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僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。  作者: 小鳥鳥子
『包丁とバッジとチョーカー』
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第十五話  『お兄ちゃんのその能力は、お兄ちゃんを不幸にするためにあるんじゃないの! お兄ちゃんが幸せになるためにあるんだから!!』

「アルパカを独占するとか、何を考えているのよ。全く」


 突然聞こえてきたのは、大きくはないが、妙に鮮明に聞き取ることのできる声だった。

 声の主は、三十代くらいの女性だった。

 隣には、小さな男の子がいる。

 その男の子は所在なさげで、アルパカの餌を手に持っていた。


「もう行きましょ。ここにいても仕方ないわ」


 再び女性の、怒りを隠そうともしない声が聞こえる。

 そのときには、僕はその親子の姿は見えていなかった。

 僕に見えていたのは、冷たい土の地面だけだった。


(あー、僕はまたこんなことを繰り返すのか……)


 僕はあの頃とは違う。

 莉子と出逢って成長を遂げた。

 ――そう思っていた。

 いや、思い込もうとしていたのかもしれない。

 本質はきっと……。


「坊や、ちょっと待ってくれるかな?」


 聞こえてきたのは澪の声だった。


「お兄ちゃん、すぐにこっち来て!!」


(いや、来てと言われてもそっちには怒った親子がいて……)


 僕の足は動かなかった。

 動かすことができなかった。


「もう~!! 莉子ちゃん、お願い!!」


 そんな声が聞こえた瞬間、僕は左手を掴まれた。

 そして、腕を力強く引っ張ってきたのは莉子だった。


「大丈夫よ、陸。妹さんに任せておけば良いのよ」

「あ、あの……」

「そして、当然、――あたしも一緒にいるわ!」


 そのままアルパカの群れをかき分け、僕は親子の前に連れ出された。

 僕の左右には、澪と莉子が並んで立っている。


「坊や、よく見ててね。このお兄ちゃんがアルパカを呼んで、沢山のアルパカと好きなだけ遊べるようにしてあげるから」


 膝をついて、男の子と目線を合わせた澪が明るく語り掛けている。


「お兄ちゃん、手を叩いて。――大丈夫だから」


 今度は僕に向かって言ってきた。

 ちょっと怒っているようにも見える。


「お、おう……」


 そんな澪の圧に押されながら、僕は一呼吸置いてから三回、手を叩いた。

 すると――。

 先程莉子の周りにいたよりも多くのアルパカたちが、僕らの周りに集まってきたのである。

 沢山のアルパカに囲まれ、圧倒される親子。


「どう、凄いでしょう~?」

「凄いー!! お姉ちゃん、ありがとうー!!」

「うん、お兄ちゃんにもお礼言ってあげてね?」

「お兄ちゃん、凄いよ!! ありがとうー!!」


 そう言って、笑顔の男の子はアルパカに餌を上げ始めた。

 餌をあげながら、一生懸命にモフモフしている。

 微笑ましい光景である。


 が、しかし――。

 アルパカの数が多すぎた。

 男の子はアルパカの群れに飲まれて、次第に姿が見えなくなって――。


「ちょっと!? ……二人とも餌やり手伝って!!」


 焦ってアルパカ集合体をかき分け始める澪。

 アルパカを呼んだは良いが、男の子一人では餌を与え切れなかったのである。

 すぐに僕らは餌やりを開始し、男の子へ密集するアルパカを散開させていったのであった。




「それじゃあね~。お姉ちゃん、お兄ちゃん、本当にありがとう~」


 十分すぎるほどアルパカと戯れ、毛だらけで笑顔となった男の子。

 頭を下げる母親とともに、手を振りながら去っていった。


「――澪、ありがとうな」


 全力で手を振り返している澪の背へと声をかける。


「お兄ちゃんは悪くないのよ」


 クルリと反転して振り返った澪の顔は真剣そのものだった。


「さっきだって、お兄ちゃんは全然悪くないんだから。莉子ちゃんのためにアルパカを集めていただけでしょう?」


 ……物心ついたときから、僕には動物に好かれるというこの能力があった。

 それを上手く使うことができれば、特に問題はなかったのかもしれない。

 ただ、僕にはそれができず、さっきのように(ねた)みとか恨みのような負の感情をぶつけられることが多かった。

 そのたびに落ち込んでいたのを、妹である澪は気付いていたのかもしれない。


「あのね、お兄ちゃんのその能力は、お兄ちゃんを不幸にするためにあるんじゃないの!」


 ブンブンと首を振り、大きな声で叫ぶ澪。


「お兄ちゃんが幸せになるためにあるんだから!! そうじゃなきゃ、ダメなの!!!」


 そうじゃなきゃ、ダメって……。

 そんなのは澪の勝手な感情論でしか……。

 そう思いながらも、胸が温かくなるのを僕は確かに感じていた。

 叫んだ澪は目に涙を貯めている。


「何で、澪が泣いてるんだよ……」

「お兄ちゃんが泣かないから代わりに泣いてるんじゃない……」


 そうか……。

 僕は負の感情をぶつけられたとき、泣くこともせずに俯くだけだった。

 何もしなかったのである。


「…………」

「じゃあ、お兄ちゃん! この話はここまでにして、次は――」


 沈黙する僕に向かって無理に笑顔を作った澪はすばやく涙を拭いた。

 そして、莉子のすぐ後ろに回りこみ、そのまま両腕で莉子を抱えた。

 すぐに顔が赤くなる莉子。


「何か美味しいもの奢ってよ! 莉子ちゃんの分も一緒にさ!」

「ああ……、分かった。じゃあ、食事にしようか」


 もう大丈夫だと二人に笑顔を向ける。

 うんうんと頷きながら、嬉しそうに手を伸ばしてくる莉子。

 そんな莉子の手を取り、僕は辺りを見渡した。


「陸? どうしたの?」


 莉子が不安そうに尋ねてくる。

 澪も心配そうにこちらを見ている。


 辺りを見渡した僕は思った。

 以前よりも少しだけ視界が開け、見える景色が鮮やかになっていると。


「……何でもないよ。また二人のために動物を呼ぼうと思っただけだよ」


 きっと次は大丈夫。

 いや……、例えまた次もダメだったとしても別に構わない。

 この二人が(そば)にいてくれれば、僕は前に進み続けることができる。

 そう確信していた。


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