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僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。  作者: 小鳥鳥子
『包丁とバッジとチョーカー』
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第十九話  『き、切る、切る、切る、斬る、斬る、斬る、きる、きる、きる、キル、キル、キル……!!』

「だ、大丈夫よ、陸。あ、あたしに任せて。お化けでも何でも、あたしが全て切り伏せてやるわ!!」


 恐らくだが、コンニャクが降ってきたときの僕のリアクションにスイッチが入ってしまったらしい。

 恐怖すらも凌駕(りょうが)する、恐るべき防衛本能である。


「いや、あの、ここでのお化けは危害は加えてこな――」


 莉子を何とかなだめようとした、そのときだった。


「何だぁ? このショボいお化け屋敷は?」

「まったく全然怖くないし~」

「もっと真面目にやれやー」


 僕の言葉を遮り、絶妙のタイミングで登場したのは、顔に大きな傷のある大柄な男と化粧が濃い女のカップルだった。

 どうやら、後に入ってきた二人で、僕らに追い付いてしまったようだ。

 お化け屋敷のクレーマーのようだが……。


「次に切るのは、――ふ、フランケンシュタインというわけね!」


 どう考えてもこっちの方がマズイ!

 包丁を構え、フランケンシュタイン風の男を睨みつける莉子。


「あの、莉子、彼はフランケンシュタインじゃな――」

「ほぉ~、今度は可愛い日本人形が脅かしに来たっつーわけか?」

「包丁持ってるし~。ちょ~ウケるんですけど~」


 ……お前ら、ちょっと黙っとけ!!


「ん~? あんた、何やってるのさ~??」

「いや、折角だから、動画撮影でもしておこうと思ってさー」


 スマホを莉子へと向け始める呑気(のんき)なフランケンシュタイン。

 お化け屋敷という非日常空間のせいだろうか、カップルは未だに命の危険が差し迫っていることに気付いていない。


「き、切る、切る、切る、斬る、斬る、斬る、きる、きる、きる、キル、キル、キル……!!」


 未だに残る恐怖を振り切るためだろう。

 包丁を握り締めた莉子が、『キル』を連呼し始めた。


「えっ、ちょ、ちょっと、あれはヤバイんじゃ……」

「べ、別にただの脅しに決まって……」


 やっと、ようやく、気付いたようである。

 お化け屋敷からの偽りの恐怖でなく、莉子の放つ真の恐怖に。


「キル!!!」


 大きく叫んだ莉子が男へと飛び掛かった。

 僕は莉子を止めようと、足を踏み出し……、その足が滑った!?

 先程のコンニャクを踏んづけたのだ。


(ヤバイ、間に合わない!?)


 莉子は男の目前へと跳躍し、右手の包丁を振るった。

 先程聞いたのと同様のキンッという音と共に、男がかざしていたスマホの上半分が斬り飛ばされる。


「ストップ!!!」


 そこで追い付いた僕は莉子の腰に後ろからしがみ付いた。


「早く逃げて下さい!!」


 そのまま怯える二人へと声を掛ける。


「ひ、ひぃ~~~!?」


 悲鳴を上げながらも、何とか逃げ出す二人。


「り、陸、、、逃がして、良いの?」


 莉子は追撃しようとはしなかった。

 不安そうな顔で僕を見つめていた。


「逃がして良いんだ。いや、逃がせば良いんだよ」


 安心させるように声を掛け、身体を起こした僕はそっと莉子の頭を撫でた。



 ◆ ◆ ◆



「ここまで来れば、大丈夫だよね?」


 降り注ぐ陽光に目を細めながらも、神妙な顔をした莉子が大きく頷く。

 今回は本当に大丈夫そうである。


 結局、フランケンシュタインを追い払った後は、「逃がせば良い」という僕の言葉通りに行動することとなった。

 両手に包丁を持ったままの莉子は僕の腕にしがみ付いて歩き、そして、お化けが出ると、包丁を向けて追い払ったのである。

 雪女もからかさ小僧もドラキュラ伯爵もその他も全部、莉子の相手には程遠かった。


 お化け屋敷としてあべこべな感じもしたが……。

 お化けよりも莉子の方が遥かに怖かったということなのだろう。

 そういうことにしておこう。

 うん……。


「じゃあ、一旦どこか喫茶店にでも――」

「ちょっとよろしいですかな?」


 疲れているだろう莉子を休ませようと辺りを見渡しているとき、立派な長い白髭を生やしたお爺さんが話しかけてきた。

 柔和な表情ではあるが、目の奥に宿る眼光は鋭く、只者ではない雰囲気を感じる。

 隣にいる莉子もそれを感じたようだ。

 身体を固くして、既にバッグに手を入れている。


「いえ、警戒する必要はありませんよ。私は先ほどお二人が入っていたお化け屋敷の館長でしてな」

「え!? 館長!?」

「ただ、お礼を言いに参った次第です」


 そう言って深々と頭を下げる館長。

 館長がお礼に?

