第十四話 『動物園ならお兄ちゃんの能力が活かせるから、きっと面白いと思うよ?』
「こういうところはカップルで、つまり僕と莉子の二人で行くべきだと思うんだけど……」
一応、抗議の声を挙げてはみるが……。
「だって、私も一緒に行きたいんだもの~」
欲望に忠実な澪には、当然通じない。
澪は莉子に助けられて以来、莉子にベッタリだった。
今も莉子と手を繋いで、かなりテンション高めである。
そして、態度が大きく、身長も莉子より高い。
そのため、周りからは『姉』と思われていることだろう。
「……陸? 妹さんも一緒なら、きっと楽しいと思うよ……」
妹役の莉子はというと、少し赤い顔をして、大人しく『姉』に従っている。
莉子としても別に嫌々従っているというわけではないらしい。
その証拠に、人を近付かせないオーラを澪には出していない。
慕われているというのを喜んでいるようだった。
勿論、兄である僕はというと――。
「ほら、お兄ちゃんも手を繋いで?」
「――えっ??」
澪は莉子の空いている方の手へ向かって、目配せをしている。
「陸、あの……」
少し恥ずかしそうに、手を差し出す莉子。
僕は緊張しながら、ゆっくりとその小さな手を取った。
――バッチリ、実の妹である澪のペースに巻き込まれていた。
「じゃあ、行きましょうかー!」
こうして、僕と莉子と澪の三人での動物園デートが開始されたのである。
◆ ◆ ◆
きっかけは澪だったらしい。
「動物園ならお兄ちゃんの能力が活かせるから、きっと面白いと思うよ?」と莉子に言ったそうだ。
二人でどこの動物園へ、いつ行くかの相談をし、僕はそこへの同行者というわけであった。
莉子は、自分からどこどこへ行きたい等の主張をすることは非常に少ない。
「陸のいるところならどこでも……」と基本僕の後を付いてきてくれる。
ただ、今回は澪がきっかけだったとはいえ、莉子も「一緒に動物園に行きたい」と主張していた。
とすると、当然僕がすべきことは、それに全力で応えるだけである。
そんなわけで、今日という日のための準備に僕は余念がなかった。
「まずはアジアコーナーに行こうか」
僕は二人の案内を開始した。
動物園は広いので、一日で全部を回り切るのは難しい。
アドリブで色々な場所に行くのは良いが、メインとなる場所は抑えておくべきだろうと僕は考えていた。
そこで、莉子と澪の二人(特に莉子)が楽しめるだろう場所を僕はリサーチしていたのだ。
「変な顔の猫……」
「変な顔の猫ね?」
展示ガラスを覗き込むなり、失礼なことを呟く二人。
変な顔の猫……もとい、個性的で愛嬌のある顔の猫が草木が植えられた展示スペース内を歩き回っていた。
この猫はマヌルネコである。
マヌルネコは耳が左右についていて、横長の少し変わった顔をしている。
そして、非常に寒い地域に生息しているため、毛がかなりモコモコしている猫なのである。
二人とも猫は好きなので、ちょっと変わった猫はどうかと思ったのだが……。
「ふーん、人懐こい猫なの??」
僕の簡単な説明を聞いた澪が質問を投げかける。
「いや、生態調査が全然進まないくらい、かなり警戒心が強いらしい」
そう言ったそばから、僕らに近付いてくる一匹のマヌルネコ。
そして、僕に向かって、展示ガラスを前足でひっかき始めた。
どうやら「遊んでほしい」と主張しているようである。
「お兄ちゃんには全く警戒しないみたいね」
「さすが陸ね!」
そんなつもりは全くなかったのだが、いきなり褒められてしまった。
そして、本当に嬉しそうな莉子に、つい僕も嬉しくなってしまう。
「この動物園は色々な動物のショーもやっていて、鳥のショーが特にオススメらしいよ」
「じゃあ、行ってみましょう~」
俄然乗り気の澪に連れられ、僕らはショーイベント会場へと移動を開始した。
もちろん三人で手を繋いでである。
「お兄ちゃん、なかなか迫力あるね~!」
このショーはペンギンの散歩などの可愛いものではない。
鷹などの猛禽類が観客の頭上を飛ぶ迫力満点のショーである。
今回僕らの頭上でも、超低空飛行、手を伸ばせば触れそうなくらい頭上スレスレに鷹が飛んでいた。
そんな鷹にワクワクが止まらない澪。
「陸!!」
そして、腕を組んだ状態で僕に身体を寄せてくる莉子。
また莉子は澪の身体も引っ張りこんでいた。
傍から見れば、非常に仲睦まじい様子の三人であったとは思う。
しかし、ドキドキが止まらない僕は気が気でなかった。
腕を組んでいる莉子の手がバッグに入れられていて、莉子は鷹を睨みつけていたからである。
その目は鷹より鋭い目つきとなっていた……。
「いやー、凄い楽しかったね~……って、お兄ちゃん、そんなに怖かったの?」
額に汗を浮かべる僕を見て、笑いながら話してくる澪。
(ああ、怖かったんだよ……)
莉子のバッグからいつ包丁が取り出されるかと思うと……。
「次は、ふれあいコーナーへ行こうか?」
この動物園には、アルパカとのふれあいコーナーがある。
アルパカをモフモフしながら、牧草などの餌を与えることのできる場所である。
アルパカが相手なら、さすがの莉子も警戒しないはず。
それどころかきっと可愛がってくれるはずである。
「アルパカー!! モフモフー!!」
餌を持つと同時に、よく分からない掛け声とともにアルパカに突撃していく澪。
案の定、アルパカに逃げられているが……。
まあ、これが澪なりの愛情表現、かつ楽しみ方なのだろう。
「陸……」
莉子はというと、餌を手に持ったまま、僕を不安そうに見上げていた。
「大丈夫だよ、莉子」
莉子は日頃から人を近付けないオーラを放っている。
動物は割と好きな方なので動物相手なら多少はオーラが弱まるようだが、それでも動物はそれを敏感に感じ取ってしまうらしい。
だから、莉子は動物に近付けないことが多かった。
しかし、僕がいれば話は別である。
僕が一緒にいれば莉子のオーラは更に弱まるし、僕は動物に好かれるという性質がある。
「僕が一緒にいるから」
僕と目を合わせ、頷く莉子。
僕は莉子の手を取り、アルパカに近付いていった。
まだ少しだけ心配そうな顔をしていた莉子だったが、一頭のアルパカが莉子の手から餌を食べ始めるとすぐに表情がパァーと明るくなった。
その後は一頭、また一頭と莉子と僕の周りにアルパカが増えていき、多くのアルパカに囲まれることとなった。
「早く餌をくれ」と、アルパカたちはせっついてきているくらいだった。
莉子はアルパカたちを宥めながら、笑顔で一頭ずつに対応していった。
「アルパカを独占するとか、何を考えているのよ。全く」
突然聞こえてきたのは、大きくはないが、妙に鮮明に聞き取ることのできる声だった。
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