第二十二話 『アオの誕生日プレゼントね!? あたしも一緒に考えるわ!』
「じゃあ、探していこうか」
僕は二人へと声を掛けた。
「ええ、絶対アオが気に入るものを探しましょう」
気合十分の莉子。
「ここならきっと見つかると思うよ」
反対に、非常に気楽な様子の澪。
というより、莉子と買い物に行くことが楽しみで仕方ない様子だ。
僕らは今、駅前のデパート内にある大きなペットショップに来ていた。
ここで探し物をするわけである。
探すものは、――アオへの誕生日プレゼントだ。
「どんな物にするかの目星は付いているの?」
「いや、それが全く……」
莉子の質問に、僕は苦い顔となる。
「とすると、なかなか広範囲を回らないといけないかもしれないわね」
猫関係のプレゼント候補は、特に制限を設けない場合、かなりの数がある。
おもちゃ、首輪、服、おやつ等も小物もあるし、トイレ、ベッド、キャットタワー、ケージなんかの大きなものまである。
さすがに大きなものはプレゼントに向かないとは思うが、小物関係だけでも数えきれないくらいの商品がずらっと並んでいる。
「でも、これだけあれば、きっとアオが喜ぶものもあると思うわ」
莉子はどことなくワクワクしているようだった。
先日、学校で僕は莉子に話しをしていた。
「アオの誕生日がもうすぐなんだ。で、プレゼントをどうしようか考えているんだけど……」
それに対し、莉子は――。
「アオの誕生日プレゼントね!? あたしも一緒に考えるわ!」
と、大きく身体を乗り出して言ったのだった。
元から莉子にもプレゼント選びを手伝って欲しいと思っていた。
アオが信頼する莉子をないがしろにするつもりはなかった。
莉子ならもしかしたら、僕よりも澪よりもアオが喜んでくれる何かを探してくれるかもしれないとすら思っていた。
「ちなみに、去年は何をプレゼントしたの?」
「去年は確か値の張るキャットフードだったよね?」
ネズミのおもちゃを摘まみ上げている澪が答える。
「そうだね。いつもと違う高価なフードなら喜んでもらえるかと思ったんだけど……」
「特に反応良くなくて、普通な感じだったんだよね……」
今までのフードと反応が特に変わらなかったのだ。
結局、プレゼントが成功したという感じではなかった。
「でも、あの首輪よりはマシだったよな?」
「まあね……」
苦い顔で同意する澪。
「首輪? アオが首輪をしているところは見たことがないけど?」
莉子が不思議に思うのも無理はない。
「誕生日プレゼントではないのだけど、以前カラフルな可愛い首輪をアオにプレゼントしたことがあってさ」
「でも、1回付けただけで自分ですぐに外しちゃって。以降は付けることすら拒否して……」
「恐らくは気に入らなかったんだと思う。確かに、上品なアオに似合ってるとは言い難かったし……」
あの首輪ではアオの品を下げるだけだった。
そして、首輪拒否以降、身に付ける物に関してはプレゼントはしていない。
去年の誕生日プレゼントが無難なフードとなったのも、その影響がある。
「アオは短毛で綺麗な被毛しているものね。首輪とか服とかはなかなか難しそうね」
アオへのプレゼント事情の説明に、納得の表情となる莉子。
「あと、本人の性格もあるしね」
澪が性格面も指摘する。
アオは気に入らないものに関しては絶対身に付けない。
それは確信を持って言える。
「とすると、今年も無難にフードが良いかな? 喜んではもらえないかもしれないけど……」
「お兄ちゃん、猫用の誕生日ケーキでも良いんじゃない?」
あれやこれやと妹と話している中、莉子は額に手をやって押し黙っていた。
「莉子?」
「二人は、その辺りを考えておいて。ちょっと思いついたことがあるから、あたしはあっちに行ってくるわ」
こちらの返事を待たずに、駆け出す莉子。
「思い付いたこと?」
「……何だろうね?」
顔を見合わせる僕と澪である。
「……陸、澪。これ――どうかな?」
莉子が戻ってきたのは、キャットフードが並ぶ棚であまりの種類の多さに妹と頭を抱えていたときだった。
手には、ネックレスらしきものを持っている。
「莉子ちゃん、これ、凄い綺麗だね!?」
「猫用のレザーチョーカーらしいんだけど……」
目を輝かせる澪に、ちょっと気恥ずかしそうな莉子。
莉子が持ってきた細いレザーで出来たチョーカーには青い宝石が括り付けられていた。
その宝石はアオの瞳のように光り輝き、とても綺麗だった。
「アオならきっと綺麗なアクセサリーが似合うだろうと思って……」
確かに、上品なアオにはとても似合いそうである。
「お兄ちゃん、これ、いいじゃん!」
「うん、良いと思う!」
大賛成の僕と澪である。
それを見てぱぁーと笑顔となる莉子。
「じゃあ、これに決まりね!」
そう言った莉子は、今日一番の笑顔となっていた。
◆ ◆ ◆
「あの……あたしがアオに渡して良いの?」
アオの誕生日当日。
宝石の付いたレザーチョーカーを持ち、ガチガチに緊張している莉子。
「莉子が選んでくれたプレゼントだから、莉子が渡して良いんだよ」
プレゼント代金は三人で出し合ったが、莉子が探してくれたプレゼントである。
当然、莉子が渡す権利がある。
僕か澪では思いつかなかった素敵なプレゼントでもあるし。
「でも、あたしはこういうことをしたことなくて、これを断られたら……」
