「お金で解決しようと言うのかしら?」


莉子の殺気が膨れ上がる。

彼女は不正などの卑劣な行為が大嫌いなのだ。


「やはりこいつは敵のようね」


莉子の言葉に震え上がる春樹。

既に死を覚悟しているかのような表情となっている。


「本当は包丁の方が良いのだけど、この鎌でも特に問題はないわ」


マズイ……。

莉子に春樹が敵ではないことを教えなくてはならない。

そうでなければ、春樹の首が刈り取られてしまう。

どうすれば…………。


(そうだ!!)


そこで僕は閃いた。


「莉子、彼は敵ではないんだ。僕らを応援してくれる味方なんだよ」

「味方……?」


僕の言葉に、一歩踏み出した莉子は足を止めた。

その隙に僕は春樹へと素早く近付き、その手から財布を受け取った。

財布から千円札を一枚取り出す。


「一時、借りておく」


春樹へと一声かけてから、僕は振り返った。


「彼は味方だから……、僕らのデート費用を貸してくれるんだよ」


莉子の綺麗な瞳を真っ直ぐに見ながら、僕は言った。


「莉子、このお金で僕とデートをしてくれないか?」


莉子は両手に鎌を持ち、僕は千円札を持って向かい合っていた。

デートに誘うシーンとはとても思えなかった。

でも、これで良い。

これが僕と莉子なのだから。


「……あたしが、陸の誘いを断ると思っているの?」


莉子がそう言って笑顔を見せた。

その笑顔は、草刈りを決めたときとは比較にならないくらい、とてもとても素敵なものだった。



◆ ◆ ◆



「じゃあ、これは返しておくからな」


草刈り作業完了後、僕は春樹へと借りていた千円札を返していた。

色々なことをやらかしても、日頃から全く反省しない春樹だった。

しかし、今回ばかりは違うようだ。

未だに血の気の引いた顔をしている。


おずおずと千円札を受け取る春樹に僕は言った。


「春樹、あのな」

「な、なんだ……?」


名前を呼ばれてビクッと身体を震わせる春樹。

僕に対してすら、完全に怯えている。


「色々あったけど、莉子をデートに誘えたのは春樹のおかげだ。ありがとな」


春樹へとニコリと微笑む。


「じゃあ、莉子を待たせているから、もう行くわ」


莉子とのデートの行き先は既に決めていた。

誘えていないだけで、莉子が喜んでくれるだろう場所は沢山リサーチしていたからである。


……油断は禁物だ。

油断していると、口元が緩んでしまいそうだから。

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