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第十三話  『どちらが先にあいつを排除できるか競争しましょうか?』

「もう帰ってください!!」


 緊迫した様子の澪の声が聞こえ――。

 同時に、僕は行動を開始していた。


「ちょっとごめんね!」


 二人から強引に腕を取り返し、すぐに玄関へと向かう。


 玄関では、澪と知らないおばさんが揉めているようだった。


「澪!!」


 僕は二人の間に割り込み、澪の前に立ち塞がった。


「お兄さんですか!? お兄さんも是非どうですか!?」


 そんな僕へと何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、ずずいと詰め寄ってくるおばさん。

「今度はこっちね!」という圧迫感を感じる。


「な、なにを……」


 おばさんの圧は強すぎた……。

 そのあまりの圧に、澪を助けに来たはずの僕は後ずさりしてしまった。


「わたくし、『大いなる祝福』の一員でして、この素晴らしい会のご紹介にあがりました!!」


 勢いそのままに一気に捲し立てる。

 その手にはパンフレットらしきものが握られている。

 どうやら宗教勧誘のたぐいのようだ。


「教祖のヒカル様が本当にイケメンでしてね! 勿論、イケメンなだけではありません! 『混沌が世界を包むとき、大いなる光が輝きを放つ』という教義の元、わたくしたちに教えを説いてくださいますのよ!」

「いや、興味ありませんから! もう帰ってください!!」


 全く止まる気配のないおばさんに、澪と全く同じセリフを吐く。

 だが、しかし――。


「一度ヒカル様に会って頂ければ分かって頂けるはずです! 是非とも!!」


 全く帰る気配のないおばさんは、手にしたパンフレットを見せつけてくる。

 そこには、三十代前半くらいの金髪のイケメン(?)が載っていた。

 キラキラとした背景の中で、イケメンは爽やかな笑顔を振りまいていた。


「いやいやいや……」


 何とも言えない感情が湧き上がってきたわけだが、おばさんはそんなのお構いなしである。


「素晴らしい教義の一端を今お伝えいたしますね! この光というのは救世主様のことを示唆しておりまして……」


 まだまだガンガン来そうなおばさんの口が閉じられることは、当分なさそうである。


(これは警察にでも通報するしか…………ん??)


 思案していた僕は背後から寒気を感じ、振り返った。

 ――そこで僕は凍り付いた。


 そこには、果たして、殺気を放つ莉子がいた。

 両手には当然包丁を持っている。

 更には、莉子のすぐ隣には毛を逆立てたアオまでがいる。


「陸、あたしに任せて。あたしがすぐにそいつを排除するわ!」

「ニャニャ!」


 莉子の宣言とともに、アオも同様の宣言を行っているようだ。


「アオは邪魔だから、ここで見てなさい?」

「ニャニャ?」


 アオに待機するように声を掛けるが、アオも莉子に待機を命じているようである。

 もうすっかり仲良しのようだ……。


「ならば、どちらが先にあいつを排除できるか競争しましょうか?」

「ニャニャ!」


 莉子の挑発に、「望むところだ!」とでも言うかのように返事を返すアオ。


「いや、ちょ、待っ……」


 慌てて声を掛けようとするが――。


「行くわよ!!」

「ニャ!!」


 当然のように制止の声を聞かず、二人は同時に突っ込んでくる!

 さすがに、二人同時の突撃は物理的にも止められない!

 かくなる上は――。


「ごめんなさい!!」


 二人が目前にまで迫ったとき。

 僕は、――突き飛ばした。

 こんな危機的状況にも気付かずに、未だにしゃべり続けているおばさんを。


「キャ!?」


 妙に可愛い悲鳴とともに、莉子の包丁が、アオの爪が、投げ出されたパンフレットを十字に切り裂いた。

 切り裂かれたパンフレットのヒカル様がヒラヒラと宙を舞う。


「ひ、ひぃ~~~!!」


 やっとこ危険に気付いたおばさんはすぐに立ち上がり、悲鳴を上げながら逃げ出した。

 しかし、まだ安心はできない。

 すぐに二人の追撃が――って、アレ??


 二人は追撃を行っていなかった。

 ただただ、お互いを見つめ合っていた。


「……なかなかやるじゃない、アオ」

「ニャニャ」


 アオは「お前こそ」と言っている。

 どうやら今の一太刀でお互いを認め合ったようである。


 莉子が膝を折り、包丁を地面に置いた。

 そして、アオへと手を差し出した。

 アオはそれに応えるように、莉子の手に前足を重ねた。


「あたしの名前は雪野莉子よ。陸の彼女をさせてもらっているわ。アオ、今後ともよろしく頼むわ!」

「ニャニャ!」


 アオの前足を強く握りながら、改めて挨拶をする莉子。

 対するアオも「こちらこそ!」と、精一杯の礼を尽くしているようだった。



 ◆ ◆ ◆



「結局さ、アオが最初にお兄ちゃんに甘えていたのは何でだったの?」


 アオと莉子の様子をチラチラと見ながら、話し掛けてくる澪。


「それがよく分からないんだよね……」


 アオは今、莉子の膝の上にいた。

 莉子はというと、膝上のアオを夢中になって撫でている。

 そして、ゴロゴロと喉を鳴らしているアオである。


 両腕が少し寂しくはあったが、二人が仲良くしてくれるのは言葉にできないくらいに嬉しい。

 二人のこんな様子はずっと見ていられる気がする。


「莉子ちゃんにお兄ちゃんを取られたくなかったんじゃない? つまり、嫉妬してたとか?」


 反対に澪は二人を羨ましそうに見ている。

 羨ましいのは莉子だろうか、もしくはアオだろうか?

 または両方か?


「アオは嫉妬しないと思うんだよなぁ……」


 いつも気品と自信に満ちあふれているアオである。

 嫉妬という感情を持っているようには思えない。

 むしろ理性的によく考え、先を読んで行動している気が多い印象すら受ける。

 とすると、今回の行動にも何か理由があったんじゃないかと思ったりするわけだが……。


(ん? ……もしかして、――()()()甘えているところを莉子に見せつけた?)


 そう思って二人を見ると、莉子の膝で寛いでいるアオと目が合った。

 そして、アオは一声鳴いた。


「にゃあ~」


 ――えっ!?

 それを聞いて僕は驚きを隠せなかった。

 アオは言っていたのだ。


「合格よ。良い子じゃない」


 と。




 雨宮家は、僕と澪の二人兄妹である。

 僕に兄や姉はいない。


 しかし、賢く、気高く、美麗な猫がいる。

 その猫は、姉のようにいつも僕を見守ってくれているのである。

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