「大丈夫!! 絶対アオは気に入ってくれるから!!」
不安そうな莉子に、自信満々の澪。
「もし、アオが要らないって言ったら、私がもらうし!!」
大きく胸を張る澪。
絶対、澪には似合わないチョーカーだけどな……。
「じゃあ、アオを部屋に入れるよ」
「う、うん」
僕は扉を開け、外で待ってもらっていたアオを招き入れた。
すると、アオは優雅な動作でゆっくりと部屋へと入ってきた。
アオのことだ、多分これから何をされるのかは分かっているんだろう。
莉子の前でお座りをするアオ。
莉子のことを見上げている。
「アオ、あのね……」
緊張気味に話し始める莉子。
「陸と澪とあたしで、アオの誕生日プレゼントを買ってきたの。アオにきっと似合うだろうと思ったアクセサリーよ」
そう言って、アオの首にチョーカーを巻き付けた。
満足げな表情を見せる莉子が一歩下がったときだった。
アオの胸元の宝石が一際大きく光を放った。
「アオ、綺麗……」
息を呑み、呟く澪。
確かに、綺麗だった。
アオの吸い込まれるようなグリーンの瞳と、チョーカーのブルーの大きな輝きが見事に調和していた。
そして、気品のあるアオの佇まい。
まるで中世ヨーロッパ貴族の令嬢かのようだった。
綺麗としか言いようがない。
僕と莉子も見入ってしまっていた。
「……あのっ、、アオ、これ見て」
見とれていた僕は慌てて、用意していた鏡をアオへと向ける。
しばらく鏡に写った自身を見ていたアオは――。
「にゃう」
確かに、こう言ったのだった。
「気に入ったわ。ありがとう」
と。
◆ ◆ ◆
「プレゼントをアクセサリーにするって、莉子は最初から考えていたの?」
鏡の前でポーズを決めているアオ。
そんなアオを嬉しそうに見つめている莉子に、僕は質問を投げかけた。
「……陸は、そんなことまで分かるのね?」
「まあ……、莉子の考えていることなら、多分大体分かるよ」
僕はポリポリと頭をかく。
莉子が一緒にプレゼントを考えると言ったとき、お店でチョーカーを持ってきたとき、もしかして……とは思っていたのだ。
「このバッジ、覚えてるでしょ?」
そう言った莉子はいつも身に付けている自身のバッグを持ち上げた。
そこには、マヌルネコの缶バッジがあった。
「もちろんだよ。僕と莉子と澪とで行った動物園で購入したバッジでしょ?」
「そう。――あたしの大切な宝物よ」
そう言って、バッジの付いたバッグを抱き締める莉子。
同じ宝物を澪も持っているし、僕も持っている。
僕のはマヌルネコではなく、ユキヒョウではあったが。
「アオもそういう宝物が欲しいんじゃないかなぁと思ったのよ」
莉子はニコリと笑った。
そこで僕は初めて気付いた。
缶バッジが莉子にとって特別なものであると。
もちろん僕にとってもあの缶バッジは宝物であるし、澪にとってもそうだろう。
でも、僕や澪が考える以上に、莉子にとっては特別な缶バッジだったのだ。
「でも、アオに缶バッジはプレゼントできないし、首輪や服はそうそう似合わないだろうし……」
莉子はそこで一息ついてから続けた。
「ただ、こんなにも綺麗で上品なアオなら、宝石の付いたアクセサリーが似合うんじゃないかな? 気に入ってくれるんじゃないかな? と思ったの」
ホッとした表情を見せる莉子。
本当にアオのことを色々考えてくれたのだろう。
似合う似合わないはもちろん、アオの気持ちも含めて。
「実際、凄く気に入ったみたいだね」
未だにアオは立て掛けた鏡の前から動いてはいなかった。
身体の角度を変えながら、鏡を見つめている。
アオには珍しく、気分が高揚しているようだった。
しかし、そんなアオに澪がちょっかいを出し始めた。
どうやらプレゼントが目当てのようだ。
アオの首にかかるチェーカーへと手を伸ばしている。
が、しかし、アオに前脚でその手を叩かれている。
それを何度も繰り返し――。
「にゃう!」
ついには、アオに怒られてしまった。
「……ちょっとくらい良いじゃん~」
怒られついでに強めに叩かれたらしい。
澪は愚痴りながら、叩かれた手をさすっている。
「私だって、莉子ちゃんからのプレゼント欲しいし!」
……もしかして、アオが断ったら、本当にもらうつもりだったのか?
手をさすりながら、恨めしそうにアオを見る澪。
「澪にもプレゼントをあげないといけないみたいね」
そんな澪の様子に、ちょっと嬉しそうな莉子。
「陸、そのときはまた三人でプレゼントを探しに行きましょうね」
「……三人?」
今度はサプライズではないということだろうか?
「違うわよ。やっぱりあたしの考えていること、分かってないじゃない」
僕の考えを読み、笑顔で頬を膨らませる莉子。
「三人というのは、あたしと陸とアオの三人よ」
「アオも?」
「アオだって、なんだかんだ澪のことを大事に思っているんだから」
莉子の視線の先には、根負けしてやれやれといった感じのアオと、やっと触らせてもらったチョーカーを手に口を尖らせる澪がいた。
大事に思っているというより、手のかかる妹とか思っているんじゃないかと僕には思えるのだけど……。
まあ、いっか。
僕はそう思うことにした。
アオと澪の様子を微笑ましく眺める、優しい莉子がそこにいたからである。
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