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僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。  作者: 小鳥鳥子
『包丁とバッジとチョーカー』
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第二十一話 『一人だと思っていたけど、仲間がいたって気付いたなら、嬉しいに決まってるじゃん』

 庭と言っても、そんな大したものではない。

 ドラマなんかでよく見る綺麗に手入れされたものでも、子供が自由に走り回れるほどの広さがあるものでもなかった。

 端の方にやや荒れた小さな家庭菜園があり、子供が少し歩き回れるくらいである。

 そんな庭にいる莉子とアオを、窓辺に腰掛けた僕は眺めていたのだった。


「お兄ちゃん、終わったよーー、って…………何やってるの!?」


 予想以上に早く問題集を終わらせた澪が、庭の様子を見て目を丸くする。


「ちょっと、お兄ちゃん、何を呑気にしているの!? 二人が喧嘩してるなら止めないと!!」

「まあ、喧嘩ではないから……」


 喧嘩ではないのだが、勘違いするのも無理はない。

 莉子は両手に包丁を構え、アオは毛を逆立てて、二人は対峙しているのだから。


「じゃあ、なんだっていうのよ?」


 そのとき、莉子が動いた。

 アオへとダッシュをして距離を詰め、包丁を振り下ろした。

 それを横っ飛びで(かわ)し、逆に莉子の顔へと飛び掛かり、爪を振るうアオ。

 莉子はそれを身体を(ひね)って躱す。

 アオはそのままの勢いで直進し、莉子と距離を取って再び対峙した。


「訓練だってさ」

「訓練? 何の?」

「えっと、――僕と澪を守るための訓練」


 澪へと、莉子から言われたままを伝える。

 二人は僕と澪を守ることを何よりも大切に考えている。

 そこで、二人で協力し合おうということになったらしい。


「今は向かい合って組手で訓練しているけど、さっきまでは二人でのコンビネーション訓練をしていたんだよ」

「危なくないの?」

「大丈夫だよ。僕は世界で一番、二人を信頼しているから」


 お互いを傷付けるはずがない。


「それにね、二人は真剣だったからさ」


 二人から訓練をしたいと本気で頼まれてしまったのだ。

 庭は生垣で囲われていて、外からはほとんどみることはできない。

 人に迷惑をかけることもないだろう。

 その状態で二人が訓練したいと真剣に言ってきたのだ。


「まあ、僕には断る理由も、止める権利もなくてね」


 僕の言葉を呆れ顔で聞いている澪。


「お兄ちゃんは、二人に甘すぎるんじゃないの?」

「そう……かもね?」


 僕は、はにかみながら答えた。


「でも、今の二人を見てみて思うことない?」


 言われた澪は、二人の観察を始めた。


「なんか、楽しそう?」

「そう、楽しんでるんだよ」

「ん? なんで?」


 澪は疑問に思ったようだ。


「仲間ができたからだと思うよ」


 莉子とアオは二人とも、基本的に一人で何でもするし、何でもできるタイプだ。

 僕を守るというのも、それぞれ一人で行うつもりでいたんだろう。

 でも、同じ志の相手と出会った。

 そして、その相手は認め合うことのできる相手だった。


「一人だと思っていたけど、仲間がいたって気付いたなら、嬉しいに決まってるじゃん」

「ぷっ、ふふふっ……」

「あれ?」


 いきなり笑い出してしまった澪。

 僕は何か可笑しいことを言っただろうか?


「お兄ちゃん、気付いている?」

「な、何を?」

「二人が楽しそうにしているのを一番喜んでいるのは……、お兄ちゃん自身だってことに」

「あっ……」

「さっきから二人よりもずっとずっと、二人のことを楽しそうに見つめているんだよ、お兄ちゃんは」


 そこで僕は初めて気付いたのだった。

 二人が嬉しいとき、僕はそれ以上に嬉しいということに。



 ◆ ◆ ◆



「二人ともお疲れ様」


 訓練を終えた二人にそれぞれ飲み物を手渡す。

 莉子にはアイスティー、アオには猫用ミルクである。


「ありがとう、陸」

「にゃあ」


 二人は同時にお礼を言い、飲み物を飲み始める。


「私も何とか訓練に参加できないかなぁ……」


 途中から一緒に訓練を見ていた澪がぼそりと呟く。

 楽しそうな二人を見て、自分も参加したいと思ったのかもしれない。

 ただ、それはさすがに――。


「それなら、まずは澪に合った武器が必要ね」

「にゃ」

「――いや、ちょっと待て!!」


 それはさすがに無理だろうと思ったが、莉子やアオは何とかしてあげようと思ったらしい。

 しかし、澪まで巻き込まれては――。


 そのときだった。

 ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。


 即座に澪と顔を見合わせる。

 僕らは宗教勧誘事件以来、来客には敏感になっていた。

 更には、先日ご近所さんから悪質な訪問販売に注意するようにも言われていたのだ。


「うん……、とりあえずは、インターホンで――」

「大丈夫よ、陸、澪。あたしに任せて」

「……はい??」


 莉子のいつもの宣言に、僕は嫌な予感しかしなかった。

 つつーっと冷たい汗が頬を伝う。


「早速訓練の成果を見せてあげるわ! 行くわよ、アオ!!」

「にゃう!!」

「いやっ!! あのねっ!!」


 当然、僕の制止の声など聞くはずもない二人。

 包丁を装備した莉子が駆け出し、それに続くアオ。

 あっという間に庭から玄関へと向かう小道へと消えて行ってしまった。


「お兄ちゃん、すぐに追い掛けないと!!」

「分かってる!! 二人とも待って!!」


 二人を追い掛けた先には、青ざめた表情のお隣さんがいたのであった。

 チャイムを押したら、包丁を持った女の子と猫が庭から飛び出してくる。

 それは驚くことだろう……。


「すいません、すいません、あ、あの、今、彼女は――、えっと、猫と一緒に包丁を研いでまして……。本当に、すいません!!」


 必死に謝る僕に、お隣さんから何とか許しを得ることができたというわけである。


「やっぱり、お兄ちゃんがいてこその莉子ちゃんなのよね~」


 お隣さんから回覧板を受け取り、楽しそうに言う澪の言葉が印象深かった。

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