 莉子が色々やったことに対しての、お叱りでなくて?


「ええ、あの態度の悪い二人を追い払ってくれたこと、感謝申し上げます」


 二人とはきっと、フランケンシュタインと連れのことだろう。


「あの二人は館に入る前から色々と問題がありまして――」


 スタッフへの暴言だったり、館の備品を破壊したり等の悪行の数々を説明してくれる館長さん。

 そんな二人を追い払ってくれたことのお礼を言いたかったらしい。

 実際はそんなこと露知らず、莉子が脅して逃がしただけだったわけで――。


「こちらも色々やってしまって、申し訳ないです」


 確か備品を壊したし、散々スタッフを脅したりもしてしまった。


「いえいえ、とんでもない。そこのお嬢さんからは皆良い刺激を頂きましたからな」

「……良い刺激?」

「ええ。館のオープンを是非楽しみに待っていてくだされ」


 館長の言葉には並々ならぬ自信がみなぎっていた。

 そして、再度深々と礼をして館へと戻っていった。


 莉子へと視線を移すと、不思議そうに首を傾げている。

 莉子にも館長の言う意味が分からなかったらしい。



 ◆ ◆ ◆



 それからしばらくして。


「お兄ちゃん、聞いて! 例のお化け屋敷が今凄いんだって!」

「あの、以前莉子と一緒に行ったお化け屋敷が?」

「うん、そう! 先日オープンしたんだけど、今は予約が全然取れないくらい大盛況なんだってさ!」


 興奮気味に話す澪である。

 ただ、それを聞いた僕の頭には疑問が浮かんでいた。

 別にお化け屋敷に詳しいわけではないが、プレオープンに参加した感じではそれほど人気が出るようには思えなかったからである。


「ご近所さんからの話では、お化け屋敷の館長さんがオープン直前に大規模なリニューアルを提案したんだって。で、それがめちゃくちゃ評判良いらしいのよ」


 あの白い髭の館長さんが提案?

 やはり只者ではなかったということだろうか。


「何でも両手に包丁を持った日本人形が襲ってくるのが、物凄く怖いんだってさ」


 え!?

 いや、それって、もしかして……。


「両手に包丁だなんて、莉子ちゃんみたいね」


 莉子のことをいつも嬉しそうに話す澪。

 今回もじつに嬉しそうだった。

 だが、勘違いをしているようだ。

 それは莉子ちゃん()()()じゃなくて……。


 どうやら、あの館長は莉子をモデルとして、恐怖の館をリニューアルしたらしい。

「良い刺激」とはそういう意味だったわけだ。

 それで、大盛況とは――。


「お兄ちゃん? 何をにやけてるの?」


 (いぶか)し気な顔を向けてくる澪。


「いや、何でもないよ」


 僕は首を横に振りながら、澪へと返事をする。

 お化け屋敷を大きく進化させてしまう莉子。

 やっぱり莉子は凄いのである。



「ところで、莉子ちゃんとはまた今度お化け屋敷に行くの?」


 思い出したかのように、質問してくる澪。


「いや……、行かないな」


 その質問に、僕はきっぱりと否定の言葉を返す。


「なんで? 一応莉子ちゃん怖がってくれたんじゃないの?」


 澪にはお化け屋敷での状況を軽く説明はしていた。

 一応最初のうちだけは澪の狙い通りだったとも言えるかもしれない。

 二回目なら少し慣れて、適度に怖がってくれると思ったのかもしれない。


 だが、甘いぞ、我が妹よ。

 うちの莉子はそんなものではない。


「今はもう、吹っ切れてるから」

「吹っ切れてる?」


 意味が分からないという顔の澪。


 僕はつい先日、改まった様子の莉子から言われていたのだ。


『陸、お化け屋敷ももう大丈夫よ。あたしが全てのお化けを追い払ってみせるわ!』


 と。

 そして、莉子の瞳には決意の炎が宿っていた。


「いや、それって……、まるっきり別のアトラクションじゃん」


 澪がポツリと呟く。


 お化け屋敷を別のアトラクションへと昇華させてしまう莉子。

 やっぱり莉子は凄いのである。

 …………多分、凄いんだと思う。

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